○概要
この「神長官守矢資料館」は、1991年の竣工で、諏訪大社の筆頭神官であった神長官守矢家に伝わる中世文書を保存展示するため茅野市が設立した博物館である。敷地は、諏訪大社上社本宮と前宮の中間に位置している高部地区の神長官守矢家敷地内に建てられた。この敷地一帯は、神長官守矢邸跡として茅野市史跡に指定されている。
○特徴
基本設計を地元高部出身の藤森照信、設計監理を内田祥士が行った共同設計である。延床面積184㎡の史料館である。構造は、鉄筋コンクリート造で一部木造としている。耐火が求められる博物館用途に対して、できるだけ自然素材を取り入れるという工夫がみられる建物である。形状は、展示棟である片流れ屋根の下屋部分に対し、斜めに角度をつけた正方形の二階建て収蔵庫棟が組合わさって構成されている。二階屋根は方形で天然スレート葺、下屋は諏訪産である鉄平石が敷きこまれている。外壁はかつて屋根に使われていたサワラの割り板、内壁は藁入りのモルタル塗りで土壁を表現している。正面には、御柱をイメージさせる四本柱のイチイが屋根に付き出している。
○評価
<作家性> この建物は、日本近代建築史を研究してきた藤森照信にとって、今後も設計を続ける起点となった処女作である。守矢家の歴史は古く、縄文時代の名残を伝える。諏訪信仰をふまえた表現方法として、周辺環境を崩さないことと、中世までしかその形態を遡れない神社や民家といったものに関連しないという条件を基に設計を行っている。ここで確立された設計手法がこの後の作品の原点となっている。その後、高過庵を始めとする茶室群、モザイクタイルミュージアム、ラ・コリーナ近江八幡など数多くの施設や住宅を手掛けることになり、その特徴が表れている。
<地域性> 諏訪大社は、守屋山をご神体として自然を信仰してきた。その麓に位置する建物となることから、地元出身の藤森は土地との関係を重視し、自然素材を建物とその周辺環境にとり入れ、風景を崩さないための工夫を施すなど、地域性、歴史、風土に配慮した設計を行なっている。屋根は、諏訪地方の伝統的な鉄平石葺を復元させるため、下地にデッキプレートを使い、重ね代を充分とり、ワイヤーメッシュで固定することで実現させている。外壁は、下屋部分をRC壁に木造のカーテンウォールを取り付けたような形で、鎌倉時代の手法である手割り板としている。二階建部分は土壁の荒壁をイメージした仕上げとなっている。RC壁にSUSで竹小舞を再現し、藁入りのモルタルを塗り込んでいる。内壁も藁入りのモルタルを木鏝で塗り付けている。
○現状
博物館として建設時そのままの状態で活用され続けている。また史料館の周辺にある藤森照信の作品群とともに建築物を見学されている方も多数来訪している。
文責:田淵悟