○概要
山を多く描いた洋画家、田崎廣助の作品を保存・展示する目的で設立された個人美術館である。軽井沢の森の中に建ち、冬季を除いて開館している。竣工は1986年、設計は原広司、この作品で日本建築学会賞を受賞している。
○特徴
地上2階建てのRC造、木造の小屋組で構成されている。仕上げ材はコンクリート、石、タイル、ガラス、アルミ、ステンレス、鉄と多様である。外観は、雲形の屋根、多彩な形状の重なり合い、山並みを連想させるような形態となっている。一方、平面は幾何学的な形をしているが、中庭を中心に各室がフラットに外とつながる。中庭を囲むガラスが複雑に絡み合い、外の景色が反射し、外と中の境界を曖昧にしている。また、木の小屋組とカラマツをイメージしたRCの柱も反射しあい、なるべく自然に溶け込むよう外の森と中の構造物が一体となる仕組になっている。田崎廣助は自然光でしか絵を描かないことから、自然光のもと作品を鑑賞する美術館となっている。展示物に直接日が当たらないように、天井の高さや4層に構成された構造体など工夫があり、明るさと暗さの光による陰影、時間や季節での変化が楽しめる。
○評価
<作家性> 設計者の原広司は、東京大学で教鞭をとりながら、世界の集落の調査を行っており、人の住んでいた環境について、「反射性住居」と定義し整理している。原自身は、故郷飯田の自然豊かな環境で育まれたことから、原風景の雲や山並みに思いを寄せ、この軽井沢において、外観は山並みを連想させ、自然に和合する建築を目指した。続く1988年には地元飯田市の美術博物館も設計しており、南アルプスの山並みを想わせる屋根や雲形の屋根が重なりあう独特な外観をもつ。内部は密な列柱とトラスからなる森のような空間も田崎美術館と同じ構成である。雲や山並みの形態が、そののちの代表作である円形孔のある梅田スカイビルや空へ向かう大階段のある京都駅へとつながっていく。
○現状
現在、義理の孫である館長により、田崎氏の遺志を引継ぎ、開館当時の状態を維持している。カフェは休業中で多目的室へと変化しているが、他方で公募展、講演会、研究会として活用されている。館長の建物に対する思いれは強く、今後も同様に建物を活かし続けていくことが想定される。
文責:田淵悟