神奈川県001

旧山川秀峰邸

  • 1943年竣工
  • 設計/吉田五十八
  • 施工/神田岩崎工務店
  • 構造形式/木造2階建、切妻造桟瓦葺
  • 用途/住居建築
  • 所在地/神奈川県中郡二宮町

戦時中に日本画家・版画家の山川秀峰(1898-1944)が二宮海岸に建てた、疎開用の田舎家風2階建て住宅である。二宮海岸に至る路地に面して銅板一文字葺き屋根の腕木門を構え、敷地内は玄関に至る路地を石畳とする。主屋の外観は、玄関に至るアプローチ側は田舎家風で、屋根は切妻複合の桟瓦葺き、壁は土壁で一部に檜皮の腰壁を廻す。一方、南庭側は外壁を押縁付きの下見板張りとした、ごく一般的な和風意匠である。
内部は農家風で、元は土間であった玄関から台所には大黒柱、根太天井、造付けの水屋箪笥などがある。画室は、チョウナ斫りの梁を露出し天井を丸竹敷詰めとするなど農家風であるが、駆込天井を網代張りとし、また部屋の隅に水屋と炉を設け土庇を付けるなど、茶室としても使えるように設計されている。他の和室にも茶室風の意匠が用いられている。
設計者は昭和10年頃に「新興数寄屋」を提唱した吉田五十八であるが、吉田の作品ではこうした田舎屋風の作品は異色といえる。
現在の所有者は、昭和40年代に西湘バイパス二宮ICの工事用地の代替地として町から当住宅を斡旋された。秀峰とは知己はあったが、設計者のことはかなり後で知ったらしく、また創建時には土庇だった南面には、山川の子息によりガラス戸付きの縁側が増築されていた。現所有者が行った改変箇所は、入居時に1階の玄関から台所にかけて土間の床張り、浴室の改装、寝室へのサンルーム増築、2階への間仕切り増設、瓦の葺き替えを行った他、その後の物置の増築などであり、アプローチ側の外観や玄関・画室といった主要な部分は旧状をよく留めている。