○概要
地域の活性化を目的として上田駅から車で30分ほどの上田市上室賀に農村文化交流館が建てられた。設計は小中学校時代を上田で過ごした北川原温が、1995年に行われたプロポーザルで選ばれた。文化交流ゾーン、温泉浴ゾーンそして食材・市場ゾーンの三つのゾーンからなる木造一部鉄骨造(屋根)延べ面積2,068.15㎡の交流館が1997年に竣工した。
○特徴
交流ホールやギャラリー、研修室、農産物販売所、良質な温泉を利用した浴場施設は通称「室賀温泉 ささらの湯」として親しまれている。文化交流ゾーンを敷地の中央の段差の部分に置き、北の静かな温泉ゾーンと南の賑やかな食材・市場ゾーンを、階段状の野外観客席と空中ギャラリーでつないでいる。地域交流室(大広間)は3方が開放され野外観客席、中庭舞台やふれあい広場と連続しており郷土芸能等の劇場空間になる。農村の心象風景を意図して、里山から水田へ続く緩やかな傾斜地に合わせ、折り重なるような屋根が覆う。構造は米松の大断面の無垢材と鉄骨トラスで組まれた屋根で構成されている。上部に配されたポリカーボネードのハイサイドライトが軽やかな空間を演出する。棚田上の高低差のある敷地に重なり合う屋根、自然石の石積み、そして屋内と屋外の舞台が昔ながらの農村の心象風景を創り出している。
○評価
<作家性> 北川原温は1951年上田市近隣の千曲市で生まれ、高校まで県内で過ごし、東京芸術大学、同大学院修士課程を修了し、同大学の教授を経て、現在は名誉教授として若い建築家を育てている。作品は国内だけでとどまらず海外からも依頼があり、建築のみならず、科学や音楽、新しい表現芸術などの専門家と協力し、創作活動を展開してきた。先進的なデザインで数多くの賞を受賞しているが、木に対する強い思い入れがあり「岐阜県立森林文化アカデミー」や「長野県稲荷山養護学校」等、木で表現をする建築が代表される。「室賀温泉ささらの湯」では、子どもの頃育った農村風景の記憶を辿り、里山の棚田の中に木と鉄骨トラスの屋根を組合せ、農村舞台を創り上げ、地元住民が誇れる農村集落・交流施設を作り上げた。素足で歩く内部空間や外と内部が一体化した空間の北川原の木に対する想いが利用者にも伝わり地域交流に貢献している。
○現状
現在は地域振興事業団が経営を委託されており、建物と合わせて泉質の良さも評判となり一日平均800人余りが利用、多い日には1,800人を超える日もあるという。空中ギャラリーは地元の小学生や文化活動をしている方々の発表の場として賑わいの場となっている。
文責:長島三夫