長野県017

小山敬三美術館

  • 1975年竣工
  • 設計/村野藤吾
  • 施工/北野建設㈱
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造およびラーメン構造
  • 用途/文化施設、美術館
  • 所在地/長野県小諸市丁221

○概要
小諸城址一隅は懐古園と呼ばれており、その片隅に「小山敬三美術館」がある。小山敬三は1971年に小諸市初の名誉市民となり、自作と美術館を小諸市に寄贈することを決意して、日本芸術院の会友である村野藤吾に美術館の設計を依頼した。竣工までが設計だと考える村野藤吾のスタイルを受け止め困難な施工を担当したのは北野建設で1975年に完成している。平屋のラーメン式RC造で、延床面積は196㎡である。所蔵作品が増えたことから、村野藤吾没後5年の1989年に展示室が増築された。
○特徴
小山敬三のデフォルメされた画風から連想された建築と言われることもあるが、この美術館は「大地から隆起した彫刻」のようである。油土を使い人の手で繰り返し練り込まれた立体模型によってしかイメージを定着することはできない。フリーフォームの造形のみならず、スタディのプロセスも彫刻家の所業そのものである。外観は、うねったスタッコ壁が特徴である。地面と接する部分は大地とつながるような納まりであるが、突端部は地表から浮かせている。入口屋根は鉄骨とガラスによる直線的構成で対照的である。アプローチは茶室の露地のようでもある。随所に村野藤吾の手慣れた手法が見られる。展示室の壁も曲面で、中間に仕切り壁があって奥行を期待させる。床面には緩い傾斜があり、奥に向かって天井が高くなっている。高窓やスリットによる自然採光を試みている。
○評価
<作家性> 村野藤吾はモダニズムに一石を投じるような独自の創造を貫いた。時流に乗った建築思潮に翻弄されることなく、人間の視覚や触覚に直結するような素材・色彩・陰影・ディテール・スケールなどに細心の意を払って来た。建築の用途や規模が変わっても臨む姿勢は終始一貫していた。したがって小山敬三美術館に限られた突出した特徴があるとは言えないが、小山敬三美術館をはじめとした箱根樹木園休憩所、谷村美術館、天寿園瞑想館等の極小の建築は、濃密な情念を注ぎ込まれておりいずれも名作と言われている。小山敬三美術館は1977年に毎日芸術賞を授与されているが、建築家に与えられた同賞のなかで最小の建築である。
○現状
村野、森建築事務所の主任であった近藤正志による増築棟は主棟を保全するように配慮されている。村野藤吾を最も深く理解していても村野とは違う感性であるところが創作の世界である。収蔵庫は別の場所に移された。小山敬三のアトリエが隣に建てられている。小山敬三の絵画のみならず村野の建築を鑑賞するために訪れる人も多い。

文責:関邦則