Wダブル“亮平”対談

W亮平対談

文化庁と映画「羊と鋼の森」とのタイアップを記念し,文化庁長官「宮田“亮平”」と俳優「鈴木“亮平”」との対談が行われました。どんなお話が飛び出すか,ぜひ映画を御覧になってからお読みください!

人生における選択の瞬間

【長官】このようなすばらしい映画と文化庁がこのようにタイアップさせてもらうって大変有り難いことです。人生模様から,きちっとした哲学,芸術,それから感性,自分をどうやって信じるか,自分が好きだから,その好きなことのすばらしさを提供する。心に刻み込まれるすばらしい映画に出会い,その映画に鈴木さんが出られている,これも御縁だと思うのです。

【鈴木さん】原作も好きですし,監督も丁寧に,心象風景っていうものを形にされ,映像にされていて,ぼくもすごい好きな作品なんです。人生でどういう道に進むか,選択の話でもあるじゃないですか。僕も,宮田さんもそうかもしれませんが,ある種,芸の表現する道に行く怖さとか,映画の中にもあった,「ピアノで食っていくではなく,ピアノを食べて生きていくんだよ」って,そういう覚悟とかぐっとくるんですよね。名言が多くて。一方,僕ら,役者っていうのは,孤高のアーティストではなく,チームプレーであり,監督っていうリーダーがあり,その先にお客さんがいらっしゃるじゃないですか。そうするとサービス業でもあるんじゃないかって思うんです。そこで柳さん(鈴木さんの役名)が言う,「ゆで卵」の話,お客さんにゆで卵を出すとき,かたゆでがいいのか,トロトロがいいのか,かたゆでを欲しがっている人はかたゆででしか知らなくて欲しがっているのか,お客さんが美味しく食べられるゆで卵を見極めるという部分,そういうところもすごくわかるんです。ピアニストですと自分の世界で,いろんな葛藤があると思いますが,大事にすればいいもの,また自分の世界でないところの深さというか,どの職業にも通じるアーティストだけじゃない,その普遍性というか,たどっているなって気がします。

【長官】いろんな角度からみて,それにちゃんと答えている。煮詰まって入っていたものがいいなって思いましたね。

【鈴木さん】僕,このゆで卵のセリフを言える自分って幸せだなって,一か月ぐらい前からどういうふうにやろうかなって考えてました。僕が感じているこの作品の好きっていうところが,一般の人が,こういう仕事についていない人からどう見えるんだろうってところが,すごく気になります。

【長官】何も音楽だけじゃなくて,一つの人生,分かれ道ってあるじゃないですか。生きている全ての人にあるんだよね。そのときに,これのことを思い出してくれるとうれしいなって僕は思う。

【鈴木さん】そうですね。選択の瞬間に思い出してほしいですね。正解はないですよね。人生の選択に。

才能

長官:宮田亮平

【長官】映画「羊と鋼の森」を観て,私,印象に残っている言葉があるんですよ。この言葉ね,「才能ってのはさ,ものすごく好きだって…」

【鈴木さん】「才能ってのはさ,ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても,そこから離れられない執念とか,闘志とか,そういうものと似ている何か。」という言葉ですね。

【長官】実際,演じる鈴木さんの心の中から出てくる言葉だから,僕の心に残ったんですね。

【鈴木さん】そうです。すごく思っていることなんです,ふだんから。僕に才能があるとすれば,そんなに人より演技がうまいわけではなく,でも,お芝居が好きだって気持ちだけは,自分の才能だと思うようにしています。こういうセリフがぼくにまわってきたというのはうれしかったですね。

【長官】ふだんからこのセリフのようなことを思っている鈴木さんが発した言葉だからこそ,人の心にも印象づけたってことですね。

【鈴木さん】そうだと嬉しいです。言ってても気持ちがこもりました。

鈴木さんの留学の思い出

鈴木亮平さん

【長官】鈴木さんの,貴重な海外経験ってあるじゃないですか。僕はドイツなんですよ。

【鈴木さん】僕は高校生のときにアメリカに留学しました。

【長官】ドイツ語の対話で最優秀賞をとったとか。

【鈴木さん】そうなんです。スピーチコンテストがありまして,ドイツ語を少しだけ勉強してたんで,留学から帰ってきて,エントリーしてみたら,1位をとったんです。でももう全然しゃべれないです(笑)

【長官】なかなかこっちじゃ話す機会ないからね。

【鈴木さん】もともとアメリカ留学中にドイツ人の留学生と仲良くなりたくて勉強を始めました。

【長官】そうですね。友人ができると,とても早く言葉を覚えられるものですね。

【鈴木さん】ドイツの方って知的な面もあって,歴史とか芸術とかすごくリスペクトがあって,すばらしいなって思ったんです。

【長官】思わぬ話が…。

コツコツ,コツコツ

【鈴木さん】やっぱり,和音ちゃん(上白石萌音さんの役名)の方が,プロになっていくって決めたときに,毎日ピアノを練習する,コツコツ重ねていける,練習するお姉ちゃんの方がひょっとしたら,プロになる才能があったのかもしれないと思ったりしました。そう考えると,自分も作品と向かい合って,自分の努力の一つ一つを重ねてきたことが,伝わっていると信じたいですし,誰が見てもすばらしい才能がないとはいえ,一つ一つ積み上げてきた努力で勝負していくことで,自分だけのところに行けるのではないかって思うんです。芸術家っていうと,持って生まれたものとかセンスとか,潜在的なもののイメージがありますが,それだけじゃないぞっていうのもわかっていただきたいです。

【長官】何千人という学生を見てきて,今鈴木さんがおっしゃった,はじめどーんと,かけ上がった子がずーっと最後まで行くかと思うと,そうでもない。意外と目立たないところで,コツコツコツコツコツコツやった子が,ぶれなくてね,それから,ものすごい挫折がきても,崩れなくて,どん底までいかなくてすむ。ギリギリでも立ち上がっていくんだよね。逆に,どーんっていった子は,ザザザって,雪崩のように崩れていくこともある。人生わからないですね。

【鈴木さん】板鳥さん(三浦友和さんの役名)も,「コツコツです。」「コツコツです。」それをわかって言っているんですね。

【長官】数人の調律師の中で柳さんという役は,鈴木さんじゃなきゃいけないってところがありますね。

【鈴木さん】そうであったらいいなと思います。

【長官】こういう役を神が鈴木さんに与えるものなのか,どうなんですかね。

【鈴木さん】監督から,演じる上で,原作よりは少し明るい男にしてほしいって言われたんです。わりと原作が,みんなしっとりした調律師なんで,しっとりしたお店,江藤楽器さんになってしまうということで,ちょっと兄貴感を出してくれと言われました。そういうところで,自分にしかできない求められるところを表現しました。

【長官】いいね。そうか,そうか。そのへん出てますよね。

【鈴木さん】表現するとき,別人になろうっていうよりは,自分の中の自分をさらけ出すことがいいんじゃないかなって。僕が演じた柳さんと,他の人がやる柳さん,全く違うと思うんで,だから,常に自分をさらけ出すということをふだんから意識し,ふだんの自分をどう磨いていくかが,勝負なのかなって。そこに役者という仕事のおもしろさがあるんじゃないかと思っています。

【長官】東京国立近代美術館から,フィルムセンターが独立して,国立映画アーカイブ に改め,8万本以上あるフィルムを上映していこうと,文化庁は映画振興にも力を入れてます同じタイミングで,映画「羊と鋼の森」タイアップで宮田亮平に鈴木亮平の同じ「亮平」でしょ。なんかね,タイミングと御縁が集約してきている気がしてね,うれしいですね。

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