第2回ミュージアム・エデュケーター研修(前半日程)の実施報告

主催:
文化庁
共催:
公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館
期日:
平成24年9月26日(水)〜28日(金)
会場:
東京都美術館

平成24年9月26日(水)から28日(金)までの3日間,東京都美術館アート・スタディルームをメイン会場に,第2回ミュージアム・エデュケーター研修(前半日程)が開催されました。
同研修は,講義等の座学形式のみならず,ディスカッションやグループワークなどを多く取り入れた構成で,全体を通して,博物館教育の意義や博物館で教育事業に携わる者の基本姿勢を振り返る場となっています。また,あわせて,自ら教育事業を企画・運営し,教育プログラムを開発する能力や,自館の課題を見いだし対応する実践力を養うことを目指しています。
 今回の研修では,「博物館における学び」や「利用者の視点への顧慮」が前半日程での大きなテーマとして設定され,講義やディスカッション,グループワークのいずれにおいても,随所でこれらのテーマが取り上げられました。
なお,研修プログラムについては,「博物館の管理運営に関する研修」企画運営会議における検討をふまえて決定されています。
平成24年度は全国から100名近くの応募者があり,この中から53名が受講生として,前半日程の3日間を受講しました。
以下,研修で使用したテキストと写真で研修の様子を紹介します。

研修初日:9月26日(水)

初日は,布谷知夫氏(企画運営会議委員・三重県立博物館)の「博物館とミュージアム・エデュケーター」において,日本の博物館における教育活動や教育担当者の地位の実状について整理し,本研修の実施の目的,また今年度の研修内容のねらいについて,オリエンテーションを兼ねた講義から始まりました。
この後,佐伯 胖氏(青山学院大学)の基調講演「博物館における学び」で,人の「学び」の本質を振り返り,博物館における学びの特性について考えるきっかけが提示されました。

ワールド・カフェの様子
ワールド・カフェの様子

初日午後は,基調講演を受け,「ワールド・カフェ」(進行:企画運営会議委員・株式会社 美術出版社 高橋紀子氏,企画運営会議委員・徳川美術館 加藤啓子氏)で,「ミュージアムにおける学びとは?」「エデュケーターとしてできること・すべきこと」をテーマに活発な意見交換が行われています。
その後,大? 幸氏(放送大学)の博物館教育論で,博物館教育の基礎理論を学び,染川香澄氏(企画運営会議委員・ハンズ・オン プランニング)・井島真知氏(企画運営会議委員・林原自然科学博物館)・布谷知夫氏の「利用者の博物館体験について知る」の講義で,利用者の博物館体験を検証する様々な事例から,博物館利用者の視点をふまえた教育活動の重要性を再確認しました。また,様々な視点で展示やプログラムを評価・検証することが有用であると説かれています。
初日最後の「ミュージアム・コミュニティ」では,稲庭彩和子氏(企画運営会議委員・東京都美術館)を講師に,東京藝術大学特任助教(とびらプロジェクトマネージャ)の伊藤達矢氏の話を交えながら東京都美術館の「とびらプロジェクト」が紹介されました。従来の「ボランティア」とは本質的に異なる新たな取り組みに,受講生からも活発に質問が出されました。

研修2日目:9月27日(木)

研修2日目は,午前中いっぱいを「学校のよりよい利用形態にむけて」というテーマで講義・事例紹介・質疑を行い,午後は実際に一利用者の立場にたって,教育プログラムを体験しています。
まず,鈴木みどり氏(東京国立博物館)の講義で,何故学校対応が必要なのか?といった根本的な問いがあり,よりよい学校対応に向けたヒントが提示されました。
その後,博物館における事例紹介として,受講生の古川順子氏(山梨県立文学館)から山梨県立文学館の取り組みが紹介され,また,学校教育現場における博物館利用の事例紹介として,南育子氏(墨田区立業平小学校)と平岡健氏(川越市立霞ヶ関北小学校)からそれぞれ発表がありました。
墨田区立小学校の事例では,東京都や墨田区の図工専科の教師の研究会で,博学連携にかかる継続的な人材育成を行っていること,博物館利用の前後における学校での事前授業の様子などが具体的に紹介されています。
平岡氏からは,博物館を利用しにくい学校の実状について具体的な説明があり,学校の実状を知る良い機会になったという声が寄せられています。

午後の教育プログラム体験?では,稲庭彩和子氏を講師に,アートカードと展示室での対話型鑑賞を体験しました。特に歴史系の博物館に所属する受講生の中には,対話型鑑賞プログラムを体験したことがない方もあり,新鮮な体験となりました。美術・歴史・民俗といった資料の属性にかかわらず,対話を通して利用者の能動的な学びを引き出すことができるということへの気付きが生まれています。また,知識を一方的に伝えることで生まれる学びだけでなく,双方向の対話で生まれ,深まる学びがあることが実感されました。

教育プログラム体験Ⅰ対話型鑑賞プログラム
教育プログラム体験Ⅰ対話型鑑賞プログラム
教育プログラム体験Ⅱ「貝体新書:大人が学ぶ二枚貝」
教育プログラム体験Ⅱ「貝体新書:おとなが学ぶ二枚貝」
研修2日目の写真

また,教育プログラム体験?で,大野照文氏(京都大学総合博物館)による二枚貝を用いた教育プログラムを体験しました。普段の経験や知識をもとに,目の前の実物資料をじっくり観察することから,二枚貝のしくみを熟考・推理し,議論をしつつ,自らの力で新たな気付きを得るプログラムで,受講生は,一利用者としてプログラムを楽しみ,ワクワクしながら発見し学ぶ経験をしました。
大野氏からは,ファシリテーターも生涯学習者であり,幾度も試行錯誤しつつ教育プログラムを実践し,評価・検証しながらプログラムを育てることの大切さ等が説かれました。

研修3日目:9月28日(金)

研修前半日程最終日は,林浩二氏(千葉県立中央博物館)・染川香澄氏の進行により,教育プログラムをグループ毎に開発・発表し,評価をうけ,改良するワークショップを終日実施しています。

開発するプログラムは,東京都美術館で開催中の「東京都美術館ものがたり」展での展示を取り入れたもので,各班自由な発想で,開発するプログラムの目的やねらい―利用者にどのような学びを引き起こしたいのか―を意識しつつ,利用者が楽しんで学べる企画を練りました。
普段ひとりで教育プログラムを開発し,評価や改良の実践経験が乏しかった受講生にとっては,複数で議論しながら企画することで,豊かな発想のプログラムが生まれること,複数の目の評価を受けることで,プログラムが磨き上げられていくことを実感できるコマとなりました。

研修3日目の写真
研修3日目の写真
グループワーク(教育プログラム開発・評価・検証・改良)の様子
研修3日目の写真
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