○概要
長野市中心市街地西側に長野県庁は位置する。旧庁舎は大正3年に建てられ、老朽化と行政機構の多様化に伴い事務量が増大し、庁舎の狭あいによって県庁舎再建のための県庁舎建築調査委員会が昭和35年に発足し、昭和39年に建設省関東地方建設局に設計を委託することになった。地上10階建ての本館と議場棟が昭和43年に竣工した。
○特徴
長野県庁は事務棟と警察本部からなる本館棟と議場棟の大きく2つの建物からなる。本館棟は地下1階、地上10階、塔屋2階の鉄骨鉄筋コンクリート造である。また、議会棟は地下1階、地上3階、鉄筋コンクリート造一部鉄骨鉄筋コンクリート造である。本館の事務所棟は基準階面積約3400㎡、センターコアタイプでコア両側に廊下・執務室というプラン構成である。両側の執務室の自然採光を考慮して時の奥行き9~10mが限度といわれている最も効率がよい寸法とし、各部局の諸室の必要面積と机の配置によって幅寸法を決定して、基本スパン10.8m×7.2mとしている。敷地内の配置計画についても、歩行者と自動車の動線が分離され、歩車分離が考慮された配置計画となっている。1階のエントランスホールへは駅からの歩行者の動線、議会棟正面から本館正面につながる自動車動線として、地下への駐車場へのアプローチとしている。また、議会棟・本館の西側にはサービス動線を確保する動線計画としている。
○評価
<時代性> 昭和31年に新市町村建設促進法が施行され、いわゆる「昭和の大合併」によって、地方行政に大きな変化をもたらせた。加えて、戦後の高度経済成長と昭和39年の東京オリンピックは、地方経済にとっても大きな変革を起こし、全国的にも多くの事務所ビルの建設ラッシュとなった。この時期に長野県も同じように新庁舎の建設に至った。基準階床面積3400㎡に対してセンターコアを採用し、事務空間は対向式レイアウトによって、平面の基本プランを決定し、基本スパン10.8m×7.2mとしていることや、将来のレイアウトや執務面積の変化にフレキシビリティに対応できるように検討されている。また、外壁面を柱から2.4m持ち出すことによって規格化されたスチールサッシ・アルミパネルによってカーテンウォール的なファサードをつくっていること等、当時の典型的な庁舎建築として評価できる。
<継続性> 官庁建築をより長く安全に使用する長寿命化に向けた取組が積極的になされていることは庁舎建築の模範として評価される。平成23年から3年かけて、免振レトロフィット工法によって、日常の執務を継続しながら耐震改修工事を行った。県庁は地震災害時おいて、災害対策拠点施設として機能することが求められていることから、この工事によって官庁施設に求められる耐震性能、構造体Ⅰ類の耐震安全性を確保した。令和5年には2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、県庁の省エネ改修工事の設計を開始した。建築物の断熱改修を行うとともに県企業局で発電した電力を利用し、県庁舎の使用電力の100%再生エネルギー化を実現しようとしている。継続的に物理的な長寿命化を図るとともに並行して機能的な長寿命化を図っている。
文責:勝山敏雄