岡山県012

早島町歴史民俗資料館

  • 1977年竣工
  • 設計/矢吹昭良建築設計事務所
  • 施工/両備住宅(旧 両備建設)
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上1階 鉄板葺
  • 用途/文化施設
  • 所在地/岡山県都窪郡早島町大字前潟237-2

岡山市と倉敷市のほぼ中間に位置する、早島町の主要産業であった蘭草関係の民俗資料を収蔵および展示する目的で昭和52年(1977年)に竣工した建築である。
この建築は文化財の収蔵庫として、空調設備に頼らずに湿気の遮断や断熱の性能を充足させるために「高床にすること」「床と壁を二重構造にすること」※とした設計になっている。これは当時の文化庁の担当者(半沢重信技官)の指導や要求にそったものである。地元産の花崗岩を積んだ外壁は、高床式のRC造の基礎梁の上に載せられ、内壁を20㎜厚の杉板の落し込み壁とすることで二重構造の壁となっている。ハーフ・ヴォールトの形状の天井(スタッコ吹付の仕上げ)も二重構造である。屋根はこの天井の形状がそのまま表わされて、ヴォールトの銅板葺きの屋根となっている。また石積みの外壁の出隅部分も曲面で処理されている。このような材料と形態は、従来のモダニズムの建築と異なる方向を目指している点において同時代の他の建築と共通する点が見られる。
設計者の矢吹昭良は自身のテーマとして「石」を挙げ、地元から産出される花崗岩を用いた設計を数多く行っている。この建築から少し後れる「里庄町歴史民俗資料館(1980) 」は、高床式の基礎、現地産の花崗岩の外壁という共通点を有するものの、形態は異なり直角でまとめられている。外壁の石材は間知石に似たものであるが、同氏の他の作品では自然な形状、無作為な寸法の石材が使用されていることを考えると、設計者の作風に起こった、短期間の特異な展開とみなすことができる。
また、矢吹昭良は「古民家再生工房」の最年長者であり、地域で先駆的に活動した建築家の設計であるという点において、当該建物は地域性を有する。また、現地産の石材を使用している点も地域性と見なすことができる。
隣接する町営施設が資料館も管理しており、適宜維持されている。

※建築思潮研究所編『建築設計資料5 地方博物館・資料館』1984