静岡県006

龍の砦

  • 1968年竣工
  • 設計/渡邊洋治
  • 施工/石井肇建設
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上2階、地下1階
  • 用途/住居建築
  • 所在地/静岡県伊東市宇佐見

医院併用住宅として1968年に竣工した。設計は渡邊洋治(1923-1983)。東に海を望む北斜面に建てられ、荒々しいRC打放しに銀色の塗装を施している。全体が螺旋状に上昇する構成で、RC造の中心部に円環状に柱を配し、そこからカンティレバーで各室が持ち出されている。きわめて創意に富んだ構成であり、これを龍のとぐろになぞらえて「龍の砦」と命名された。
道路から斜路をほぼ1回転して、円の中心にある玄関に達すると、2つのドアが並列し、左は医院入口、右は住宅入口となる。医院は受付、待合室、診察室の他にレントゲン室、暗室を備えている。住宅は円の中心近くに廊下を取り、各室がスキップフロア状に方角を変えながら配される。下からダイニングキッチン、和室、便所・浴室、寝室と続き、上階に広い応接間がある。ダイニングキッチンでは段差を利用して台所とカウンター部の目線を合わせ、 応接間でも段差によって畳敷きと洋間を共存させている。
応接間の外に海を望むバルコニーがあり、これが外観としては龍の口に当たる。また、応接間から下階の屋上に出ることができ、さらに螺旋状に昇ると最上部には艦橋のような塔があり、旭日旗がはためく。これは施主が元海軍医であり、建築家も陸軍船舶兵出身ということに因む。各所に見られるハッチのような窓や壁から突出するガーゴイルも軍艦を想起させる。
所有者の変遷を経て、荒廃していた時期もあったが、2014年に取得した現所有者はこの建築の価値を認め、セルフビルドで修復を進めた。良好な状態に復された建築は往時のエネルギー溢れる輝きを取り戻している。