岡山県013

岡山市立オリエント美術館

  • 1979年竣工
  • 設計/岡田新一設計事務所
  • 施工/竹中工務店、松本組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上3階、地下1階、塔屋1階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/岡山県岡山市北区天神町9-31

岡山市中心部のカルチュア・ゾーンに建つ本施設の計画はその一画北端の前川國男による「現・岡山県天神山文化プラザ」で1967年(昭和42年)に開催された「美術の誕生 メソポタミア展」に端を発する。展示に触発された地元篤志家安原真二郎の収集と美術館開設の熱意から近接地に国内唯一の古代オリエント専門の公立美術館として美術館ブームの先駆期、岡田新一の設計によって1979年(昭和54年)に竣工した。
オリエントの地において強烈な‘光と影'、‘身体にまとわりつく空間'がテーマとされている※。かの地と岡山を融合するかのように淡い砂色の二丁掛けリブ付きの磁器質タイルの外壁は岡山城天守閣の瓦屋根と呼応する黒い金属が岡田特有のコラージュ的手法で頂部に取りつけられ、セットバックして重層する。内部の中央ホールはブリッジを境に南北に異なる吹抜をもつ。北側は2階の室内光庭へと視線は抜ける。上部には細密な模様張りの彩釉ボーダータイルの天井が浮かび上がる。南ではイラクのサーマッラーの塔を基に‘光の塔’※と名づけられた複雑な構成による3層分吹抜の光溜は天蓋のごとく中心空間を形成している。そこでは光の移ろいによって美術品の置かれた場に穏やかな光がにじみ入り、また隅部のオニキスの淡い光が鑑賞の合間に体感できるあたかもオリエントの刻々と変化する光の下にいるかのような特別な展示空間の体験の場となっている。
また、こうした空間構成の濃密さとともに岡田は‘細密’※をキーワードにオリエントやペルシャのきめ細やかさと触覚的な仕上げの肌合いやディテールをこの建物に求めた。内部はコンクリートの斫り仕上げと抜き型枠模様が輻庫奏するテキスチュアや手摺などのディテール、材料、彩色などの‘細密’さが高質かつ人間味のある建築作品となっている。後の岡田氏による北近接地に建つ岡山県立美術館(1988年)とあわせて地域に親しまれる芸術受発信の場となっている。

※「建築家岡田新ーと岡山県立美術館20年_岡山県立美術館, 2008年」より
出典は「美術館:芸術と空間の至福な関係<OS DESIGN SERIES 3>,彰国社,1999」