香川県030

大野の家

  • 1999年竣工
  • 設計/戸塚元雄建築設計事務所
  • 施工/六車工務店
  • 構造形式/木造 平屋
  • 用途/住宅建築
  • 所在地/香川県高松市香川町大野

⼤野の家は、⾼松市南部の⽥園地帯に建つ住宅である。東⻄22m、南北17mほどの台形状の敷地の北側に主屋、南側に⾞庫と納屋を⼀体とした別棟を配置している。
主屋は、東⻄10間、南北3間の⽊造平家建てで、屋根はガルバリウム鋼板⽡棒葺き、外壁は杉板と⼟佐漆喰、内壁は⼟佐漆喰である。⼀間を1,820mm(北側1スパンのみ、四国間である1,900mmとしている)とし、柱は四⼨⾓3m材、梁桁は幅四⼨成七⼨の⻑さ4mあるいは6m材が⽤いられている。広間と六畳間三室、台所、洗⾯、浴室、便所、納⼾、勝⼿の室構成である。主屋と別棟の間に設られた庭へと広間からデッキを張り出し、建具が壁に全⾯的に引き込まれることで、内外が連なる空間を作り出されている。⾨から⽞関に⾄る⽯畳や⽯彫刻の照明を、彫刻家・吉⽥正彦が製作している。
平成11(1999)年に建築後、適切な維持管理がされ、現在まで良好な状態を維持している。なお、デッキが⼀部撤去された以外に増築・改修はされていない。建築図⾯や⼯事中の写真に加え、施主と設計者との⼿紙、設計中に作られた軸組模型も現地に保管されている。
設計者の⼾塚元雄は、建築家の藤本昌也が提唱した⺠家型構法を、⾹川で実践した建築家である。⻑炭の家(1988年)、峰⼭の家(1994年)などをはじめ、⼤⼯棟梁・六⾞誠⼆や在徳島の林業家・和⽥善⾏らと多数の住宅建築を通して、独⾃の住宅⽣産システムの構築に取り組んだ。⼤野の家では、〈標準架構〉の⼀である梁間三間・切妻平屋を⽤いており、⼾塚はこの架構の完成形を⽬指して設計に取り組んだと述べている。
⼾塚や六⾞は、本建築の施主をはじめとした住み⼿や林業家、材⽊店などとともに、NPO法⼈⽊と家の会(「家づくりを中⼼に四国の⼭で育てられた⽊材の健全な消費をとおして、森林環境の保全と良好な住環境づくりに取り組む」ことを⽬的とした)を設⽴し、建築を通じた社会への関与も実践している。
地域独⾃の住宅⽣産システムの構築を図り、社会への発信にまで取り組んだ点は、それまでに⾒られない建築界の有り様を⽰している。また、東京で考案された建築思想・運動を、地域の状況に応じて実践していった点は、戦後⽇本社会における建築のあり⽅を読み解くためのケーススタディとなる可能性があり、これらを⽰す建築として⼩住宅でありながら、重要な建築として評価したい。