第6期文化審議会文化政策部会第7回議事録

1. 日時

平成20年11月7日(金) 15:00~17:00

2. 場所

文部科学省東館3F1特別会議室

3. 出席者

(委員)

池野委員 唐津委員 高萩委員 田村(和)委員 田村(孝)委員 富澤委員 宮田(亮)委員 パルバース委員 米屋委員

(事務局)

青木文化庁長官 高塩次長 関審議官清木文化部長 清水芸術文化課長 他

(欠席委員)

尾高委員 三林委員 宮田(慶)委員 山内委員 吉本委員

4.議題

  1. (1)実演芸術家(音楽,舞踊,演劇等の分野における実演家)等に関する人材の育成及び活用について
    ・【審議経過報告に向けた論点整理(2)】
  2. (2)その他
【宮田部会長】
 第6期の文化政策部会の第7回を開きたいと思います。
 前回に引き続きまして審議の論点の整理について,先生方からのご意見をちょうだいしたいと思っております。
 会議に先立ちまして,事務局から配付資料の確認をお願いします。
【清水芸術文化課長】
 <配布資料確認>
【宮田部会長】
 ありがとうございました。
 それでは,審議経過報告に向けた論点整理について審議を行いたいと思います。
 本日は審議を前半と後半に分けて,前半は実演芸術家等の育成・活用に関する基本的な考え方について審議を行いまして,後半は実演芸術家等の育成・活用に向けた具体的な方策について審議を行いたいと思っております。前回ご審議いただいた内容を踏まえて修正した資料4,ここに赤の入っているものがお手元にあると思いますが,「実演芸術家等に関する人材の育成及び活用について(論点整理案その2)」をお配りしております。まず事務局からこの資料について簡単にご説明いただいた後に審議を進めたいと思います。よろしくお願いします。
【清水芸術文化課長】
 <配布資料について説明>
【宮田部会長】
 ありがとうございました。
 本会議も第5回,第6回とだんだん熱が入ってきて,先生方からいろいろなお話をいただいております。それで今現在,事務局からご説明があったように資料4について訂正が入っておりますが,この件に関しまして約50分間,先生方からのご意見をいただきたいと思っております。どなたからでも結構でございますので,この辺は気になるというところあたりからお話しなさってはいかがかなと思っております。
 どうぞ。
【富澤部会長代理】
 今,課長のご説明を聞いて,実演家というものを具体的にここにはっきりと鮮明に書いていただいたということと,もう一つは(3)の基本的なスタンスというものを前へ持ってきて,わかりやすく表現していただいたので,以前よりは大分メリハリがきいて,理解しやすくなっており,私は評価したいと思います。基本的にはそうなんですけれども,これまでの議論でも委員の皆様から強く出ておりましたけれども,地域社会とか教育の場とか,そういうところを通じて実演芸術家の皆さんが育っていくということは間違いないんでしょうけれども,それをどうやって結びつけていくかというのは,これからの課題として非常に大きいと思うんです。地域がこういうことに目を向けてくれて,熱心に取り組んでいるところもたくさんあるわけですけれども,そういうところは非常にうまくいっているようにこれまでも伺っていますし,全国一律にはいかないと思いますけれども,そういうところを一つでも二つでも,あるいはもっと多く増やしていくということが大事です。そういう意味で文化庁は大いなるリーダーシップを発揮していただきたいなと思いますし,成功例をうまく,まだそういうことを知らない地方自治体にお知らせをして,そして理解を深めていく。そしてそれぞれが非常に特性を持った文化というものを育てていってくれれば,非常にいいんじゃないかなと思います。そういうものを着実にふやしていくということが,急がば回れではありませんけれども,結局は一番近道ではないかといった感想を持ちました。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。先生がおっしゃったように,成功例,この間も新潟の話などがありましたけれども,あの中でもリーダーシップを発揮してくれてという話がございました。あれは意外と知っているようで具体的なところで皆さん存じ上げない場合が多いんじゃないかなという気がしていますので,文化庁としても,いろいろな意味でそういうアピールの仕方というのもこれから考えていく必要があるのかななどと思っております。
【田村(孝)委員】
 音楽学校の専門家ではございませんが,私はずっと音楽番組にかかわってまいりましたので,分野ごとに特に配慮すべき事項と,それから学校教育でございますが,音楽大学は国際的な競争への対応を検討する必要があるのではないか,音楽教育のあり方というのをぜひ考えていただきたい。日本の中でも優れた作曲家の方,音楽学者の方,演奏家の方で音大出でない方はたくさんいらっしゃいます。それともう一つ,専門家にならなくても,普通の総合大学に芸術に触れられる場がないということが,日本が芸術への理解を若い人に促進できない理由ではないか。その両面が必要であると思っております。
 この間から申し上げていますように,地方では,東京からたった1時間の静岡ですら,レベルの高い音楽に触れるということがほとんどございません。それではそれを理解する目と耳が育たないとは言ってはいけませんけれども,それが現実ではないかと思います。そこにもちろん公共文化施設の果たす役割があったりしますけれども,理解していただくのはすごく難しいことでございます。
 それともう一つ,教育の中でぜひ音楽大学に欲しいのは,日本の演奏家にコミュニケーション不足とか表現力の不足の克服です。日本の演奏家はこのためオーケストラとのコンチェルトが不得意だと言われていますが,コンクールの最後でどうしても不利になります。それで仙台の国際音楽コンクールなどは,日本人の不得意な部分をぜひ克服しようということで,予選からすべてコンチェルトでコンクールをやっております。それは同時に仙台フィルというオーケストラを育てるという目的も仙台ではあるのでございます。そういうことが非常に大切で,幅広い分野の教育というのはたしか舞踊分野のバレエの部分でもおっしゃっていらっしゃいましたけれども,その部分がとても欲しいなと思っております。それを普通の総合大学ではだれもが学べるチャンスがあるということも同時に必要かなと,これは音楽に限らないことでございますけれども。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。芸術にしても何にしてもそうですけれども,それにきちんと付随した教養教育が,しかも生きた教養教育がとても必要だと思います。例えば,一つのすばらしい曲があったとしたら,その前後の時代背景とか,なぜこの曲ができたのかとか,政治や経済はどうなっていたのだろうか,そんな中でこの曲ができたんだとかといったことが学べるような空間があると,それは本当に生きた教養教育になるのかなという感じがいたします。今,先生がおっしゃった両輪ということは大変重要なことかなと思います。
 ちょっと外れるかもしれませんが,教育実習に行った学生たちがすごく大人になって帰ってくるんです。あの3週間というのは,同時に,いつも教わっているというところから,今度は教えるという逆の立場になったときの自分の立ち位置をどこに置いたらいいかといったことが勉強できるので,あれなどはある意味での教養教育かななどという感じがしているんです。本当にたった3週間で急に大人になって帰ってくるんです。もうちょっと実習せてあげたいような気もするんだけれども,余りいると今度はまたレベルが下がったりするものですから,難しいところなんですが,教育実習が2週間から3週間になったというのはある意味ではプラスの作用を起こしているという気がしています。
 さて,ほかに先生方,どうでしょうか。池野先生,どうぞ。
【池野委員】
 今,田村委員のほうから,実演家の教育だけではなくて,音楽教育ということで,観客,聴衆といった人たちに対する提供というのが非常に重要であるということに関連してです。
 いろいろ公演を見ていく中で,日本国内だけではなくて,海外にも日本の芸術家を連れて公演をするという方ともお話しする機会があるのですけれども,そこで最近お聞きしたのが,オーストラリアへ公演に行ったときに,そういった公演のプロデューサーの立場の方とお話ししていて,そのオーストラリアの事例はどうかとお聞きしましたところ,劇場で何か公演を見るということについては,もう既にオーストラリアなどでは習慣として定着している。公演をする実演家の教育の場もある程度ある。ではあと何が必要かといったときに,舞踊に関してなんですけれども,舞踊教育の本当に必要なものというのは,今現在とこれからは観客への教育というのが一番必要だと,その方はおっしゃったそうです。
 何か公演なり何なりを見たときに,受けとめる力というのは最も基本的に大事な力なんですけれども,それがなかなか,自分の目で判断していくというところが養われていないような気がするんです。日本ですと,音楽の授業というのはありますから,例えば,音楽の先生はいいものを聞かせたいということで,西洋のクラシック音楽というものをまず教えます。ところが,もちろんそういった名曲の数々を聞くということはいいのですけれども,学校教育の中で,これはいいんですよと上から半ば強制的に押しつけのようになってしまうと,逆にクラシック音楽は退屈なんだみたいな反発もあります。それから,以前からここでも言われておりますように,邦楽というものに対する先生方の教養がまずないということもあって,クラシック音楽というのは非常に崇高なものであって,ありがたく受けとめなさいというとらえ方をしてきたように思います。ところが,音楽というものは,実はみずからの感覚に対して訴えかけるという部分が非常に大きいので,知識として入ってしまうと,そこでまた授業ですから,点数とか試験といったこともあるわけです。そういったことから,音楽が授業の一環だったから嫌いだとか,そういう逆の効果というか,マイナスの部分が大きかったと思います。やはり,知識も非常に大事なんですけれども,自分の目や耳でそういった音楽の良し悪しと言っては語弊があるかと思うんですけれども,舞踊でもそうなんですけれども,自分の目でまずものを見るという習慣ができない限りそれは育っていかないと思っています。
 私は最近とても危機感を抱いているのは,「これはすばらしいものだからぜひ見てください」。人間の感情として,自分が感動したものは人に伝えたいということはわかるんです。ただ,余りにも多くの人が,例えば,メディアでこれがいいと言っている,あるいは大量に宣伝されている,だからそれを見に行くといった非常に受け身な,他人の価値判断でそうなのかととらえてしまうことがあると思うんです。これが本当にメディアというものを非常に過信してしまっていて,実は内容とは関係なく,いろいろな経済活動が伴っていく上でそうやって大量に宣伝されているところもあったり,それを目撃する機会が多いために,また観客もそれを妄信してしまうというところがあると思うんです。でも,実際の音楽や舞踊というのは,そういう大量に宣伝されているものだけがいいということではなくて,あくまでも,周りを見てみれば,地域にもそういった活動をしている人たちもいる。そして,そういうところでふだんから地域の劇場に行ってそういったものを見てみる。その上で,一流のものであるとか,あるいはすばらしい,珍しいものにも関心を持っていく。そういったことが理想だと思いますが,なかなかそのようには結びついていかないというところに私自身はとても危機感を抱いています。
 すべての価値観がそうやってマスメディアによって左右されてしまうことに対する危惧というものと,あとその価値観をどこに求めたらいいのかということで観客自身が悩んでいるということもあると思います。ですから,それは本当に日常的に,例えば,レストランとかグルメの情報は手に入りやすいわけです。食べることは実際に生きていくことに直結していますから,特に関心は高まるとは思うんですけれども,それも自分の舌で味わうということが何よりも大事なはずなのに,グルメガイド本とかテレビの情報に左右されてしまうところがあります。本来でしたら,舞踊にしても音楽にしても他の分野でも,レストランに行くのと同じように,自分の足で行ってみるというのが理想的な形だと思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。要するに,一つの何かに対して媒体によって人間本来の本質ではないものになっているといった話ですね。
 この前までは割に高等教育,つまり大学に関して結構議論があったような気がするんですが,それだけではなくて,もっと文化力を上げる何かというのが必要かなという感じがしているんです。もちろん大学の使命というのはあるわけですけれども,そのあたりはこの文章の中でいかがでしょうか。
 この中でちょっと気になっているのは,子供たちに対する文化力を高めることと,若者たちと,池野先生がずっとお話しになられたいわゆる社会人ということで,その辺のところでの区割りなどはこれでいいかなという感じがちょっとするんですけれども,どうでしょうか。例えば,子供たちに対してはこういう考え方,高等教育に関してはこういうサジェスチョンがあったらといったあたりで,3つの段階性みたいなものを持つのもいいのかなと,ちょっと今のご発言をお聞きしながら気になったんですけれども。具体的には,声楽などでしたら,子供のときには全然無理だとかというのはありますけれども,継続してやっていける芸術分野はあるわけじゃないですか。
 はい,どうぞ。
【米屋委員】
 これを一読しまして,これまでの議論を振り返ってますます思ったことですが,人材の育成ということを考えていると,その育成施策の周囲にあること,それと連動する環境づくりが大事なのだなと思いました。特に「活用」という言葉が入ってきて,委員の方の関心も,いかに実演家たちの活躍の場をふやしていくか,それを鑑賞する観客たちの層を厚くしていくかといったところで何度も何度も行き来してきたように思うんです。これを読んだときに考えましたのは,この中に含めるというよりはこれに付記するようなこと,言ってみれば7ページ目の(3)というのがそのポジションに当たるのかなと思ったんですが,私は3つのことが必要だと思っています。
 まず,既に書かれていますけれども,子供たちの芸術体験の充実ということです。なぜこれが今までさんざん言われながら落ちつきが悪いかといいますと,芸術家として活躍していけるのは本当に数万人に1人だったり,何年かに1人すばらしい人が出るというものなので,子供たちを教育すれば芸術家の数がふえるかというと,そういうことではないんだろうと思うんです。ですので,専門家の育成という文脈の中で子供のことを語ると何かちょっとおかしなことになってしまうので,子供たちの体験の充実というのは,人間性を豊かに育てていくという大きな目的のためで,それが整うと必然的におのずと専門家のレベルも上がっていくでしょうというロジックだと思うんです。
 それと同様で,舞台芸術への支援制度のかなり抜本的な見直しということの中で,観客をどうやってふやしていくか,広げていくかという施策が今までほとんどありませんでしたので,そういったところを充実させていくことによって結果としておのずと専門家のクオリティーも上がっていくでしょうという,この周辺の部分だと思うんです。
 それともう1点が,この文書では「ふるい」という言葉であらわれてきましたが,地域の劇場に注目してはどうかということが盛り込まれているんです。それは私も大賛成なんですが,では劇場の活動を,方向性を決めて責任をとっていくのはだれなのかということを考えたときに,これが行政であっては座りが悪いと思うんです。ですので,その「ふるい」たる地域の劇場というものを考えたときのその責任の所在であるとか,その自由度をどうやって守っていくかということの仕組みの再検討といいますか,構築ということがもう一つ大事なのではないかなと。
 この3点を,人材育成というよりは,それを整えるための条件で大事なこととして,今後さらに,施策としてなのか,検討していくということがブリッジとして必要なのかなと思っていて,どうしてもそちらのほうの意識が強いものですから,中身の具体的な施策のところは,割といろいろな方のいろいろな意見がそのまま併記されたものになってしまっているというのは,その位置づけをちょっと区切ったほうがいいのではないかなということを感じました。
【宮田部会長】
 同感ですね。どうぞ。
【田村(和)委員】
 今,池野委員,それから米屋委員がおっしゃったとおりで,今回のテーマは人材の育成ということなんですけれども,人材の育成を真ん中に置きながらも人材の育成の外側に,はっきり言ってしまうと,文化市場の形成というのがあると思うんです。これは観客論が抜けているなという感じがあって,これがコインサイドになって初めて人が育つと同時に,人が活動する場所があって,そこからまた人が育ってくるみたいな,こういう反応があると思うんです。そのことが一つと,もう一つ大きく抜けているのは,人を育てるというのは,それぞれの世界の中で,これはバレエならバレエということで,日本固有の条件がありますけれども,その中でいろいろな問題があるとともに,今の我が国が置かれているとか,これは我が国の文化状況がそうだし,我が国が国際化の中で何が問われているかといった状況にものすごく左右されるところがあると思うんです。そういう意味では,失礼なんですけれども,これは非常にたくさんのテーマが出ているんだけれども,状況に対して一体どのように反応していくべきかみたいな感覚がちょっと弱いなという感じがするんです。ですから,観客論と,それから状況というものに対してどのように人を育てていくかというのには,この答申が多分これからできてくると思うんですけれども,もう少し何か一つしっかりした構図を持たなければいけないなという感じがするんです。
 状況に対応するか,無状況的な話なのかというと,全体を読んでみますと,これを私はAとBということに分けていたんだけれども,人を育てていくというのには,選択と集中論と,これは昔から言われることですが,それからもう一つは潜在的な可能性を強化しながら適切な支援をやっていくという2つの世界があるような気がするんです。人材ということだけで見ていきますと,結局,観客とかアマチュアも含めて非常にたくさんの文化の享受者,それからその中から文化のキャンディデートというんですか,文化芸術を志望する人たちがいると思うんです。その人たちが少なくともベーシックにプロになろうとすることになると,まずそれが中堅の人たちを構成すると思うんです。さらにそこから,僕はプロシーディングプロみたいな形で言っているんですけれども,かなり先端的に前にいけるプロの人になっていく。それからトッププロになる。その4つの階段みたいなものをどのようにやっていくかというプロセスがあって,これはいろいろな芸術のジャンルの中でそうだと思うんですけれども,その中に「ふるい」があったり,いろいろな装置がたくさん埋まってくるのが,人が育っていく過程だと思うんです。そういう話が真ん中にあって,いわゆる芸術を志望する人たちがそういう形でトッププロになっていくといった話がしっかりあるのかどうかということが一つあります。それから,その周辺にこういう芸術家たちを支える,非常に広い基盤となるというのか,そういうフィールドと,活用と言うとおかしいだろうけれども,活動していける広いフィールドが取り囲んでいるように思うんです。そういう構図でこれを分けてみて,さっきの4段階でこれはどこからどこへいく話なのかなということでやってみますと,人が育っていくというのは,この人というのは別に実演者だけではなくて,作家も脚本家も全部含めて,そういう上昇というのではなくて,むしろ芸術家として成熟していくというのかな,そういう過程みたいなものがきちんとなければ,今の状況の中での問題提起で終わってしまうような気がしているんです。
 ですから,僕は,これは非常に丁寧にまとめていただきましたし,新たに赤で入りましたところなどは非常にすばらしいと思うんだけれども,何かもう一つ,状況とか,そういうものに対して敏感な描き方がないかなと。率直に言いますと,日本が今非常に困っているのは,これは長官もおっしゃったことだけれども,日本のよさというのは混成文化みたいな話がありまして,混成文化同士が一体どういう形で自己成長していくかという世界が堂々とあると思うんです。そういう話を前提に,余り内閉的な世界だけで考えるのではなくて,そういうものは自己成長していく世界なんだけれども,本当にこれから我々は一体どういうところで人を育てて,どういう分野で育てて,いわゆる文化力というものにしていくのか,世界がしっかりつかまれていていいような感じがしていまして,文化の内需喚起をしていかなければいけない。それから,内需喚起に対して,あるいは国際的に発信していく文化芸術をどういう形でつくっていくのか。それは当然,内需喚起などという場合には,単純に言って,プロだけを育てるわけではなくて,たくさんの芸術家たちのすそ野も広げていくことですから,何かそういう認識がちょっと必要かなという,提言に向けての一つの大きな構図がほしいなという感じがしています。例えば,教育も,小学校教育でこうしたほうがいいというのは一体どこに位置づけるのかということです。私は,この中に,日本人の姿勢が悪いとか,いろいろな話がたくさん出てくるんだけれども,そういう話は別にプロだけの話ではなくて,我々の世界そのものを取り巻く文化の一つの基本的なあり方だと思うんです。それは,我々自身の問題でもあると思うので,そのあたりをきれいに切っていくというのではなくて,つまりこれを読む人にわかりやすい構図は何かないかなというところでもうちょっと議論していただきたいなという感じがするんです。
 ですから,もう一つ最後にお話ししたいのは,今回のアートマネジメントの話と一緒になって人材の話をしたときに,この提案というのが重点政策のメニューなのか,それとも,いつもお話しすることですけれども,国民に対するメッセージとして,国の文化行政はこういうことをやるんだという,どっちに重点を置くのかということだと思うんです。この書き方ですと,後半のほうに具体的なところがあって,国の文化行政のメニューを説明するほうに重点はあると思うんだけれども,国民へのメッセージというか,それぞれの場所でいろいろ悩まれている人もいらっしゃるだろうし,国民全体にとってもそうだと思うんですけれども,そのあたりが何か非常に無状況的な書き方だなという感じがしています。批判ばかりして恐縮なんですけれども。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。後半の,どこに向いてこれができ上がっているかということは,すごく大きなことだと思います。最近私どもの大学,いわゆる国大協なるものもいろいろ会議をやるんですが,可視化,見える,わかりやすい,それが念仏のように唱えられるということがすごく大事なのかという気がしておりますが。
【唐津委員】
 今ほかの委員の皆様のお話を伺って,私も非常に腑に落ちたんですけれども,人材育成のために必要なことを皆さんいろいろお話しいただいたことが箇条書きで併記されているという形になっていて,プロフェッショナルな方をつくること,それから観客を育成することと,いろいろな角度のものが混在しているような印象を持ちます。一つご提案なんですけれども,ちょっとフローチャートのような形で図解すると良いのではないでしょうか。例えば,中心にプロの育成というのがあって,その周りを取り囲む次の段階というのがあり,そしてまたその周りを取り囲むファン層があり,そしてその周辺の観客層があって,どこをどのような形で強化していくか,それによってどこの部分がどの程度でき上がっていくかといった,ちょっと目で見やすい形を一度つくってみるのはどうかという感じがいたしました。これは実はアートマネジメントのときも感じていたことですが,でき上がったものをいろいろなところに持っていきますと,「これ,全部読むんですか」と言われてしまうんです。お時間のある方は読むと思うんですが,一番読んでいただきたい,ある意味で責任を持っていろいろな判断をなされるような方々というのは,非常にお忙しくて,お時間がない方が非常に多いので,ぱっと見で説得力を持つような資料という形で,もう一度そういったことをやったらどうかと思いました。
 それから,すごく細かいことですが,3ページの赤字の舞踊の部分ですが,舞踊といってもバレエに対しての発言というのがこれまで非常に多かったので,ここにはバレエ団という書き方になっておりますけれども,バレエには限らないので,バレエ及びダンスカンパニーぐらいの書き方にしていただけたらなと思います。
【宮田部会長】
 私の可視化という話と今の唐津先生のお話にも共通している部分がありますね。1ページで見られるぐらいのストレートなものがあってもいいのかなという気がしています。フローチャートは当然必要じゃないでしょうかね。いろいろな表現の仕方があるでしょうけれども,いかがですか。
【青木長官】
 この間も,前回のときにも大分強調したんですけれども,アートに関する一般の国民の関心というものをどのように育てるかというのは一番大きな問題だと思います。そういう点で初等中等教育でちゃんとしたアートを経験させるということが将来の日本の芸術鑑賞者あるいはサポーター,観客の養成につながるという点で非常に重要だけれども,今の日本の教育というのはどちらかというと,非文化・非芸術ですから,これを何とかしなくてはいけないのではないかと。そのような声をどこかでずっと上げていくような運動があるといいんですけれども,それを一つ思います。
 もう一つは,ここにもいろいろな形では触れてありますが,アート志望の人たちへの特進コース,例えば,全額を負担して,しかも生活も保障して,それで小さいときから才能ある人を全国的に見ていてあるいは国際的にも見て,ピックアップして入れて育てるようなスクールはできないものか。大体,この間小沢征爾さんとベルリンフィルで協演した番組をNHKで放送していた中国出身のユンディ・リーとか,北京オリンピックの音楽監督をしたラン・ランとか,ああいう才能はみんなアメリカのカーティス音楽院とかジュリアード音楽院とか,そういうところのかなり早い時期のスカラーシップを取って,お父さんと一緒に渡米したりしているわけです。そういうのを全部アメリカなどの外国に頼るのではなくて,日本の中にできないかなと思うんです。つまり,日本ではなかなか特進コースといったものは設けにくい制度であり,また社会ですけれども,例えば芸大にそういう特進コースみたいなものができれば,非常に大きな励みになるんじゃないですかね。
【宮田部会長】
 私はたまたま学生支援機構の委員もやっているんです。昨日その会議があったんですが,年間約400万円の支援をし,それは返さなくていいという条件で,その優秀者のうちの3分の1まではそのようになっている制度ができて,今2年目,3年目になっているんですけれども,あれは高等教育だけではなくて,今長官がおっしゃったように,小学校からいきなりというのは無理かもしれませんが,中学校から高校あたりのときにはもうポンと大学へ持っていって,かつそれの支援が,授業料などは免除できるところまで持っていく。大体できているんですが,全部切れているんです。それが切れていない状況をつくるということがすごく大事なことだという気が今のお話からもしますし,昨日もずっとそんなことを考えながら思っていましたね。
【青木長官】
 すぐれた実演芸術家の育成と,観客の一般的な関心の高まりというのは,相関関係にありますね。ですから,天才的なバイオリニストが出てきたらみんな熱中して行く。アスリートでもそうだけれども,そういう輝ける存在に一般の人々も引きずられていくし,それからまた一般的に見てもかなり早い段階からいろいろな芸術や音楽などに親しんでいると才能が目覚めるということとの両方を考えていかなくてはいけないと思うんです。
【宮田部会長】
 どうぞ。
【富澤部会長代理】
 今回の議論は,ここに書いてあるように,実演芸術家の人材育成,それからそれの活用ということですから,一人でも多く,あるいはより高い芸術性を持った実演芸術家を育てて,そして国民に提供する,あるいは国民がそれを楽しむ,そういう文化庁の志というのか,考え方を国民にメッセージとして伝えるというところに一番意義があると思いますので,その文化庁の決意なりあるいは熱い思いを伝えるということが一番の目的だろうと思うんです。そういうことで言えば,資料4の冒頭「舞台芸術を振興する意義」に書いてあるようなことだろうと思うんですが,スポーツでも,例えば4年に1回のオリンピックへ向けて,強化選手,強化策を練って,そこに傑出したコーチをみんな集めて,予算も集中して一生懸命育てる。それがオリンピックなどで実を結ぶ。実を結ばないこともありますけれども,これは各国の競争ですから,各国がしのぎを削ってやるわけで,そういう文化力で競争というのもちょっとそぐわないかもしれませんけれども,結局はそういうことだろうと思うんです。文化国家として日本が生きていくんだという強い決意を示すことに意義があるわけでしょうから,そういうものがはっきり出ていれば,目的は達成できるんじゃないかと。あくまで実演芸術家というのが主役で,そういう人たちを育てていく,あるいは活用していくために,地方公共団体とか,国もそうですけれども,企業はちょっとここのところ元気がなくて余裕もないわけですから,経済でもよくなれば,またいろいろ知恵も出すし,お金も出すし,力をかしてくれると思うんですが,メディアなどもそうでして,メディアというのはあくまで主体ではなくて,そういったいいものをできるだけ発掘して広く伝えていくという役割ですから,そういう形で,わき役と言ったらおかしいですけれども,あくまで主体は実演芸術家である。そういう人たちを育成するために国が,文化庁が中心となって全力を挙げてやるんだぞという強いメッセージを国民に伝えることが一番大事じゃないかと思います。そういう書き方をして,私はさっき言いましたように大体そのようになっていると思うんですが,もうちょっと強くそういう思いが出せていけばいいのではないかなと思います。そのためにはもうちょっと工夫なり知恵が必要なんでしょうね。
【宮田部会長】
 どうぞ。
【パルバース委員】
 質問ですけれども,既にこの話は出ているかもしれないけれども,また日本でこれを実際にもうやっているかもしれないけれども,全国の学校から優秀な子供たちをピックアップして,長野県であろうが北海道であろうが,どこかの山のキャンプに送って,そこで一流の音楽家のもとで2週間か3週間ぐらいでインテンシブコース又はマスタークラス等を国のお金で受けさせるということは,日本ではもうどこかでやっているんですか。
【清水芸術文化課長】
 今,文化庁の施策としてはそういった形のものはないと思います。民間の取り組みでいうと,例えばアフィニス文化財団が,あれは学費ですけれども,全国の音楽大学の学生などが多いわけですけれども,ヨーロッパから優秀な演奏家を招いて合宿をして,その間に一つ曲をつくって演奏会をするといった民間レベルでやっているものは聞いておりますが,今,文化庁の予算としてはそういったものはないというところです。
【パルバース委員】
 僕が今考えているのは小学校・中学校のレベルからやるということで,大学じゃないです。大学はもうそれは要らないと思います,もう既にある程度まで達しているわけですから。本当に小さな子供です。自分の環境からまず出して,自分の家庭からとか自分のまちから初めて出るかもしれない。そして,北海道から沖縄から,私と同じようなことを考えている子供がいるんじゃないかと,そしてそれこそ小沢征爾とか立派な音楽家のもとでちゃんとした,これがプロだ,本当の音楽だということで,初めて目からうろこが落ちるんじゃないかなと思うんです。僕は小さいときにそういうのが欲しかったですね。自分の環境の中では多少あったんですけれども,旅,冒険,心の冒険ではあると思います。
【宮田部会長】
 それを今パルバースさんが言うのは,国がという意味ですか。
【パルバース委員】
 国ですよ。つまり,例えば県から1人か2人ぐらいで,学校の先生の推薦でピックアップして,その過程は,どのように選んだらいいかはよくわかりませんけれども,もちろんすごく公平でないとだめですけれども,そしてどこか違うところへ行って,そういうインテンシブコースみたいなもので冒険として初めて違う地域の人と出会ったりして,初めて本当の音楽家とコンタクトをとるわけですから,別に中身よりもすごいインスピレーションになるんじゃないか。環境のいいところです。それはどうかなと僕は思っているんです。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。
 どうぞ。
【田村(和)委員】
 これ全体を読んでいまして私は思うんだけれども,人材の育成というのは,これは明らかに大きなソフトなんです。どうもソフトというものが今まで全然確立されていなかったなという感じがするんです。それで,一知半解な話ですけれども,たしかピエール・ブルデューという人が経済資本に対して文化資本ということを提案していますね。ここのいろいろな各分野などの話を見ていると,彼の言うような意味での文化資本みたいな形での育て方みたいなものに確信を持っていないなという感じがあるんです。結局そのあたりをどうつくり上げていくか,これは時間がかかることだけれども,大きな転換点がないと,これからの蓄積にならないという感じがしているんです。
 もう一つの大きな要素は,論点整理案の後半に学校とかいろいろなところでこういうフィールドごとにおっしゃっているんだけれども,地方自治体の役割というのは非常に大きいと思うんです。ですから,こういうものに対して,ここから人を育てていくということに貢献できるオルタナティブスみたいなものをサジェスチョンとして少しでも出していくということができないかなという感じがしていまして,先ほど富澤委員もおっしゃったように,地域というのは非常に大切だということですけれども,劇場なども大半は地域が持っているわけですし,そのような提案ができれば,一つのかたまりとしてまとまればいいなと思っているんです。
【宮田部会長】
 どうでしょうか。もう基本的な考え方も,それから具体的な方策についても,ずっと続けてご議論いただきたいと思いますが。
【高萩委員】
 基本的な考え方のところは,両論併記になっていても,いろいろな考え方があるなというのでいいかと思います。しかし,後半部の具体的な方策は,両論併記でなくて,どっちかにまとめていくべきだと思います。特に海外フェローシップのところは,派遣人員を150人から100人にして助成金を増額するべきではないかというのと,人数は増やすべきだというのが2つあります。文化庁が施策でとれるように絞り込んだほうがいいと思いました。そう思うと,5ページの学校教育のところですが,演劇・舞踊に関しての芸術大学という話が出ていたと思うんですけれども,その辺が全然出ていません。ぜひそれは載せていただきたい。つまり4年間ぐらいの間に各方向の違うアーティストというのが一緒にいることで何かをつくることが新しい表現をつくるんだろうと思うんです。そういう異なるアートの融合が日本は一番欠けているだろうと思います。音楽に関しては高等教育が進んでいる。演劇・舞踊は進んでいない。別の形で教育はしているんだよと言うかもしれないけれども,演劇志望の人たちが音楽志望の人たちにの近くに4年間存在しているだけでお互いに別の形での発表の仕方を考えるかもしれないというところが,多分日本では失われているんだと思うんです。最近新聞を見ていましたら,観光庁ができた途端にかどうかわからないんですけれども,観光学科とか観光学部というのがどんどん大学にできているらしいという記事がありました。そんな簡単に学部とか学科ができるのだったら,芸術学科とか芸術学部をもっとちゃんとつくればいいのではないかと思ったんです。それで,施策としてどこまで言っていいのかわからないんですけれども,ぜひ芸術関係の学科でも学部でもいいから,何か新設という格好でつくってほしい。いろいろな理由で難しいことがわかってきたので,文章にするのをためらっているのかなと思うんですけれども,ここはぜひ言っておきたいと思っていますので,よろしくお願いいたします。
【宮田部会長】
 観光学科というのは,私学もそうですが,国立も,例えば和歌山とか,いろいろなところができて2年目になっています。それに結構優秀な学生が入っているんです。
【高萩委員】
 それは鶏と卵で,学科をつくるとか学部をつくるというと,卒業生の行き先がどうなっているのかを心配します。観光学科の場合は,結構卒業生の行き先が見つけやすいんだろうなと思うんです。だから,アーティストの活用の仕方というのがここに出ているように,つまり地方の公共劇場がある程度アーティストを雇用できるんだという形になれば良いのです。終身雇用でなくていいと思うんですけれども,そういう場所があるというのと,芸術学科・芸術学部ができるというのとが一遍に動き始めれば良いわけです。それでその中から,はっきり言って,5人か10人でいいんですが,世界に誇れるアーティストが出てきたら,実は日本の産業もかなり牽引する部分があるだろうと思います。みんなが芸術に親しむと同時に,頂点をかなりポンと引き上げるという努力が必要だろうなと思います。
【宮田部会長】
 これもまた両輪だと思います。いわゆる傑出したスターを育てるのと同時に,それをバックアップする環境,それからそれを支える一般の人たちの関係ということで,スター,スタッフ,そして観客,この関係というのは必要だと思いますが,大学につくれという話は毎回出てきますが,つくりたいですよ。切なる希望を私からも逆に申し上げたいと思うんですけれども,どうなんでしょうか。たまたま私は3つばかり自分でつくってしまったものですから,アニメをつくったりとか,映像をつくったりいろいろしたものですから,念願ですけれども。
【高萩委員】
 先ほど富澤委員がおっしゃったことで言えば,文化庁が,それこそ旧国立大学は芸術学部をつくるべきだと言って,ポンポンと5つできたとすれば,それは国際的にすごいメッセージですよ。日本は21世紀になって芸術学部をつくりましたと。これは教育学部の一部をちょっと改編すればできるんじゃないかなと大学の外側にいる人間としては考えますが。
【清木文化部長】
 参考までに,観光学部観光学科というのは,和歌山大学,山口大学,琉球大学にありまして,最初はたしか山口大学だったと思いますけれども,4年ぐらい前にできました。いずれも,例えば経済学部の中のそういう分野からちょっといろいろ工夫をして新しい学科をつくるというように,何らかの母体があってできていったという経緯をたどっております。何もないところからポンとつくるというのは現実にはなかなか難しいという事情があります。
【高萩委員】
 そういう意味で言えば,地方の教育学部の一部の改組でできるのではないですか。教育学部は確実に,小学校と中学校で音楽教育とダンス教育をやらざるを得ないので,必ずそういう種類の講座を持っているはずです。
【宮田部会長】
 そんなことを考えると,最近小中学校で,前にも話したかな,文化祭などというのが非常に衰退しています。あそこで能力を発揮できる子供たちはいっぱいいると思うんです。それから目覚めてもっと飛躍していって,その子たちが集まっていくと非常に大きな文化力になってきて,そういう子たちが高等教育に来て,あるいは海外へ行って日本力を高めていくといった図式ができていくことがすごく大事なことかと思うんです。
【富澤部会長代理】
 今,高萩委員が言われたことに関連するんですけれども,例えば観光などは,日本へ来る外国人が500万人だと。世界で33位だと。これでは余りにも恥ずかしいというので,1,000万人という目標を立てて,それに沿って観光庁もできた。観光庁ができたご祝儀かもしれませんが,今度は2,000万人にすると。これは非常に数字化しやすいんです。スポーツなどでも,さっき私が触れましたけれども,オリンピックで金メダルを何個とるとか,倍増するとか,そういうことで非常に数字化しやすいし,科学技術もそうです。ノーベル賞を何個目指すとか,そういうことはできるんですけれども,文化というのはなかなかそうはいかないところが悩ましいというか,オリンピックみたいに4年に1回の目標があるわけではありません。だけれども,日本にとっては文化の基礎を広げる,あるいは文化国家を目指すということは非常に重要なことなので,数字化しにくいのですけれども,とにかくもっと大きくしていくんだという,表現の仕方は難しいと思うんですが,そういう形が出せれば,メッセージとしても非常にわかりやすいなという気は私もします。
【宮田部会長】
 どうぞ。
【高萩委員】
 昨年の論議のときにあったと思うんですけれども,専門家を集めて,音楽系の世界的な10のコンクール,それから世界で有名な10の舞台芸術祭を集めて,そこに確実に何年後かに日本文化の作品が存在することを目標にするのはどうですか。出しにくい目標だということはわかるんですけれども,やっぱり目標をつくったほうがいいと思うんです。そういう数値化目標がないということがかなりいろいろな施策をおくらせているなという気はします。つくった途端に反対意見はあると思うんです。そんなふうにできないという形は必ずあると思いますけれども,そういうことをやっていかないと,ダンスやバレエに関しては外国の一流のカンパニーにかなり人は入っていると思います。ただその後がうまくいっていないということはあると思いますけれども,ぜひ数値化をしましょうというあたりも加えてはどうでしょうか。
【宮田部会長】
 何とか5カ年計画みたいな感じで。
【高萩委員】
 もう見る前に反対意見が来そうな感じがします。芸術祭とかコンクールをそんな風に格付けすべきではないと言われそうですけれども。
【宮田部会長】
 でも,これは大事なことかと思います。何かをやろうとするには,目標地点,山の頂上をちゃんとつくっておかなければいけないというのはあるんです。その向こうがどういう山の状態になるかは別としても。とりあえず,実演芸術家をどれだけ世の中に認知させ育てる環境を整備するかといったことで,具体的なことをもう少し進めていきたいと思います。先ほどちょっとまだこの文章の中で云々とありましたね。今,高萩委員からのお話があったんですが,どこだったか,海外研修の話とか,両方ありましたので,あれはどっちをとったらいいのかというのはちょっと難しいところがあるんです。私は大勢入れたいというタイプでしたけれども,どなたかから少ないほうがいいというお話がございましたが,どちらもそれなりの理由があるんでしょうけれども。
【高萩委員】
 これは人数だけじゃなくて,前から申し上げているんですけれども,多分格付けをしてくれということじゃないかと思うんです。日本は本当に民主主義の国で,みんな一律にしたいということだと思うんですけれども,年齢の違う人を一律に出すというのは無理なんです。それはもう審査をしたりしていても,40の人を出すのと20幾つの人を出すのと同じ値段しか払えないということ自体が非常に矛盾しているなと思います。それから,若干差がついているらしいんですけれども,アジアとヨーロッパ,先進国の間でも支給額にそんなに差がないという状況というのは問題です。今までは情報も少なかったから,ご本人がいろいろな情報を自分でとってくださいという感じでした。けれども,今はもう取ろうと思えば情報がとれると思うんです。研修場所についてもかなり精査して,この種のところに行くのだったら,それからこれぐらいのキャリアがある人だったら,ある額はお渡しして,1年間サバティカルで行ってくださいといった形で,行ければよいと思います。大体大学教授はサバティカルでかなりの年収を維持したまま行けるわけです。ところが,アーティストの場合,年収の保障が全くなく行けということですから,非常に難しくなっていると思うんです。その辺を差別化して,きっちりある人数を行かせるという形にしたほうが使いやすい制度になると思うんです。
【宮田部会長】
 どうぞ。
【米屋委員】
 今のご意見にほぼ賛成なんですけれども,ここの4ページの(4)が挿入されて,「文化の親善大使として捉えれば」という赤字が入っているのですが,現在の新進芸術家海外留学制度というのは親善大使を目的とはしていないので,それを兼ね合わせるというのはちょっと無理があると思うんです。それでしたら,文化交流使のほうをもっと拡充して,今おっしゃったように,サバティカルと海外親善みたいなことを兼ね備えて,ある程度名のある方に行っていただくように位置づける枠がもうちょっとあってもいいなと思います。あと分野なんですけれども,演劇,音楽,舞踊等とあるのですが,舞台美術等というところが,ほんの数名なんですけれども,舞台芸術のスタッフ関係でいろいろな専門の方がその少ないいすをとり合っているんです。むしろこういうところを拡大して,古城さんがゲストでいらっしゃったときに,俳優はなかなか行けないんじゃないかとおっしゃっていた,そういうところを逆に少なくするとか,ちょっとそのバランスをもう少し見直すという必要はあるのかなということを感じます。
 それと,ここでは,国際交流基金の海外事務所との連携などで現地のケアといったことが含められているんですが,この海外留学制度だけではないんですけれども,研修というのは,ご自分で計画を立てて遂行するということがおひとりでできる方ももちろんいらっしゃるんですけれども,年齢が若いと,とても迷われたりとか,そういうこともあるので,海外での暮らし方のアドバイスということもあるんですけれども,分野によっては研修全体のアドバイザー制度みたいなものも何か考えていったほうがいいのかなと。やみくもに海外で悩んでいるだけというよりは,今はインターネットでメールもございますし,ちょっと相談ができるとか,そういったアドバイザー的な人が各分野に何人かいるといったことも考えていくと,行きっ放しといった批判はなくなるのではないかなと思います。
 それともう一つ,これまでにも途中で出てきたかと思うんですが,海外にばかり研修させないで,国内での研修機関をしっかりとつくれというところがありますので,もう少し国内研修がしやすいような,奨学金のような制度が本当はあったらいいのかなと。以前,国内研修制度がそれに近い形であったんですけれども,そういったものがまた復活できるといいなと思っております。
【宮田部会長】
 内地研修ですね。あの制度はなくなったんですか。
【清水芸術文化課長】
 平成19年度に国内で行われているいろいろな研修を一本化したものですから,外国からすぐれたアーティスト呼んでやるもの,あるいは芸術団体が自分でセミナーをやるもの,それから国内に行くものといったものを一本にして,芸術団体人材育成支援事業という形にしました。その際に,個人当ての支出というのはできるだけ減らすべきといったこともあったものですから,基本的に芸術団体が主催するものに対して2分の1支援するという制度に一括したことがございます。したがって,従来のような個人に対して奨学金的に支援をする国内研修制度というのは,19年度以降なくなってしまっております。
【宮田部会長】
 わかりました。ありがとうございます。どうしましょうか。これは結論が出る話ではないかもしれませんが,先ほどの在外研修員に,それをいきなり,例えば人数を減らした分,予算総額が同じならば単価を変える。そもそも予算総額を変えることはできないのですか。そうすると話はすごく早くて。
【高萩委員】
 予算総額を変えてくださいと言えばいいんです。はっきり言って,日本は1億2,000万人の国民がいるにしては少な過ぎるというのはもう確実だと思うんです。ではどこの国が何人かとかはあると思うんですけれども,1億1,000万とか1億2,000万の国民の中から海外に派遣して研修させるアーティストの数としてこの人数は少ないと。はっきり,それはどの国と比べても言えるだろうと思いますので。
【宮田部会長】
 ちょっとグラフをつくればすぐできることであって,そしてその項目をふやして,理由を述べたうえで予算総額を増やせ。提言としては非常にはっきりしていいんじゃないですか。最低でも3,4個ぐらいのランクがあっていいですよ。20代前半ぐらいの若手,それから40代ぐらいの人たちで,家族を持っていて海外へ行けといったときに,1カ月といったときに相当悩んでいる何人かの人たちに私は出会っています。
【高萩委員】
 それこそ,40くらいのキャリアのある方たちにとっては,国際共同制作とか,そういう形で海外に滞在したほうが,単に行くよりも非常に勉強になるようなこともあると思うんです。この制度はある意味で本当に日本の文化芸術を支えた部分があったと思うんですけれども,変え時だと思います。本当に非常に民主的に運営された,みんな平等に海外に何人ずつ行けました。先ほど米屋委員さんがおっしゃったように,分野ごとに何人というのが決まっていて,人数のやりとりをしながら行っているという制度なので,ぜひこの部分だけでも,変えていくに当たって,勝手には決められないでしょうから,委員会をつくって変えてください。今,来年とか再来年とか目指していらっしゃる方がいるので,いきなりカーブを切ると危険だとは思いますので,充実する格好で,使いやすく,それが将来5年後,10年後に確実に役に立っていく制度に変えるときに確実に来ていると思うんです。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。
【田村(孝)委員】
 本当に同じでございまして,例えばオペラなどは,もしイタリアに行ったとしても,いい先生はいらっしゃらない。みんな高給で中国にいらっしゃる。これが現状だそうでございます。中国にみんな行ってしまっている。ですから,どういうところで海外研修をするかというのはきちんとしないと,もったいない状態になっているということもあるのかな,本当にそれが身になっているのかということだと思います。例えば樫本大進さんでもそうですけれども,一流のアーティストになっても,あちらの方はきちんとした教授についていらっしゃいます。それは,要するに教える教授として立派な方がいらっしゃるということで,その現状は分野によって違うと思いますが,そのように伺いました。ノヴォラフスキー芸術監督がお帰りになる前に,「イタリアに出すのは考えものだ。日本にいい先生をお呼びになって育てることをなさったほうがいいですよ」,最後のうちうちのお話の会があったのですが,そのときにはっきりおっしゃっていました。
【宮田部会長】
 明治のころにフォンタネージュとかラグーザとかが来たのと同じようなお話ですね。
【米屋委員】
 この海外フェローシップの考え方なんですけれども,ちょうど再来週にそういったセミナーをやるので,改めて行った方と先日お話してきたんですが,恐らく外国にすぐれたものがあって,それを学びに行くという感覚では,もうないんだと思うんです。恐らく,自分のアーティストとしてのキャリアの中でちょっと今までと違った場所に自分を置いて自分を見つめ直すとかという,さっきの大学の先生にとってのサバティカルと同じような意味があると思うので,イタリアにいい先生はいらっしゃらなくなっているかもしれないけれども,そういうところに行ってみるということがひょっとするとキャリアの中で必要かもしれませんし,そういった外国がすぐれていて日本が劣っているといった前提で考えるのはおかしいと思いますし,そうしますと,逆に言うと,国内でも似たような形でサバティカルを過ごせるという仕組みがあってもいいのじゃないかなというところで,国内の復活というのが必要じゃないかと思ったわけです。
【宮田部会長】
 もっとも,海外が優秀で日本が優秀でないなどということは,かけらも私の中にもございませんし,先生方も多分そうだと思うんですが,ただ違った空間に行くことによって自分を再認識することができるというのでは,海外研修というのは非常にメリットのある部分かなということで,国内でも同じかもしれませんね。それは,パルバースさんの先ほどのお話のように,ちょっと環境を変えることが大きな意味を持つ。と同時に,日本人の持っている平等観という言葉は,間違っているね。もう平等じゃないよ,あれは。常々思うんですけれども,区別も差別もできない,単に決断力のない人間がやっているのは,なめた話でしかないと思えてしようがないんですけれども。ちょっと横にそれましたが,これは何かに生かさせてもらいます。
【高萩委員】
 ちょっと提言させていただければ,さっきパルバースさんがおっしゃったように,「新進芸術家」と書いてあるならば,逆に本当に若い人を行かせるという手はあると思うんです。小学校・中学校ぐらいでポンと夏休みとか2カ月間,学校の許可があればもう少し長く行かせてもいいと思いますし,さっき米屋さんがおっしゃったように,ある程度キャリアのあるアーティストにとっての海外と,それからキャリアを形成しつつあるときの海外とで多分かなり違うと思うんです。しかし今は同じような制度になっている。キャリアを形成する段階においては,本当に日本は今一応,いろいろなことはありますけれども,世界の第2番目の経済大国ですから,あの日本の芸術学校に行きたいという学校が幾つかあったって不思議ではないはずでで。すけれども,今のところそういう総合芸術大学はないですよね。それはもうお雇い外国人だろうと何だろうと呼んできてでもある種の教育というのはぜひ国内で行って欲しい。5ページのところの「学校教育等における人材養成の推進」と逆に一緒に考えたらどうか。日本の中にそういうコースをつくる。特にアジアからはそこにあこがれて留学生が来る。たしか留学生倍増計画とか何倍化計画をつくっていると思うんですけれども,芸術系の留学生だけでもふやすんだというのはあってもいいと思うんです。それをトータルに施策としてぜひ推進してほしいなという気はします。
【宮田部会長】
 外へ出すのではなくて,今度は中に入れるという。そうなんですよね。例えば,うちには美術と音楽があるんですが,美術は圧倒的に海外からの留学生が多いんですけれども,音楽の学生はどちらかというとヨーロッパへ行きたがるという傾向があるようです。歴然とその差があるような感じがしています。演劇に関してあるいは実演芸術家に関してはどういう状態でしょうか。これは,例えば国立大学に実演芸術家コースをつくろうという提言も太い文字で入れるということもあってはいいんですね。
【高萩委員】
 さっき文化部長が,芸術学科,芸術学部を作るには,母体がないとできないと言ったのですが,提言ですが,教育学部の改編というのはあり得ませんでしょうか。
【清木文化部長】
 各大学の工夫でどんなことでもあり得るとは思うんですけれども,今は子供の数,学生数が減っていますので,学部段階で今までのものをそのままにした上で新しいのをつくりましょうというのはなかなか難しいものですから,いわゆるスクラップ・アンド・ビルドですね。何かを母体にして,それを先ほど申し上げた観光学科でしたら新しく観光学科にいわば振りかえたという形をとっていますので,おっしゃるように,教育学部を持っている大学が,もう教員養成は,余り採用もないし,ではほかに転換しましょうということで,芸術系の学部に転換するということはあり得ると思います。ただ,一方で観光の場合に,先ほど富澤先生がおっしゃったように,観光地をつくるとか,ビジット・ジャパンとか,観光で経済効果をねらおうという大きな流れの中で,地元からの要請もあって観光学科ができたという流れがありましたので,では芸術に関して同じような流れができるのかどうかなという点は一つ課題としてあろうと思います。
【唐津委員】
 今のお話なんですが,非常にすばらしいご指摘だと思うんですけれども,実は名古屋芸術大学という私立の芸術大学がございまして,2007年に芸術大学の中に教育系の学部ができたんです。今のお話と全く逆の発想なんですけれども,私はそれも一つ興味深い試みだと思います。教育ということが先にあって,その中で芸術を教えていくのではなくて,芸術的な素養を持ちながら,それを子供たちに伝えたくて教えていくというところで,非常にクリエイティブな教え方にきっとなるのではないかという期待も持っているんです。一方で,今言われたように,私自身が実は舞踊教育学科というところを出ているんですけれども,教育という言葉がついていることで実はずっとひっかかっているというところがありました。結局,舞踊を教育という視点で学んだときには,当然体育の中に位置づけられるということになってしまうんです。なので,もちろんダンスの実習もございますが,ほとんど,例えば水泳とかバスケットとかバレーボールといった体育の授業が大半で,就職した後もダンスを教えられるというのは本当に恵まれた状況にある学校においてだけで,せっかくダンスを目指してきた,高校まで夢を持ってきた学生が,結局自分の本来の志向とはちょっと違った方向で教育に従事しなければならないということになってしまっています。そういった大学は実は幾つかありますので,そういったところで集めているような生徒たちのニーズというのは,教育学部の中から切り離した場合に,必ずあると思います。それは舞踊に限らず,多分ほかの演劇といったところでも同じような状況だと思います。また,何か新しく施策を出すときに,これならできるなということだけではなくて,ちょっと高い目標というのも入れて,先ほど太い字でということをおっしゃいましたけれども,ちょっと難しいかもしれないけれども,舞踊や演劇の学部をつくりましょうといったこともちょっと目標に持てるようなことも入れていただければなと思います。
【清木文化部長】
 それでもう一つ課題を申し上げ損ねたのは,仮に教育学部が転換するときに,芸術系の学部や学科としてふさわしい教員が果たして得られるかと。恐らく教育学部の先生そのままでは無理だと思いますので。観光学科をつくるときにも,単に経済学部経済学科だったときの教員そのままではだめだろうということで,結構私学では観光学部や観光学科というのは既に置いているところがありましたので,そういうところの経験者も含めて大学ではいろいろ苦労して人材を集めたと思いますので,仮に芸術系の学部なり学科をつくるにしても,そのまま「はい,できました」というふうにはなかなかいかないと思います。それにふさわしい教員をどうやって確保していくのかと。何よりも芸術系の大学のリーダーはやはり東京芸大だと思いますので,芸術系の学部や学科を私学も含め大学全体として一体どのように推進していくのかというのを大学サイドとしてどうお考えになるのかということも,文化庁の審議会で提言することも大事だと思うんですけれども,それだけだといわば地に足のついた政策議論にはならないと思いますので,大学サイドがどうお考えになるかということもまた大事だと思います。
【宮田部会長】
 議論しております。あとは金をよこせみたいな感じですけれども。もう時間がそろそろあと20分ぐらいになってきているので,ちょっと一つご提言させていただいた後でよろしいですか。恐縮です。具体的な方法論がこれからもう少しこの中に入っていかないといけないと思うので,大学に設置するか否かというのは少しまだ距離のある話なので。例えば,この間,新国立劇場に先生方が行かれて研修所をごらんになっていただいたと思うんですが,あれは演劇なわけですね。だから,それに対して,あとはオペラとかバレエなどに対して,いわゆる教育所,研修所というのか,そのあたりでこんな提言があったらいいなといった具体論みたいなものが何かございましたら少しご発言いただけたらなと思います。
【米屋委員】
 まさにそれにかかわることなんですが,5ページの下から2つ目の赤字のところで,「新国立劇場の研修所の抜本的強化」というところなんですが,牧阿佐美さんに来ていただいたりして,大変すばらしいと言いつつも,同じ敷地内でいろいろ見聞しておりますと,新国立劇場は予算が伸びないからといってどんどん締めつけがあって,やりたい研修が事実上やりにくいというのがあって,きょう宮田慶子委員はご欠席なんですけれども,もっと広いところが欲しいとおっしゃっていましたし,そういうところを考えると,新国立劇場の方向性はいいんだけれども,必ずしも十分にやりたいことができていないということがありますので,ここは本当に超太字で書いていただいて,もう少し伸ばす方向で,予算だけではなくて,この間部会長がおっしゃっていましたように,芸術大学と新国立のリソースを合わせるとか,そういったいろいろな工夫も含めて,もう少し活用できないものかということを模索していただけないかなと思っております。
【宮田部会長】
 それは,この間も実は新国立劇場へ行きまして,大劇場で数回すき間があったときに,うちの学生たちのオペラを実際の大劇場のあの空間で練習させてもらったんです。やはり違いますね。結局本学でやるときには,ただの演奏会場で,バックヤードがないので,舞台装置は全部映像だけでデザイン学科の学生にやらせて,映像だけの舞台装置でオペラをやっています。成功はしたのですが,彼らにバックヤードの全部ある空間で練習をさせた後ですので,これはすごく成功したので,お礼に行ってきたときにお礼ついでにお願いもしてきたんですが,大劇場でいわゆる芸術系の学生が何かをやるのはとても無理なんですが,せめて中劇場ぐらいで共有できる,それから皆さんのところ,例えば田村先生のところの静岡の人たちが来ていろいろなことができるとか,そのような共有をする,縦に切るのではなくて,横につなげていくような方法論というのもこの提言に入れていただけたらいいのかなという気もしていました。
 どうぞ。
【高萩委員】
 新国立劇場に関しても,これは今のところは恩恵的な支援なんです。つまり,オペラを目指す方,演劇を目指す若い人たちがかわいそうだから,少しお金を出して研修させてあげましょうという制度でしかない。だから,海外からは全く留学生がいないんです。新国立劇場が日本の誇る,文化庁の施策を代表する施設であるならば,トップアーティストを目指させるべきであって,それにはもうちょっといい環境,しかも奨学金を使ってでもアジア各国から競って留学生がくるような制度にすべきだと思います。今のところ,逆に社会面とかでは,新国の生徒にはお金まで出ているみたいな話を新聞が書いたりする,何かうがった感じの,アーティストにお金を上げるのかみたいな感じのものしか出ていない。むしろそれは,さっき富澤さんがおっしゃったように,姿勢を示すというか,こういうことをやってちゃんとプロが育つことが日本の文化にとってすごく役に立つんだということがないとだめだと思います。今のところ,頑張ってやっているのね少し助けてあげましょう。という感じ以上にはないと思うんです。もっと逆転の発想で,しっかり重点的な支援を出すべきだと思います。
【宮田部会長】
 それは,新国のみならず,いろいろなところにそういうのをつくるべきでは。
【高萩委員】
 まず新国立だと思いますけれども。国立劇場の歌舞伎支援に関しては,ある程度の金額を研修生に払っていると思います。その差がどれくらいあるのかわかりませんけれども,現代アートのほうについてもそれくらいの予算が払われてるのでしょうか。歌舞伎のほうは,1度外国人が養成所に入ったときに,外国人がすぐに自分が主役をできると思ったのになれなかったので,すごく問題になり,その後外国人は入っていないと思うんですけれども,現代芸術のほうは外国人の方でもどんどん入利他意図思うような接遇・研修内容にしてもらいたい。特にアジアからなどから,あそこに行きたいという人が出てくるような制度にすれば,それは非常にいいと思うんです。
【宮田部会長】
 ほかに。今この5ページの下から5行目に「新国立劇場の研修所の抜本的強化」ということが書いてありますから。何か劇場の下にくっついているだけというのは根本的によくないんじゃないですか。もっと,いわゆる育てるということは,ぶら下がりのものじゃなくて,きょうの論点になるんだけれども,両輪であると。それで,必ずこの連中の優秀な者はこの劇場でスターになるんだという関係ができ上がるぐらいの強さがあって,何かぶら下がっているだけの感じだから,今の高萩委員のような感じの話になってしまうんです。
【田村(孝)委員】
 6ページに地方公共団体と連携してということがございます。今,文化庁の芸術家のいわゆる重点支援事業とかは全部芸術団体に対する支援になっております。一方に芸術拠点形成事業というのがございますけれども,地方の場合は,芸術団体に対する支援ですと,ほとんどの地方には体力のある芸術団体はおりませんので,それはなかなか厳しいものがございます。金森穣さんのノイズムのように,文化施設に芸術団体が存在すれば,それだけ切磋琢磨してすばらしいものになっていくと思います。芸術団体に支援してさしあげるのも必要だと思いますが,それだけに頼っているとなかなか難しいというところもあるような気がいたしまして,それを超えた取り組みをしようと思っても,現在の文化庁の支援のあり方だとできにくいというのが,現実問題として地方の場合にはございます。ですから,「地方公共団体が公共施設を活用して」云々といろいろなところにもありますけれども,全部あごあしがつきますので,地方で何か創造しようと思ったら,とても大変なことでございます。
【宮田部会長】
 突飛な話で恐縮なんですが,例えば,今現在文化庁は庁でしかないので,大学のようなものを管轄の中に入れることができないならば,省にして,例えば東京芸大は文化省直属の大学であるということにすることによって,さっきの平均化した,今は法人化して,非常に腹立たしいことばかりなんですが,いいことももちろんあるんですけれども,さっきの何でも調べてしまっているから,全然特出したものができないんです。その中で苦労しろとか何とか,もうばかな話もいっぱいあるんですが,それは横においたとしても,省にして,東京芸大はその中の一つの機関であるというとらえ方をすれば,特出した人材育成だっていっぱいできるわけです。そうしたらもうこんな文書は要らないんですよ。それくらいの気持ちで若者に対して教育をする。それから同時に社会人に対しても,それから社会貢献に対してもと,全部すごく言いやすいんです。時としては国立も新国立も当然自分の機関の中ですから使えるし,りゅーとぴあや,先生のところだったらいろいろなところとの連携もできるし,実践教育と同時にプラス今まで120年培ってきた教養教育の部分とが合体したらとてもすばらしいものになるかなと,ずっといらいらしながら使っていたというのが少し事実なんですが,そういうのは相当太字でもいいのかななどという気がするんですけれども。
 どうぞ。
【米屋委員】
 今の部会長のご発言に意を強くしまして,例えば7ページの「実演芸術家等を活用した芸術教育の推進」というのがございますが,現在,文化庁の重点支援事業,芸術団体になされている支援というのは,本当に公演をつくる一部にしか支援対象費目が認められていないんです。一方,拠点形成のほうは教育普及事業ということも範囲になっているんですが,すぐれた芸術団体に,その蓄積を生かして教育プログラムを開発して,教育プログラムを普及できる人材を抱えておけるような体力をつけさせる施策というのをぜひ入れていただけると,劇場だけじゃなくて,オーケストラなどはちゃんともうやっているんですけれども,それは自分たちで稼いできたお金で何とかやっている範囲なので,とても限られてしまうという,非常にもったいない状況なものですから,そういったところを強化するためには,この中にその施策なども考えていただけたらいいのかなと思います。
【宮田部会長】
 どうぞ。
【唐津委員】
 今の米屋委員のご発言にも関連するところなんですが,助成の仕組みがもちろん平均化していて,出てきた団体に割とフラットな形で渡されているといったことにちょっと関連いたしまして,条件が非常に細か過ぎるかなということを常々申請させていただく側から感じることがあります。例えば,芸術拠点形成事業の場合ですけれども,公演の数が幾つ以上でなければならないとか,それから品目としてこういったものは支援対象外であるとか,これは芸術団体でも,例えば創作期間に関しては払われないとか,そういった条件づけが非常に多いんです。これは聞いた話なんですが,環境問題の分野では,全く内容を問わないといった助成の制度があるそうです。それは,申請する側が,助成の仕方も含め,どういったことをやるかということを提案できるような仕組みになっているということなんです。ですから,例えば今は助成の仕組みにないようなものであっても,例えば愛知と静岡と新潟とで協力して,こういった形のものでこういった事業を取り組みたいと思うので,助成をいただけませんかということで出した場合に,全くこれまでにはないものであってもそれを検討していただけるといった,少し柔軟に考えられるような仕組みというのがあったらどうかなと思います。
 昨年度,2年ぐらい前から,新しい制度として,幾つかの芸術が連携して組んで,それに芸術団体も2カ所以上が絡まなければならないといった,取り組みとしては非常におもしろいなと思う助成制度ができたんですけれども,それに出そうという条件を見つけるのが非常に難しいという,申請側での難しさがあるんです。そうすると,そういった助成の仕組みをうまく利用できる団体だけがその助成の仕組みを活用できるということになってしまっているので,その目的としては多分,幾つかの劇場と幾つかの団体で協力して事業を行いなさいという,逆に文化庁側の意図というのが非常に見えて,それはそれで非常にいいことだと思うんですけれども,逆に,その縛りがない形で新しい提案ができて,その提案によってもっと違うクリエイティブな発想ができるような仕組みを自分で提案できていくようなことというのも必要なんじゃないかなと。なので,もちろんこういった人たちを育てたいからということで,例えば奨学生に助成しますといった,すごく明確に条件があるものもあれば,逆に,提案次第ではそのおもしろい試みに助成しますといった新しい助成のあり方というのもちょっとご検討いただけないかと思います。
【宮田部会長】
 あと1人ぐらいで時間となりますけれども,どうぞ。
【青木長官】
 人材育成の場合に,日本ではスカウトみたいなことをやっていますか。
【宮田部会長】
 スカウトですか。
【青木長官】
 例えば,野球ならスカウトをやっているでしょう。全国の高校などをずっと回って才能ある人をリストアップして,それでノミネートするとか,才能発掘に大変熱心ですね。芸術でも,トップアーティストの場合だと,ある点ではそういうことは必要かなと思います。だから,とにかく目ききが行って,あそこにすばらしいバイオリンをやっている子がいて,伸びそうだと思ったら推薦するとか,そのようなことは結構アメリカやヨーロッパではありますね。アイザック・スターンとか,ああいう世界中でいろいろな弟子を発掘している人もいたし。応募してもらって受けるとかというのではなくて,積極的に発掘するというのは意外とやっていない。そういう人たちをすぐ養成機関に入れられるような受け入れ口もなかなかないですね。そういうことはちょっと提言が必要ではないかと思います。もっとも,大衆音楽,歌謡曲などの世界ではそういうスカウトをしていることが見られますが。
 それからもう一つは,何と言っても,今のお話を聞いていると,結局,片方で西欧のクラシックバレエにしても音楽にしても,こういうものは全部一種の学習過程にまだあるということなのかなと感じます。つまり,先ほどからいろいろ海外へ派遣するとかというお話があるんですが,例えば近代芸術の基礎は西欧などと共有しながらも日本の音楽文化というものをつくっていくという姿勢の中でこの育成計画というものを作らないと,いつまでたってもフォローアップの時代がなかなか過ぎないと思うんです。それに感覚もならしていかないといけないし,クラシックでも,前にちょっと言いましたように,音楽でも,例えば演劇だって,イギリスはシェークスピアだけれども,フランスはラシーヌとかコルネーユとか,文化の伝統の違いが同じ西洋の演劇文化の中で出ていると。同じ演劇文化の基本は共有していてもイタリアはまた全然違いますしね。ドイツはもちろん違うわけだし。音楽でもみんなそうでは。フランス音楽,ロシア音楽,イギリス音楽,それぞれ同じクラシック音楽の基盤は共有していても国や地域によって個性が非常に違うし,ドイツ音楽とイタリア音楽は違いますし,オペラも違いますね。そのようなことで日本の特徴をどう出していったらいいか。それが人材養成とも絡んでくるので,そういうものがないと,幾ら議論しても,前回に得意な分野の育成と発言したけれども,益川先生みたいにパスポートも持っていなくても得意な素粒子の分野ではノーベル賞を取れるということがあるわけです。だから,芸術でもそういうことが何かあって,むしろ日本的な展開を,近代的な芸術の基礎は共有しているけれども,日本的なものができて,それをまたアジアの人が見に来るとか,ヨーロッパからも関心が寄せられるとか,そのような方向性が出てくるような議論が必要だと思います。国としては,基本的には国の芸術というのを育てるということだと思うんです。
【宮田部会長】
 それは当然ですね。
【青木長官】
 それはそうだと思います。特性のある,個性のある文化の発展のための人材育成,それをどうするかということは真剣に考えてもいいなと思いました。
【宮田部会長】
 日本人が日本人らしさをきちんとつくる,発見することと同時に,それは世界観のあるもの。
【青木長官】
 普遍性があること。
【宮田部会長】
 文化力ですね,それは必要なことだと思います。
【田村(孝)委員】
 今のお話でございますけれど,武満徹さんが亡くなられたときに,日本の三大紙も含めて,訃報は小さい扱いでした。でも,そのときのニューヨークタイムズもガーディアンズも,新聞半面の扱いでした。日本の作曲家なのにです。実に,没後10年を記念してつくられた作品は,ベルリンドイツオペラの芸術監督が演出なさっています。ですから,ベルリンもお金を出し,パリのシャトレ座もお金を出している。でも残念ながら日本は公共的なバックアップはなかったのです。ですから,そういう方もいらっしゃらないことはない。ただ,それを日本が認めるかどうかということも一方にあるかなと思います。
【青木長官】
 今みたいな,これまでの議論みたいな姿勢でいたら,武満さんは永遠にそうなる。宮田さんもそうかもしれない。どうもそういう運命かもわからない。
【パルバース委員】
 黒澤もそうだったし,しようがないんじゃないですか。日本はそういう国だから。灯台もと暗しの国ですからしようがないと。それはそれで,もちろん努力しないとだめですけれども,これは国民性の一つの特徴までいくかもしれない。天才はたくさんいるけれども,それを認めるのは,日本人はなかなか下手くそ。プッシュする,目立たせることをしないから,そういう社会だから,至難のわざだと思いますね,これは。でも,やるべきことです。スカウトはすごくいい暗示だと思います。でも,へそ曲がり的な平等主義があるから,それがまた一つの障害かもしれない。
【宮田部会長】
 障害を知るということも一つの前進ですから。
【パルバース委員】
 そうです。それが一つです。
【宮田部会長】
 それがある,よってこうだという論法まで持っていけると思うんです。この部会のきょうの話の論点の整理などする必要はまだまだないと僕は思うんですけれども,後半の部分というのはすごく大事なことかななどと思っていますので,日本人が日本人らしさを取り戻すことは,逆にまた不思議な不平等になるかもしれませんけれども,僕はそれは構わないんだろうと。
 何か後半またおもしろくなってきたんだけれども,すみません,時間が来ました。それから,もし今言い足りないことは,またいろいろな方法で,メールでも何でも結構ですから,ご発信いただけたらと思います。お願いします。
【清水芸術文化課長】
 <今後の日程等について説明>
【宮田部会長】
 ありがとうございました。
 本日はこれにて閉会いたします。ご苦労さまでございました。
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