○概要
この「下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館」は、長野県諏訪郡下諏訪町の、諏訪湖畔に沿って建っている。既存の博物館を建て替えるにあたって、諏訪湖の歴史や自然と、郷土のアララギ派の歌人島木赤彦の生涯を紹介する二つの常設展示スペースの充実、および収蔵、特別展示、体験学習兼用レクチャー・スペースを新たに加える事を目的として建設された。設計は、下諏訪町で中学生まで過ごした伊東豊雄がコンペティションにて選ばれた。完成は平成5年3月、開館は平成5年6月15日である。
○特徴
諏訪湖側には3次元曲面を持つオープン・ジョイントのアルミ・パネルで覆われた、事務所と展示スペースの建物。山側へは、収蔵庫と特別展示室が置かれた矩形の建物が配置されている。この二つの建物の間に小さな光井戸を兼ねた水の空間があり、その空間に面してスケルトンなエレベーターが配置されている。諏訪湖側の建物は、湾曲するコンクリート壁から1/2の鉄骨アーチを連続的に架け渡して3次元曲面の空間を作り出している。3次元曲面の内側は、小巾板で覆われており、印象的な空間となっている。
○評価
<作家性> この建物の設計者は、日本を代表する建築家の一人伊東豊雄である。自邸「シルバーハット」で1986年に日本建築学会賞作品賞を受賞、そして、世界的にも評価の高い「せんだいメディアテーク」で2003年に2度目の日本建築学会賞作品賞を受賞している。また、プリツカー賞をはじめ世界的な賞を数多く受賞している。この建物は、そんな伊東がまだ公共建築物をそれほど多く手掛けていないころの作品で、伊東自身が中学生まで育った、下諏訪町と諏訪湖の記憶を表現した作品となっている。出身地での作品は、この「下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館」しか無く、伊東豊雄の建築を語る上で、大変重要な作品である。
<地域性> この建物の特徴である3次元曲面のファサードのイメージは、伊東豊雄自身の言葉によると、「湖面に靄がかかるとか虹がかかるというような気象の現象的なもの、そんなイメージをゆるいカーブに中に描きたいと思ったからです」と表現しており、日々、諏訪湖を見ながら過ごした下諏訪町での幼少期の記憶が詰まったデザインであると考えられる。この地域で育った伊東が、諏訪というイメージを表現した作品であり、この地域でなければ生まれなかった建築であると見る事ができる。
○現状
諏訪湖博物館・赤彦記念館、また、収蔵庫や事務所として機能しているが、やや収蔵庫や事務所は手狭な感じを受けた。展示スペースの湾曲した印象的な空間を損なわずに、収蔵スペースや事務スペースの拡充を考える必要性を感じた。
開館当初の写真と比べると、錆など痛んでいる箇所が散見される。今後のメンテナンスを早急に計画する必要性を感じた。
文責:吉川貴久