岡山県021

岡山福富の家

  • 1991年竣工
  • 設計/村上徹建築設計事務所(村上徹)
  • 施工/荒木組
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨造 地上2階 鉄板葺
  • 用途/住宅建築
  • 所在地/岡山県岡山市南区福富東

1991年(平成3年)に完成した村上徹による「岡山福富の家」は、海を埋め立てた平坦な田園地帯から今は新興住宅地となっている岡山市南部の福富に立地している。そのため、村上は敷地のもつ歴史的なコンテクストは弱く、敷地正面にあるT字路を唯一の手掛かりとして、その延長線上に生活の中心的空間となる中庭のデッキを配置し、その両側に居室を配することとにより全体を構成し、場所性を反映させることを考えたと述べている。※1
デッキと居室の一部は視覚の広がりや奥行が感じられるよう周囲より半階高いレベル設定とし、居室上部からデッキに架けられたゆるやかなヴォ―ルト屋根は、一部にV形の切り欠きがされ、空が見えるようになっている。
建物外周の居室部分は鉄筋コンクリート打ち放しの壁であるが、中庭部分の壁の一部を可動式スリガラスのスクリーンとすることで、外部から内部の生活の気配や息吹を感じることができ、周辺環境から隔絶するのではなく、周辺環境と柔らかな雰囲気で繋がりを持ち開かれたものとしている。
居室の中庭側は開放性がある全面ガラスであるが、外周側の壁と天井の接合部にスリットを設け、それらを構造的に極限まで追求した細い柱材で接続することで、あたかも屋根がふわっと浮いているような視覚的効果の工夫がなされており、軽さと開放感を室内に与えることに成功している。さらに、屋根を支える柱は兼用樋、開口部のガラスは直接壁にはめ込みサッシュを無くすなど、部材を極限まで消し去って簡素にみせるディテールによって空間の浮遊性が高まっている。
本住宅は、鉄、コンクリート、ガラスといった現代建築の一般的な材料を巧みに使うことにより、「豊かで広がりがある空間が創出されており、同じく日本建築学会作品賞の受賞対象となった「阿品の家」(広島市)とともに、コンクリート打ち放しの住宅を手掛けてきた設計者の集大成と言える傑出した作品となっている。
竣工後30数年経過しているが、建築主が設計思想に理解を示して竣工当時の状態がほぼ良好に保たれ、丁寧に住まわれている。

※1:「建築雑誌,Vol.109,No.1361,1994.8」