長野県029

エムウェーブ(長野市オリンピック記念アリーナ)

  • 1996年竣工
  • 設計/久米・鹿島・奥村・日産・飯島・高木設計共同企業体
  • 施工/鹿島・奥村・日産・飯島・高木設計共同企業体(建築)
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造(屋根・半剛性吊り構造) 地上3階、地下1階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/長野県長野市大字北長池195

○概要
長野県の北部長野市の郊外に建つ「エムウェーブ(長野市オリンピック記念アリーナ)」は、1998年2月に開催された長野オリンピックのスピードスケート会場となった日本で初めての400mダブルトラックを設置したアリーナである。オリンピック後はスケート場としてのみではなく、様々なイベントで利用可能な通年利用型施設として計画された。
○特徴
長野県の山並みをイメージし、センターからひな壇状に下がってゆく外観。長野県産カラマツの大断面集成材と鋼板からなるリブを60cmピッチに配し80mのスパンを架け渡すハイブリッド構造で、世界初かつ最大級の大型木造半剛性吊り屋根構造である。外観はMの字が折り重なるように見えるため、エムウェーブという愛称がつけられている。内部はカラマツの集成材により結露防止と木のぬくもりを感じさせる。アリーナ妻面の大型ジャロジー窓と屋根段差のハイサイドサッシュにより自然光と自然通風を取り入れることができる。環境にやさしく、人にやさしいアリーナを目指して設計され、冷凍設備にはフロンガスを使用しないアンモニアスクリュー冷凍機を搭載し、世界で初めて実用化された熱交換技術により、アイスリンクを冷却する冷凍機の排熱を館内の暖房に利用している。
○評価
<技術性> 今までのドーム建築の既成概念を打破し、地元の素材を利用してつり橋のような軽やかな世界初の大型木造半剛性吊り屋根構造としている。この屋根は12㎜のスチールプレートを2本の集成材を両側から挟み込むハイブリット構造となっている。引張力に対してはスチールプレートが、雪・風等の曲げ力に対しては集成材が抵抗している。県産材のカラマツを24.5㎜×125㎜のラミナ材に加工し、これを13枚重ねて集成材を製作し、125㎜×300㎜×長さ10mにして、湾曲半径162.65㎜に加工し、12㎜のスチールプレートを集成材で挟み込み、10mずつ80mの長さにしている。吊り構造のため、張力が入ることによって初めて安定した状態になることから、自重による張力が入ったままの状態で屋根を吊り上げるリフトアップ工法で建設され、無足場により、高所作業の低減、安全性の確保、工期の短縮を図っている。この構造的技術が評価され、英国構造技術者協会The Institution of Structural Engineers 特別賞を日本の建築構造物として初めて受賞するなど世界に誇れる技術であることが評価できる。
<時代性> この施設は、1998年2月の第18回冬季オリンピックのスピードスケート会場として計画されたものである。大会後はスピードスケートのメッカとして機能するだけではなく、通年の市民開放利用も含めた、小規模から大規模にわたる各種スポーツ、文化・産業イベントにも対応し得るフレキシビリティが求められた。オリンピックという世界的イベントにおいて、信州の山並みを表現し、地元の素材の利用など長野を世界に印象づける建築としてのみならず、この時代を背景に今もエムウェーブという愛称で1年を通じて利用されている点で評価できる。
○現状
長野市が出資する第三セクター「株式会社エムウェーブ」により経営されており、長野県内最大級のアリーナとして冬期間はアイススケートリンク、その他の期間は多彩なエンターテイメント会場としてスポーツ・音楽・文化・イベントなど様々に利用され、市民から親しまれている。

文責:相野律子・勝山敏雄