岡山県017

勝山木材ふれあい会館

  • 1987年竣工
  • 設計/早川正夫建築設計事務所(早川正夫)、遠山一級建築士事務所(構造)
  • 施工/まつもとコーポレーション(旧 松本組)、棟梁築沢勇夫
  • 構造形式/木造 地上2階 鉄板葺(元 銅板葺)
  • 用途/商業・事務所建築
  • 所在地/岡山県真庭市三田131

林業や木材産業が盛んな町、勝山の木材産業振興のために会館は林野庁の林業構造改善事業の一環として計画され、設計コンペによって、早川正夫建築設計事務所の案が選ばれた。旭川をはさんで勝山町並み保存地区の西岸の幹線道路沿いに建ち、正方形の本館と三角形の飲食店は中心部のコーナーから背後に45度の片流れの屋根にした大胆な立体として立ち現れる。伝統的な漆喰壁となまこ壁、縦長スリット窓の連続は伝統的な町並みに合わせている。構造は、30cm-45cm角の杉柱と杉の大断面集成梁の構成で、集成材を使った伝統的工法の展開は大胆な発想といえ、集成材による大規模な木造建築がまだ珍しかった時代に、新しい木質系建築の時代を見据えた試みであった。地元では集成材生産を始めるきっかけとなり、ひいては現在の「バイオマス産業杜市真庭」の発展へと繋がっている。
早川は、伝統的な木造技術を応用し、その造形表現を継承した現代四方差を発案した。柱へ四方から梁材を差す仕口に雇いの補助材で接合した形態が、簪(かんざし)を連想させるため、早川式「カンザシ工法」と名付け、この工法は国内に4作あり、本館が最初となった。早川によれば「カンザシ工法」は、伝統的な差物構造を現代的な解釈で試みた木構造のごく一部分であり、木構造の伝統的プロポーションの継承こそが本来の目的であるとしている。この形態と架構の発想を早川は「浄土寺浄土堂を四分の一に切り取ったかたち」※と答えている。浄土堂は、兵庫県小野市にある貫と挿肘木を使い太い柱と虹梁で構成した構造美が印象的な正方形平面、宝形造の国宝仏堂である。
本館1階は木造家屋の構造模型等木材関連の展示室、子供用木製パズルから銘木の座卓まで木工品の販売、2階の研修室では木工イベントなど、木材にふれあう空間として、県内外からの来訪者に親しまれている。

※住宅建築 1993年2月号