鹿児島市交通局が運営する市電(路面電車)は2系統で運行されている。軌道が分岐し乗換地点となる高見馬場と郡元の各交差点の角地に操車塔と呼ばれる施設が建っている。
高見馬場操車塔は1953(昭和28)年に建設された後、交差点改良に伴って移築されたものである。かつて木造だった時期もあるとのことだが、現在は鉄筋コンクリート造である。塔としての高さは8.2mあり、最下部分の直径が1m強の鉄筋コンクリート柱1本で上部の操作室を支えている。操車室は5.4mの高さにあり、鉄製のはしごで登る。操車室内は芯々寸法2.2m×2.2mの空間が確保され、交差点での電車信号の現示とポイントの切り替えを手動で遠隔操作する機器が備わっている。室内から四方の交通状況を見渡せることが重要であり、開口部には幅1.8m×高さ1.3mのスチールサッシの引違い窓が用いられている。通常、この操車室は使用されていないが、非常時に役割を果たす。かつて鹿児島の市街地が水没した8・6水害(1993年)からの復興時、この施設で手動による操作がおこなわれたという。
郡元操車塔は1960(昭和35)年に建設された。操車塔という名称ではあるが、鉄骨鉄筋コンクリート造2階建の施設である。2階操車室は高さ2.3mの位置にあり、芯々2.8m×2.0mの空間が確保されている。構造面に特徴があり、柱と梁の鉄骨として市電のレールが用いられている(設計図にレール断面が図示されている)。
どちらの操車塔も交差点に立地するため広告宣伝の看板を設置する恰好の場所とみなされている。一方で、このような操車塔は全国的にも貴重な存在になりつつあるため、鹿児島の交通史を具体的に示すランドマークとして新たな存在感を発揮することも期待される。