静岡県007

日本IBM天城ホームステッド

  • 1968年竣工
  • 設計/村田政真建築設計事務所
  • 施工/大成建設
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上3階 セメントスレート葺
  • 用途/研修所
  • 所在地/静岡県伊豆市冷川

日本IBMの顧客用研修施設として、1968年に開設された。設計は村田政真(1906-1987)。標高800mの敷地の気候は時に市街地とは全く異なる。付近では1964年に伊豆スカイラインが開通し、観光開発が始まっていた。
建物は3つのブロックに大別され、中央にホール、ラウンジ等の公共・交流部門、一方に研修部門、もう一方に宿泊部門が配される。宿泊部門等は1971年に、研修部門は1987年に、それぞれ増築が行われている。立面は低く抑えられ、深い軒庇とテラスが巡る。この外観の範を設計者は寝殿造りに求めている。
訪問者が迎えられるホールからラウンジは、緩やかな段差を持ちながら水平に展開し、正面に富士山を望む。アルミサッシュの大判ガラスが天井まで達し、突き板貼りの羽目板天井はそのままテラスの軒裏となって延びる。現地産の自然石積みが内外に用いられ、ラウンジでは暖炉や食堂に向かう階段脇の壁となる。これらは、豊かな自然を室内に取り込み、山荘の雰囲気を演出し、利用者の気持ちを大らかにさせて交友を促す設計といえよう。
宿泊室はすべてシングルで初期のユニットバスが据えられた。一方、地階には温泉を引いた大浴場もあり、伊豆石が用いられている。全体に、上質な空間を体験させながら、研修施設としての節度を保った、端正なデザインである。
階下には大規模なボイラー室を備え、山荘ならではの環境に対応している。
世界的企業によるエグゼクティブ向けの教育と交流の場として使い続けられ、きわめて良好な状態で維持、管理されている。建築主の意図を十分に理解した設計者の顕著な業績と位置づけられる。