鹿児島県009

鹿児島駅前団地(観光ビルA棟・B棟)

  • 1958年竣工
  • 設計/鹿児島市住宅課
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上3階
  • 用途/住居建築、商業・事務所建築
  • 所在地/鹿児島県鹿児島市浜町

鹿児島市では戦後、発足まもない住宅金融公庫の融資を民間の商業協同組合が獲得したことが発端となり、その翌年の昭和26(1951)年11月に市の経済部商工課が主管する鹿児島市住宅協会が設立された。店舗部分を対象とする公庫の融資枠が制度化されたのは昭和29(1954)年度であるから、鹿児島市住宅協会はその以前から商工行政の一環として店舗付の賃貸共同住宅の建設を先導していたことになる。すでに最初と2番目の店舗付賃貸共同住宅(南林寺団地・洲崎団地)は滅失しており、唯一現存するのがこの鹿児島駅前団地である。
鹿児島駅前団地は、鉄筋コンクリート造3階建2棟からなる(現在の名称は観光ビルA棟・B棟)。1階は店舗が計16 軒、2階はその店舗の併用住戸16戸で内部階段によりアクセスする形式をとる。3階は、2階の2戸分を1戸とした専用住戸7戸と管理室1戸からなり、北側(駅前広場側)の片廊下に各住戸の玄関が並ぶ。竣工は昭和33(1958)年2月で、観光ビル管理組合の組合員が優先的に入居した。事業としては戦災復興土地区画整理事業の建物移転にともなう店舗の集約と鹿児島駅前広場および緑地帯の整備を目的とし、民有地の借地や防火帯の補助も活用している。意匠面ではコンクリート製の縦ルーバーで統一されたファサードが印象的で、店舗併用住戸の2階居室と3階専用住戸の片廊下という異なる空間構成が外観に露出することへの配慮があらわれている。
1955年に建設部管理課に主管が移った住宅協会は、戦災復興の土地区画整理事業の減歩を通じて失われた宅地を補うための、郊外台地における宅地造成と分譲住宅の供給へと施策の重点を移していった。したがって、鹿児島駅前のこの建物は、商工系から建設系へと組織が変容していく住宅協会が市街地で手がけた最後の店舗付共同住宅ということになる。また、戦後の復興を通じて市街地の中心が西鹿児島駅(現鹿児島中央駅)へと移ろうとしていた時期にあって、鹿児島駅前の美観も意識されていた建物であるといえる。