静岡県023

松崎町立伊豆の長八美術館

  • 1984年竣工
  • 設計/石山修武+ダムダン空間工作所
  • 施工/竹中工務店
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄筋コンクリート造および鉄骨造) 地上2階 鉄板葺
  • 用途/文化施設
  • 所在地/静岡県賀茂郡松崎町松崎

幕末から明治にかけて活躍した松崎町出身の左官職人、入江長八を顕彰する美術館である。設計は石山修武(1944-)。ポスト・モダンが議論されていた1984に竣工し、設計者も強くそれを意識していた。石山は作品発表に併せて「形態が生産を刺激する」という論文を著し、方法としてのポスト・モダニズムとして、近代化された建築生産システムではなく、左官職人の手による技術に独自の表現を求めた。全国からのベ2000人が参集したという左官職人のエネルギーを「励起し、誘導したのはこの建築の形態である」と述べている。
ふたつの展示室とそれらに挟まれた中庭を中心に構成され、軸線から角度を振ったり(エントランス)、パースペ クティヴを強調したり(展示室や階段)といった操作が行われている。球体や角錐状の形態が、全体から細部まで一貫して表現され、内外装のほとんどが漆喰塗り、なまこ壁、土佐漆喰、漆喰彫刻といった左官技術によって仕上げられている。
当時30代の石山に特命で発注された公共建築で、石山はその後も松崎町のさまざまなプロジェクトに関わることになり、松崎町での活動のプロローグ的な作品といえる。開館以来延べ400万人の来場者が訪れ、ピーク時には年間25万人の来場者を記録したという。建設時に左官工事の地元責任者を務めた鈴木誠二(現在はその後継者)が竣工後のメンテナンスにも継続して関わり、竣工時の姿がほぼそのまま保たれている。大きな改修工事はなく、空調や電気設備の修理をその都度行っている。松崎町では、なまこ壁の街並み、全国漆喰鏝絵コンクール、土蔵ワークショップといった左官技術を中心としたイベントやまちづくりが行われているが、この建築はそれらの中心的役割を担っている。