岡山県019

あちの郷

  • 1989年竣工
  • 設計/倉敷建築工房 大角雄三設計室
  • 施工/藤木工務店
  • 構造形式/木造 地上2階 本瓦葺
  • 用途/商業・事務所建築
  • 所在地/岡山県倉敷市本町3-12

あちの郷は、倉敷市美観地区の一角に立つ旧商家である。阿知神社がある鶴形山の裾にそって東西に伸びる本町通りに面し、近隣に重要文化財の井上家住宅がある。北側の本町通りから南側の堀跡通り(旧水路)までの細長い敷地に、江戸期と推定される母屋と付随する土蔵群が配置されている。平成元年(1989年)に、伝統的な建築物群を商業施設として再生。古民家再生工房のメンバーである大角雄三が復元・保存と新しい価値を与え伝統的な建物を活かした新たな生命を吹き込んでいる。母屋・離れ・蔵に新築建物を加えた4棟の配置は、計算された距離感があり、本町通りから堀跡通りへと抜ける、折れ曲がった石畳の路地は、美観地区らしい動線となり活性化を図っている。母屋の外観は、美観地区特有の庇付切妻屋根、本瓦葺と漆喰壁は伝統的なスタイルといえる。
内部は飲食店に用途変更され、1階は土間にカウンター付の客席と厨房がある。2階は古民家再生工房の特徴である朝鮮張の大広間としているが、比較的本来の間取りが維持されている。路地に面した出入口は、路地の延長を意識した土間床仕上げとし、2階までの吹抜に改装して開放的である。その南側は近代に2階建の座敷を増築しており、1階をモダンな空間として再生、2階は和室2間をそのまま生かし、掃出しのガラス窓より庭を望むことができる。
観光客のみならず地元住民にも親しまれている施設であり、大角雄三の初期の作品としても重要な建築である。