岡山県005

林原美術館

  • 1963年竣工
  • 設計/前川國男建築設計事務所、造園設計:流政之
  • 施工/荒木組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上2階、地下1階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/岡山県岡山市北区丸の内二丁目7-15

1963年(昭和38年)完成の林原美術館(旧・岡山美術館)は岡山県下の前川國男の設計では県庁舎(1957-80年)、天神山文化プラザ(1962年)に次ぎ、新築美術館では岡山市、前川にとっても嚆矢となったものである。岡山城二の丸屋敷対面所跡の長屋門をくぐり、石垣に沿って敷地の高低差を活かした石段を上がる。館内に入ると正面に竹林の中庭が迎え、展示室はこの中庭を中心にL字に配置され、半時計廻りにロビーへと一巡できる。前川自身が言うこの「一筆描き」※の平面構成は内部空間に外部も巻き込んでそれらの関係性を流動的に、そして人の行動をアクティブに誘引する。それは師、ル・コルビュジ工設計の国立西洋美術館の回遊性からの影響ともされている。ロビーのラウンジは背後の事務室とともに展示経路からは750mmレベル差を設けることで空間領域に変化をつけながら南庭とつながる。利用者に鑑賞と余韻の、つまり集中と緩和の際の快適性を創出するこの平断面空間の流動的構成は以降、埼玉県立博物館(1971年)、熊本県立美術館(77年)へと発展されていく。
また、作品ごとにテクニカル・アプローチを展開していた前川は1960年代以降ル・コルビュジエ風のブルータルなコンクリート打ち放しからプレキャストの採用によって生産性とディテールの精度を追求する。本作品でも南面の小庇や格子、カウンター、円弧状の巾木など細やかな形状の建築要素への採用がみられる。さらに日本の気候特性によるコンクリートの劣化対策のため、経年で風合いが醸し出る西欧由来の煉瓦から日本独自の高温で焼かれた磁器、陶器質のタイルで外壁を覆うことになっていく。本作品の外観を覆う焼成煉瓦は、後に手がけていく打ち込みタイルの外装手法に繋がる萌芽となり、触覚的な肌合いをもって立ち現れる。鑑賞と余韻に配慮した内外空間は彫刻家・流政之のデザインによる庭園とともに今も利用者に親しまれている。

※「ja117 Kunio Maekawa 前川國男、2020」