長野県016

カプセルハウスK

  • 1973年竣工
  • 設計/黒川紀章建築都市設計事務所 
  • 施工/大成建設 改修履歴:1997大成建設→地下1階アトリエを寝室に(天井改修)、外部デッ追加 2020新津組→カプセル外装、内装改修、セルフビルド
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨造 地上1階、地下1階
  • 用途/住居施設、住居(民泊)
  • 所在地/長野県北佐久郡御代田町

○概要
「カプセルハウスK」は、日本を代表する建築家黒川紀章の設計により、初期の代表作「中銀カプセルタワービル」竣工の翌1973年に竣工した。黒川は中銀の設計中から同じパーツで違う用途の建物を造りたかったようだ。それによりメタボリズム建築の可能性を示すことができる。当時黒川は、御代田町の別荘開発の仕事を請けており、その縁で土地の提供を受けた為に別荘のモデルハウスとしてこの建物を造った。この建物は当初は黒川紀章建築都市設計事務所の所有であった。一時、所有者が変わったが2019年に長男の黒川未来夫氏が取得している。
○特徴
この建物は、中銀と比べ規模は小さいが考え方は同じメタボリズムの建築思想を実現したカプセル建築である。階段や共用部分(玄関、リビング、地下の寝室)のある鉄筋コンクリート壁構造2層のコア・シャフトに、交換可能な4つの鉄骨造カプセルが少しずつレベルを変えながらシャフトの周りを廻るようにキャンチレバーで設置されている。カプセル外装はコールテン鋼、窓もドーム型のアクリルでどちらも黒川が中銀で断念したものを実現し、当時の理想のカプセルに近い形となっている。寝室カプセル2つ(中銀とほぼ同じもの)の他、キッチンと茶室のカプセルがある。キッチン以外は大きな丸窓で浮遊感がありカプセルの独立性と未来的なイメージを強調している。
○評価
<作家性> 黒川紀章は、京都大学を卒業後東大大学院で丹下健三に師事。同時代の丹下門下からは、磯崎新、槙文彦、谷口吉生等の世界的建築家が育っている。1960年の世界デザイン会議の企画に関わった若手建築家の菊竹清則らと共にメタボリズムグループを結成し、その理論で建築界の枠を超えて注目を集めた。黒川は、自らの建築思想を表現するために、常に新しい技術や素材を取り入れ、カプセルやコンピューターなど当時の最先端の技術を用いて未来的な建築を創造した。海外での活躍やメディアへの露出も多い。また、この建物に茶室カプセルがあるように、日本の伝統や文化にも敬意を払い、それらをモチーフとした「国立文楽劇場」のような作品もある。
<革新性> メタボリズムは新陳代謝を意味する。黒川紀章らは当時の高度成長期の激変する社会状況を受けて、その変化に有機的に対応しうる都市と建築の在り方を提案した。この思想を最も直截的に具現化したものが「中銀カプセルタワービル」あり、全体規模は小さいが同じカプセルを使用した「カプセルハウスK」である。しかし、中銀は黒川の構想通りにはカプセルが交換されず老朽化により2022年に解体された為「カプセルハウスK」は唯一現存する黒川のカプセル建築となった。
<地域性> 敷地は、軽井沢にほど近い自然豊かな別荘地にあり、竣工当時は樹木の背が低く浅間山が遠望できたと言う。この建物は、急峻な斜面に建っているが、カプセルは空中に浮かぶ形となるため斜面に建つのはコア・シャフトのみで地形への影響を最小限としていて、都市型の未来建築ではあるが、自然環境にも十分適応し自然との共生が図られている。
○現状
地域特有の凍結破損による漏水等に悩まされながらも、クラウドファンディングで資金を調達しセルフビルドも含め修繕・補修が行われ、より多くの人にメタボリズムの思想を知ってもらいたいとの思いから、一棟貸しの宿泊施設として活用されている。中銀では実現できなかったカプセルの交換も考えられており、その思想と共に長く後世に残したい建築である。

文責:宮原仁史・清水国寿