岡山県016

岡山県立美術館

  • 1987年竣工
  • 設計/岡田新一設計事務所(構造:構造システム)
  • 施工/大林組・鹿島建設・松本組岡山県立美術館新築工事共同企業体
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上4階、地下2階、塔屋1階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/岡山県岡山市北区天神町8-48

岡山市中心部の天神山は終戦前からの公共建築エリアで、80年代初頭に一帯のカルチュア・ゾーン構想の要として岡山県立美術館の設計が岡田新一に委託され、1987年(昭和62年)に完成した。敷地北隣には前川國男による岡山県天神山文化プラザ(1962年)、南近接地には岡田による岡山市立オリエント美術館(1979年)がすでに建つ周辺環境にあった。
配置は東側道路に沿ってホール棟、西に展示棟となっている。南東に「都市の居間」※1として設けられたエントランス広場と東の傾斜した歩道沿いにある柱廊によって街に開かれた建築としての構えが形成されている。外観デザインではポストモダニズムの潮流のなか、近代建築の抽象性と歴史的建築の持つ具象性の合体が「抽象と細密」※1となって都市の中での人間性追求の方法であるとする岡田の想い※1は独自の饒舌な形態操作として現われる。「細密」※1は材料の選択にもみられ、西洋の古典的三層構成にならって基部に花崗岩の割肌とバーナー、胴部はラスタータイルや竹をイメージした緑の施釉ボーダータイル、頂部は岡山城の屋根との呼応と目される勾配をもつステンレスパネルが採用されている。
内部では床・壁に地元万成石が使われ、岡田が「屋内広場」※2と位置づけた展示棟とホール棟のはざまは天神山の起伏を反映して地下1階から2階の中庭まで連続する自然光を取り入れた流動的なパブリック・スペースとなっている。設計者は「空間が機能であること」※2を重視して、パブリック・スペースの豊かな自然光に対比した展示空間の人工照明と自立式可動間仕切からなるシステムも開発している。こうして都市の種々の文脈を活かした空間性と機能性の充足とともに、岡田が「細密」なデザインによって生まれるという人間性の醸成が美術館としての価値を高め、既設の岡山市立オリエント美術館とともに地域に親しまれるのであろう。

※1 「建築家岡田新ーと岡山県立美術館20年_岡山県立美術館, 2008年」より
出典は「美術館:芸術と空間の至福な関係<OS DESIGN SERIES 3>,彰国社,1999」
※2 「新建築,1988.7」