鹿児島県029

稲盛会館

  • 1994年竣工
  • 設計/安藤忠雄建築研究所
  • 施工/銭高組、小牧建設
  • 構造形式/鉄骨鉄筋コンクリート造 地上3階、地下1階
  • 用途/学校建築、文化施設
  • 所在地/鹿児島県鹿児島市群元一丁目

鹿児島大学の郡元キャンパス内に建つ稲盛会館は、同大学工学部の創立50周年を記念し、卒業生の稲盛和夫氏(京セラ株式会社名誉会長)が「科学技術を中心とした知的交流を促進するための場」として寄贈した建物である。1994(平成6)年に竣工し、設計は安藤忠雄建築研究所で、施工は錢高組と小牧建設である。安藤氏はこれより前の1988(昭和63)年に「中之島プロジェクトII−アーバンエッグ」と題して大阪・中之島公会堂の再生案を発表している。そこで示された卵型のホールに感銘を受けた稲盛氏が安藤氏に依頼して実現したと語り継がれている。
建物は鉄骨鉄筋コンクリート造、地下1階地上3階建てで、半径27.9mの円の4分の1に相当する扇形平面を立ち上げた立方体の内部に卵型のホールを包含している。東側立面のガラスのカーテンウォールに卵の一部が飛び出し、その曲面に沿って一部貫入した直線的なキャノピーの下にエントランスがある。入って左手に進み、卵の下部をくぐり抜けるようにして1階のホワイエに出る。そこは3層吹き抜けの空間で、扇形の円弧にあたるカーテンウォール越しに市電通りが見える。カーテンウォールに沿って弧を描く緩やかなスロープは外部の緑陰にむかって張り出していき、折り返して戻りつつ昇っていくと、ホール前の2階ホワイエに至る。
客席数270のホールは、稲盛氏の両親の名から「キミ&ケサメモリアルホール」と名付けられた。ホール内部の仕上げは有孔合板で、通常の照明のほかに星のような小さな照明が無数に埋め込まれているのが特徴である。グラスファイバーの先端部を用いたこの照明も前述の中之島プロジェクトで提案されていたものであり、安藤氏の「アーバンエッグ」の一端が鹿児島で実現していることがわかる。
現在、学内外の各種行事に使用されるとともに、建築学科の講評会や空間演習においても活用されており、地域や大学にとっても将来にわたって継承すべき建築であるといえる。