香川県022

彫刻家のスタジオ

  • 1984年竣工
  • 設計/基本設計:伊丹潤建築研究所、実施設計:伊丹潤+松原秀範建築設計事務所(現 松原秀範建築研究所)
  • 施工/菅組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上3階
  • 用途/アトリエ
  • 所在地/香川県仲多度郡多度津町西白方字宮の前

⼟と⽯の彫刻家でもある速⽔史郎⽒のスタジオである。善通寺からほどに近い多度津町の県道と町道に挟まれた緩やかに傾斜する⼭腹の⾓地に建築されている。敷地は、道路から下がったレベルにあり、スタジオ・倉庫・外部作品展⽰場と駐⾞場より構成される。スタジオは、陸屋根で地上3階建て、コンクリート壁式ラーメン構造である。2階・3階部分に1か所づつのラーメン構造の丸柱が⾒られる。
この建築は、海に対して強靭な垂直を持つ⽯壁と⼭に対してはらむ⽴体として設計された。東側にはコンクリートの打ち放しの卵型の塔状と⻄側に外部作品展⽰場と駐⾞場、対峙する様に⽯壁を配している。1・2階をアトリエとして、3階は、住居として計画された。現在、窓の無い1階は、作品収蔵庫として利⽤されている。ガラスで出来た屋根を持ち、⽯壁とコンクリートで構成される3階まで貫く直線階段が、澄明な空間を演出している。2階のアトリエは、床をモルタル⾦鏝押さえ・壁・天井はコンクリートで仕上がった作業場であり、展⽰棚壁⾯には、チーク材の展⽰棚が設けられている。⽊製の作業台は、東側のアールの曲⾯と同じアールを持ち、機能的で作業性が⾼い。また、平⾯図形状が卵型のトイレは、壁⾯がコンクリートのはつり仕上げで、⽊製傾斜天井を持ち意匠性が⾼い。3階の住居は、書斎付きの寝室・厨房・トイレ付浴室・アトリエより構成されている。床・ダイニングテーブルは船舶で利⽤されていた補修跡のあるチーク材を再利⽤している。また、寝室の書斎壁⾯には、⼤型の本棚とカウンターが造作されている。2・3階の南・北壁⾯には、船舶で利⽤されていたステンレス厚板で出来た窓が16個埋め込まれている。この窓が、⽴⾯を構成する⼤切な要素となり、内部空間からもアクセントになっている。この建築を通してコンクリートの打ち放し施⼯の技術・庵治⽯(錆⽯)を利⽤した⽯壁の和泉正敏⽒の施⼯技術の⾼さがこの建築を成⽴させている。
施主の監修による庵治⽯を利⽤した⽯壁を配する事により、地域的な特⾊を明らかにする作品であり、周辺のランドマークになっている優れた意匠性を持っている。「⼿の痕跡」を建築作品に刻み芸術作品に⾼める⼿法を持つ設計者の展開を⽰す作品であるところが評価出来る。そして外部空間の変更はあるが、主屋は、そのままで、速⽔史郎⽒のアトリエとして使⽤され続けている建築作品である。