奈良県004

奈良国立博物館西新館

  • 1972年竣工
  • 設計/吉村順三設計事務所・建設省近畿地方建設局営繕課
  • 施工/株式会社奥村組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造平屋建、中央陸屋根左右片流れ鉄板葺
  • 用途/文化施設
  • 所在地/奈良県奈良市

奈良国立博物館の西新館は、奈良市の奈良公園内にある吉村順三氏の設計による博物館建築である。旧帝国奈良博物館本館(重要文化財、現・なら仏像館)及び旧奈良県物産陳列所(重要文化財、現・仏教美術資料研究センター)並びに隣接する東大寺、興福寺、春日大社等の社寺境内と一体となって、自由に利活用できるオープンスペースを形成している。
外観は、校倉造の高床式正倉を想起させ、床下に当たる1階はガラス張として空間の透けと良く考えられた形状の柱を強調し、2階は校倉の水平ラインを想わす水平目地処理にしている。2階床レベル外部には、正倉院正倉の出納時に縁床を張る為の台輪持出し同様の小梁持出しまで設けている。
構造を出来る限り素直に内・外表現した簡潔な美しさをもち、上階(2階)の展示空間内を広がりある無柱(12mスパンをPS折板屋根で処理)とするために、外周柱を1階柱筋より外へ持出して外周壁に揃える工夫が優れている。また、多数の観客がつめかける時にも、主動線(スロープ)と空間(上部天空光の吹抜)が真中に在る構成が、動線の明快さと空間の開放感をつくる点も優れている。
敷地内に元々在った池や周辺の樹木、既存の低層の旧本館などのロケーションを踏まえて、外構に池を設えたり、低層2階建てとした佇まいは、敷地の歴史と場所性を尊重した優れた設計である。
昭和47年時点では、新館のみの建築であったが、正倉院展等への来場客の増加に対応し、平成9年(1977)に吉村順三氏の設計による東新館を増築するとともに内部改修した。
東新館は、屋根材を耐候性鋼板からチタンに、外壁を耐候性鋼板からライムストーン・石貼りに変えたが、西新館と同様の外観でエントランス部分を挟んで雁行し建築されており、落ち着いた佇まいを継承している。
以上のように、奈良国立博物館西新館は、現代建築家により伝統建築の解釈と近代的な建築計画や空間構成が融合された作品であり、周辺の歴史的環境への配慮も優れた傑作である。

受賞歴等/BCS賞・公共建築百選