隈研吾の設計による鬼ノ城ゴルフ倶楽部はバブル崩壊直後の1992年(平成4年)、頂に花崗岩の城壁、鬼ノ城遺構がある岡山市西北の総社市郊外の山裾に建設され、今も愛好者に利用されている。クラブハウスのロータリーは遺構の象徴、花崗岩をモチーフにした人工岩による巨大なオブジェが中心に置かれ、フランク・ロイド・ライト風のデザインとディテールを感じさせる円周状の列柱で形成される。外観はライトの帝国ホテルの繊細さをロビー邸のように抽象化した面持ちがある。また、水が流れ落ちる岩組に建つかにみえるコース側の構成の参照は隈自身が落水荘であるとしている。※
ライト風に高さを抑えた玄関扉から入るとホールは一転して、壮大なヴォールト天井がゴルフコースの緑の軸線を暗示する。中間階のラウンジ、2階のレストランやコンペルームへは中ほどの大階段が伸びて動的な空間が構成される。内外の各所でライト調のデザイン・モチーフが設計者風にアレンジされ、極めて上質で統一感のある意匠が展開される。
隈は、場所のもつ固有性を建築自体に誘導する方法に懐疑をもつ※とし、遺構から「幾何学化された自然」※を概念として見いだす。それは「自然と人工の間にひとつの中間項を提出する」※作業で、ゴルフというスポーツの本質とも、ライトの「有機的建築」※の果した作業とも同型であるとしてライト調デザインの参照を隈特有の論理化によって根拠づける。そこで建築とランドスケープを「自然と人工の中間項」※の複合体と捉え、フィリップ・ディ・ジャコモによる人工岩がその核とされる。つまり、高度な技巧によるあたかも自然の質感を持つ擬石も「幾何学化された自然」、「自然と人工の中間項」※であって、エントランスの巨大オブジェや建物が立っているかの地盤の擬石群、水の流れを縁取るランドスケープと建築が「中間項の複合体」※として立ち現れるというのである。
※「新建築,1993.4」