岡山県002

山陽放送会館

  • 1962年竣工
  • 設計/佐藤武夫建築設計事務所
  • 施工/大林組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上4階、地下1階
  • 用途/商業・事務所建築
  • 所在地/岡山県岡山市北区丸の内二丁目1-3

佐藤武夫の設計による1962年(昭和37年)完成の山陽放送会館は岡山城の西、本丸跡の石山台地南端に建つ。佐藤の「一体の美観地帯に形成しよう」※1という思いのもと、完成時には今は無い既設のNHK会館を東の当りとした空地を囲んで北に佐藤事務所による市民会館の付属棟(1963年)と本施設事務棟が中空ブロックによる同様のファサードを纏って向かい合って配置された。空地は佐藤がヨーロッパ都市の駐車場兼用広場として小舗石敷で中央には噴水と水盤が配されていた。建築家が働きかけて公共と民間の別機能施設が共有空間と外観意匠の一体性をもつ協調提案による都市の公共性創出が実現できた時代性、地方都市の官民双方の気概を感じる希少な例であろう。
事務棟は西側の岡山城西の丸跡に残る城壁と呼応させた西、南面の道路側は錆石積にして上部に建つがエントランスは広場に北面させて、繊細な半透過の中空ブロック壁※2を開口部に張り出したバルコニーの前面に纏わせる。対して東のスタジオ棟は量塊性を強調するために外壁を傾けた開口のない2階建で煉瓦タイル張りが施されて市民会館のホール棟と呼応しあう。正対する2作品はともに佐藤特有の多角形ホールと直方体の優れたデザインの対比構成をみせている。
内部はエントランスホールの吹き抜けが小ぶりながらも空間に程よい広がりを与え、天井やシャンデリア照明の意匠、階段手摺や窓の取手などのディテール、巾木などのテラゾーの仕上げが建築の質感を高めている。中空ブロック壁に包まれた執務空間では外界とはその関係性が穏やかに緩衝されて接続される。対して閉じられた空間となるスタジオ内部の壁面デザインは大小の四角錐の反射体と横縞状の吸音壁から構成されて、佐藤の音響デザインの特徴を物語る軽快な空間となっている。
2001年に新社屋が天神町に完成しながら現在も一部機能を維持して利用されている。※2

※1 「月刊RSK昭和36年4月号」「新築の山陽放送会館」佐藤武夫 より
※2 中空ブロック壁を佐藤事務所がゴシック建築の窓の繊細な枠組みを指すトレーサリーと名づけていたのであろう呼称を2021年12月3日の調査時に山陽放送の社員の方がまだ愛着をもって使用されていた。