鹿児島県032

ある町医者の記念館

  • 1995年竣工
  • 設計/堀部安嗣
  • 施工/岩倉建設
  • 構造形式/鉄骨鉄筋コンクリート造 地上1階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/鹿児島県薩摩郡さつま町求名3356-11

「南の家」と同時に建てられた建物で1995年に竣工。
この記念館は、地元のさつま町で「赤ひげ先生」と慕われ、93歳で亡くなる日まで地域医療に尽された、故前原則知医師の業績をたたえる記念館。施主は故前原医師のご子息で、建築家堀部安嗣氏の義理の伯父。堀部氏が修業時代に建設の相談を受けたのが依頼のきっかけ。記念館は、かつての診療所の隣地に道路に面して建てられており、玄関横の石造プレートには前原医師の名前が刻まれている。道路側に積まれた石塀はかつて診療所の塀に使われていた石を積み直したもの。南側の庭には大きな楠の木が象徴的で展示室から見ても大きな存在感がある。古い町並みの瓦屋根が並ぶ中に白い漆喰の蔵が町のアクセントになる、そんなイメージで白色の外観になった。筒を寝かした形状の空間で、天井高さは最大で5,600mm、その中に円形の第2展示室がある。局面の壁~天井面と第2展示室の局面壁は漆喰塗であるが、直線状の壁と天井は砂漆喰塗で仕上げ、同じ漆喰でも塗分けることにより豊かな表情が現れる。展示されているのは、かつて前原医師が愛用した器具や家具であったが、現在は多くの本が置かれライブラリーの要素を加えている。
堀部氏が初めて手掛けた作品であり、現場に常駐し全ての工程を体感し無我夢中で取り組んだ情熱の結晶といえる建物。