参考資料1-7

特種な資産に係る世界遺産一覧表への登録に関する指針(概要)

世界遺産委員会は,ある特種な文化遺産及び自然遺産を認定し,定義してきており,世界遺産一覧表に記載する際の資産の評価を助ける特定の指針を採用した。追加の可能性はあるものの,これまで,「文化的景観」,「歴史的町並みと街区」,「運河に係る遺産」,「遺産としての道」の4つの分野を扱っている。

1.文化的景観

(1)定義と類型

「文化的景観」は文化遺産であり,条約第1条に定める「自然と人間の共同作品(combined works of nature and of man)」である。「文化的景観」は,人間を取り巻く自然環境からの制約や恩恵又は継続する内外の社会的,経済的及び文化的な営みの影響の下に,時間を超えて築かれた人間の社会と居住の進化の例証である。
「文化的景観」の世界遺産登録においては,顕著な普遍的価値を有することと同時に,明確に限定された人文地理学上の地域において代表的であることの双方に基づきつつ,また当該地域の本質的なかつ特色ある文化的な諸要素を例証するに足るという観点から選択されるべきである。
「文化的景観」という用語は,人間と人間を取り巻く自然環境の間における相互作用の多様性を表現する。
「文化的景観」はしばしば持続可能な土地利用に関する独特の技術を反映しており,その「文化的景観」を成り立たせる背景となる自然環境の特徴や制約を考慮するならば,それは人と自然との特殊な精神的関係をも反映している。「文化的景観」の保護は,持続可能な土地利用における現代の技術への応用という観点からも貢献しうるものであり,その景観について自然の価値を維持したり,高めたりすることにも繋がる。土地利用の伝統的な形態が継続的に存在することは,世界中の多くの地域において生物多様性を維持することにも繋がる。したがって,伝統的な「文化的景観」の保護は生物多様性の保持の観点からも有益である。
「文化的景観」は以下に示す3つの主な類型に分類される。
 
(1) 人間の意志により設計され,意図的に創り出された景観
(2) 有機的に進化してきた景観
 
(ⅰ) 進化の過程が過去のある時期に,突然又は時代を超えて終始して残存している(あるいは化石化した)景観
(ⅱ) 伝統的な生活様式と密接に結びつき,現代社会の中で活発な社会的役割を保ち,進化の過程が今なお進行中の継続している景観
(3) 自然的要素の強力な宗教的,芸術的又は文化的な関連性によって定義される景観

(2)「文化的景観」の世界遺産一覧表への登録

世界遺産一覧表に登録する資産として「文化的景観」を導入することとしたのは,その目的に適った性質と明瞭さに関連する。如何なる場合においても,選択される事例は,「文化的景観」が例証する総合性を適切に代表するのに足るものでなければならない。文化的に重要な交易と交流のネットワークを代表するような線状に長く展開する範囲を選択する可能性は排除されるべきではない。
保護と管理のための一般的な基準は「文化的景観」においても等しく適用されうる。文化的及び自然的の両側面から捉えられる景観に見られる価値の全範囲に留意することが重要である。登録推薦は地域社会の協力と合意の下に準備されるべきである。
「文化的景観」という類型が存在することは,「作業指針」の第77節に定義された登録基準に基づく世界遺産一覧表への登録において,文化遺産と自然資産の両方の登録基準に関連する遺産(第46節の複合遺産の定義を参照のこと。)の例外的な重要性を示す資産が存在する可能性を示しているのではない。[(1)定義の第1節を参照すれば,「文化的景観」は第一義的には文化遺産であって複合遺産ではないため,]複合遺産として評価する場合においては,[他の遺産と同様に]文化遺産及び自然遺産に関するそれぞれの登録基準を同時に満たす必要がある。

(3)登録例

「文化的景観」の類型ごとの登録例は以下のとおり。
 
(1) デッサウ・ヴェルリッツの王宮庭園 (2000年,ドイツ連邦共和国)
アランフェスの文化的景観 (2001年,スペイン)
(2)
(ⅰ) バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群 (2003年,アフガニスタン)
バムとその文化的景観 (2004年,イラン・イスラム共和国)
タムガリの考古的景観にある岩絵群 (2004年,カザフスタン共和国)
(ⅱ) キューバ南東部のコーヒー農園発祥地の景観 (2000年,キューバ共和国)
エーランド島南部の農業景観 (2000年,スウェーデン王国)
アルト・ドウロ・ワイン生産地域 (2001年,ポルトガル共和国)
ライン渓谷上流中部 (2002年,ドイツ連邦共和国)
トカイ地方のワイン産地の文化的景観 (2002年,ハンガリー共和国)
オルチア渓谷 (2004年,イタリア共和国)
ピーコ島のブドウ園文化の景観 (2004年,ポルトガル共和国)
リュウゼツランの文化的景観と旧テキーラ生産施設 (2006年,メキシコ合衆国)
(3) 武夷山(ウイシャン) (1999年,中華人民共和国)
スクルの文化的景観 (1999年,ナイジェリア連邦共和国)
紀伊山地の霊場と参詣道さんけいみち (2004年,日本)
オスン・オソグボの聖なる樹叢じゅひょう (2005年,ナイジェリア連邦共和国)
(3) 自然的要素の強力な宗教的,芸術的又は文化的な関連性によって定義される景観

2.歴史的町並みと街区

(1)定義と類型

世界遺産一覧表への登録にふさわしい都市特有の建造物群は,以下に示す3つの主な類型に分類される。
 
(1) 現在そこに人が暮らしていないが,今も変わらずに過去の考古学的証拠を示している町並み。また,これらは一般にその真正性に関する基準を満たし,かつその保全状況を比較的容易にコントロールすることができる。
(2) 現在もそこに人が暮らしている歴史的町並みであって,まさにその特質によって,社会経済的,文化的な変化の影響を受けて発展してきたもので,なおかつ発展し続けているもの。このような場合においては,変化し続ける状況に対する真正性の評価は難しく,どのような保全方針を採用しても議論の余地が残る。
(3) 20世紀の新しい町並みであって,逆説的とも言えるが上記の2つのカテゴリーに通じる共通点を同時に有しているもの。もともとの都市的構成が明瞭に認識することができ,かつその真正性は否定できないものの,その発展を十分にコントロールすることができないため,その将来の姿は予測することができない。

(2)「歴史的町並みと街区」の世界遺産一覧表への登録

「歴史的町並み及び街区」の重要性については以下に示す観点に基づき検討されうる。
 
(1) 既に人の居住が見られない町並み
(2) 現在も人の居住が見られる歴史的町並み
(3) 20世紀の新しい町並み

(3)登録例

 
古都ホイアン (1999年,ベトナム社会主義共和国)
ウィーン歴史地区 (2001年,オーストリア共和国)
中世市場都市プロヴァンス (2001年,フランス共和国)
パルパライーソの海上都市の歴史的町並み (2003年,チリ共和国)
マカオの歴史記念物群 (2005年,中華人民共和国)

3.運河に係る遺産

(1)定義

ひとつの運河は人間が巧みに計画したひとつの水路である。本質的にあるいはこの種の文化遺産を代表する例外的な事例として,歴史的又は技術的観点から顕著な普遍的価値を持ち得る。このような意味での運河は,記念碑的な作品,線状に延びる「文化的景観」のうちの特例,あるいは複合的な「文化的景観」の統合された構成要素として理解される。

(2)「運河に係る遺産」の世界遺産一覧表への登録

「運河に係る遺産」の重要性については「技術」,「経済」,「社会」及び「景観」の観点に基づき検討されうる。

(3)登録例

  ミディ運河 (1996年,フランス共和国)
中央運河にかかる4機の水力式リフトとその周辺のラ・ルヴィエール及びル・ルー(エノー) (1998年,ベルギー)

4.遺産としての道

(1)定義

「遺産としての道」の概念は豊かで創造力に富むものであり,相互理解,歴史への複合的なアプローチ,平和の文化がすべて作用する特別な枠組みを提供する。
「遺産としての道」は有形の資産により構成されており,国や地域を越えた交流や多面的な対話をもたらすことから文化的に重要であり,道に沿って展開される空間的,時間的な移動の相互作用を例証している。

(2)「遺産としての道」の世界遺産一覧表への登録

「遺産としての道」の世界遺産一覧表への登録においては,以下に示す観点が検討されるべきである。
 
(ⅰ) 顕著な普遍的価値を保持している。
(ⅱ) 「遺産としての道」の概念は,
 
移動の活動力とやり取りの観念が,時間的にも空間的にも継続していることに基づき,
道を構成している単なる集合を超越する価値を有し,その道が獲得している文化的重要性を通じて,総体を包括し,
国家間若しくは地域間のやり取りと対話に焦点を当て,
発展することで宗教的,商業的,行政的その他の初期の目的に追加された異なる諸側面によって,多次元的である。
(ⅲ) 「遺産としての道」は,「文化的景観」の特殊で動的なタイプとして認識されうるものである。
(ⅳ) 「遺産としての道」の特定は,道そのものの重要性を証明する強固さと物的諸要素の集積による。
(ⅴ) 真正性の状態に関する判断はその道の地面の状態と「遺産としての道」を構成するその他の諸要素に適用されるべきである。その場合,道の区間のほか,今日においてどれほど利用されているかと同時に,その影響下にある人々の発展に対する妥当な願いに留意することとする。
なお,これらの観点においては,道を取り巻く自然環境の枠組み及び無形的及び象徴的な次元をも留意することとする。
 

(3)登録例

  サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路 (1993年,スペイン)
紀伊山地の霊場と参詣道さんけいみち (2004年,日本)
 
ここに示された「遺産としての道」に関する整理は,1994年にスペインのマドリッドで開催された「文化遺産としての道」に関する専門家会議での成果に基づくものであるが,その後の委員会における様々な議論により,「遺産としての道」の概念は広がりを見せている。
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