岡山県018

牛窓国際交流ヴィラ

  • 1988年竣工
  • 設計/石井和紘建築研究所
  • 施工/元浜組
  • 構造形式/木造 桟瓦葺およびS形瓦葺
  • 用途/宿泊施設
  • 所在地/岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓

岡山県は、1988年(昭和63年)より国際交流事業として、同県を訪れる外国人が地域の生活、文化などを体験する宿泊施設「国際交流ヴィラ」を県内に6カ所整備した。「国際交流ヴィラ牛窓」は、ギリシャのミティリニ市と友好都市縁組みを締結し、瀬戸内海をエーゲ海に見立てた観光振興策を進めていた牛窓町の瀬戸内海を見渡せる高台に建設された。ヴィラは5室のバス付き宿泊室、ホール・食堂、炊事室、洗面室、洗濯室等を備え、ホールは地域住民との交換会やイベントに利用された。当初は外国人あるいは外国人同伴の日本人だけの宿泊施設であったが、2010年に岡山県から瀬戸内市に移管されて日本人も宿泊できるようになった。また、同年に炊事場を改修し、レストランとして営業している。
巾8m長さ33m、木造桟瓦葺2階建ての建物で、平面形状はこの敷地に以前より存在していた古墳の石室を中心として、直径54mの円弧を2つ平行移動させたように描かれている 。
円弧状の平面に直径30㎝の円柱が11本並び、上部の木造トラスを支えている。この形態に上手く組み合う様に貫は4段の構成とし、貫と円柱が丁度収まる様な材寸法によって直角格子のフレームが形成されている。
南北の外壁はガラスのカーテンウォールで構成されており、直角格子のフレームが外部からも見る事ことができ、また、5室ある客室全てから海を望めて開放的である。設計者は石井和紘で、直径54mの円弧による本作品の他に「54の窓」「54の屋根」「54の柱」と、「54」に関係する建物をいくつか手掛けており、この数字に関して深いこだわりが見える。
この時期の石井は1982年の「直島町役場」から、88年の「吹屋国際交流ヴィラ」、89年の「数寄屋邑」など、日本の歴史的意匠を引用したポストモダン建築を多く残している。本作品も全長を33mにし、「三十三メートル堂」と京都の三十三間堂を引用して自身で命名しているが、言葉遊びに近く、「直島町役場」での直接的な歴史的引用から、本作品を境に小屋組みなどの工夫に向かうことになり、石井の変容を示す建物の一例であるといえよう。