香川県005

名物かまど高松店

  • 1965年竣工
  • 設計/店舗設計:桜製作所(建築の設計者は不明)
  • 施工/店舗施工:桜製作所(建築の施工者は不明)
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上4階
  • 用途/商業・事務所建築
  • 所在地/香川県高松市丸亀町2-10

「名物かまど高松店」は、高松市中心部を南北に走る丸亀町商店街の中央よりも幾分北寄りの位置に所在する店舗である。建物は通りの西側に建ち、商店街に面する。当該店舗をなす建物は現在の所有者が買収したもので、昭和28〜29(1953〜1954)年頃の建築であると伝えられる。当初は3階建てであったが後に4階が増築されている。1階は菓子店、2階は喫茶店として使用され、3・4階はかつて住居であったが、現在は使われていない。1階の菓子店では、北側から西側にかけて壁に添うようにレジカウンターとショーケースが並ぶ。床はタイル張りだが、飛び石のように配された平石が目を引く。また、2階へ上がる階段が南側壁面に沿って配置されている。2階の喫茶店は、東側・南側壁面に大きな引違い障子が配される。それに対して北側や西側壁面の一部は漆喰塗りを模した塗装で仕上げられている。床は絨毯敷きであり、天井の一部は塗装で仕上げられているが、専ら板貼りである。所有者の「株式会社名物かまど」は昭和11(1936)年創業の香川を代表する老舗菓子店のひとつである。「名物かまど高松店」は高松での最初の店舗として昭和40(1965)年に開業したが、これは昭和38(1963)年頃に買収した建物を昭和39(1964)年頃に改装したものである。改装にあたり、1・2階の店舗設計を株式会社桜製作所が担当し施工も行った。昭和から平成にかけて、1階の菓子店は何度か改修されているが、2階の喫茶店はほぼ竣工当時のままである。2階の喫茶店へ上がりきる直前で緩やかに弧を描く階段の先に小さな箱庭を設える演出も心憎いが、ここで目を引くのは南と東の壁面に設けられた巨大な引違いの障子である。組子は繊細な矩形の繰り返しだが、その大きさには圧倒される。さらに、RC造の丸柱の仕上げは短冊状の板を鉄製の帯で束ね鋲止めするするという大胆なもので、その力強さは異彩を放つ。また、北の壁面には交差する柱・梁を模した装飾が施されている。こうした意匠は民家調のテイストでまとめられ野趣に富んだものだが、それは当時、画家の和田邦坊氏が「名物かまど」のブランディングに関わっており、その意向が反映されたものである。さらに、現在も使用されているテーブルや椅子、照明器具といった調度品もその雰囲気に合わせてデザインされており、細部には設計者の繊細さが見て取れる。ちなみに当時は桜製作所の設計による店舗が丸⻲町商店街に多数見られたそうだが、現在では当店舗を含めごく僅かしか残っていない。店舗のインテリアは時代の流行に左右されやすく、その変転も激しい。そのような環境にもかかわらず開店から50年余りを経て当時の姿のまま使い続けられている「名物かまど高松店」は貴重な存在である。長く高松市民に愛されている稀有な作品として高く評価したい。