静岡県010

東山旧岸邸

  • 1969年竣工
  • 設計/吉田五十八
  • 施工/水澤工務店
  • 構造形式/木造および鉄筋コンクリート造 地上2階 セメントスレート葺
  • 用途/文化施設(元 住居建築)
  • 所在地/静岡県御殿場市東山

政治家、岸信介(1896-1987)の邸宅として、東名高速道路の開通と同時(1969)に建設された。設計は吉田五十八 (1894-1974)。御殿場は別荘地として知られてきたが、この住宅は東京までの高速道路による通勤を前提としており別荘ではない。新たな交通手段によって、広大な土地と自然を享受するという革新的な立地であった。岩城造園による作庭と一体的に計画され、特に1階居間、食堂の開放性は特筆される。
平面は3つのブロックが1列に並び、中央に木造の中心的な諸室、一方に数寄屋の和室、もう一方にRC造のサービス 諸室(火気使用室)、倉庫が配される。1階の中央と数寄屋が接客可能な公的部分、2階は寝室等の私的部分であり、公/私、接客/サービスを、建具によって区画可能である。
材料としては、一般に和風住宅では避けられてきたような工業製品の多用が見られる。玄関とホールを仕切るオフィス用大判ガラスドア、居間や食堂における大判アルミサッシュ、ホール・居間天井の塩ビ成形材、アルミ棒のブラインド、台所床の長尺塩ビシート、屋根材の化粧スレート等である。木軸部はベイマツが多用され、各所に突き板が使用されるなど、いわゆる銘木主義とは一線を画す材料、仕上げと言える。これら工業製品や輸入材を接客部の見えるところにも積極的に用いている。
さらに、近代的な設備を和風の室内に違和感なく納める点が注目される。特に車寄せや階段室のペンダント照明における配線の処理、各室に配された暖房器具を隠す各種ルーバーの使い分け等、設備器具を巧みに納める手法は重要である。
これら工業製品の多用や、設備器具の処理は、近現代における和風空間のあり方を示しており、新しい材料や技術が設計者の優れた意匠によって取り込まれたもので、それは建築家の新たな展開を示すものでもある。