第3回ミュージアム・エデュケーター研修(前半日程)の実施報告

主催:
文化庁
共催:
公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
協力:
練馬区立石神井公園ふるさと文化館
期日:
平成25年9月4日(水)〜6日(金)
会場:
東京都美術館

平成25年9月4日(水)から6日(金)までの3日間,東京都美術館アートスタディルームを主な会場として,第3回ミュージアム・エデュケーター研修(前半日程)が開催されました。
本研修は,博物館教育の意義や博物館で教育事業に携わる者の基本姿勢を振り返ること,また,教育事業を企画・運営し,教育プログラムを開発する能力や,自館の課題を見いだし対応する実践力を養うこと等を目指して実施されています。
本研修も3回目の開催となり,講義→体験→実践という大きなプログラムの流れは定まったものの,昨年までの研修の振り返りを踏まえ,細かな実施内容に改良が加えられました。
会場では,全国から集まった52名の受講生が,問題意識を共有する同志として,館種や規模を超えて前向きに課題に向き合い,議論する姿があちこちでみられました。
以下,研修で使用したテキストと写真で研修の様子を御紹介します。

日程表(248KB)

第3回ミュージアム・エデュケーター研修(前半日程)テキスト・資料集(456KB)

当日発表資料

研修初日:9月4日(水)

基調講演の風景
基調講演の風景

初日は,昨年同様,布谷知夫氏(企画運営会議委員・三重県立博物館)の「博物館とミュージアム・エデュケーター」において,日本の博物館における教育活動や教育担当学芸員の位置の実状について整理し,本研修の実施の目的について,オリエンテーションを兼ねた講義から始まりました。

この後,鈴木忠氏(白百合女子大学)の基調講演「人はどのように学ぶのか−発達心理学の観点から−」で,様々な実験結果を通して,生涯にわたって発達する可能性のある人間の「学び」の本質が具体的に提示されました。講義中に触れられた「主体的なかかわりの重要性」「他者との対話」「内省」「ゆらぎ」といった重要なキーワードは,以降の前半日程の研修プログラムを通して,幾度も反芻されることとなりました。
初日午後は,「ワールドカフェ」(進行:企画運営会議委員・株式会社美術出版社 高橋紀子氏,企画運営会議委員・徳川美術館 加藤啓子氏)で,「ミュージアム・エデュケーターの役割とは?」「よいエデュケーターになるために何をするべき?」をテーマに,活発な意見交換が行われています。冒頭のオリエンテーションや基調講演を受けて議論は広がり,手元の模造紙に書き留められた印象的なキーワードのメモも,意見交換の広がりとともにどんどん発展していきました。

ワールドカフェで印象に残ったキーワード
ワールドカフェで印象に残ったキーワード

その後,布谷知夫氏の博物館教育論で,我が国における博物館教育の位置付けの歴史的な変化や,学校教育との違い,現代の社会的な課題に向き合う博物館とエデュケーターの役割等が説かれました。
また,染川香澄氏(企画運営会議委員・ハンズ・オン プランニング)の「利用者の博物館体験について知る」の講義・ディスカッションでは,実際に自館の利用者層を振り返り,利用者の博物館体験を検証する事例の紹介を通して,博物館利用者の視点をふまえた予測・実践・検証のくり返しの重要性が再確認されました。
初日最後の「ミュージアム・コミュニティ」では,稲庭彩和子氏(企画運営会議委員・東京都美術館)・伊藤達矢氏(東京藝術大学特任助教・とびらプロジェクトマネージャ)を講師に,東京都美術館のアート・コミュニケーション事業が紹介されました。利用者主体に設定された館の「使命」を柱として展開されている新たな取組に注目が集まりました。

研修2日目:9月5日(木)

研修2日目は昨年同様,午前中いっぱいを「学校のよりよい利用形態にむけて」というテーマで講義・事例紹介・ディスカッションを行い,午後は実際に一利用者の立場にたって,教育プログラムを体験しています。
まず,可児光生氏(企画運営会議委員・美濃加茂市民ミュージアム)の講義で,学校と博物館がそれぞれ主体的に,また相互の信頼関係の上で築く利用形態について,実態とあるべき姿,具体的な対応策,継続的・長期的検証の重要性等について整理されました。

「学校のよりよい利用形態にむけて」より
「学校のよりよい利用形態にむけて」より

その後,博物館における事例紹介として,第2回エデュケーター研修の修了生である河田泰之氏(泉南市埋蔵文化財センター)から,小学校1年生を対象とした「民具鑑賞プログラム」等を中心に,「前のめり」で博物館を楽しんでもらう工夫等が紹介されました。
また,学校教育現場における博物館利用の事例紹介として,南育子氏(墨田区立業平小学校)と平岡健氏(川越市立新宿小学校)からそれぞれ発表がありました。

墨田区立業平小学校の事例では,東京都や墨田区の図工専科の教師の研究会で,博学連携にかかる継続的な人材育成を行っていること,また東京都内の美術館との具体的な連携授業が紹介されています。
平岡氏からは,博物館を利用しにくい学校の実状について管理職の立場から具体的な説明があり,受講生には新たな気付きがもたらされました。

午後の教育プログラム体験Ⅰでは,稲庭彩和子氏・河野佑美氏(東京都美術館)を講師に,東京都美術館の熊谷香寿美氏,同館の「とびらプロジェクト」でアート・コミュニケータ(とびラー)として活躍される越川さくら氏の協力を得て,アートカードと展示会場での対話型鑑賞を体験しました。
「対話」や「内省」をしながら「ゆらぐ」自分と向き合い,利用者の立場に身を置くことが,受講生にとっては新鮮な体験となっています。

教育プログラム体験Ⅰアートカードによる対話型鑑賞
教育プログラム体験Ⅰアートカードによる対話型鑑賞

また,教育プログラム体験Ⅱでは,大野照文氏(京都大学総合博物館)による二枚貝を用いた教育プログラムを体験しました。知っているはず,見ているはずの二枚貝を前に,普段の経験や知識の頼りなさを実感しました。また,資料をじっくり観察し,推理し対話しながら自らの力で新たな気付きを得るプロセスは,「学び」の本質を考えるうえでも貴重な時間となりました。
また,美術や歴史,民俗,自然科学等の資料の属性を超えて,対話による鑑賞が可能であり,また主体的な学びに有効であることが実感されました。
大野氏からは,幾度も試行錯誤しつつ教育プログラムを実践し,評価・検証しながらプログラムを育てることの大切さ等が説かれました。

教育プログラム体験Ⅰアートカードによる対話型鑑賞
教育プログラム体験Ⅱ「貝体新書:おとなが学ぶ二枚貝」
教育プログラム体験Ⅱ「貝体新書:おとなが学ぶ二枚貝」

研修3日目:9月6日(金)

研修前半日程最終日は,昨年度までに引き続き,林浩二氏(千葉県立中央博物館)・染川香澄氏の進行により,教育プログラムをグループ毎に開発・発表し,評価をうけ,改良するワークショップを終日実施しています。
開発するプログラムは,東京都美術館の建物・空間を素材とするもので,開発するプログラムの目的やねらいを意識しつつ,利用者が楽しんで学べる企画を練りました。
昨年同様,複数で議論しながら企画することで,豊かな発想のプログラムが生まれ,複数の目の評価を受けることでプログラムが磨き上げられていく体験は,大きな刺激となり,また達成感を感じる時間となりました。
また,各グループで作成されたプログラムは,受講生各々の館でも応用・実践可能なものであり,参考事例として具体的な「お土産」になっています。

グループワークの実施風景
グループワークの実施風景
グループワークの実施風景
グループワークの実施風景
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