岡山県031

S-HOUSE Museum

  • 1996年竣工
  • 設計/妹島和世建築設計事務所(妹島和世、西沢立衛)
  • 施工/まつもとコーポレーション
  • 構造形式/木造 地上2階
  • 用途/文化施設(元 住居建築)
  • 所在地/岡山県岡山市南区浦安南町445-8

敷地は、岡山市街地の南方、児島湖に近い市街化調整区域内にある昭和末期頃から広がった低層住宅が密集した住宅地で、北側前面道路と西側の袋小路に面する。設計は後にパートナーシップSANNAを組む妹島和世と当時所員の西沢立衛が担当で、1996年(平成8年)にS-HOUSEとして完成した。
3世代6人家族の住宅に求められる居室と団らんの場を、限られた敷地内に形成する難題に対して、「空間に距離を生み出すこと」、「みんなが一緒に住むという一体的なまとまりと同時に、お互いの生活を干渉しすぎないような距離が各室に必要である」※として2層分の吹抜に回廊を四周に巡らせて、各室を囲む空間構成で応えている。それは伝統的寺院の住居棟である方丈にも似た平面形式の現代化ともいえ、1階の各室へは回廊から出入りし、2階にはキッチンとリビングダイニングが配される。回廊は「各室を結ぶ動線スペースであると同時に、外気の負荷から守るバッファーゾーンともなって」※おり、各室は連続折れ戸や可動ルーバーによって回廊から仕切られながらも自由な開閉が可能で、回廊と各室、各室間の関係を時々で変化させて多様な使い方ができる可変性をもった画期的な住宅となった。
限られた開口部が穿たれた単純立体の外装には北、東面が波板スレート、南、西面は半透明のポリカーボネイトが張られ、半透過性を帯びて緩やかな内部と外部との関係性をもたらしている。建物ボリュームを限りなく単純立体化したうえでの表層素材の探求、とくに半透明性を帯びた様相は世界的潮流でもあった。だが、ここでは外観のみの効果にとどまらず、外壁を通して回廊内部は明るく半屋外的なスペースとなり、時間や季節のうつろいを淡く体感できる作者特有の空間性デザインの特徴が現れている。構造は、妹島氏では初めての木造でカーテンウォールの方立も木製、内部の多くが木質材で構成されている。
所有者が変わり、コンヴァージョン により2016年より現代美術の新たな実験空間、S-HOUSE Museumとして一般公開され、継続的な建築価値の維持がなされている。

※「GA JAPAN 25/3-4/1997」