文化審議会第8期文化政策部会(第4回)議事録

1.出 席 者

(委員)

宮田部会長,田村部会長代理,青柳委員,加藤委員,佐々木委員,鈴木委員,高萩委員,堤委員,坪能委員,富山委員,浜野委員,増田委員,山内委員,山脇委員,吉本委員

(事務局)

坂田事務次官,玉井文化庁長官,合田文化庁次長,清木文化部長,関文化財部長,松村文化財鑑査官,大木政策課長,滝波企画調整官,他

2.議事内容

【田村部会長代理】
 それでは,部会長がこちらに向かわれている途中ということで,私がそれまで務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 ただいまより,文化審議会第8期第4回文化政策部会を開催いたします。
 本日は年度末でご多忙の中を皆様お集まりいただきまして,本当にありがとうございます。本日は,小田委員,それから後藤委員,酒井委員,里中委員,西村委員がご欠席でございます。
 本日は,文化芸術振興のための重点施策についてご審議いただきたいと思っております。議論の進め方といたしまして,まず宮田部会長から事前に指名させていただいております4名の委員からご意見を発表していただきまして,その後意見発表も踏まえてそのほかの委員の皆様からご意見をちょうだいしたいと思っております。後ほど,先だって皆様にご了解いただきましたワーキンググループの設置についても正式にお諮りさせていただきます。
 では,きょうは高萩委員,坪能委員,富山委員,加藤委員の順に,各約12分程度ということでございます。ご意見を発表いただきたいと思います。加藤委員は遅れてご到着ということになっておりますので,到着次第発表していただくということで,まず,いらしていらっしゃいます高萩委員からお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【高萩委員】
 資料4でお配りしている部分についてお話しします。私は,日本版アーツ・カウンシル,専門家を入れた助成システムをつくって欲しいと思います。今回「新しい公共」ということも大分話題になっていますので,ぜひお役人の方と,それから専門家の人が一緒になって芸術振興の目標をつくっていくことができればと思っております。
 アーツ・カウンシルというと,どうしても海外のものというイメージがありますけれども,日本の芸術の専門家の人と一緒に日本版もつくれば良いと思います。別に海外のものをそのままもってくるわけではなく,日本独自のものができればと思っております。
 アーツ・カウンシル方式でやっているところは,多分アジアだと韓国ですが,必ずしもそんなにすごくうまくいっているというわけではないと思いますので,アジア的なものというか,日本的なものを新しくつくっていくことで,アジアの中で早く西洋化した日本の中の,日本なりの,しかも伝統がある日本なりの新しい形のものができればいいかなと思っております。
 それに関して,それぞれ助成金の各配り方を決めるというだけではなくて,アーツ・カウンシル,芸術評議会みたいなものをつくること自体が,そこの分野に関して又,全体として芸術分野の価値というものを社会のほかの分野に対して説明できるような機能を持って欲しい。芸術擁護というか,アドボカシーという言い方をしますけれども,なぜ芸術が必要であるかということを説明しつづけ,議論をしていくというようなことも含めて大事だと思います。それからさらに資金集めみたいなこともそこがやって欲しい。決して税金を一方的に流すというだけではなくて,かつて芸術振興基金を作ったときに民間から100億円以上集めたように芸術評議会みたいなもの自体が民間,個人にも働きかけて,お金を,自らも集めるし,それから芸術団体が集めやすくするというような,そういう機能を持った形で存在できればいいかなというふうに思っております。
 日本の初等教育でのあり方とか,それから施設との関係の持ち方とか,学校教育の中での関係の持ち方とか,それぞれ芸術分野で違ってきていますので,それぞれの分野でやはり専門的な目標を設置していくことが必要と思っています。特に明治以降,音楽と美術に関しましては小学校の教育の中に取り入れられ,さらに高校,大学という形で専門家教育がある形では進んでいる。それらの専門家教育とそれから教育に従事する人たちの教育は進んでいると思いますけれども,舞台芸術に関しては国立大学にはそういう学科は設置されなかった。それから,小学校,中学校,初等教育においても学校教育の中では取り入れられることがなかったので,一律に分野ごとに人材育成などを論じることはすごく難しいと思うのです。ただ,表現であるとか,クリエーションであるとか,イノベーションとか,新しいものを創造するのだということでいうと,いろいろな形の芸術との接し方があると思いますので,芸術教育一般として,表現コミュニケーション教育のような形のものをつくっていただければいいなと思っております。
 それと,後半で,国,地方,民間,企業の共通基盤という話が出てきますけれども,この分野でも国,特に大きなアーツ・カウンシルを一つつくるというだけではなくて,できれば地域で地域カウンシルみたいな形のものをつくって,これもできれば県単位というよりは少し大き目の単位を,それこそ道州制の議論を先取りするような形で,ある地域ごとの方針を決められるようなものができれば,そことの関係,それと中央との関係で新しい関係ができていくのではないかと思っております。
 その中で,ほかのそれぞれの今回問題点になっている論点なども専門家が入っていく形で分野ごとに目標をつくって論議が積み重ねられると良いと思います。今回新聞紙上などで「熟議」という言葉が話題になっていますけれども,どれか正解があるというよりは,方法論なども論議することで,新しい形の,今の世の中に合った形のものがつくられてくるのかなと思いますので,そういう形での,専門家と役所の関係がうまく一体化できる,新しい組織をつくっていくこと。また別の官僚組織みたいなものができるかなというふうに思われるかと思うのですけれども,そうではなくて,できれば専門家は何年間に,できれば3年ぐらいがいいのではないかと思うのですけれども,交代していくような形のものがつくられればいいかなと思っております。分野ごとにその人たちが入れかわり,専門家として芸術方針に関与できる形というのが望ましいというふうに思っております。
 あとは分野ごとのワーキンググループに議論を譲れればと思っております。よろしくお願いします。
【田村部会長代理】
 では,宮田先生が到着なさいましたけれども,ここまでさせていただきます。今,ぜひアーツ・カウンシルをという,あとプログラムオフィサーということだろうと思いますが,日本ではなかなかまだ定着していないということで,専門家の見識というものが必要ではないかというお話ではなかったかと思います。
 高萩委員,ありがとうございました。それでは,引き続き坪能委員にお願いいたしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【坪能委員】
 坪能でございます。
 本日の資料を含めて,これまでに3回,いただいた課題,設問に,私も意見を述べさせていただきました。まとめて書いてあるところは,これはもう分かりきったことだと思います。それを踏まえた上で,現在のこの会議もあるわけです。ですから,多少余計なことが書いてあるとは思いますが,お金と人と,それからシステムに結局は集約されると思うので,そのもとになるものをメモしてみたというところでございます。
 それは,縦と横といいますか,人の動きの柔軟さを求めて,そういうような,一つはアイデアを書かせていただきました。これは,この会はそういうことはもう分かりきっているから,ではどうするのだという,具体的な方向に歩み出すということも大切だろうと思いますが,この中で交流,文化の交流員,その存在が大きいだろうなと思っております。以前に発言させていただいたときに,専門家の数が少ないと申し上げました。文化庁にも専門家の方がおられます。非常によくやっていただいて,熱心に活動していただいておりますが,これが県に行ったり,地方に行くとない。だから,アートマネジメントの学科があるということとはまたちょっと違うと思うのですが,とにかく専門家が少ない。
 では,早く動いていただくにはどうしたらいいかというのを新たに立ち上げるという手もあるのでございますが,現在ある組織と人材を活用していくというのが一番早くて,こうあるべきだということも時間をかけて海外の事例を精査しながら新しい形にもっていくということも必要ですが,とにかく現在人がいないというわけではなくて,文化にかかわる人材も多くおられます。そういう人たちを活用する方法が一番早いと思います。
 これは仮の名称ですが,出させていただいたのは,とにかくいろいろパイプがつながらない。国の考えておられることも地方に書面ではいっているのだけれども,現場というのは非常に具体的なことで困っていて,簡単なことが分からなかったり,知らない。それから,文化団体との結びつきとか,県との結びつきとか,助成を受けるにはどうしたらいいかというような,そういう相談です。これは指導育成するとか,そういう押しつけではなく,そういう人たちを通じながら情報を交換していきながら,皆さんが選んでいただけるようないい例をいろいろなところに配布していただいて,ご助言いただくといい。とにかく褒めていただくことも大切なのですが,これは世界の流れから見ても,こういう位置づけで,こんなところが可能性があるという指摘が大きく自信を持って地方は元気になっていくのではないかと思います。
 時間が少しありますので,お金の話なのですが,これはどなたも考えておりますけれども,我が事になるには他人事ではなくて少し自分に身近に感じるというのは,どこかで文化の活動とか創造的なことに参加すると少し還付があるというと,突然皆さん文化とは何だろうと,そこに衣食住まで持ち込まれると大変なことになるのですけれども,そういうところで節税や減税という角度から皆さんに意見を求めると,結構積極的に参加されるのではないか,こう思っています。
 私のところの太陽光発電で,これは補助金が出まして,エコポイントみたいなものでございますけれども,少し還付をいただきますと,もうそれだけで国が自然のエネルギーをいかに大切に使うかという運動体としてひしひしと身に喜びを感じますので,これと同じように,エコポイントにかわってカルチャーポイントか何かを出しますと,文化に参加するということが非常に大きな自然のエネルギーを文化でも使うのだというような文化力発電ということになりますと皆さん興味を持つのではないか。私は額の多少を申し上げているのではなくて,一つは運動体であることと,もう一つはそこに少しでも減税されると我が身に文化というものがより身近に感じるのではないかというようなことでございます。
 補助金というのは,一生懸命活動しておりますけれども,ちょっと助けていただくとどんなにうれしいかというのは,これまでの実績でございます。それと,我々ではとても払えない巨額な出費というのがございます。でも,それはぜひ国がやっていただきたいと思いますが,市民文化の育成も同じですが,文化団体というのは自助努力が必要なわけです。その自助努力が何をしてできるかといいますと,やっぱりお金なのです。お金というのは,国からくるのを待っているだけではなくて,自分たちで集めてくる。寄附金の問題があるわけです。ですので,寄附金の制度が優遇されているようなシステムのある公益法人の推進化などしていただけたらいいなと,こう思っております。
 今度は人の問題で,ときどきここでも次世代を育成するのをどうしたらいいかということがありますけれども,これは子供のときから育成する必要がありまして,大人になって現在こういう状態だから文化は何であるかということを伝えても,もちろんそれはそれで役立つのですけれども,子供のときから,芸術系の時間枠が減るのではなくて,ちゃんと確保していくというのはコミュニケーションタイムと,芸術の時間であるというのではなくて,その奥にあるコミュニケーションというものが生きているのだということを早くから当たり前のように身につけてほしいなと思っております。
 簡単に理由を申し上げますと,私は音楽から参加しておりますけれども,情操教育とか感動で心が豊かになる。強く,明るく,優しい子になるとか,芸術の崇高さとか,感覚的な話なのですけれども,今,指導要領で初めて音楽の仕組みを理解するというところにきました。音楽は構造を聞くわけです。その構造も2つありまして,世界の音楽のほとんどはそれでできているのですが,1つはコール・アンド・レスポンス,応答性なのです。応答性というのはコミュニケーションということを意味しています。もう一つは反復性,同じことを繰り返しながらだんだんつくっていく。この2つが構造のもとになっています。そこから独自性,普遍性に向かっていって,それを培いながら結晶が生まれるわけです。だから,作品一つだけでしたらそれはコミュニケーションツールでしかなくて,そこに皆さんがコミュニケーションすることによって初めて芸術として育っていくのですけれども,どうも芸術とか,文化というと,もうそれだけで関係していたその言葉を使っているだけで何かえらい立派な,特別なことをしているのだと思っている人がいっぱいいるのですけれども,基は同じだと思います。最近コミュニケーションの苦手な若者がふえているというのは,そこの不足も原因になっていると思います。コミュニケーション不足というのは,いさかいや暴力に向かいますので,これは教育の会ではないのですが,文化芸術の理解者をふやすという意味においては,コミュニケーションタイム,芸術も含めたそういう時間を皆さんの声で広げていただければ,土壌が広がっていくだろう,こういうふうに思っております。
 芸術は芸術家の社会における新たな役割をどこかでちゃんとご指導願いたいと思うのは,これは文化庁の助成の申請などの書類でもいいと思いますけれども,とにかくクラッシク音楽だと。芸術音楽,伝統の芸術というと,もうそれだけですばらしいと思って,わからない人は何かエリートのように思っている人がいるのですが,そうではなくて,皆さんのコミュニケーションを通した上で人がつくったものの創造物ですから,特別なものではないのだと。それをアーティストたちは世界に通用する一級の技術や学問を持っている人であればあるほど,それを持たない,またはその力の弱い人,社会的に弱い立場の人たちを支えられるようなことができる手だてが欲しいと思っています。つまり,自分が子供の前にいって輝くというのは当たり前のことなので,そうではなくて,それぞれが支え合えるような手だてを持つ。そこも交流員がおっしゃっていただけるといろいろな人たちが助け合えるかなと,こういうふうに思っております。
 いろいろなものをみんなでつくるというのは,先ほどの還付の話もそうですが,それぞれ知恵を出し合って育てていくのですが,つくるということの行き先は結局平和づくりだろうと思っております。学校教育から社会教育を通して,文化力が発揮できる体制づくりというのを具体的にまず歩み出すということを提案して終わらせていただきます。
【宮田部会長】
 一つおもしろかったですね。ポイント制,これはおもしろいですね。私どもどうしても評価に対して数値で重さを繰り上げるので,何かいいものがないかなと思っていたのですが,どこから出てきたのですか。
【坪能委員】
 たまたま先ほど言いました太陽光発電がありますね。あれは少しでも補助して返してくださるのです。当初よりも割がよくて,いろいろなところで今ポイントで返してくださるんですけれども,どこか払ったらちょっと返ってくると人間ってうれしいものだなというふうに思いまして,演奏会に行ったり,創造的な活動に参加すると,今は全部ボランティアなものですから,それをどれだけやったからポイントにしろというのも意地が汚いんですが,ただ,それも一つのポイントだというと,いろいろな人がポイントを上げてくると,減税から結果,増税にもつながるかなと思いまして。
【宮田部会長】
 昨日も京都で芸大の学生さんたちが集まって芸術教育が国を救えるかどうかという話を夜中までやって,最終で帰った人と,帰られない人といろいろいたのですが,ポイントの話は出なかった,考えさせていただきます。
 さて,それでは,富山委員,続いてお願い申し上げます。
【富山委員】
 富山でございます。私は邦楽の演奏家ということでこの中に入れていただいておりますので,私の立場で話をさせていただきたいと思っております。
 文化を支える人材ということですけれども,これは近年日本という国は教育にお金をだんだんかけなくなってきています。これは非常に憂えるべきことだと思います。日本という国は資源がございません。ですから,人間の力をいかに利用するかということだと思います。それには教育がどうしても必要になってきます。我々もそうですけれども,つまり教育で邦楽をずっと長い間教えてこなかったわけです。ですから,若い人がほとんどいなくなってきています。我々が所属しています団体を日本三曲協会といいますけれども,これは東京近辺の,三曲といいますと,尺八,お琴,三味線をやるような人たちの団体ですけれども,最高に多かったときで1万人ほどいましたけれども,現在6,000人に減りました。もうあと十五,六年もたてば半分に減ると思います。つまり,若い人たちがほとんど入ってこないということです。
 これはやはり教育の場で,音楽教育の場で邦楽というものが全く無視されてきたということが原因だと思います。我々も何とかそういうことを打開したいということで,いろいろな活動をしてまいりましたし,三曲協会でも各小中学校にお琴を寄附したりとか,それからボランティアでいろいろなコンサートを,そこへ行って演奏会をやってみたり,いろいろなことをやっておりますけれども,これは全く焼け石に水というのでしょうか,ほとんど効果がないような状態が続いております。
 ですから,こういう意味でいえば,やはり邦楽が音楽教育の中でほとんど顧みられていないという状況を何とかしていかなければいけないのではないか。そうしないと,どんどんやる方が減る。底辺が狭くなれば,やはり上に建つ建物は小さなものしか建ちません。すぐれたものを持続して何とか続けていくというには,どうしても底辺を広げなければいけない。それをやはり考えていかなければいけないと思っております。
 それから,将来子供たちへどういうようなアプローチをするか,これはやはりよいものを聞かせる,それから見せる,それが大切だと思います。外国に行きまして美術館などに行きますと,必ず小学生とか中学生を学校の先生が引率して回って見る。その子供たちが非常に行儀よく見ている。それはやはりそういうことが絶えず行われているからそういうことがきちんとできる。我々もそういうことを小さい子供にどうしてもやっていかなければいけないのではないか,そういうふうに思います。
 それから,地方に劇場・音楽堂,そういうものをどうやって充実していくかという問題ですけれども,これは書きましたけれども,我々が地方に参りますと,いわゆる都道府県,県庁があるようなところが多いわけです。そうしますとそこには県の文化会館,市立文化会館というのが必ず両方あるところが多うございます。しかるに,車で1時間も行かないようなところ,別の市に行きますと,もう本当にぼろぼろの,これはいつ建ったのだろうなというような,そういうような,つまり半分体育館のような,兼用のそういうような施設しかなかったり,それも我々地方に移動芸術祭というので行きましたけれども,大体平成8年でそれは打ちどめになってしまったんですけれども,それから以後新しくなったというふうな形跡はないと思います。それを何とか平均的に,一カ所にそういうものが集中するのではなくて,何かそういうようなことをうまくできないのかなというのが,我々必ずそういう地方都市に行きますと感じることでございます。
 それから,最後の,5番は私書かなかったのですけれども,実は海外に行きますとよくこういう批判を受けます。旅行会社が,例えばカーネギーホールでコンサートを開こうとか,そういうような企画をしまして,いわゆる素人さんです。そういう方を連れていって,そこで音楽会を開いてしまう。そうすると,それはしようがないのでチケットなどを至るところで配りまくる。そういうものを聞いた方が,日本の音楽というのはこんなのものか,二度と来ない。そういうようなことが日常茶飯事で起こっております。これはヨーロッパ各地でもそうです。こういうことを何とか食いとめる手だてはないのか。いいものを持っていって聞いていただいて初めて理解される。近所のおば様方が,はい,みんなでカーネギーホールへ行って演奏会をやりましょう,そういうものを聞かされれば,ああこれはひどいと思われるのは当たり前だと思います。それは日本で何とかこういうことはとめられるようなことをやっていかなければいけないのではないかと感じます。
 以上でございます。
【宮田部会長】
 別に返答するわけではないのですが,たまたま25日が卒業式,26日の朝から付属高校の邦楽の学生を連れて北京と上海へ行ってまいります。日本の文化,つまり邦楽の世界を向こうの中央音楽学院,それから上海の音楽学院と提携をしながら,コンサート並びにシンポジウムをやってこようかと思っております。何かそういう,今,先生がおっしゃっているカーネギー云々という話とは別に,若者たちをチャンスあるごとに日中友好協会などのご協力を得てやっていくと,多分大成功して帰ってきてくれるのではないかと思うのですが,そういうときにまたいろいろお知恵をください。
【富山委員】
 中国は私も3回ほど参りましたけれども,質の違った音楽ですけれども,非常に興味を持って聞いてくださいます。
【宮田部会長】
 お琴一つとっても,中国のお琴,韓国のお琴,日本のお琴と違うのがあって,ところが,私は専門ではないのですが,どこかに旋律の底辺に音楽の非常にベーシックな民俗性みたいなものが共通する流れがあるのですね。ああいうのを一堂に若者たちが弾いたときに感じられる観客の感動みたいなものというのは,これは西洋音楽もすばらしいのですが,東洋のすばらしさというのはとても感じます。
【富山委員】
 そうですね。よく言われるのですけれども,邦楽を聞かせたときの脳波のあらわれ方というのが,人が落ち着いたときに出る脳波が出るそうです。洋楽を聞かせますと,人が興奮してくるときにあらわれる脳波があらわれる。これはどういうような音楽を聞かせたか聞いたことがありませんので,それによっても違うだろうなとは思うのですけれども,やはり我々の持っている邦楽という,そういうパワーというのでしょうか,それは洋楽とはちょっと種類が違うのではないかなという気がします。
【宮田部会長】
 ご質問させてください。小中高,高等学校は私どもの中で数年前に邦楽を入れました。小中にも何か音楽教育の中に入りはじめていますので,今度はその先生方を,いい先生を。きのうも京都で話ししたのですけれども,専門性のある芸術家を育てる大学と,子供たちに芸術を教える大学と,大きく分けてある。教育系の大学,それから専門家を教える大学,そうしたときに,一番大事なのは,子供から大人にいくまでの間に芸術のすばらしさを,単なる比較論ではなくて,数値ではなくて,いろいろな教え方ができるということによって,人間形成が一番できるのは芸術教育ではないかなと思ったときに,今の先生のお話などからふと感じたのですけれども。そういう教育者を育てる仕事もすごく大事なことではないかなということを感じました。
 地方は余りよくないと言われた,私生まれが佐渡なのですけれども,佐渡の山中にまだ能楽堂があるのですが,あれはいかがなものですか。
【富山委員】
 我々の行ったところがひどかったのかもしれませんけれども。それから,近ごろできるようなホールというのは,演奏者のことを全く考えていないようなホールが多うございます。それは,本当にびっくりするような,楽屋に入るのにどこから入っていいかわからないとか,それから,地方のそういうようなところがつくった会場がかえってひどいですね。サントリーさんのおつくりになったホールとか,それから新日鉄がつくった紀尾井というところは,きちんと,演奏者がどこにいて,導線とか,そういうこともすべて考えられていますけれども,地方のそういう公共団体がつくったところというのは,そういうことを全く無視したような施設が多うございます。
【宮田部会長】
 3人の先生から貴重なご意見をいただきました。さて,きょうおいでいただいている先生方から,加藤先生が到着しましたらまた入れていただきたいと思っております。都合で少し遅くなるそうですが。どうでしょうか,おいでいただいた先生から忌憚のないお話をいただきたいと思いますが。山脇委員,ぜひお願いしたいと思います。
【山脇委員】
 皆様の意見は全面的に賛成なのですけれども,喫緊の話として,今,富山先生がおっしゃった,伝統文化の担い手といいますか,それを育てるということは本当に今急がなくてはいけないことだというふうに思っています。というのは,先ほど富山先生からお話がありましたように,私たち子供のころから邦楽というものに全く触れていなくて,ほかの西洋からきた芸術は学校教育でも受けておりますし,世の中に満ちあふれておりますので,そういった意味では触れる機会が多い。
 私ごとで本当に申しわけないのですけれども,私の下の娘が今高校生なのですが,9歳のときに,日本舞踊をやっておりまして,三味線を自分がやりたいというので始めたのです。そうしましたら,三味線屋さんに行きましたら,邦楽と全く関係のない家の子供がみずから邦楽をやりたいというのはほとんど例がないと言って,とても喜ばれたのです。今も趣味でやっておりますが,つまり,それほど触れる機会がないのでやりたいということもない。
 それから,文楽なども無形文化遺産というものに指定はされていますけれども,今の文楽の状況をわかっている方は数年のうちに消えてしまうのではないかというふうに,少なくとも相当質は落ちるであろうということは目に見えております。今,国が伝統文化の研修制度はありますけれども,あれは大人になってからのものですね。子供のうちに,6歳6カ月とは言いませんけれども,10歳以下の子供のうちに肌から感じるというものがないと,本当にこれはすたれていく。すたれていくものはすたれていっていいじゃないかという意見ももしかしたらあるかもしれませんが,私はせっかく長い伝統の中に培ってきた日本の文化を,これは過剰に保護をすれば,それはひ弱になっていくと思いますが,今はそれこそトキと同じように育てなければいけないというようなものかなというふうには思っております。
【宮田部会長】
 上乗せみたいで恐縮なのですが,佐渡の話をまたします。5歳になりますと,親父とおふくろの前に正座させられまして,白扇とそろばんを置かれるのです。おまえはどっちを選ぶ。そろばんは経済なのです。白扇は文化なのです。私は白扇を選んだのですけれども,自分はいまだにそれが,65になってもそれだけが唯一の誇りなのです。そういう文化というのは,結構うまく伝わってきているのです。これは大きなことだなと思った。それは,なぜそんなことを言ったかというと,きのうの話の中にもあったのですが,フランスの幼稚園はクレヨンを40色使うのです。日本は,こんなもの書けるかというようなしようがないもの,ろうばかりで中に顔料がちょっとしか入っていない,こすっても絵もかけないような12色を支給するんです,これがいいといって。そういうものの,教育者というか,指導者というか,教育庁というか,教育委員会というのか,高校,大学,行っていながら自分に火の粉をかけているのですけれども,そういうとらえ方というのは,根本的に変えなければいけない。素敵な生き方をさせなければいけないと感じましたけれども。
 司会者が余りしゃべってはいけませんのでこの辺にしておきます。堤先生,お願いします。
【堤委員】
 うちのホールを褒めていただきましたので,調子に乗って少し私の意見を述べさせていただきます。
 皆様のご意見を読ませていただいて,自分なりに感じたことなのですけれども。一番最近のニュースといたしましては,アメリカで保険制度が下院で可決されました。でも,非常に小差だったのですね,5票か7票ぐらい。これは皆不思議がるわけです。保険制度というのはいいに決まっているのに,何でこんなに反対する人が多いのか。特に与党の民主党まで反対に回っている。ということは,アメリカ人の精神として自助努力,自分で何かをやっていかなければいけない,国がそういうふうに守ってしまうと,逆にそういう気風がなくなってしまうのではないか,そういうことで,非常に自助努力,自分で何かをする,そういう自立精神,これが大体ヨーロッパ,アメリカの基本的な,個人主義かもしれませんけれども,それがこういうところにも反映するのだなと思いました。私としては自立教育だなという感じを持ちました。
 いろいろ皆さんの貴重なご意見を言っていただいて,私なりに感じたのは,こういう場で新しいことを考え出して何かをするということももちろん大事ですし,そのために我々はいるのでしょうけれども,と同時に,今までにやってきたこと,それは伝統芸能もそうでしょうし,邦楽もそうでしょうし,いろいろな,文化庁なり,いろいろな方がやってこられた,私はすばらしいものが非常に多いと思うのです。ですから,そのことに対しても,そういうご意見もございましたけれども,もっともっと大きな自信と誇りを持っていいのではないかと思っています。これは日本全体の文化に対して私もそう思っているわけです。
 皆様のご意見を読ませていただいて,私なりに3点すごく大事なことがあるように思います。1つは,アーツ・カウンシルということで,アーツ・カウンシルというのは,多分これはイギリスが始めたと思いますけれども,カナダにもカウンシルがございますし,カナダの各州,オンタリオ,そこの州にもアーツ・カウンシルがございます。そういうご意見を委員が述べていらっしゃいましたけれども,私としてはすごくいいシステムだなと思っております。
 例えば,ブリテンにしても,カナダにしても,もちろん専門家もいるのですけれども,ある程度行政機能を持っていまして,ある程度の予算を,自分たちが使える予算というものがあって,いいと思ったものを自分たちでもできる。意見を述べるだけではなくて,ある程度実行できる。私は,そういう,ある程度実行能力のあるアーツ・カウンシルというのがすごくいいのではないかなと思っております。
 それから,2点目は,我々はもっともっと歴史,物の流れから何かを学んでいく。これは,先ほどから大変大事だと言われておりますが,やはり教育にかかってくるのではないかと思います。教育がすべて原点でありまして,私はそれが一番大事なんじゃないかと思います。
 信託制度みたいなものですけれども。アメリカもイギリスもトラストファンドというもの,ある意味で第三者的な角度から物事を見て物事を決めて物事を実行していく。それが非常にうまく機能しているように思いますので,そこには予算というものがあるけれども,予算をある意味で自由に使えますし,自分たちがプライオリティーをつける。これは大事だというところに使える。ですから,信託制度みたいなものを,日本の信託銀行とか,名前は同じようなものがありますけれども,システムはまるっきり違いますので,トラストファンド的なものを考えるともっともっと芸術的なものにも使えるのではないかなと思います。
 以上でございます。
【宮田部会長】
 やはり教育の原点を探らなければいけないのかなという感じがします。先生方,どうでしょうか。
【鈴木委員】
 少し前の話に戻るのですけれども,先ほど伝統芸能の担い手の問題が出ましたけれども,各地域にそれぞれ民俗芸能みたいなものもあると思います。浜松も,実は長野県と愛知県と静岡県の県境地帯に民俗芸能がたくさん存在をしておりまして,残念ながらそういう地域というのは往々にして過疎のところが多いので,先ほどトキの話が出ましたけれども,トキのように担い手がどんどん減っていくのです。一つ私どものところで川名のひよんどりという,これは国の重要無形民俗文化財になっているのがあるんですけれども,そこは一生懸命保存会の人たちが頑張って,そこの小学生は全員がちゃんとひよんどりをやるということで取り組んできたんですけれども,いかんせん小学生自体がいなくなってきている。先週末,とうとう川名小学校が統合になりまして,別の小学校と一緒になったわけですけれども。そういう意味で担い手がちょっとふえるかもしれないという期待はあるのですけれども。ちょっと範囲を広げて,そうした子供たちからそういうものに親しませるというような活動も必要であります。
 もちろん我々自治体としてもやるのですけれども,学校教育との関係で,そうした民俗芸能とか伝統芸能,そういうものが自然と子供たちが触れられるような仕組みづくりというのを少ししていただくと,担い手の育成というものに助かるのではないか,こんなふうに思っております。
【宮田部会長】
 こういう人がいろいろなところの市町村の長になっている。それが必要条件になって市長になってくれるといいですね。必須だというような感じがします。それから,私はさっき白扇とそろばんの話をしたというのは,それがずっと実は文系,理系みたいになってくるんです。高校もそうやって分けられる。それがどうもマイナーとメジャーの違いのような分け方をする。非常に失礼なことと私は思っております。浜野先生,お願い申し上げます。
【浜野委員】
 最近芸術選奨の表彰式がここでありましたが,羽織袴や訪問着を着ている受賞者がそこの段差の大きな階段を上がらなければならなかった。そのことは日本の文化状況をよく表していて,生活空間が日本的なものを排除するつくりになっています。ですから,政府が伝統的なものを大事にしているというメッセージではなく逆のメッセージが発せられています。例えば戦後GHQが指導して,車が走りやすいように,雨水が両脇にはけるかまぼこ型の道の建築を指導しました。ですから,東京の歩道は両脇が傾いていて歩きにくく,特に草履ではとても歩けたものではありません。アメリカのような自動車優先の街作りがいびつに融合し,日本の生活様式を排除しているのです。
 国賓の晩餐会に他国の料理を出して,他国の酒で乾杯するようなことを,鹿鳴館の時代から日本では続けていて,いまでもそれが続いている。晩餐会ではビバルディの四季を演奏したりしている。世界中のすぐれたものを経験している人が,そういった待遇は適切なのでしょうか。文化や伝統的なものへの敬意を国がはらっているというメッセージを,こういったことから読み取れません。明治維新に天皇陛下の正装や,公務員の服装からわが国のものを排除したわけですが,いまに至ってもそういったことがきちんと検証されていない。
 ですから,我々が受け着くべき衣食住や表現の伝統を政府が先頭にたって排除してきた経緯があります。そのことについては検証していただきたい。
 四谷に韓国の文化センターができたとき出席された韓国政府の高官は全員民族衣装で,感銘を受けました。日本で同じような状況のときに,日本の高官の方はどういう格好で出られるのでしょうか。我々が着ている背広はヨーロッパの民族衣装の変形ですから。
 きょうたまたま黒澤明監督の生誕100年目に当たる日ですので,それにちなんだ話をさせていただきます。黒澤監督は幼稚園,小学校低学年と知能が遅れていたと周りの人に思われ,学校がいやでしかたがなかったが,立川精治という進歩主義の美術運動のリーダーでもあった先生が,絵画の才能をほめたことで,表現の喜びに目覚め,死ぬまで黒澤監督はそのことを感謝しています。結局公立学校に受け入れられなくて,九段の暁星に移られて,立川先生は串田孫一,戸板康二,北岡文雄といった方々を育てます。やはり小さいときからすぐれたものに接したりすることはとても大事なのです。
 私が中学生や高校生のときに映画館に先生方に連れられて見に行った鑑賞会を記憶していますが,今ではそういう制度も移動中に事故が起こることをさけるためなくなったと聞いています。映画ばかりでなく,制度として機会を与えなければ本物に触れる機会がないままで終わってしまうことが,マイナスのことばかりが制約となって減っているように感じます。子供のときから本物に触れられる機会をぜひとも今後とも維持していただきたいと思います。
 以上です。
【宮田部会長】
 気持ちはよくわかります。吉本委員,お願いいたします。
【吉本委員】
 では,きょうも論点に沿って幾つか意見を述べさせていただきたいと思います。
 人材の育成について出たのですけれども,確かにアートマネジメント分野も,あるいは芸術活動の担い手の分野も人材育成すべきだと思うのですけれども,人材育成は第二次基本方針の第1番目の重点政策になっていたと思います。そのときにもいろいろな議論があったのですけれども,人材育成をすると同時に,その育成をされた人たちが活躍できる場というか,ポジションをつくらなければいけないのではないか。二次基本方針のとき,田村委員も覚えていらっしゃると思いますけれども,雇用という言葉を入れられなくて,それだけで二,三回議論をした記憶があります。雇用という言葉を入れるのは難しいかもしれませんが,官民がそういうポジションをつくっていくということをしないと,大学は今かなりそういうコースができましたけれども,実際働く場がないというのが非常に大きな課題になっていると思うのです。
 非常に具体的な例を言うと,例えば演劇の制作をできる,国際共同制作などを含めて制作できる人が首都圏で何人いるかと考えると,例えば高萩さんと,あの人と,あの人と,あの人と,それぐらいしかいない。これはポジションがないことも大きな原因だと思うのです。ですから,育成すると同時に,もっと日本の文化振興全体にかかわることとしてそういう仕事ができる場をふやすということもあわせて考えてほしいなという気がいたします。
 それから,文化財の伝承者とか文化財保存技術の後継者というのは,これはもう本当にその場,その場で特殊な技能を引き継いでいくしかないと思います。ただし,それは決して産業にもならないし,何かそれをやったからといって収入が確保されるわけでもないということがあると思いますので,文化財の伝承とか,文化財保存ということができる場を,もっと公的な資金を使ってふやしていく以外にないのではないかなと思います。
 それから,子供たちの育成というのは,もう何人かの先生がおっしゃいましたけれども,子供たちがすばらしい芸術に触れる機会をいかにふやして,芸術の仕事をするということにあこがれを持ってもらえるような機会をどうふやすかということだと思います。それは芸術の担い手を育成するということだけではなくて,そのこと自体にも教育的な効果がある。コミュニケーション能力ということを言われていますが,そうした活動を教育政策としてもぜひ取り組んでいただけたらというふうに思います。
 それから,寄附税制のことに関してなんですけれども,公益法人制度改革ができて,公益財団,社団になったり,認定NPO法人になったりすると寄附税制はかなり拡充されて,ほとんどアメリカと同じくらい寄附する側にメリットがある,制度としてはなっていると思います。ただ,問題なのは,寄附をしたときに税制優遇を受けられる団体の数が少ないということなのです。公益認定,あるいは認定NPO法人の数が非常に少なくて,NPO法人は全部で今4万件近くありますけれども,認定NPO法人はわずか数十件にとどまっていますので,寄附をしたら税制控除を受けられる団体をいかにふやすか。そのハードルを下げるということがまず非常に重要なポイントではないかと思います。
 それから,最後も幾つかあるのですけれども,国,地方,民間企業の協働の場ということなのですが,これは恐らく言うのは簡単だと思うのですけれども,実際これをやるのはすごく大変だと思うのです。国と民間企業が協働して何かやるというと,難しい面がいろいろあると思うので,私のアイデアは何か具体的なパイロットプロジェクトを一つ立ち上げて,政策から議論するよりはプロジェクトベースで試行をやる,模索をしながらやるというのがいいのではないかと思います。
 それと,劇場・音楽堂なのですけれども,これは芸術拠点形成事業などで拠点づくりをもう既に文化庁が進めておられますけれども,やはりそういう政策をより充実させて,今,劇場法なども議論されていると思いますが,地域に拠点となるものをつくって,そこに単年度あるいは事業単位ではない支援が流れる仕組み,これはイギリスやフランスなども既にそうなっていますので,資金的な支援とあわせた仕組みを構築すべきではないかなと思います。
 それと,最後の文化産業のところなのですけれども,これが非常に難しいのは,例えば映画を例にとると,浜野先生がご専門なので違っていたからご指摘いただきたいのですが,要するに産業として成立して収益があるものと,市場では成立しないけれども,芸術的な価値があるから最初は公的な投資をしなければいけないものというのがあって,それをどうバランスとるかというのは非常に難しいと思うのです。例えば,数年前に調べたところ,ドイツには映画に対する助成制度があって,その助成した映画作品がヒットして利益が出ると,その利益で助成金をもう一回助成機関の方に返す,という仕組みがあるそうです。ですから,いい作品をつくることが,結局後進の映画を育てることになるというインセンティブが働いていて,つまり,営利的なセクターと非営利のセクターがどういう連携するかということをあわせて考えていかなければいけないのではないかと思います。
 この点に関して一つ情報提供なのですけれども,先日あるシンクタンクの方がうちの研究所にお見えになりまして,実は経産省が観光・文化産業大国戦略というのを今検討されているそうです。そこでいろいろな方の話を伺っているということでお見えになったのですけれども,20人中10人以上の方が文化庁と経産省がばらばらにやっているのが一番問題だということをおっしゃっていたということですので,ぜひそういう視点でこのことを検討いただけたらなと思います。
 最後になりますけれども,きょうはメセナ協議会にご協力いただいて20周年の冊子をお配りいただきました。私も駄文を掲載しているのですが,真ん中辺に20年の文化政策の流れを整理いただいております。これは非常によくまとまっておりますので,ごらんいただければと思います。以上です。
【宮田部会長】
 寄附税制のハードルを下げるというのはすごく大事なことだと思います。ありがとうございます。そういう知恵を,この前私が新聞記事を持ってこさせたりさせていただきましたけれども,あんな感じで,どんどん先生方が,今,自分はこれをやっているというものをお持ちいただいて結構ですから。
 それから,先ほど堤先生の話で,囲い過ぎると自助努力がなくなるという話がございましたけれども,212票と219票でしたか,アメリカの話がありましたけれども,私も何となくそれを感じます。ただ,限度もあります。その辺のところがぎりぎりのところかなという部分,どの辺に設けたらいいかという議論が必要かと思いますが。佐々木先生,いかがでしょうか。名指しで恐縮でございますか,その後青柳先生,お願いいたします。そして田村先生。
【佐々木委員】
 私がいつも文化のことを考えますときに,前にも申し上げたかもしれませんが,人間の一生のことを頭に描くのですけれども。幼少年期,まさにこれは今の文化政策の重要性,教育の問題になります。それから元気のいい時期を経て,高齢者,まさにこれは伝統文化,文化財の世界であって,この2つはどうしても国の文化行政として積極的に力を入れなければいけない部分だろうというふうに思います。特に高齢者に当たる伝統文化,文化財,これは,言い方が適当かどうかわかりませんけれども,まさに絶滅危惧種,トキの話が出ましたけれども,絶滅危惧種に当たるような,そういう事態もしばしば発生しているわけです。ところが,こういうものを支える場合に,必ず幼少年期,若い時代,そこの教育をいかにするかということにこれは全く直結してくる。だから教育をその間遠回りのようであっても必ずそれは直結してまためぐりめぐって戻ってくるわけですから,その両方をきちんとやらなければいけないということは基本的にあるだろうというふうに思います。
 それと同時に,やはり文化活動を活性化させていかなければいけないというときに,文化活動の活性化の要因というのは何かというようなことを考えたときに,もちろん一つはお金をたっぷり注ぎ込むということが一つはあるでしょう。しかし,お金がたっぷりあるかないかということは別にしまして,そこに注ぎ込まれたお金がきちんといい文化活動に成果に結びついているかどうかという,そういう検証が常になされなければいけないだろう。その検証をすることによって,あるいはこれは評価ということにも結びついてくるのでしょうが,その検証,評価をすることによって,常にそこで補正をしていく,是正をしていくというふうなことが多分必要なのだろうというふうに思います。
 それから,もう一つは文化の活性化,一種の景気対策のようなものだと思うわけですが,一つはそういうふうお金の問題,それからもう一つは制度の問題があるだろう。ルールとか,法の問題です。一つは,これは多分最初に山脇委員から発言があったと記憶しているのですが,たしか国家補償の問題です。これは実は非常に大きい問題だろうというふうに思うのです。国家補償が制度としてきちんと成立するかどうかということによって,随分活動そのものがもっと大きく変わってくるだろうというふうに思います。 それから,先ほど来盛んに議論で出ております寄附の問題です。これは国家補償と寄附の問題,この2つだけでも解決すれば随分活動が活性化していくということは間違いないだろうというふうに思うわけです。
 つい二,三日前でしたか,京都で新聞を見ておりましたら,アサヒビールが大きな宣伝を出されておりまして,新聞の3分の1ぐらいの紙面を使って,これは京都に限ったことなのでしょうけれども,京都でスーパードライを飲んだ方はこういう形で京都の文化財保護に回っています。つまり,京都でその1年間でスーパードライを飲んだ額の1%が文化財の保護に回っています。ですから,多いに手助けしていただいてありがとうございましたという,そういう大きな宣伝を打たれていたわけなのです。こういうような形も非常に国民の一人一人の意識を高めていく。一方ではビールは飲むのだけれども,同時に自分は文化に貢献しているのだというふうな,そういう意識も同時に喚起していくという,いい形ではないかなというふうに思っておりました。これは恐らく寄附税制と深く結びついていることだというふうに思います。
【宮田部会長】
 その手はなかなかいけるのですよ。うちの大学でショップをつくったのですけれども,必ず売り上げは学生の展覧会や演奏会に還元できるというふうなことを大きくうたってあげますととても理解してくれます。ありがとうございました。評価の問題というのはすごく大事な問題だと思います。青柳先生,よろしゅうございますか。
【青柳委員】
 文化を少し立体的にとらえる必要があるのではないかというふうに思います。例えば基層文化に対して表層文化がある。伝統文化に対して現代文化がある。ハイカルチャーに対してサブカルチャー,そういう全体として我々を取り囲んでいる,あるいは我々が恩恵を受けている文化というものをトータルにとらえないと,例えば伝統芸術だけ,伝統文化だけに補助しても,全体としての継続性とか,活性化ができないのです。ですから,いつもある一定のバランスよく目配りをして,そしてそういう立体的な文化の構造を把握した上で,それが明治から今までずっとどういうふうに変化してきているか。例えば家元の文化というものが一時は大変盛んだったけれども,今はかなり厳しい状況になってきているというようなものを,時系列でも三次元的な構造をとらえていくということです。その中でそういうものをとらえて初めてどこをプッシュすれば,どこに波及効果があって,ある伝統文化にその補助をしても結局は現代文化にまで活性化につながるというような,そういうトータルな面でのとらえ方が非常に重要だと,私は思います。そうではないと,一点だけどこにやっても結局次にはつながらなくなっていってしまうということがあるのではないか。
 それから,そういう意味でとらえたときに,社会制度として文化の活性化というものを当然やる,いろいろな施策,政策があると思いますが,その政策を立案するのと,その一方で我々一般人のマインド形成というものが非常に重要なのです。ですから,政策だけではなくて,例えば税制に関しても,さっきおっしゃったように,日本の今の寄附税制というのは実際にかなりいいところまできています。企業が必要経費に取り込めるところ,あるいは個人の税控除というようなもの,さまざまなことがかなりの,私は以前比較して文書を書いたことがありますけれども,かなりいいところまできている。一番違うのはマインドの違いなのです。もちろん,もうちょっと評価額のところではアメリカのほうがはるかにいい評価の仕方を税制上するということで違いもあるのですけれども,基本的にはそれほど大きく違わないところまできている。だけれども,アメリカの場合には,連邦政府が文化政策に関して一種のレッセフェールで,あとは民間がやりなさい。ドネーションマインドというものをしっかり形成される。ところが日本ではまだメセナ活動とか何とかはあるけれども,企業にしても,我々個人にしても,ドネーションマインドというものを形成していないのです。これが一番の問題だと思います。
 例えば今でもそうだと思いますけれども,賞金の20%までは特別控除ではなくて普通の寄附ができるけれども,ほとんどの企業が今この20%を使い切っていないのです。これは資生堂の福原さんの話なのですけれども。つまり,そういうふうにマインド形成ができていないのに,税制上の制度だけをかさ上げしても実質を伴っていかないということで,むしろ広報活動や,共有するということが重要ではないかと思っております。
 それから,もう一つは,最後にもう一つだけなのですけれども,今まで日本というのは明治以降和魂漢才という本来の言葉をもじって和魂洋才という言葉を使って一種の文化政策をやってきたわけです。その中で一番成功しているのは文部科学省がやってきた音楽教育と美術教育なのです。つまり音楽教育は完全に我々の音階感覚を洋楽の感覚に変えてしまっている。だから,我々は自然にドレミファが出てくる。それから,図画工作などでは,恐らく今でもそうだと思いますが,先ほど宮田先生がおっしゃっていたフランスでは40色,日本では12色だけれども,恐らく子供たちでも老人でも,道を尋ねるとき地図を書いてくださいと言ったときに,日本のほうがはるかにパーセンテージ高く地図を書くことができます。これは恐らく美術教育の成功例だと思うのです。その2つが文部省の明治維新以来の一番の教育の成果です。そういうものがあることも我々は十分に認識しながら,全体の文化政策をどうしていくかということを考えていくべきではないかなと思います。
【宮田部会長】
 何かこういう政策はマイナスな部分だけ何とかしよう,何とかしようという話,これは余り説得力がないのです。そういう意味では,最後の青柳先生のお話で,これだけはDNAがすごいとか,マインドがあるという話と同時に,よってこういう部分も必要であるというのは,説得の中では相当大きな部分を占めると思います。そして,今回のメンバーはとてもいいですね。あえて名前は言いませんよ。何か困った,困ったという話ばかりで終わってしまうようなときがよくあったのですけれども,もちろん困っている部分はあるのですが,プラスこうありたいというふうな,一つの積極論の言葉がよく出てきてくれるので,私は大変やりやすいというか,よりもっと構築していきたいと思っております。増田先生お願いいたします。
【増田委員】
 今,青柳委員からドネーションマインドという話が出てきましたけれども,先日奈良の興福寺,東大寺を回って吉野の紙すきを訪ねてきたのですけれども,興福寺が新しく国宝館をつくりまして,3月1日オープンで,かなりきれいに展示されて,見やすくなって,そのときに家族連れも多いし,もちろんご高齢の方が圧倒的に多いのです。そこで聞かれたのは,入場料が高いとか,あるいはどこそこのお寺では拝観料が高過ぎるという。私ども大学で学生に言いましても,展覧会は品数の割には高いとか,そういう考え方が,自分が受ける利益が少ないということで,自分がこの入場料を払うことでどういうことをサポートしているという意識が全然ないのです。今,大人にもないと思います。享受するということばかり考えていて,それに見合うものは見にいったり参加するけれども,享受するものがないと自分で判断したら寄附も出さない。だから,極端な話,お寺さんで戒名をもらうときに10万円は高いというのです。そんならお寺さんに頼まなければいいのです。享受するものの割には高いという。その10万円がお寺さんの生活を支えて,自分が年忌の法事をするときにお寺さんがまだ存続できる基礎をつくっているのだという意識が檀家さんにない。おじいちゃんにも,おばあちゃんにももうなくなっている。それはすごく悲しいことだと思うのです。
 だから,自分が100円出す,1,000円出して見にいくということが,これを支えているのだという気持ちを学生には繰り返し言うのですけれども,嫌だったら行くなと。行って高いと思うようなことはするな。自分が参加してやっとこういうことが支えられている。だから,お寺さんに行ってちょっとした仏像を拝観するのに600円ですかと嘆くのではなくて,これが50年前に自分の親が見たのを今でも見られる状況は親が払ってくれた拝観料のおかげだというような感じをぜひ皆さんに持っていただければ,寄附も自分が支えるのだという気持ちで寄附できると思うのです。だから,会社にしても,この寄附をすると一体何人の方に私の会社の名前が知られるのですかという質問が返ってくるのです。うちの学界は1,000人として大会ですと600人がせいぜいですねと,それでは10万円寄附するには当たりませんと,せいぜい2万円ですねという言われ方をするのです。ですから,会社がそういうことをすることで社会を支えるという意識をぜひぜひ持ってもらいたいなという感覚を持ちました。
 それから,続いて吉野に行って紙すきを2件見させていただきました。両方とも跡継ぎの方がいらして一生懸命やっていらっしゃるのですけれども,いずれも紙を買ってくれなければ仕事ができない。伝統技術,文化財を保存するために必要な資材をつくっているところでは,その資材が売れなければどんなに名誉があっても息子さんはやってくれないし,ほかからもやってくれない。そのために指定文化財だけではなくて,今は登録文化財など文化財がありますので,そういう文化財の保存のためにもいろいろそういう文化財の保存用の資材をつくるような伝統技術を継承している人たちの資材を使うように,何か激励するというか,補助するということをすると,若い人は興味を持ちますので,興味を持っていると,いや,うちの仕事を勉強したからといってあなたは50年もたないよ。10年この先あるかどうかわからないのだからという言われ方をして離れていくのが現状ですので,買ってくれる人がいればつくる人が存続できる。消費者がいれば,だから無形にしても,それを受け入れる人がいればやる人が出てくるのです。だから,よさこいなどはあちこち盛んになっていますけれども,観光地で受け入れるところがあるから参加する団体がどんどんふえているということだと,つくづくこの旅行で思いました。 以上です。
【宮田部会長】
 ある意味での顕彰ですね。それが文化庁の一つの大きな仕事ですね。日本人はなかなか顕彰の勇気がない。こうやって顕彰しようとすると,横から何か言われるのが嫌なものですから結局何もしないで終わってしまう。もう少し,もっとどんどん顕彰していいものに対してはいいと思うのです。その勇気は必要かなという気がします。田村先生お願いいたします。
【田村部会長代理】
 まず,現状をきちんと把握するということが非常に大切かと思っております。皆様子供に本物をとおっしゃっています。本当に本物が子供に提供されているか,さっきの富山先生の邦楽も含めてでございますけれども,そのことをきちんと見識ある目で確認したほうがいいと思っております。
 子どもには本物を経験させることが大切だという話をしましたら,私の仕事仲間が,でもこういう教育もあるのではないかと言われて,本当に腹が立ったのですが。自分は多分小さいころお尻が痛いという覚えしかないようなものを見た。つまらなかった,でも,こういう教育もあるのではないか。僕はそれを見たとき,ああいう大人にはなりたくないなと言われまして,愕然といたしました。そのようなものを見せていたら,全く意味がないわけでございます。どういうものを見せているかということをきちんと把握しなければいけないと思っています。
 私どもは中学生のための,今までは静岡県の場合は鑑賞教室といっておりましたけれども,ある指揮者にお願いいたしましたとき,鑑賞教室という言葉はやめていただきたい。音楽会にしてください,「中学生のための音楽会」にしてくださいと。中学生ですので,プロのオーケストラ,そして見識ある指揮者,それも短い曲を,耳ざわりのいい曲を聞かせるのではなくて,きちんと一曲シンフォニーを聞かせることにしました。去年は神奈川フィルで本名徹次さんの指揮,今年は金聖響さん指揮でオーケストラアンサンブル金沢でした。そうしましたら,中日新聞が中学生の感想を投書欄に三度も載せてくださいました。そのときの子供たちのアンケートを見ましたら,アンサンブル金沢は外国人もいらっしゃるのです。そしていろいろな楽器があります。いろいろな楽器がある。なおかついろいろな人,日本人だけではない。それに指揮者は金聖響さんですから,それが一つに聞こえた。鳥肌が立つほど感動した。自分はオーケストラが初めてだったけれども,本当に心から楽しんだ。また聞くチャンスがあったら聞きたい。そういうものを提供しなければ,子供に本物を聞かせるという意味がないと私は思っております。ですから,お願いするときに,子供たちは初めてオーケストラを聞きますから,目が点になるような演奏をお願いいたしますと言っておりますが,演奏家の姿勢,パフォーマンスをなさる方の姿勢というものがすごく大切だと思っております。そういうものがきちんと子供たちに提供されているかどうか,これは邦楽でも,どの分野でも同じだと思います。
 また,国際尺八フェスティバルがアメリカのデンバーで開催されたとき,取材しました。日本だったら絶対一緒になさらない流派の違う先生方,山口五郎さんがまだご存命の時代で,山口さん,横山勝也さん,山本邦山さん,青木鈴慕さん,荒木古童さん,全員そろっての1週間にわたる国際尺八音楽フェスティバルだったのですが,日本人は流派が違うとワークショップがあっても演奏できない。外国の方はどれもできます。そして,そのときアメリカ人に言われたことが私は相当ショックでございました。どうして日本人はクラシック音楽とほかのものと,邦楽を別のものと考えるのですかと。音楽は一つでしょうと言われました。
 日本の若い方が尺八をなさるようになったのは,武満徹さんのノベンバーステップスがアメリカで演奏されたのがきっかけと言われておりますけれども,本当にいいものだったら子供も感動するし,大人も引きつけられる。提供されているものが本当にいいものなのかどうかということは,どういう姿勢で,取り組まれているかということだと思います。オーケストラアンサンブル金沢の演奏を聞いたときに,「お,一人一人が真剣に演奏している。プロというものはああいうものだということがわかった。自分は音楽家になるかどうかわからないけれども,自分が選んだ仕事できょうの演奏家のような方たちのような姿勢で取り組みたい。」そのような感想も子供たちはちゃんと受け取ってくれます。そういうものを提供するということがすごく大切なことだと思っております。
 もう一つ寄附の問題でございますけれども,これは私書かせていただきましたけれども,戦後1947年に共同募金が始まったときに集まった募金総額は5億9千万円,現在の貨幣価値では1,200億円以上だそうです。それが今は「歳末たすけあい」「海外たすけあい」,18億円か20億円にも至らない額です。静岡県の掛川駅の新幹線の駅舎は市民が皆さん10万円寄付して駅舎の40億円を,企業も寄付されてつくった。ホールもそうです。それから,掛川市の天守閣もそうだそうです。それから斉藤記念フェスティバルのボランティア協会はフェスティバルにお金を寄附しています。それから,ボランティア協会の方たちがよくおっしゃっているのは,日本人にボランティア意識がないわけではない。僕は,昔は氏子,今はボランティアという気持ちでやっている。氏子だったらお祭のときにその方たちが私は奉仕をしていますという気持ちだったか,日本人だってそういう精神がないわけではないということをよく言っていらっしゃいますけれども,長く続いている音楽祭は必ずボランティアの方がしっかりいらっしゃるというのが事実でございます。ですから,日本の中でそういう意識が全くないというわけではないということは確かです。
 税制優遇措置ということはございますけれども,誘導する施策も必要と思います。実は静岡では,これは知事の提言で,県立の文化施設には寄附の箱を置きました。そこにたくさん入っているかというとなかなか難しいのは事実でございますけれども,そういう場をつくっていくということは必要ではないかなというふうに思っております。
【宮田部会長】
 山内先生お願いいたします。
【山内委員】
 文化発信と国際交流の推進について,これも大変大事な文化庁としての課題でもあるわけです。個々の問題についての私の感想は時間もありませんので失礼いたしますけれども,ちょっと大きいことというか,構造や枠組みのこととして申しますと,政権交代がありまして,官邸に国家戦略室が設けられ,本年度内には局への格上げというのは難しいようですが,いずれにしても新年度局への格上げということがあるわけです。そうしたときに,国家戦略の中における私の関心というのは,文化芸術振興が例えばどのようなものになるのか。恐らく,国家戦略が本体として考えているのは新産業成長戦略のような,経済産業省が肝いり,あるいは問題意識となっているような,日本の産業の,特に海外における後退,あるいはトヨタに対するバッシングに見られるような,日本産業に対する意図的あるいは故意,未必は別として,非常に厳しい状況に置かれております。
 アラブ首長国連邦などにおいても,原子力発電所の入札に日本が負けてしまう。本命はフランスと日本との争いだったので日本はフランスばかり意識していたのですけれども,韓国が入ってきて負けた。この種のことというのは,これからもあちらこちらで起こり得る。フランスは湾岸諸国において,ご案内のとおりルーブルを持ち出して,そういう文化発信,文化戦略とスワップする形で発信しているわけです。
 こういうことそのものがいいか悪いか,これは人によって全然立場も違いましょうし,お考えも違うので,そこには立ち入らないのですが,いずれにしても,我々がこういう文化振興,芸術振興といった場合に,余り内向きになってばかりいても仕方がない。資料7にもあるような,海外,国際発信というようなものも意図して国際交流,文化発信,こういうコンセプトで議論していくことがますます重要だろうと思うのです。
 その際,やはり国家戦略のレベルなので,新産業の成長戦略,こういうことばかりで語られるというのは非常に不幸なことで,もう少しそういうところに日本の新しい形,文化芸術の振興というものがどう組み込まれるのかということは文部科学省や文化庁の問題意識としてもあろうと思います。ぜひそういうことに我々の議論というものも何らかの形で収斂していく,そういう方向を見出していただきたいというのが,私の希望です。文化政策部会で,まさに政策なわけですから,これは政策として,ほかの領域,他省庁に対してもインパクトを与えていくような,そういう筋道。
 ついでに申しますと,青木前文化庁長官時代の文化発信戦略に関して議論され,報告も出されました。そういう問題意識もまた踏まえる。もしくはそれを活用する。もしくは換骨奪胎する。そういう資産でありますので,そういう方向でも少し考えていただきたいというのが希望であります。
 議論の流れを十分に押さえていないかと思いまして,見当違いのことを申したかもしれませんが,ご寛容ください。以上です。
【宮田部会長】
 大丈夫でございます。それでは,お忙しいところおいでいただきました加藤先生,ありがとうございます。
【加藤委員】
 きょうは重点施策についてということなので,資料を用意いたしました。資料3ですが,2ページ目を中心にやりたいのですが,とはいえ,1ページ目で「分野ごとの政策目標」をどのように設定するかという表現自体が再考されるべきかとも思います。ある意味では古典的な文化活動においてはそうしたことも必要かもしれないけれども,新しい表現についてはむしろ分野横断というか,先ほど田村先生が洋楽と邦楽というか,そういうものを音楽として一体としてとらえるべきだというご指摘もありましたけれども,さらに現代のいろいろな表現についていえば,そうした音楽,美術を,例えば分けるということ自体が極めてあいまいになってきているので,そうした新しい,特に振興については,分野横断を考えるべきではないかということと,携わりながら,既存の文化施設の果たすべき役割というものは,もうちょっと原点に返ったほうがいいのかなというふうにも思っています。そうではない部分と,役割をむしろ分けたほうが効果的かなというふうに,経験値から最近考えているところです。
 人材についていえば,専門の,特に政策立案,執行に当たる専門家が少ないということからかんがみて,民間との流動化をもっと図るべきであろうし,また,そうした創造者そのものではなくて,政策とか,管理等に当たる人材の育成のための高等教育専門機関の整備ということが必要になってくるのではなかろうかということです。
 それから,また人材の部分で私はまとめて国の機関のアーツ・カウンシル化及び地方版のアーツ・カウンシル化について簡単に述べましたが,きょうはこの小論については省かせていただきたいと思います。また,無形文化財等の伝承,子供についても大変貴重なところですが,詳細にわたって説明しないとならないので,きょうは省かせていただきます。
 2ページ目で幾つかご提案をさせていただいています。1つは東アジアを中心とした世界との文化交流の中で実績のある横浜トリエンナーレ,あるいはフェスティバル東京といったものを中心に,新たに沖縄の芸能等を含めた東アジアの芸能フェスティバルなどなど,これは一つの例にすぎませんが,こうしたものを幾つか国際競争力に耐え得るフェスティバルの形成,これが急務ではなかろうかと思います。
 日本から日本文化を中心にアジアを視野に入れて発信をしていくということが国際交流の基本になるべきではないか。今まで我々はややもすると海外からすぐれたものを持ってくることが国際交流というふうに考えていて,そのことはもちろん否定されるべきことではないんですけれども,もっと日本から発信をしていくということを考えていく必要があるのではないか。運営についても,民間の既に実績のあるところについては民間の運営を中心に考えていくべきだろうという点が一点でございます。
 2点目は,これは新しいご提案なのですが,東アジア文化首都構想というものを考えてはどうか。これは,ヨーロッパに既にヨーロッパ共同体があるということもありますが,ヨーロッパ文化首都構想が現実に相当大きな機能を持っていまして,年間に2都市選んで,それぞれの都市に文化を中心に集中的投資を行って,いわゆる創造都市を形成していく。これで大変大きな成果を上げていると思われますので,そうしたことに倣って,首相のおっしゃっておられる東アジア共同体構想は,国家間ではいろいろと制約があり過ぎるというか,課題が多過ぎると思うのですが,それに対して都市間の連携を先に進めていくというような考え方をとると,比較的こういう構想にも寄与し得るのではないかということで,こうした構想を今後文化庁だけで考えられるかどうかはともあれ,少なくとも文化庁がイニシアチブをとって提案をされてはどうかという点でございます。
 次に,観光振興等に留意しながら,生活文化全般をどのようにしていくかという際に,自然と文化が最大の観光資源であるというふうに考えるならば,幾つかの地域を観光重点地域として選定し,東アジアを中心とした外国人観光客のための周遊モデルを形成していくのはどうだろうか。特に私が有望と考えているのは,瀬戸内海を全体的に見た視点,総合的な周遊,あるいは琵琶湖全体を総合的な周遊地点というふうに考えて,陸上からではなく,水上からの視点を主体とした伝統文化遺産と新たな創造拠点のネットワーク化,こういうことをやっていくべきではないかと思います。
 瀬戸内海というものが,世界的に見た場合に,これだけすぐれた文化と自然に恵まれた伝統的な文化遺産を豊富に持った多島海というのは滅多に存在しない。日本から多くエーゲ海やカリブ海にクルージングしておられますけれども,アジアの人々にとっては非常に貴重な観光資源となり得るのではないかという点であります。したがって,観光と文化を結びつけた構想を考えてはどうかという点であります。
 それから,創造産業について,これは先般後藤先生が大変コンパクトなイギリスの例をご紹介いただきましたが,その際にもご指摘申し上げましたが食が抜けているではないかということで,食住衣を中心にコンパクト経済の視点からそのあり方を再検討して,今日の芸術文化と連携した振興策が必要ではないかというふうに思っているという点でございます。
 次に,寄附税制の拡充等については,現在大変大幅に議論されているのでここでは特に詳論を省きます。
 それから,劇場・音楽堂など文化芸術拠点の充実という意味では,例えば劇場と劇団が一体化していない状態を劇場と呼んでいるのは大変不思議なことで,そういう意味では,最低限劇場と例えば劇団が一体化していく。音楽堂についても音楽家の常駐していないスペースを音楽ホールと呼ぶこと自体が不可解だと,世界的に見れば。日本だけはそのことに余り気がついていなくて,これでもいいと思っているのですが,それは不可解であり,そういう意味では既存の文化芸術拠点の拡充という面では,現在検討されているやに聞いている劇場法,これは少なくともその点の進展については非常に大きく寄与するのではなかろうかというふうに思います。
 しかしながら,その既存の文化芸術拠点だけでいいかどうか。[5]の2を先に申し上げたいのですが,こうした既存の文化拠点にならない,これまで見直されてきていなかった,実は地域の創造拠点形成というものが非常に重要で,現在例えば金沢とか,横浜とか,いわゆる創造都市といわれていることである程度成功した都市は,既存の文化施設だけではなく,もともと歴史的な建造物でも何でもないようなさまざまな遺産を歴史的建造物とともに活用をして,そこに新たな創造的な文化拠点として形成をしていくということが行われていて,相当の実績を上げていると思います。そうした点に対する拠点形成のための施策,それは法律がいいのかどうか,この辺は検討の余地があろうかと思いますけれども,施策が何らかの形で必要なのではないか。そうした中で,公共的な活用を条件に,固定資産税,相続税等の減免あるいは耐震工事への大幅な補助等々,制度的な法制度の整備等が緊急に必要ではなかろうか。
 いずれにしましても,[5]の1に戻りますが,文化振興をコストとしてとらえるのではなくて投資としてとらえる必要があるのではなかろうか。現在しばしばの批判の的になっている,例えば田んぼの中にコンクリートの道をつくるのは無駄ではないかと言われているのですが,経済振興の面からいうと,実は田んぼの中の道だって1年間は経済振興には役に立っているわけで,あそこにとりあえずお金が投資されている。しかしながら,あそこの非常に大きな問題点は,1年過ぎた2年目以降は何の役にも立たないという問題なのです。文化の拠点形成に投資をしていくことは,何年間にわたって,あるいは何十年間にわたってもそれを活用していくことができるわけで,一度の投資が何度も使える。つまり,資本の論理でいうと資本回転率が非常によろしい,こういうことになります。そうした投資としても考えて,公共事業の定義を少し文化の振興を含めた方向へ変えていく必要があるのではなかろうかという,もちろん経済効果だけが文化の重要な目的ではありませんので,社会的な効果がある上に経済的にも非常に効果があるということを申し上げているわけです。
 以上でございます。
【宮田部会長】
 最後がいいですね。文化の効果は経済をも,何か開示されているところがあるのは,資本回転率ですね,ありがとうございました。時間が押してしまいましたので,加藤先生のお話にどなたかお一人ぐらい何かございませんか。もしなければ,私はとてもおもしろいなと思ったのは,東アジア文化首都構想,アジアからという話,これは大変興味深いことです。私ごとで恐縮ですが,うちの大学では相当大きな意味でアジアから文化をということで,いろいろな策を練っております。最後に事務次官にお気持ちや何かを,いかがでしょうか。
【坂田事務次官】
 次官をしております坂田でございます。この部会は初めての出席でございますけれども,先生方には本当に文化芸術のこれからの新しい総合的な政策をつくるに当たって大変お世話になります,よろしくお願いいたします。
 行政としては,言うまでもございませんけれども,玉井長官以下文化庁の皆さんが全責任を負ってこの問題を対応いたすことになりますけれども,私どもの立場からも文化庁をしっかり応援しなければいけませんし,それから,今,宮田先生がおっしゃった,私は個人的には別に文化のことをわかっているわけではないのですが,常日ごろから関心を持っております。絵画にしましても,音楽にしましても,大変関心を持って,時々上野に行ったり,能楽堂にも参りますし,新国立劇場も参りますし,文化会館も参ります。余り大したことのない個人的な思いを言ってもしようがないと思いますが,私も二度ほど駐在といいますか,アメリカに住んだことがあって,そのときにつくづく思いましたのが,日本のことを語るときに経済とか政治は比較的語りやすいんですけれども,文化ということになりますとなかなか頭の中にも体系だったものが入っておりませんので,断片的にしか話せなかった。むしろ経済,政治は情報がこれだけ世界にあふれておりますと,わざわざ話さなくてもつき合っている人は日本のことを結構わかっているわけです。ですから,むしろ伝統的な日本の文化芸術とか,あるいは新しく生まれつつある文化芸術でありますとか,そういうことを全体として語れるほうが日本ということをしっかり主張できる局面が多かったと思います。それからまた,個人的にも,何かそういう話をしていますと人間が成熟しているかのような錯覚をみずから感じますので,そういう点からも文化芸術は大変大事だというふうに感じておりました。
 きょうもご議論ございましたけれども,こういう切り方は間違っているかもしれませんが,文化芸術にもインターナショナルなものとローカルなものがあるのではないかと思います。両方ともしっかり備えることによって,その国の文化力というものがはかれると思いますし,それから国民一人一人にとってはそれがアイデンティティを感じる,結果的になるのではないかと思います。そういう意味では,これから議論していただいて,政策として打ち出していただく文化芸術の総合的な政策については,ぜひそれができた暁には,先ほどご議論がございましたけれども,もちろん文化庁だけではなくて,外務省とか,国交省とか,経産省とか,役割分担のもとに協力できるものはしっかり協力して,日本全体として世界に対しても日本の文化芸術はそうなのかと思っていただけるような,そして私どももそのことをしっかり発信をしたり,語ったりするときに誇りに思えるような内容のものに仕上げていただければ大変ありがたいと存じます。
 どうぞよろしくお願いいたします。
【宮田部会長】
 さて,各委員から出されました意見を踏まえまして,事務局にて議論の集約をぜひお願い申し上げたいと思います。それで,恐縮でございますが,ワーキングの設置提案と今後の日程でございますが,この件は事務局から言っていただきますか。
【大木政策課長】
 資料8に即しましてお話をさせていただきたいと思います。先般来部会長の指示もございまして,個別具体にある程度分野ごとの切り口で議論を進める必要があるのではなかろうかということで,ワーキンググループを資料の8の1枚目にございますように5つ設けさせていただくことを今回お諮りするものでございます。1つは,舞台芸術,個別具体の課題につきましてはそこに簡略に書いてございますけれども,トップをどのように伸ばすか,あるいは裾野の部分をどのように拡大するかというようなことを初め,6項目にわたりまして書いてございます。以下,メディア芸術・映画,美術,くらしの文化,そして文化財というぐあいに,それぞれワーキングを立てまして,そこに掲げてありますような事柄についてご議論をいただきたいということで,今回部会長から提案をさせていただくものでございます。
 構成でございますけれども,2枚目をごらんいただきますと,これは部会の内部組織でございますので,部会長の指名によりまして,恐縮ではございますが,ここにいらっしゃる各委員の方々にそれぞれのワーキングに分属をし,あるいはそこのワーキングも中で主宰していただく方も出てこようかと思います。そういうおまとめの立場も兼ねていただきながら,新たに専門委員も何名かずつ加えさせていただいて,それぞれのワーキングを構成していただくこととしておるわけでございます。具体的には3ページ目,4ページ目をごらんいただきますと,それぞれのワーキングに分属いただきます委員の先生方,臨時委員の先生方,そして新たに加わっていただきます,その道にたけた専門委員の方々を一覧にしてございます。
 なお,それぞれ分属いただくワーキングにつきましては,恐縮ではございますが,部会長の指示を得まして事務局で既にご連絡をさせていただき,ご了解をいただいているものでございます。 以上,簡単でございますが,ワーキングの説明をさせていただきました。
【宮田部会長】
 5つのワーキンググループを設置させていただきたいと思いますが,この件に関していかがでございましょうか。大変お忙しい先生方ばかりでございますが,お忙しいところにしかこない話でございますので,ぜひとも。
【大木政策課長】
 申しわけございません。1つ申し上げることを忘れましたが,ワーキングのうち文化財分科会における委員の分属でございますけれども,この部会におれらます方々に加えまして,文化財分科会が既に常設の分科会として立っているものですから,そこにおられます委員の方々,具体的には石上委員,それから清水委員,林田委員,森西委員にも参加いただく予定ということで部会長からご指示をいただいております。事務的に説明するのを忘れまして申しわけございませんでした。
【宮田部会長】
 文化財の分科会の4名の先生方にもご参加いただくということでございます。よろしゅうございますでしょうか。大変お忙しいと思いますが,ぜひご協力いただきたい。そして,新しい方向性を打ち出していきたい,かように思っております。よろしくお願い申し上げます。
 さて,今後の日程でございます。4月から5月上旬の会議日程でございますが,ワーキンググループにおいてそれぞれ論点について精力的に調査検討を重ねていただきたい,かように思っております。その後に,次回第5回文化政策部会,5月12日(水)でございます,開催いたしますので,その場においてワーキンググループから調査検討の状況を報告いただくということになります。4月以降は頻繁にワーキンググループを開催することになりますが,大変ご負担と思っております。ご理解いただき,有意義なご議論をお願いしたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。
 これにて第8期第4回文化政策部会を終わりたいと思います。ご協力ありがとうございました。
【滝波企画調整官】
 今,部会長からもお話がございましたけれども,事務局から少し補足説明をさせていただきます。4月以降5月上旬までの間に,今,部会長からご提案のありました5つのワーキンググループを開催いたしたいというふうに存じます。それぞれの日程の詳細につきましては,調整次第各ワーキンググループの庶務を担当いたします担当課からご連絡を差し上げるようにしてございます。その上で,先ほどお話しございましたとおり,5月12日に各ワーキングからの検討状況のご報告をいただくというふうな段取りを考えてございます。
 年度末あるいは年度初めというところで大変ご多忙の折とは存じますけれども,何分にもご協力いただきまして,この審議を進めてまいりたいと存じますので,ご協力方よろしくお願い申し上げます。
ページの先頭に移動