香川県019

ライオンエンジニアリング 坂出事務所

  • 1979年竣工
  • 設計/出江寛建築事務所
  • 施工/高岸工務店
  • 構造形式/鉄骨造 地上1階、地下1階
  • 用途/商業・事務所建築
  • 所在地/香川県坂出市番の州町

岡山県児島市と香川県坂出市を結ぶ本州四国連絡橋の工事に先立ち、坂出市沖を埋め立てた番の州臨海工業団地の一画に本州四国連絡橋公団の瀬居基地が計画された。全体計画は指名コンペが行われ、出江寛建築事務所の案が採用され、最初に建築されたのが事務所棟である。昭和54(1979)年に竣工、工事事務所として使われ、昭和63(1988)年の本州四国連絡橋完成ののち、平成1(1989)年頃一団の土地はライオンオレオケミカル株式会社に工場用地として売却された。工場整備にあたり現地事務所として使われ、平成3(1991)年に工場が完成し、令和3(2021)年よりプラント部門であるライオンエンジニアリング株式会社坂出事務所として使われている。
鉄骨造地上1階地下1階建の建物で、床面積は地階約640㎡、1階約800㎡である。設計期間・工事期間が1期と2期にわかれているが、計画通知書などの資料から、当初はピロティを持つ平屋建の建物として計画され、工事期間中にピロティを地階として使う計画に変更されたようである。高潮対策として事務所機能は地盤より持ち上げられた1階に配置され、地階は食堂・車庫などの用途に利用されていた。
埋立地である立地条件と、期間限定の工事事務所という用途からプレファブリケーションの可能性を追求していた。杭をそのまま地上で柱とする架構方法を検討していたが、施工精度の問題から断念したということである。鋼管の柱とH型鋼の梁の納まりなどにその痕跡を見ることができる。
出江氏の作品には、日本の伝統美を現代建築に生かす、その手法として工業製品などをブリコラージュ的に用いるという特徴がある。軒天井に使われている波型鋼板などはその特徴の一端といえるかもしれないが、全体的に装飾性は排除され、他の作品とは一線を画している。
外壁はスチールサッシ、ガラス、アルミパネル、押出成形セメント板で構成され、屋根は露出防水の陸屋根で、直線的な表現はインターナショナル・スタイルを想起させる。間仕切壁はパーティション、押出成形セメント板で構成されていて、所有者が変わり、建物の用途が変わっても、間仕切壁を変更することができる。当初の公団事務所としての役割を終え、何度か平面プランを変更しながら40年以上に渡って使われ続けている。
平成12(2000)年頃防水改修工事などが行われたが、その後大規模な改修工事は行われていない。現在は雨漏りがあり、外部鋼製建具などにも劣化がみられる。しかし沿岸部に位置していて、鉄部のグラファイト塗装は建設当初のままであることを考えると、驚くほど劣化が少なく綺麗に保たれている。