奈良県003

淨教寺本堂

  • 1968年竣工
  • 設計/岸熊吉
  • 施工/伸和建設株式会社
  • 構造形式/木造平屋建、入母屋造本瓦葺
  • 用途/宗教建築
  • 所在地/奈良県奈良市

奈良市の市街地西部にある浄土真宗淨教寺の本堂であり、昭和11年に火災により焼失した後、檀家信徒であり奈良県技師として伝統建築の練達の設計者であった岸熊吉氏により設計された。戦前、戦中、戦後に資財が不足する中で、妥協せず優れた原設計どおり完成された。
宗派の本山である本願寺の本堂や御影堂と同じく内陣側は塗込めの防火構造とし、内・外陣共に古代・中世の本格的寺院建築に倣って円柱とし、構造上の堅牢さを図るため側柱は角柱としている。また、外陣中央の内陣寄りに浄土真宗独特の矢来間まで本山に倣い設けている。
外周を巡る縁の匂欄や擬宝珠、角柱の大面取り等は、浄土真宗などの新興仏教が興って来た鎌倉期の手法を踏まえた形式であり、宗派の起源を想起させる意図を込めた設計である。
各所の蟇股や鬼板の意匠は、設計者の優れた創作デザイン力を示しており、画竜点睛として参拝者の目を楽しませている。平成25年に保存修理工事が行われたが、構造補強は外陣の東西両隅のスパンに施され、既存の木部に補強材を納めた為、意匠上全く目立たない。
淨教寺本堂は、奈良という古代からの寺院建築の伝統が残る地域性がいかんなく発揮された近代的な復古建築であり、県の保存修理技師として伝統建築に精通した岸熊吉氏の代表作としても貴重である。