鹿児島県003

三井串木野鉱山(株)・五反田会館

  • 1914年竣工
  • 構造形式/煉瓦造 地上1階(一部2階) 桟瓦葺
  • 用途/文化施設、産業施設(元 産業施設、水道・電気施設)
  • 所在地/いちき串木野市三井12955番地

本施設については、2004年発行の近代化遺産調査報告書に揚村固氏による調査記録が記載されている。今回の調査では調査当時から現状変更が無いことを確認した。従って以下に揚村氏の調査報告を抜粋し再録する。
五反田会館は, 全泥青化製錬工場建設と期を一にする発電所として建設された煉瓦造の工場建築であった。着工は明治45 (1912) 年とされ, 翌大正2 (1913) 年9月には建物本体がほぼ完成しているが, 付属する発電関連施設の据え付け, 及び上屋が完成するのは翌年の大正3 (1914) 年となる。構造や意匠の基本形は現在と同じ煉瓦造の特徴を示すが, 規模と部分的な意匠は現在と異なる。構造は煉瓦造で, 発電機械を収容するためにほぼ二階分の高さを持ち, 越屋根付きの切妻屋根を瓦で葺く。南側妻壁には棟端部と柱上部に飾りを置くが, 北側妻壁はこれを飾らず簡素な仕上げである。当初は, 桁行が6スパン(柱間)で現在より短い。現在は9スパンで, 3スパンを増築したことになる。その時期は撮影された全景写真から昭和3 (1929) 年4月以前であることがわかる。当初から増築を意図した設計のように見える。発電所として建設されたこの建物は, その後職員の厚生施設に転用され(時期は明らかでないがおそらくこの時に「五反田会館」と呼称されることになったと考えられる。), 映画・演劇・集会などに用いるものになり, 現在まで使われることとなった。
梁間11.2m桁行37.9mで, 鹿児島県の煉瓦造建築としては最も大きい。基本的な平面形は長方形だが裏側に一階分の高さで張り出し部を持つ。壁体は全周をイギリス積みとし上端に繰型をコーニス風につくり, 内外に柱型を出す。窓の開け方は右の6スパンが同じで,一階部と軒下に設ける。左側3スパン(増築部) は下部の窓位置が揃わず, 用途の違いをうかがわせる。両側の妻壁の上にはペンデンティブを画し, 南側のそれには通気口3カ所を設けるが, 北側にはない。妻壁の頂部と両側柱上部に飾りを揚げる。
外部から見る高さは2階分に見えるが, 内部は吹き抜けており二階床は会館に転用したおりに設けた観覧席の一部だけである。当初から2階分の吹き抜け空間であったと思われる。内部の柱は一階分までしか造られず, これから上の軒桁部分をアーチで支えており,これを裏付ける。通常は用いられない特殊な構法で,本格的建築技術を修得した技術者の関与をうかがわせる。室内北側にはステージを設け, 映画・演劇等が上演できるよう改修された。南側には観覧席が設けられたが, 南側妻壁の窓配置などを考えると当初から監視などに用いる二階部が一部にあったかもしれない。
(中略)本県では, 数少ない煉瓦造建築の例であり, 記録が残っておらず設計者・施工者ともに不明であるが, 実に設計水準の高さを示す建造物である。