岡山県014

倉敷市役所本庁舎

  • 1980年竣工
  • 設計/浦辺建築事務所(浦辺鎮太郎)
  • 施工/大林組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨鉄筋コンクリート造 地上10階、地下2階
  • 用途/官公庁舎
  • 所在地/岡山県倉敷市西中新田

倉敷市役所本庁舎は隣接する玉島、児島との3市合併[1967年2月1日]を機に新庁舎の設置が決まり、合併協定書による「庁舎は現在及び将来の交通事情等を想定した最も便利な中心部に置き、新市発足後、市民の利便と財政を考慮して可及的速やかに建設する」に基づき敷地全体の構想が決定される。
基本方針は「1990年の(想定)人口51万人に対応出来る規模で、市民、職員共に使いやすい市民サービスセンター(市民部門、行政事務部門、市長等の執行部)の役割を持たせ、議会棟は執行部棟と分離し、敷地内には緑豊かな市民の憩いの森やその他の緑地、駐車場設備を設置する」と策定され、これに基づき1978年9月着工、昭和55年(1980年)6月に竣工した。庁舎の構成は3階建ての低層棟(1階:食堂・購買他、2階:職員厚生施設他、3階:議場他議会関係諸室)、10階建ての高層棟(1階:市民部門、2~9階:行政事務部門(3階は市長等の執行部)、10階:大会議室、展望台)、2階建ての駐車場からなる。
設計者は浦辺建築事務所(浦辺鎮太郎)で、外観は倉敷格子、土蔵造りの漆喰や塗籠軒裏、張り瓦を思わせる窯変タイルに弁柄、紡績工場の赤煉瓦と言った倉敷の街並みをイメージさせるモチーフや、各所に繰り返し現れる古代ギリシャ風の列柱など、浦辺がかつて憧れたオランダの建築、或いは姉妹都市ザンクトペルテン市庁舎の鐘塔やバロック調のアーチ等の西洋古典建築の表現も特徴的である。塔の四隅にある金銀の玉は、設計者によると「吉備の穴海の頃、神話の千珠満珠(赤玉、青玉)の赤玉がやがて陸地と化した話」をモチーフにし、旧3市が古代吉備王国に共通した記憶をもつ運命共同体である事を示すなど、地域性に加え和洋の建築要素を複合させた意匠性の高いデザインは少し後の時代に顕著になるポストモダン建築の特徴も見え隠れしており、浦辺独特の表現(新旧の融合)であるといえる。
2020年に耐震改修工事を終え、当面の寿命を延ばす一方で老朽化、社会の多様化に伴う行政サービス増大と執務面積の不足という状況にも直面し、新庁舎建設構想も検討されている。

参考文献
1)「倉敷市庁舎建設の記録」発行:倉敷市
2)「緑の中の市庁舎」発行:倉敷市