岡山県009

玉野市立総合文化センター

  • 1972年竣工
  • 設計/浦辺建築事務所(浦辺鎮太郎)
  • 施工/錢高組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上3階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/岡山県玉野市宇野二丁目

浦辺鎮太郎の設計による玉野市総合文化センターは竣工時の1972年(昭和47年)には造船と連絡船で栄えた県南部玉野市の宇野港から西に延びる主要道路に面する。道路側の図書館棟と2階で分節された奥の南側の278席のホール棟からなり、1階は展示、研修、喫茶などの施設が入る。敷地高低差を利用して3階建ての図書館棟へは主要道路側からほどよい高さの大階段から2階屋上広場よりアプローチする。外観は2階のバルコニーや3階サッシ高さ部分のボーダーで積層感が強調され、段状のバルコニーにより西欧モダニズム風の客船イメージが際立つ。中庭の螺旋階段も船上の軽やかさを呈している。
南側にメイン・エントランスのあるホールは東側端部を帆先のような舟形五角形平面とし、断面的にも2階部分を跳ね出し、こちらも船のイメージを呈する外観は屋根部分の多面的な形態と外壁のリブによって浦辺特有の意匠性を醸し出している。
1階は中庭を中心に循環ルートとなっており、ホワイエへの階段の曲面で構成された浦辺特有の造形と施工精度は注目に値する。展示室は波形の側壁を屋上庭園に現すトップライトで採光された特徴的な空間となっている。2階のホワイエ中央の柱と柱頭の円形折り上げ天井には作野旦平によるシンボリックなガラスモザイクが施され、ホール天井は星座をあしらったダウンライトのレイアウトと神話の絵柄が見られる。
パブリックゾーンの天井高さもヒューマンスケールで、内外装仕上げも吹付タイルやかき落とし、ゴムタイルといった材料選択と触感も人にやさしい庶民的な船と海のまちを象徴する建築作品になっていた。
1970年代初頭の文化事業興隆の潮流のもとに建設された本施設は基盤産業の衰退と交通手段の変化に伴って惜しくも2021年に幕を閉じて解体される予定である。