資料8

平成19年度「世界遺産暫定一覧表」追加記載への地方公共団体からの提案(概要)

1.北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群

(1) 所在地
北海道 北見市 標津町しべつちょう
(2) 資産の種別
遺跡
(3) 資産のコンセプト
竪穴住居は,新石器時代の代表的な住居形式であり,日本列島では完全に埋没した状態で地下に埋蔵されているのが一般的である。しかし,北海道では竪穴住居が埋まりきらずに窪みの状態で残されており,独特の遺跡景観を形成している。特に,常呂ところ遺跡,標津遺跡群は,それぞれ2000基以上から成る我が国最大規模の竪穴住居跡群であり,両遺跡は縄文時代早期から続縄文時代を経て,擦文さつもん・オホーツク文化期(奈良・平安時代並行期)のおよそ7,000年もの長期間にわたって営まれており,当該地域の人々が自然と調和した生活を継続的に営んできたことを物語り,人類と自然の調和を示す顕著な見本である。

2.松島-貝塚群に見る縄文の原風景

(1) 所在地
宮城県 塩竈しおがま市 東松島市 松島町 七ヶ浜町 利府りふ
(2) 資産の種別
遺跡,記念工作物
(3) 資産のコンセプト
最終氷期以降の温暖化にともなう海水面の上昇は,大小230あまりの島々からなる特別名勝松島の原風景を創出した。この自然環境の中で生活をはじめた縄文人は,豊かな山の幸,海の幸を存分に享受しながら,大規模で保存状態の良好な貝塚群を遺していった。また,中世は霊場松島として栄え,近世には桃山建築の典型を今に伝える仙台藩主伊達家の菩提寺である瑞巌寺ずいがんじが建立され,宗教的要素も景観の重要な構成資産となった。このように日本三景といわれる松島の遺産は,人と自然が共生に成功した日本を代表する文化遺産といえるのである。

3.水戸藩の学問・教育遺産群

(1) 所在地
茨城県 水戸市
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡
(3) 資産のコンセプト
日本が近代国家として急速な発展を遂げた背景に,世界史上特筆される近世日本の広汎かつ高水準な学問・教育があった。「教育爆発の時代」と称されるほど藩校・ごう校・私塾・寺子屋など多様な教育機関が,地方都市・村落にまで普及,すべての身分階級に受容された。その多様な様相が一藩のなかに凝縮されているのが水戸藩である。日本を代表する史書『大日本史』を編纂した水戸彰考館しょうこうかん,藩校弘道館こうどうかん,修業の休養の場たる偕楽園かいらくえん,そして私塾日新塾がそれを示し,世界の学問・教育史において特筆すべき文化遺産である。

4.足尾銅山-日本の近代化・産業化と公害対策の起点-

(1) 所在地
栃木県 日光市
(2) 資産の種別
遺跡(文化的景観を含む),記念工作物
(3) 資産のコンセプト
近代,足尾銅山は,最新技術を導入し一貫した銅生産システムを確立,東洋一の生産量を誇る銅山へ成長した。その一方,精錬で発生する亜硫酸ガスと鉱山廃水は極めて深刻な被害を周辺に与えた。継続した公害対策が実施され,独自の技術は国内外に影響を与えた。日本の急速な産業化の歴史を示すと同時に,日本で初めて社会問題化した公害とその対策の起点でもあり,同時期の先進諸国共通の大きな課題への挑戦でもあった。その景観は20世紀の縮図であり,人類が21世紀になすべきことを示す現在進行形の遺産である。

5.足利学校と足利氏の遺産

(1) 所在地
栃木県 足利市
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡
(3) 資産のコンセプト
足利学校は,創設時期については諸説があるが,15世紀初頭に関東管領上杉憲實によって再興されたわが国最古と称される学校。中世には易学,本草学ほんぞうがく,兵学などを教授し,僧侶,武士等が多数学び,16世紀半ばにはフランシスコ・ザビエルによって「坂東の学院」として海外にも紹介されたほか,東インド図にも記載が見られる。江戸時代には幕府の庇護の下で学校施設の整備が行われ,現在,その当時の孔子廟・門などが現存するほか,上杉氏寄進の古書籍等も現存し,国宝等の文化財指定を受ける。足利学校は中世以前に起源を有する教育施設としては特異な存在。足利学校に隣接する位置にある鑁阿寺ばんなじは平安時代末期に足利荘を支配した足利氏の居館を境内地として継承した中世以来の古刹こさつ。四周に堀と土塁が残り,居館跡としての旧態を良く留める。樺崎寺跡かばざきてらあとは足利義兼が創建した寺院で,義兼没後は足利氏の廟所として浄土庭園等が整備された。

6.埼玉古墳群-古代東アジア古墳文化の終着点-

(1) 所在地
埼玉県 行田市
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡
(3) 資産のコンセプト
古代国家形成期には,世界的に王権の象徴として巨大な墳墓が造営された。東アジアではそれが盛土によって築かれ,わが国では前方後円墳という独特の墳形が発達した。
埼玉古墳群は,5世紀後半から7世紀始めの周濠をもつ巨大前方後円墳,わが国最大の円墳を含む,有数の古墳群である。副葬品には東アジア世界との交流を示す文物とともに115文字からなる金錯銘鉄剣きんさくめいてっけんがある。鉄剣は,5世紀において中国王朝を頂点とする政治体制が形成されていたことを示す唯一の考古資料として貴重である。

7.立山・黒部~防災大国日本のモデル-信仰・砂防・発電-~

(1) 所在地
富山県 富山市 黒部市 上市まち 立山まち
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡(文化的景観を含む)
(3) 資産のコンセプト
立山・黒部地域では,3,000m級の急峻な峰々から多量の降水が急流河川となって富山湾に注ぎ,広大なカルデラ状地形や厳しいV字状峡谷などの自然景観が形成されるとともに,下流の人々に度重なる災害をもたらした。古来人々は山と水を畏れ敬い,独特の立山信仰を形成した。近代,人々は山と水を治める防災施設群を,また山と水を活かす発電施設を建設した。自然災害から暮らしを守り続けてきた資産が集約的に存在し,防災大国日本のモデルとして,世界でも希有な山と水の織りなす文化的景観である。

8.日本製糸業近代化遺産~日本の近代化をリードし,世界に羽ばたいた糸都しと岡谷の製糸資産~

(1) 所在地
長野県 岡谷市
(2) 資産の種別
記念工作物
(3) 資産のコンセプト
アジア諸国で初めて近代化を成し遂げる原動力となった日本製糸業は,西欧諸国の技術を導入すると同時に,独自の智恵と工夫をたくみに取り入れることで,世界最高水準の製糸技術と生産体制を確立した。岡谷の製糸業は,日本製糸業の発展の各段階において全国に伝播する新たな繰糸技術や生産システムを生み出して日本の近代化をリードし,世界市場への生糸供給基地の役割を担った。岡谷という都市空間のなかで,このような生産器械体系とその生産交流をたどることができる日本製糸業近代化遺産である。

9.天橋立-日本の文化景観の原点

(1) 所在地
京都府 宮津市 伊根町 与謝野町
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡
(3) 資産のコンセプト
紺碧の内海に一筋の美しい白砂青松を描く天橋立は,日本を代表する特徴的な海洋景観であり,周辺の歴史宗教遺産群と融合したその景観は,風景美を自らの心象や芸術に仮託し,眺め見ることを憧憬してきた日本的美意識の形成過程を物語る複合的な文化景観である。数千年にわたり保全・継承されてきた砂嘴さしとクロマツ林により形成され,さまざまな文学・芸術,造園のモチーフとして数多くの文化芸術作品を生み出すとともに,東アジアに広く伝わる海洋民の基層信仰である「海中他界」信仰が展開する場所となった。

10.百舌鳥もず・古市古墳群-仁徳陵古墳をはじめとする巨大古墳群-

(1) 所在地
大阪府 堺市 羽曳野市 藤井寺市
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡
(3) 資産のコンセプト
4世紀後半から6世紀前半にかけて築造された古墳群。平面積で世界最大の仁徳天皇陵古墳を頂点に,多様な墳形と規模の総数87基からなる。副葬品には中国,朝鮮半島など東アジアにおける文化交流が示される。世界のいくつかの地域で,古代国家形成期に共通して築造される巨大記念工作物としても顕著な事例。3世紀後半から7世紀に,前方後円墳という独自の墳形を頂点とし,日本列島の大半の地域で20万基以上の墳墓が階層的に築造されるという,他に類をみない独特の文化がかつて存在したことを示す無二の存在。

11.近世岡山の文化・土木遺産群-岡山藩郡代津田永忠の事績-

(1) 所在地
岡山県 岡山市 備前市 赤磐市 和気町
(2) 資産の種別
遺跡,記念工作物
(3) 資産のコンセプト
岡山藩主池田光政・綱政の下で手腕を発揮した藩郡代津田永忠の事績を示す主として土木技術を駆使した遺産群。主要なものとしては主要建物等が現存する旧閑谷しずたに学校,旧岡山藩藩学,大名庭園として著名な岡山後楽園,国内最古の閘門こうもん式水門である倉安くらやす川吉井水門,近世初期の独創的な治水技術を示す百間川大水尾ひゃっけんがわおおみお旧堤,元禄期に構築された大多府たぶ漁港元禄防波堤などで構成される。岡山藩における藩政初期の教育・文化・産業等の振興を具体的に物語る貴重な遺産群である。

12.山口に花開いた大内文化の遺産-京都文化と大陸文化の受容と融合による国際性豊かな独自の文化-

(1) 所在地
山口県 山口市
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡
(3) 資産のコンセプト
山口は室町幕府の有力守護大名大内氏の本拠地。大内氏は中国大陸の明国,朝鮮王朝,琉球王国とも積極的な通交を展開するなど,一大名としては特異な存在。山口は,宣教師ザビエルが日本に上陸した後,最初に教会を建設した町であり,そのザビエルが「日本でもっとも有名な町」「一万人以上の人々が住み」と書簡に記したように,強大な軍事力,豊富な財力を背景に独特の文化的発展を遂げた。その大内文化は京都から移入伝播された要素に加えて,大陸文化の影響を受けるなど,当時としては特徴的な在り方を示す。構成資産群は大内氏の居館と関連する山城,大内氏ゆかりの社寺とその建築群,寺院に営まれた庭園等が主なものである。

13.阿蘇-火山との共生とその文化的景観

(1) 所在地
熊本県 阿蘇市 南小国町みなみおぐにまち 小国町おぐにまち 産山村うぶやまむら 高森まち 南阿蘇むら 西原むら
(2) 資産の種別
記念工作物,遺跡(文化的景観を含む)
(3) 資産のコンセプト
「阿蘇」は活発な火山活動の結果により形成された,広大なカルデラの中に5万人の人々の暮らしが営まれているというまれな地域である。ここには,火山への畏敬の念を表す阿蘇神社への信仰,また,「採草火入れ放牧」によって維持されて来た人為的な「草地景観」などが残されている。「阿蘇」は,古来より自然と人が絶妙なバランスをもって共生している地域であり,活火山と寒冷で痩せた大地という過酷な自然環境に向き合った人々のたくましさと知恵との記憶を現在にとどめるかけがえのない遺産である。
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