静岡県026

三養荘新館

  • 1989年竣工
  • 設計/村野・森建築事務所
  • 施工/竹中工務店
  • 構造形式/木造、鉄筋コンクリート造および鉄骨造 地上2階 桟瓦葺および銅板葺
  • 用途/宿泊施設
  • 所在地/静岡県伊豆の国市墹之上

三養荘は1929年に建てられた旧岩崎久彌別邸を、戦後、西武グループが入手し、旅館(本館)として営業してきた。これに新たに土地を拡張し、以前の数倍の規模に増築したのが三養荘新館である。1989年から1993年にかけて竣工した。設計は村野藤吾(1891-1984)で、竣工時には没していたが、設計は1981年から始まっており、最晩年の作品と言ってよい。
緩やかな東下がりの斜面に各棟が分棟で配される。最東端に円形のラウンジがあり、その奥に玄関棟がある。ここから西側と南側に客室棟がクラスター状につながり、玄関前の敷地内道路を挟んだ北側にも多数の客室棟が連続する。最西端には大広間がある。客室棟はすべて木造平屋、玄関棟は鉄骨造・ RC造・木造の複合、広間棟は鉄骨造・RC造の複合である。
高低差のある広大な館内を、単調にすることなく歩みを進める工夫が随所に見られる。スロープでわずかに屈曲しながら続く廊下、廊下のコーナーに配された方向を指し示すかのような斜めの棚、窓外に展開する庭と水の流れ、小壁に取り付けられた照明器具などが歩みを促す。
きわめて繊細かつ研ぎ澄まされた意匠が内外の随所に見られ、余人の追随を許さない境地に達している。室内の見えがかり部分は、細く、薄く、軽やかなデザインを基調に、照明器具はもとより、スイッチプレート、建具締まり等まで特注されており、旅館として必要な諸設備や空調を納める手際と相まって、近現代数寄屋のひとつの到達点が示されている。