鹿児島県020

いちき串木野市営(旧)浜西住宅

  • 1967年竣工
  • 施工/前田組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上4階
  • 用途/住居建築、商業・事務所建築
  • 所在地/鹿児島県いちき串木野市浜田町

串木野市街地の北西約7㎞の羽島漁港近くに建つ(旧)浜西住宅、通称「漁民アパート」は1967(昭和42)年9月に建設された店舗付共同住宅である。120戸超を焼失した羽島大火(1966年6月)の罹災者とその後の復興土地区画整理事業(1966~1983年、8.5ha)に伴う立ち退き住民のための市営住宅として、当時の串木野市が建設した。
建物は、港から北に延びる幅員6mの街路に東面して建つ鉄筋コンクリート造4階建・1棟で、梁間方向5.4m、桁行方向46.3m(10スパン)の南北両端部の西側に外階段とダストシュート、2階と3階には片廊下がついている。1階は2スパンずつ50㎡の店舗5軒、2階は同様に50㎡の住戸5戸、3・4階は1スパンずつメゾネット形式で50㎡の住戸10戸で構成されている。
1階の店舗前面は、モルタル洗出し仕上げで下部にモザイクタイルが施された柱の間に、建設当時のものと思われる木製のガラス引き戸がはめられている。その意匠の大半が現存しており、ガラスの入った欄間の高さが街路の勾配に従って店舗ごとに段階的に大きくなっているのが特徴的である。上層階の住戸はフラットとメゾネットどちらも3畳板敷の台所と6畳・6畳・4畳半の和室からなる。便所は当時珍しい水洗式だが、浴室は東側バルコニーに住民各自が設置している。
西側の片廊下は幅がやや広く約1.8mあり、図面上では欄干に「物干柱」と記載がある。また、各戸の玄関外側にはコンクリート製の流しと作業台が作り付けられており、木製の物干棚が付属している。玄関の踏込み(幅1.2m・奥行1.8m)もやや広めでその脇は物置となっている。この片廊下に面した玄関まわりの空間は漁業にかかわる洗濯や物干し、漁具の保管のために利用されていたことが推測される。市の所蔵図面によると敷地内には「共同作業場」も計画されていた(近年まで共同の浴室として利用)。
以上の特徴は、生活様式の近代化を図りつつも地域の生業のありようを反映した空間として「漁民アパート」が形成されたことを示すものであり、(旧)浜西住宅は当時の漁村における生活空間の一端を示す具体的な存在である。
なお、この建物は市営住宅ではあるが、1階店舗が区画整理の換地による個人の所有であるため、権利形態の特殊性から修繕が進まず、非現地建替えによる移転が完了した2019年末時点で居住者がいない状況となっている。