1.日時
平成20年10月1日(水) 10:00~12:00
2.場所
如水会館 3階 松風の間
3.出席者
- (委員)
- 青山,石坂,大林,大渕,岡田,金原,川内,後藤(幸),迫本,佐々木,里中,瀬尾,高井,常世田,土肥,中山,野村,福王寺,松田,三田,宮川,村上の各委員
- (文化庁)
- 高塩次長,関長官官房審議官,山下著作権課長 ほか関係者
4.議事次第
- 1 開会
- 2 議事
- (1)平成20年度使用教科書等掲載補償金について
- (2)平成20年度使用教科用拡大図書複製補償金について
- (3)法制問題小委員会平成20年度中間まとめについて
- (4)過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会中間整理について
- (5)私的録音録画小委員会の審議の経過について
- (6)国際小委員会の審議の経過について
- (7)その他
- 3 閉会
5.配布資料
- 資料1
- 「平成20年度使用教科書等掲載補償金について」関係資料(597KB)
- 資料2
- 「平成20年度使用教科用拡大図書複製補償金について」関係資料(577KB)
- 資料3
- 法制問題小委員会 平成20年度中間まとめ(概要)(751KB))
- ◆法制問題小委員会 平成20年度中間まとめ(558KB)
- 資料4
- 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会 中間整理(概要)(494KB)
- ◆過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会 中間整理(921KB)
- 資料5
- 私的録音録画小委員会の審議の経過について(172KB)
- 資料6
- 国際小委員会の審議の経過について(137KB)
- 資料7
- 大林委員意見書(コンテンツの利用円滑化と権利者不明に係る方策に対する考え方)(183KB)
- 参考資料1
- 文化審議会著作権分科会委員名簿(125KB)
- 参考資料2-1
- 「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」の概要(131KB)
- 参考資料2-2
- 「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」の制定に伴う著作権法一部改正関連条文抜粋(132KB)
- 参考資料2-3
- 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律 新旧対照条文(著作権法一部改正部分)(108KB)
- 参考資料3-1
- 著作権保護技術と補償金制度について(案)(第2回私的録音録画小委員会配布資料2)(219KB)
- 参考資料3-2
- 私的録音録画補償金制度の具体的制度設計について(案)(第2回私的録音録画小委員会配布資料3)(190KB)
- 参考資料4
- 「知的財産推進計画2008」(2008年6月18日知的財産戦略本部決定)~著作権等関係部分抜粋~(573KB)
- 参考資料5
- デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について<検討経過報告>
(平成20年5月29日知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会)(318KB) - 参考資料6
- 文化審議会著作権分科会(第25回)議事録(275KB)
6.議事内容
- ○委員及び事務局の交代の紹介
新しく委員となられた,広崎委員の照会があり,続いて事務局の移動に伴う紹介があった。 - ○平成20年度使用教科書等掲載補償金について
使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。 - ○平成20年度使用教科用拡大図書複製補償金について
使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。
以上の議事については,文化審議会著作権分科会の議事の公開について(平成18年3月1日文化審議会著作権分科会決定)その1(2)に基づいて非公開とし,同決定の6及び7に基づき議事要旨を作成し,公開することとする。
(3)法制問題小委員会平成20年度中間まとめについて
- 【野村分科会長】
- 次の議題に移りたいと思います。
まず,法制問題小委員会において取りまとめていただいた中間まとめについて議論をしたいと思います。この中間まとめについては,今後,意見募集を行い,それを踏まえてさらに審議を進めていくものでございます。
それでは,中山主査よりご報告をお願いいたします。 - 【中山主査】
- 法制問題小委員会において中間まとめを行いましたので,ご報告申し上げます。
今期(第8期)の法制問題小委員会では,前期からの継続課題といたしまして3点,(1)「デジタルコンテンツ流通促進法制」,(2)私的使用目的の複製の見直し,(3)機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱い,この3点を検討してまいりました。また,これに加えて,「知的財産推進計画2008」では,新たに今年度中に法的措置を講ずべき課題として,(4)リバース・エンジニアリングに係る法的課題,(5)研究開発における情報利用の円滑化,この2点が盛り込まれておりましたので,この2つの課題を加えまして,5点,議論を進めてまいりました。
主な論点をご報告いたします。
まず,1番目の「デジタルコンテンツ流通促進法制」,資料3のページ1でございます。これにつきましては昨年来の検討課題でありますけれども,「経済財政改革の基本方針2007(いわゆる「骨太方針2007」)」において関連の法制度を整備することとされているものであります。本小委員会といたしましては,「デジタルコンテンツ流通促進法制」として3つの内容を柱とすべきであると考えております。
まず,1つ目の「コンテンツの二次利用の円滑化に関する課題」につきましては,「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」で検討されている権利者不明の場合の制度的措置を早期に実施に移すべきこととしております。
2つ目の「インターネット等を活用した創作・利用に関する課題」につきましては,現在の権利制限規定と,インターネット等の利用実態との乖離の解消を適宜検討していくことが妥当であるといたしました。これに関連して,「違法に流通しているコンテンツへの対策」につきましても,権利者が安心してインターネットにコンテンツを供給するための環境整備として,「デジタルコンテンツ流通促進法制」に位置付けていくことが適当であるといたしました。
(2)の「私的使用目的の複製の見直し」につきましては,違法複製物等からの私的複製を著作権法第30条の適用除外とすることにつきまして,録音録画以外の分野の取扱いを検討いたしました。また,(3)機器利用時・通信過程で生ずる蓄積等,(4)コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリング,(5)研究開発の過程で行われる著作物の利用につきましては,一定の範囲で権利制限を行うことが適当であるといたしました。
詳細につきましては,事務局から紹介をお願いいたします。 - 【黒沼著作権調査官】
- それでは,詳細についてご説明させていただきたいと思います。
まず,1ページは「デジタルコンテンツ流通促進法制」につきまして,先ほど主査からご説明のあったとおり3つの内容を盛り込むべきとされていましたが,それぞれの詳細は2ページ以降にございます。
2ページは「デジタルコンテンツ流通促進法制」の1つ目の柱でございますが,コンテンツの二次利用に関する課題としまして,特に過去のテレビ番組などについて課題意識が持たれていたということもございますので,それについて検討してまいったわけですが,著作権契約以外の問題も様々あるということでありましたが,著作権契約上の課題については権利者不明等によって契約交渉が容易でない場合の問題が中心課題ということです。
これは昨年までの段階でも整理をしておりました。その点につきまして,過去の著作物等の小委員会でもいろいろ検討されておりまして,これは後ほどの議題で紹介いたしますので詳細は省略いたしますが,法制問題小委員会では,そのうち,権利者不明の場合に十分な調査をした上でも権利者が不明である場合については,一定の条件の下に利用を認める制度的措置について早期に実施に移すべきということで,結論をいただいております。
次のページのインターネット等を活用した創作・利用に関する課題といたしましては,インターネット時代に著作権法に様々な問題があるのではないかという課題意識を持たれているということもございまして,委託調査を実施いたしまして,関連事業者などに問題と感じている点を調査いたしました。その結果,既に著作権分科会でも課題として取り上げていただいているものがほとんどでございましたが,中には新たな課題も出てきたということでございます。具体的には,先ほど主査からご紹介があったように,現在の権利制限規定の切り口,例えば私的領域であるとか,非営利無料であるという場合には,権利者の許諾なく利用ができるという規定になっておりますが,現在の状況の中では,権利者の利益を不当に害する行為かどうかということと,この権利制限規定の切り口とに乖離が生じてきているのではないかという問題意識が示されております。ということであれば,今後,この乖離の解消に努めていくことが適当ではないかという取りまとめをいただいております。
また,インターネット関係の課題としては,不特定多数の者が制作に関わるような場合が特にインターネット上で多く行われているということもございまして,こういう点についてはさらに今後精査と研究を行うことが必要ということでございます。
4のページからは各論になりますけれども,私的使用目的の複製の見直しについてでございます。こちらは私的録音録画小委員会の中間的な整理の中で,昨年の分科会でもご報告させていただきましたけれども,私的使用目的の複製,第30条の権利制限について範囲の見直しが検討され,(1)違法複製物からの私的録音録画,あるいは,(2)適法配信事業からの私的録音録画については,第30条の適用除外とすべきだという方向性が整理されておりました。
これにつきまして,法制問題小委員会では,先ほど主査からもご紹介あったように,録音録画以外の取扱いについて検討を行ってまいりました。ただ,(2)につきましては,私的録音録画補償金との絡みで検討されたという性格が強いわけで,特に(1)について検討を行ってきたわけでございます。
※のところにございますように,ファイル共有ソフトによっての流通状況などを調査した結果,映像関連19%,音楽関連13%に対して,プログラム関連は3%というデータがございまして,そのほかゲームについては全種類が入手可能という状況がございました。 こういったご報告も踏まえまして,結論としましては,矢印の下のところですけれども,録音録画以外でも,権利者の不利益が存在すると推察される分野はあるのだろうということでございます。ただ,私的録音録画小委員会ではそのほかにも,利用者保護の取組についても併せて取り組むべきとされておりましたので,そういった点については,現時点で必ずしも明確になっている状況ではないということで,今後,検討の熟度に応じて段階的に最終的な取扱いを判断していくことも視野に検討をすると。さらに,私的録音録画小委員会の検討の方向性も踏まえるということでございます。
その次の課題に移らせていただきます。5ページで,リバース・エンジニアリングに係る法的課題でございます。
リバース・エンジニアリングと申しますのは,※に書いてありますが,製品を分解・解析することによって,その製品がどういう構造になっているか,あるいは,どういう技術が用いられているか等を探知することをいうようでございます。これをコンピュータ・プログラムについて行う場合には,図の右上にございますように,製品を見ただけでは機械語という形で,人間が見ても理解できない形になっておりますので,それを人間が理解できる言葉に翻訳して見なければいけないということがございます。この過程で複製・翻案行為が介在する可能性があるということで,こういった行為については一定の範囲で行えるようにすべきではないかと,通常の著作物であれば見るだけの行為には権利は及びませんので,そういった関係で権利制限の要望があったところでございます。
結論といたしましては,6ページのように,法制問題小委員会では,一定の目的ごとに分類して議論を行いました。(1)相互運用性の確保,互換性といった方が分かりやすいかもしれませんが,相互運用性の確保の目的で行うリバース・エンジニアリング,あるいは,(2)プログラムの障害,脆弱性の発見,そういった目的で行うリバース・エンジニアリングについては,ユーザーの利便性,あるいは,適正・安全を確保するという観点もございますので,一定の要件の下で権利制限をしていくことが適当ではないかということでまとめていただいております。そのほかの開発目的のリバース・エンジニアリングにつきましては,無限定にこれを認めていくことは不適当ではないかということで,個別のケースごとに考えるべきではないか,引き続きの検討とされております。
7ページは,研究開発における情報利用の円滑化でございます。ご要望があったのは情報解析技術というものでございまして,下の※の1つ目のところに例が書いてございますが,インターネット上のウェブ情報を集めてきて,それを蓄積しておく,あるいは,文献等の言語情報を電子化して蓄積しておいてデータベースを作成し,そこから,最近はウェブ上ではどういうことが話題になっているかとか,最近の言葉の使われ方はどうかというようなこと解析する研究が多々あるようでございます。そういった研究について,必要な情報を抽出する過程での複製にすぎないので,通常の著作物利用の形態とは違うのではないかという問題意識はありつつも,これが複製に該当してしまっている可能性があるとこともございますので,こういった観点から権利制限をして欲しいというような要望があったところでございます。
結論は,次の8ページでございます。「研究開発」といってしまうと,それに含まれる行為が幅広くなってしまうこともございまして,全般を権利制限の対象とするとしますと,要件としては抽象的な要件にならざるを得ないのではないかということもございまして,早急に結論を得るべき範囲とそれ以外に分けて法制問題小委員会では検討を行っております。
(1)の早急に結論を得るべき研究開発分野としましては,先ほど申しましたような情報の抽出に関係するような情報解析分野の研究開発,これについては権利制限を行うということで概ね意見が一致しております。その根拠としましては,膨大な情報から必要な情報・知識を抽出する技術は,デジタル・ネットワークの社会の基盤として,社会的な意義を有することと,情報抽出の過程で中間的に行われる複製にすぎないという点がございます。
その他の研究開発分野についても,権利制限が許容される範囲があるのではないかとの意見が多数ございましたが,どういう切り口でその範囲を拾い出していくのかについては引き続き検討が必要とされております。
9ページは,機器利用時・通信過程における蓄積の取扱いでございます。平成18年1月の分科会の報告書でも検討が行われておりまして,コンピュータの機器で著作物を利用する場合には機器の内部で蓄積が起こる,あるいは,通信をする場合にも途中のコンピュータからコンピュータへと情報を伝達していく過程で蓄積が起こるという問題について,これは複製と解される可能性もあり得るということで,それについて,通常の機器の利用あるいは円滑な通信に支障を生じないように,権利を及ぼすべきではない範囲があるのではないかということでございました。
平成18年では,(1)から(3)の要件で考えるべきだということでありましたが,その後の技術の発展等を踏まえまして,ここに再検討を加えております。
その結論が10ページでございます。今般の検討においては,機器利用時と通信過程を分けて議論いたしました。機器利用時については,平成18年の3つの要件のうち,合理的な時間の範囲内で蓄積が消えるということを念頭に置いておりましたが,最近の技術では視聴行為に伴って生じてしまう蓄積がすぐには消えない場合もあるようでございまして,それに応じて範囲の再検討を行っております。また,通信をめぐる蓄積についても,円滑な通信が必要な範囲,あるいは,通信の信頼性向上に必要な範囲等については,それに伴って起きてしまう蓄積については権利制限を行っていこうという形で整理をしております。
最後,その他の検討事項といたしまして,昨年から検討課題としております「通信・放送の在り方の変化への対応」につきましては,総務省の検討に留意しながら,さらに検討を行うということ。それから,知的財産戦略本部で,権利制限の一般条項,いわゆる日本版フェアユースについても検討が行われておりますので,その議論の動向を見守りつつ,制度設計の詳細な検討を要する場合などには,それに応じて検討を行うという形で議論を行っております。
以上でございます。よろしくお願いします。 - 【野村分科会長】
- どうもありがとうございました。
それでは,ただ今のご報告について,ご意見,ご質問がありましたら,ご発言をお願いします。
はい,石坂委員,どうぞ。 - 【石坂委員】
- デジタルコンテンツ流通促進法制の検討に関連して,一言申し上げたいと思います。私は日本レコード協会の石坂でございます。
これまでのご説明と多少重複いたしますが,コンテンツの二次利用の円滑化につきましては,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において,権利者が不明な場合の具体的対応策が議論されていると聞いております。そこでの検討では,利用促進の観点と併せて権利保護の側面も重要視されており,既に具体的制度案の検討が進んでおります。ここで申し上げたいことは,デジタルコンテンツ流通促進法制をご検討いただく際は,ぜひ権利者の意見も踏まえた丁寧なご議論をお願いしたいと思います。 以上です。 - 【野村分科会長】
- どうもありがとうございました。
ほかにご発言いかがでしょうか。
松田委員,どうぞ。 - 【松田委員】
- 私は法制小委員会で議論したことを少し付け加えさせていただきたいと思いまして,発言の機会を頂戴いたしました。
今,事務局から説明がありましたデジタルコンテンツ流通促進法の説明と,今,デジタルコンテンツがどのように違法に利用されてしまっているかということを踏まえますと,それは4ページの「私的使用目的の複製の見直し」にも通じることになるわけでございます。この点につきましても,法制問題小委員会で検討しまして,4ページの真中辺りにあります「Winnyによるファイルの流通状況はどのような被害状況にあるのか」ということが議論になりまして,映像19,音楽13,プログラム3%と。このプログラムの関連が3%というのは意外に低いねという議論がありまして,果たしてこの3%の実態はどうだろうかと。
その後にもありますように,一部ゲームでは国内販売ソフトの全機種にWinnyからの入手が可能になっているという状況も報告されていたので,さらに資料があればということで法制問題小委員会で関係団体に資料をお願いしたのだと思います。そして,出てきた資料が任天堂のケースでありますが,任天堂DSのソフトについては,恐らく累計だろうと思いますけれども,推計で185万本の送信・複製が行われ,その被害額は約60億円にも達しているのではないかという報告を得ているわけであります。プログラム,特にゲームのようにダウンロードして完結して使えるようなものについての被害はすごく大きいのでないかと思います。もちろん映画も映像もそうなのだろうと思います。このまま放置しておいていい状態ではないのではないかと,私,一委員としては認識しております。
ということになりますと,インターネットにおける流通の促進ももちろん必要でありますが,その利便性を享受できる個々人がまた同時に侵害の主体にもなり得るような状態が起こっているわけで,著作権法制につきましても,これまでのように送った側が悪いのだと言うのではなくて,受け取る側も複製する側も,全体の社会システムを維持するために法律をきちんと守らなければいけないということを浸透させなければいけないのではないかと私は思っております。
従いまして,説明資料の「私的使用目的の複製の見直しについて」は,第30条の適用除外をどうするかということを早急に検討すべきだと。特にプログラムについては極めて被害が大きいのではないか,私は音楽も映像もコンテンツも同じだと思っていますが。どちらかというと,コンテンツは1回聴いて楽しむと,一定時期が過ぎると見ない聴かないということになるのですが,コンピュータ・プログラムというのは,一度ダウンロードして使い勝手が良ければずっと使われてしまうわけですね。その経済的なダメージというのは非常に大きいのではないかと私は思っているわけです。したがいまして,「私的使用目的の複製の見直しを,特にコンピュータ・プログラムを中心にして検討すべきだろうと思っている次第であります。
以上,委員として付け加えさせていただきました。 - 【野村分科会長】
- それでは,佐々木委員,どうぞ。
- 【佐々木委員】
- 研究開発における情報利用の円滑化の関係ですけれども,研究開発における権利制限というのは,公共上の利益のために権利制限を考えていくということになるのだろうと思うのですね。そうすると,特定の分野については可であり,それ以外の分野については不可というふうな扱い方をすることが妥当なのかどうかということが一つ。
それから,具体的には情報解析分野については権利制限を行うということになっているわけですけれども,どこからが情報解析分野であって,どこからはそれ以外の分野というふうな区分けが明確にできるのかどうかということも若干懸念されるところがあって,研究開発分野については,広く権利制限を認めるべきかどうかという観点から議論すべきではないかということが一点でございます。
もう一点は,科学技術が進歩してくればいろいろな形での著作物の利用形態が生ずるわけで,それによって生ずる損害も大きなものになっていく。そういう中で事例が生じるごとに,個々にこれは権利制限すべきかどうかということを論ずることは,現状に合わなくなっているのではないかと思われるわけで,権利制限については広く一般的に,フェアユースの考え方の中でどうするのかということを論ずる時期にきているのではないかと考えています。
以上2点でございます。 - 【野村分科会長】
- ほかにご発言いかがでしょうか。
三田委員,どうぞ。 - 【三田委員】
- 知的財産戦略本部で日本版フェアユースが検討されるという話は伝え聞いているところでありますけれども,具体的に日本版フェアユースがどういうものなのかが,情報としてまだ明確にされていないというこの段階で,「フェアユース」という言葉がマスコミ等において一人歩きをしているような状況になっているのではないかという感じがいたします。フェアユースという言葉は非常に不思議な言葉でありまして,フェアなユースでありますから,言葉だけをとりますと,議論の余地なくフェアに使えるものであるという印象が伝わってくるわけですね。
しかし,アメリカにおけるフェアユースというのは,アメリカは裁判が非常に盛んな国でありますから,過去の判例等の積み上げの上に,利用者が恣意的にこれはフェアだと思って使ったら,えらい賠償金をとられたとか,そういうものの積み重ねの上に何がフェアであるかということが,法律の文言で細かく書く必要もなく,民間の裁判の過去の判例によって自然に概念が固まっていくというようなことがあるのではないかと思います。日本では過去の判例がないわけですね。そういうところにいきなり「フェアユース」という言葉だけが一人歩きして用いられるようになると,大変な混乱が起こるであろうと危惧されます。
もちろん,どんどんと世界は新しくなっておりますので,著作権法のこの部分が問題になって,利用の促進が妨げられるというようなことは沢山あろうかと思いますけれども,そういうものを一括して,「フェアユース」という言葉だけでクリアしてしまうのではなくて,現行著作権法では何が問題なのか,また,利用者の側は何をしたいのかということを突き合わせた上で,詳細に検討していく必要があるだろうと思います。
この報告書の文言の書きぶりを見ると,「知的財産戦略本部の議論の動向を見守りつつ」というような,フェアユースを先に決めてしまって,後で著作権の改正をフォローするというような,やや消極的なニュアンスがあるのではないかという感じを私は持ったのですけれども,これは杞憂なのかどうか分かりません。できれば「フェアユース」という言葉が一人歩きしないように,著作権法でここまではできるのだということを深く議論して,先にアウトラインが見えるような形で対応していくということで,見守るのではなくて,むしろ積極的に著作権分科会や小委員会で検討を先取りして推進していくべきではないかなと思います。
以上です。 - 【野村分科会長】
- それでは,中山委員。
- 【中山副分科会長】
- フェアユースにつきましては,これから要件等が議論されるのだろうと思います。ただ一つ分かっておかなければいけないのは,フェアユースという概念を導入することは,これはやっていい,これはやっていけないという,その境を法律あるいは官が決めるのではなくて,個々のケースごとに裁判で決めるということを意味するわけです。したがって,最初からこれがいい悪いと決めるということはフェアユースではありませんが,しかし現在の制限規定は残すし,また必要なら新たな制限規定も設けていく。そうすればそれははっきりするわけです。しかし,他方で先ほど佐々木委員がおっしゃったような困った事態も生ずる。
したがって,フェアユースを入れるということは,ある意味では日本人の裁判に対する考え方の変革を迫るわけですね。つまり,この審議会とか法律で決着をつけるのではなく,裁判でその件について全ての状況を見て決める。アメリカは膨大な判例があるとおっしゃいましたけれども,アメリカだって最初は判例もなかったのです。最初に裁判をした裁判官はいたわけですから。それに,具体的事件を見てみましても,フェアユースで一番有名なのはソニーの「データマックス事件」ですけれども,あの種の事件はアメリカでも初めてなのですね。あれがフェアかどうかということを判断する裁判官にとっては最初のケースです。グーグルだって今訴訟をいっぱい受けていますけれども,これだって今までになかった事例を裁判官がそのケースに応じて判断をしている。
したがって,フェアユースを作るときにここまでできるのだということをはっきりさせることは難しいと私は考えております。条文で要件を可能な限り絞り込む,あるいはさらなる制限規定も書き込む。アメリカの法律にも書き込んでありますから,書き込むことは必要ですけれども,最後は裁判所で決める。そういう法律だろうと思っております。 - 【野村分科会長】
- 三田委員,どうぞ。
- 【三田委員】
- 今の中山先生の話を聞いてますます不安が募ってきました。日本という国はこれまで,裁判で決着をつけるのではなく,なるべく話合いで解決するということが,国民性にも合致しておりますし,長い慣習でもあろうかと思います。ただ,これから新しい時代を迎えるわけですから,アメリカのシステムを参考にしながら,できるだけの改善はしていくべきであろうと思います。
ただ,いきなり「フェアユース」という言葉を持ち込むのではなくて,アメリカはこうなっていますよと,それから,現行の日本の著作権法ではこうなっていますよということを,有識者がしっかりと議論して。官が法律によって決めるということではなくて,ここでやっている会議も官が招聘しているわけでありますけれども,ここには有識者が集まって議論をしているわけですね。それから,小委員会も同様であります。
そういう民間の委員の方たちが詳細な議論をして,一定のガイドラインを設けていくというようなことをしないと。いきなりフェアユースということになってしまいますと,世間一般の方は,今まで権利者に許諾を得て,使用料を払っていたものまで,フェアユースということならばただで無許諾でできるのかという誤解の下に使ってしまって,そのたびに裁判を起こさなければならないということになりますと,非常に煩雑でありますし,結局,弁護士の方が儲かるだけで,社会に混乱を巻き起こすことにもなろうかと思います。
現行の著作権法ではこうなっていて,こういう形でシステムができているのだということを,一般の方々にもアナウンスをする必要があるのではないか。そのために官が音頭を取って有識者を集めて,民間の方々にも分かりやすく状況が把握できるような,一定のガイドラインを作っていく努力が必要になるのではないかなと思います。 - 【野村分科会長】
- 松田委員,どうぞ。
- 【松田委員】
- 私は,制限規定だけで抑えていって,誰が考えても常識的に言ってこれが違法だよねというようなところが取り込まれてないのはたくさんあるわけでございますが,それは法制としていかがなものかということを考えますと,フェアユース的な規定を設けざるを得ないところまできているのではないかなという個人的意見を持っておりまして,法制問題小委員会でも基本的にそういう意見を提出しております。
今のお2人の議論でお分かりのとおり,フェアユース規定を著作権法で導入することは,著作権法だけの問題ではなくて,法的な,国民意識に影響する可能性があると私は思っています。というのは,私が使っているのはフェアだから,適合だからいいのだという判断を,とりあえず利用者側ですることになりますよね。事業も含めてそういうことになります。そうなったときに,それを権利者側が「そこは行き過ぎだろう,フェアではないだろう」ということを打って出るためには,三田先生が言われるとおり,訴訟に頼らざるを得なくなるわけであります。日本はアメリカやヨーロッパから比べたら,そういうケースの訴訟は非常に少ないだろうと思います。
もし導入すればこれからは若干増えるかもしれないけれども,私は,日本の国民性からそう簡単に司法国家に変換するとはとうてい思えないと思っています。状況はあまり変わらないのではないかなと思っています。訴訟の件数もそんなに上がることはないだろうと思っています。そうなりますと,フェアユースを口実にしてアンフェアなビジネスが行われる可能性はあると私は思っています。そういう危険性があるということ。だから,フェアユースを導入することでそういうことにならないようにしなければならない。
フェアユースは,司法国家的な制度で,国民意識がそれになじんでいて,なおかつ,アンフェアであると判断されたときのペナルティまでも含めて考察しないと,フェアユースの機能というものは社会的に機能しないと思っています。そういう点も含めて議論しなければならないだろうと思っています。難しい問題でありますが,導入はしなければならないだろうと思っていまして,それに対する弊害をどれだけ除去できるかということを検討していかなければならない。ただ,今,司法の世界は人口が増えるようになっておりますし,いろいろなことでITや著作権を研究する研究者やロイヤーも増えていますから,そういうことは可能でありますが,果たしてそれで十分な機能が発揮できるかどうかというのは,今しばらく見守る必要もあるかなと思っている次第であります。 - 【野村分科会長】
- ほかにご発言いかがでしょうか。
金原委員,どうぞ。 - 【金原委員】
- 今のフェアユースの規定を導入するかどうかということはさておいて,今ここで提案されている5つの項目について,これを権利制限とするということになると,大なり小なり,その中でそれぞれそれがフェアなのかどうかということが議論の対象となる。つまり,5つの項目についてそれぞれ表面的なことで全て権利制限になるわけもないわけで,そこには権利者の利益を害しないということが判断基準になるということになると,それがフェアであるかどうかという判断を求められることになると思いますので,研究開発も含めて5つの項目について,さらに検討を進める段階においては,それがどのような判断基準で,フェアな取扱いとなるか,フェアな権利制限となるか,また,それが利用者と権利者の間で議論になった場合に,どのようにそれを処理していくか,そういうことまで含めて検討を重ねていくべきであろう。
そうしないと,好むと好まざるところに関わらず日本が,先ほど松田先生がそうはならないだろうとおっしゃったのですけれども,意見の食い違いはあるでしょうし,フェアと考える人とフェアではないと考える人が,裁判に委ねるしかないという社会になってしまう危険性があると思いますので,そうならない,できるだけそれを避けるようなことまで含めて,この5つの権利制限については検討していただきたいと思います。
以上です。 - 【野村分科会長】
- ほかにご発言いかがでしょうか。
それでは,次の議題もございますので,法制問題小委員会の中間まとめについては,この程度にしたいと思います。
本日各委員からいただいたご意見を踏まえて,また意見募集で寄せられるご意見も参考にしつつ,引き続き小委員会において検討を進めていただければと思います。
(4)過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会中間整理について
- 【野村分科会長】
- 次に,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において取りまとめていただいた中間整理について,議論を行いたいと思います。
この中間整理についても,今後,意見募集を行い,それを踏まえてさらに審議を進めていくものでございます。
これにつきましては,私が主査をしておりますので,私からご報告して,詳細については,その後,事務局から説明させていただくということにしたいと思います。
過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において,中間整理をまとめましたので,ご報告いたしたいと思います。
この小委員会では,保護期間の在り方と著作物等の利用円滑化方策について,平成19年3月より議論を進めてまいりました。
保護期間の在り方については,欧米諸国並みの70年に延長することの是非について,賛成,反対の双方の立場から,国際的調和や諸外国の延長の背景との関係,文化の発展への寄与など様々な観点からの意見が出されております。
また,関係者を招いて,経済学的な分析やコンテンツビジネスの実態を踏まえた議論も行いました。
現段階では,延長の必要性やメリットについて十分な合意が得られたという状況ではありませんが,延長によるメリット,デメリットがおおむね整理されたところでございます。
今後は,保護期間を延長するメリット,延長しないメリットの二者択一の形で議論するだけでなく,より建設的に,両方のメリットを受けられる方法なども含めて議論ができるのではないかと考えております。
一方,仮に延長する場合には,権利調査が一層困難になる等の課題が考えられることから,小委員会では,多数の権利者が関わる場合の利用円滑化方策,第2に権利者不明の場合の利用円滑化方策,第3にアーカイブ活動の円滑化方策など,著作物等の利用円滑化方策についても,併せて議論をいたしております。
そして,今回,利用円滑化方策については,権利者不明の場合の制度的措置や国会図書館での蔵書のデジタル化については,一定の対応策を取りまとめたところでございます。
なお,これらは法制問題小委員会での検討課題と共通する課題でもあり,5月には法制問題小委員会に中間総括として報告しまして,ご審議をいただいております。
今後は,このような利用円滑化方策のほか,法制問題小委員会や知的財産戦略本部で検討されている権利制限の見直しも視野に入れつつ,著作権法制全体として,保護と利用のバランスについて調和の取れた結論が得られるよう,さらに検討を深めたいと思います。
なお,中間整理の詳細については,事務局よりご説明いただきますので,よろしくお願いします。 - 【黒沼著作権調査官】
- それでは,事務局から,今の主査のご説明につきまして詳細部分の補足をさせていただきたいと思います。資料4の1ページ以降で順次ご説明させていただきたいと思います。
1ページは検討の背景でございます。先ほどもございましたように,この著作権分科会決定におきまして,保護期間の在り方について検討するとされていたわけでございますが,延長した場合には著作物利用が困難になるのではないかというようなご指摘もございましたので,下の3つ,過去の著作物等の利用の円滑化方策,アーカイブへの円滑化方策なども含めて,過去の小委員会では検討を行ってきたということでございます。
検討課題の結論について順次ご説明いたしますと,2ページは,円滑化方策のうち,多数の権利者が関わる場合の利用の円滑化でございます。もともとの問題意識としましては,延長した場合には,相続が起こって遺族の数が増えてしまって,手続が大変になるのではないかという問題意識,あるいは,過去のコンテンツの二次利用について,一部の者の許諾を得られないことが問題になっているのではないかという問題意識でございます。
それに関連して検討した主な事項としましては,共有著作権の規定の適用ができないかということでございます。放送番組等の実演を「共同実演」と解することができる場合には,「正当な理由」がなければ共有者間の利用許諾の合意が妨げられないという規定がございますので,これで二次利用の促進ができるのではないかという観点から検討が行われたわけでございます。ただ,関係者のご意見を伺いますと,「共同実演」の概念に該当するような実例は限られておりまして,今ではテレビ番組の部分利用等については,その部分の出演者についてしか許諾を得ていないわけですけれども,番組自体が共同実演ということになると,その場面に出ていない人の許諾も必要になるということで,一長一短ではないかという結論がございました。
また,実際に許諾が得られない実例を分析した結果,不当な理由による許諾拒否とは言い切れない場合がほとんどではないかということで,むしろ実務上問題になっているのは,ビジネスモデルとして未成熟であること,あるいは,引退などの理由で所在不明で許諾を得られないことの方が問題が大きいという整理でございます。
この分野につきましては,明確に効果がある対応策を見出すことは困難でございますが,引き続き関係者の取組が必要という形で整理をしております。
次のページは,権利者不明の場合の問題点でございます。問題意識としましては,保護期間が延長された場合には,権利者情報を管理しきれなくなる場合が増えるのではないかということと,先ほど多数権利者が関わる場合でもこちらの問題の方が多いということも言われておりましたように,二次利用の阻害要因となっているのではないかという問題意識でございます。
これにつきましては,民間でも権利者不明の場合の対策は様々に進められておりまして,最初の契約時に二次利用を前提とした契約を行っておく,あるいは,コンテンツホルダーや権利者団体によって権利者情報の管理を行っていくなどの取組が進められているわけでございます。
また,不明者の場合には,事前にどこかに使用料をプールしておいて,権利者が見つかった後に事後精算で調整するような仕組みも検討されておりますが,いずれにしても最終的な法的なリスクがなくなるわけではない,あるいは,対応策に関わらず,権利者不明になってしまう場合もあるということで,何らかの制度的な措置が必要だというご意見がございました。
なお,現在,制度的な措置としましては,文化庁長官の裁定制度がございますけれども,これについても時間や費用の問題がある,あるいは,著作隣接権については制度がないという問題が指摘されておりました。
4ページにまいりまして,どういう制度的な対応が必要なのかということで,民間の取組でカバーできないところについて,幾つか案が検討されております。上の2行のところにございますが,1つは現行裁定制度の手続きの改善,その他,著作隣接権の裁定制度の創設も検討いたしました。ただ,著作隣接権の裁定制度については,条約との関係で整理が仕切れていない部分がございまして,新たな制度として下の2つの制度設計についても検討が行われております。
A案は,イギリスでそういう制度が提案されたことがあるということを参考として検討された制度でございますけれども,権利者を探す相当な努力をしても見つからない場合には,著作物を利用してもいいという権利制限規定を設ける。内容としては,権利者が判明した場合には,通常の使用料相当額を支払うというような制度設計でございます。
B案は,民間でいろいろ検討されている,一定の機関に使用料をプールしておくという取組を参考としたものでございますけれども,相当な努力をしても見つからない場合に,一定の機関に使用料相当額を支払った場合には,事後の権利追及について免責されるという案でございます。
小委員会では,A案の方がシンプルだというご意見がございましたが,両方の折衷的な取組ができるといい,というご指摘もございまして,今後さらに詳細を検討する際には,捜索についてのガイドラインの必要性,あるいは,この権利制限に従って何を使ったという記録が残るような方法,あるいは,権利者が現れた後にどういう取扱いをするか,単純に差止めされてしまうのかどうかという点について,詳細を検討しつつ,制度的措置を行うことが必要だということでまとめていただいております。
なお,ここに記載しませんでしたが,権利者不明と言いましても,製作に参加した者の所在不明の場合と,単なる写り込みのような場合とで,区別して考えるべきだというようなご指摘もございまして,単なる写り込みのような場合には別途の措置を講ずるべきだとのご意見をいただいております。
また,こちらの小委員会は中間整理という形でございますけれども,先ほどご紹介したように,法制問題小委員会ではこういう措置は早期に実施すべきだというご提言もいただいております。
次のページは,アーカイブ活動の円滑化でございます。問題意識としましては,延長した場合には,アーカイブを構築する際の権利処理が現在以上に負担がかかるのではないかという点,あるいは,インターネット時代においては,インターネット技術を活用して情報を共有する環境を整備することが重要ではないかという問題意識から,検討がされたものでございます。
特に後者の視点,インターネット時代に情報を共有するという環境整備の面では,アーカイブといっても2つのパターンがどちらもあり得るだろうということで,コンテンツ事業者自らがアーカイブを構築していく場合,それから,コンテンツ提供者以外がアーカイブを構築していく場合とございます。左側は,NHKアーカイブスや歴史的音盤アーカイブ,出版社のオンデマンド復刻などございますけれども,この課題としては,コンテンツの二次利用に関する課題とほぼ同じであろうということで整理しております。
一方で,コンテンツ提供者以外がアーカイブ活動を行う場合は,民間のコンテンツビジネスと衝突する場合も可能性としてございますので,その役割分担や相互補完・協調等を考慮して検討を進める必要があるという問題がございまして,図書館を例として詳しく検討が行われております。
詳細は次の6ページでございます。結論としましては,特に書籍分野で顕著でございますけれども,国立国会図書館が納本制度により比較的網羅的な書籍の蓄積を行っておりますので,それを念頭に置いて,これをデジタル化することにつきましては,法律上明確化していこうということでございます。
また,その他に,従来からご要望をいただいていた内容でございますけれども,再生手段が入手困難になっているようなものを媒体変換することにつきまして,現在の著作権法第31条第2号「保存のための複製」で対応ができるのではないかということを明確にうたっております。
また,国会図書館においてデジタル化した後の取扱いにつきましては,これを多方面で利用することについては,既存の出版事業等とも衝突する場合もございますので,デジタル化したデータをどう利用していくかについては,さらに関係者間で協議が続けられている状況でございます。
以上が利用円滑化方策案についての検討の状況でございます。
引き続きまして,保護期間に関してでございます。7ページ以降でございますが,7ページは現行の状況の整理でございます。我が国では,現行法制定時に30年から50年という年限に変えたわけでございます。条約上は死後50年という最低限度がございますが,それ以上の年限を定めることも可能とされておりまして,現在163ヶ国中70ヶ国が70年以上という期限を定めているという状況がございます。こういった背景を基に保護期間を我が国でも延長すべきではないかというご要望がありまして,検討が進められていたわけでございます。
具体的な検討の視点としましては,8ページでございます。先ほどの著作物の利用の円滑化方策との関係のほかに,保護期間延長自体の是非についても次の4つの観点で検討を行っております。まず,保護期間の国際的な調和を考える必要があるのかないのかという点,それから,保護期間延長が文化の発展に寄与するのかどうかというような点,一つ飛ばしまして,インターネット時代における情報流通の在り方との関係で,保護期間延長がどう関係してくるのかというような視点から,それぞれ検討を行いました。
まず,1点目の保護期間の国際的な調和をする必要があるのかないのかという点につきましては,必要であるという意見と,欧米以外との調和が崩れるのではないかというような意見もございました。また,諸外国が延長した背景には様々な理由があるということもございまして,その理由が我が国に合致するのかどうかという観点から意見が寄せられております。例えば平均寿命の伸長,あるいは,貿易のメリットがあるのかないのかについて意見が出ております。また,保護期間の調和自体にも意味があるのかないのかについても賛否両論の意見がございます。
続きまして,9ページでございます。保護期間延長が文化の発展にどのような影響を及ぼすのかという点でございますが,こちらは非常に大きな論点でございましたので,(1)から(4)に分けていろいろご主張がございました。検討を始めた当初は,創作意欲が高まるのではないか,あるいは,パブリックドメインにすることの方がメリットがあるのだというような,論点どうしの賛否が主でございましたが,途中からそれぞれの論点一つ一つについても詳細に検討を行ってまいりました。
(1)の創作意欲への影響では,延長によってもインセンティブの増加になることは少ないのではないかという経済学的な分析の観点からの主張もございました。逆にそれでも効果がある,あるいは,事後投資という観点から保護期間延長も必要なのだという主張もございましたし,その他,いろいろ賛否両論が出ております。
(2)は,特にプロの創作活動に着目して保護期間延長はメリットがあるのではないかという主張がございまして,過去のヒット作の安定的な収入が新しい才能の発掘や育成の原資になるというご主張,それから,(3)のパブリックドメインにする方がメリットがあるという観点では,保護期間が切れることによって利用の拡大,利用方法の革新などの効果があるというご主張がございました。
また,(4)のネット時代の流通の在り方との関係では,ネット事業者からは,ネット時代では,50年でも70年でも,100年でも200年でも関係がないというようなご主張があったのですけれども,それをさらにかみ砕くと,一番下の2つの意見でございますが,左の方ではインターネットでは権利が無視されている状況もございますので,実質的な権利が縮小されているということから,保護期間延長の必要があるというような点。あるいは,右側では,法律と運用・ビジネスとが乖離しているので,保護を強めても解決するものではないという意見の対立もございました。
10ページにまいりまして,このように各論点について様々な意見がございまして,さらに各論点のうち,どの点をより重視するかということについても意見がございましたけれども,総合的に捉えると,おおむねこの2つの見解があるだろうと整理しております。
一部の著作物については,メリットを受けられることはあるのかもしれないけれども,残りのメリットの受けにくい大多数の著作物についても延長によって著作権が及んでしまうことは,弊害が大きいのではないかという見解。あるいは,その逆としまして,利用されているものはほとんどが最近のものなので,延長してもしなくても結局使われないということもあり,延長によって利用者に生じる弊害もごくわずかだという見解がございました。
こういった全体の捉え方のほかに,それぞれの論点を折衷的・代替的にまとめるようなご意見もございました。(1)は,プロのクリエーター育成を考えるのであれば,保護期間延長以外の対策でもできるのではないかというご指摘。(2)は,パブリックドメインになることによるメリットについては,各種の権利制限規定でそのメリットが享受できるのではないかと,双方の観点からのご指摘がございました。その他折衷的な提案もございました。
また,関連する課題としましては,例えば著作隣接権の保護期間延長についても検討を行っております。いわゆる戦時加算についても検討を行っております。それぞれ固有の問題点はございますけれども,基本的に著作権についての議論の動向も踏まえて対応を検討することが適当ということにしております。
最後のページはそれぞれのまとめでございます。利用円滑化方策と保護期間との関係につきましては,利用円滑化方策としまして今回幾つか検討されましたけれども,ほかの小委員会,あるいは,知的財産戦略本部でもいろいろ検討されておりますので,そういった利用円滑化方策も含めて,著作権法制全体として保護と利用のバランスがとれるのかどうかという観点で検討すべきという形になっております。
また,保護期間の在り方については,少数であるが,価値の高い著作物については保護期間延長が受けられるという点と,それ以外の多数の著作物があるという点については,おおむね認識が一致しているだろうということと,その全体を考えるとまだ十分合意が得られていないという状況でございます。一方で,保護期間が切れた場合のメリットについても,一例を取り上げての検討にとどまっているものがあるということで,今後そのメリットの内容,あるいは,利用革新などのメリットがなぜ起こってくるのかというメカニズムの検討が必要ではないかということでまとめております。
結論としましては,先ほど主査からご説明いただいたように,双方のメリットを二者択一の形で議論するだけではなく,両方のメリットを受けられる方法なども含めて検討を進めるべき,著作権法制等全体として保護と利用のバランスがとれた結論が得られるよう検討を続けることが適当という形でおまとめいただいております。
長くなりましたが,以上でございます。 - 【野村分科会長】
- どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の報告に基づきまして,ご意見,ご発言ございましたら。
石坂委員,どうぞ。 - 【石坂委員】
- 保護期間の在り方について,外国の例でありますが,本年7月に欧州委員会が欧州議会に対して実演及びレコードの保護期間を50年から95年に延長すべきとの提案を行いました。基本的にはデジタルの違法行為,それから,寿命の変化などで,経済的側面を厚く考えている面があります。著作権の保護期間に関する議論と併せて,ぜひそれのみならず,著作隣接権の保護期間についても積極的なご検討をお願いしたいと思います。
以上です。 - 【野村分科会長】
- ほかにご発言ございますか。
どうぞ,大林委員。 - 【大林委員】
- 芸団協でございます。本日,資料7として,「コンテンツの利用円滑化と権利者不明に係る方策に関する考え方」という文書を提出させていただいております。これを皆様にご覧いただきながら少しお話をしたいと思います。
「コンテンツの利用円滑化のためには」という議論の中で,集中管理の促進,権利者情報の整備・集約,権利義務関係を明確にするための書面による契約の締結といった施策を実施することが必要だと指摘されております。
一方,コンテンツの利用の円滑化を考えると,実演などに係る権利者の許諾権の行使を制限すべきという立法提案もなされているようでありますが,許諾権がそんなに悪者扱いされるいわれはないと思います。
流通だけを考えてしまうと,物の流通については,昨今,米とか牛乳とか相当ひどいことが起こっているようです。著作物というのは単なる物ではありませんが,その流通を考えた時,許諾権というものは,質を補償する原産地証明のような位置付けにあるのではないでしょうか。
実演家の許諾権によって,理不尽に利用や流通が妨げられたという例が本当にあったのでしょうか。十分な個別の理由があったケースをいくつかは承知していますが。権利者の許諾権が,非常に危険であるかのごとく言い立てて,予防検束のようにに取り上げてしまうことは,刃物が危険だといって,包丁を取り上げてしまうようなものです。おいしい料理ができない状況にならないようにしていただきたいと思います。
権利者不明の場合に対する基本的な考え方ですが,このことはコンテンツ利用の円滑化全般の施策の中で考えることが必要でありますし,先ほども言いました集中管理の促進,権利者情報の整備・集約等々の施策を全面的に実施することによって,権利者不明の発生を防止し,対応することが十分に可能であります。
現実に幾つかの例があります。アメリカでは,団体協約に基づき,映画製作者と出演者で出演記録のデータを共同管理。イギリスでは,俳優団体であるEquityの協力で,実演に係る権利者を見つけ出して契約を結んでいます。
日本においても,声優たちが,アニメのアテレコや動画の吹替え等,声を録音する場合には,収録の現場で出演登録用紙に記入して,団体が管理し,その情報をもとに,団体協約に基づく二次利用の分配に活用しています。また,権利者情報の整備・集約に向けて,放送局に対して出演確認書を提出するよう申し入れをしたり,演奏家自らがレコーディング参加記録を収集したりする試みが行われています。
しかし,過去に制作され,二次利用が想定されていない時代のコンテンツについて,その実演の権利者の一部に不明者が出てくるということは十分にあり得ることですが,これは,コンテンツの利用の円滑化に関するセーフティネットの制度設計の検討をする中で解決をお願いしたいと思います。
先ほどのご発言にも出ました,単なる写り込みに関しましては,実演家の権利の問題ではなく,主にプライバシー等に関わる問題ではないかと思っております。 権利者不明の場合における具体的な対応策の議論が,先ほどから何度も申し上げている集中管理の促進,権利情報の整備・集約,書面による契約の締結等が否定される内容でないようにしていただきたいと思っております。
また,過去の著作物等の利用の円滑化のための方策について,裁定制度及び新たな制度設計という可能性が追求されていますが,いずれにしても,裁定制度の創設にあたっては,条約等の規定に抵触する内容であってはならないであろうと思います。
イギリスでは,1988年に,「身元または所在を合理的な調査により確認することができない場合」及び「実演家が不合理にもその同意を与えない場合」を対象とする裁定制度が導入されましたが,後者の「実演家が不合理にもその同意を与えない場合」については,1996年の法改正で削除されたという経緯があります。
権利制限型と第三者機関型ともいうべき2つの案ですが,前者の権利制限型について,第一次的判断は利用者において行うこととされています。しかし,「権利者の捜索について相当な努力」という部分の解釈が,安易かつ恣意的に行われる危険性が否定できず,権利がないがしろにされるおそれが非常に強いのではないかという危惧を持っております。したがいまして,権利制限型については,制度が不当に乱用されることのないような仕組みを設ける必要があると思います。
たとえば,制度を利用した場合,一定の機関に申告して利用情報を開示すること,あるいは,事前に使用料を一定の機関に預託しておくこと等,この制度実施に当たってでしょうか。先ほども,折衷案というのがございましたが,いろいろなことを考えていただければと思っております。
コンテンツの利用円滑化と権利者不明に係る方策に対する考え方については以上でございます。
最後になりましたが,私は保護期間の延長を毎回この席で申し上げておりますが,実演家に関しまして,生存中に権利がなくなってしまうケースが多数進行中であることを何度も繰り返し訴えております。我々としては,延命措置を外される気持ちでございます。よろしくお願いいたします。 - 【野村分科会長】
- 佐々木委員,どうぞ。
- 【佐々木委員】
- 小さなことで申しわけないのですけれども,国会図書館における複製の問題であります。図書館における複製というのは著作物の保存のために行われるものですね。国会図書館については,保存ということと並んで利用ということがはじめから念頭に置かれている,デジタル複製物が。そうすると,保存という概念とは相入れないのではないか,結果として,著作権法上の図書館における複製の考え方を変えていくことになっていくのではないかという感じがいたします。その辺の扱いについては慎重に願えればと思っております。
- 【野村分科会長】
- 常世田委員,どうぞ。
- 【常世田委員】
- 確かに保存だけしても意味がないわけでありまして,図書館における保存というのは利用を前提としておりますが,今一番,国会図書館で問題になっているのは,戦後のカストリ雑誌などが典型的な例でありますけれども,酸性化が進んでおりまして,現時点で媒体変換をして複製する作業自体が困難になりつつある。実際に日本の文化の最後の拠点になっている国会図書館の資料そのものがもう使えない状態になっているということが最大の問題です。
ですから,慎重に審議しているうちに,今日も一冊,明日も一冊というふうに読めない,それを写真に撮ることもできないという状態が進んでいるということがありますので,その部分についてだけは早急に対応しなければいけない,待ったなしの状況だということだけはご理解いただきたいと思います。 - 【野村分科会長】
- ほかにご発言いかがでしょうか。
三田委員,どうぞ。 - 【三田委員】
- この報告書は正確に小委員会の内容を提示していると思いますけれども,小委員会に参加している者として,ここには描ききれていないニュアンスをお伝えしたいと思います。これは委員一人一人の感じ方によって違うと思われますが,私が感じたニュアンスということでお聞き願いたいと思います。
著作権の保護期間を延ばすべきか,このままでいいかというのは,いろいろなご意見が出てくるわけであります。しかし,伺ったところによると,ヨーロッパやアメリカが既に70年になっているのに,日本だけ50年に止めておく理由が,私の解釈では幾つか理由があるだろうと思います。日本はコンテンツの輸入大国であるから,50年にしておいた方が得だというご意見もあります。それから,EU等で70年に延長されたときはまだインターネットが発達していなかったのですが,現行のインターネットが発達した状況では短い方がいいのだというようなご意見があります。
著作権というのは個人の権利でありますから,アルベール・カミユとかヘミング・ウェイに比べて,谷崎潤一郎の著作権保護期間が短いということを,国益とかインターネットの利用,そういうことと引き比べて,個人の権利を無視して全体の利益を考えていいのかどうかということも疑問に感じます。しかし,そういうことを度外視しても,延長に反対される方のご意見の大半は,50年が70年になりますと,行方不明者が増えて,地方の文学館や図書館等におけるアーカイブとか復刻版を出すとか,大学で古い紀要をホームページに出すとか,そういうことをやろうとすると大変な手間がかかるということでありました。
ですから,私の考えとしては,行方不明者の作品の利用を促進するという新しいシステムができれば,多くの問題は解決するであろうと考えておりまして,文化庁さんからもA案,B案を提出していただいて,これから議論が進むかなと思ったら,延長に反対されている委員の方もたくさんいらっしゃいます。そういう方の中から「この行方不明の利用促進の案ができてしまったら,延長してしまうのか」というようなご意見が出まして,A案,B案を議論すること自体がストップしてしまったような印象を私は受けました。
一方では,知的財産戦略本部やネット法,フェアユースの問題等も並行して議論されているので,しばらく様子を見ようかという雰囲気も出てまいりました。と思っておりましたら,某大手新聞に「もう延長はしないことになった」という記事が出ました。朝日新聞です。これは文化庁さんに取材があったのかどうか分からないのですけれども,議論が膠着状態になっていると印象を私は持っております。なぜ膠着するのかというと,意見というものは賛成の人もいれは反対の意見もいるわけですね。ただ,双方の意見を踏まえた上で,具体的にどういうふうに著作者の権利を守りつつ,利用者の利便性を損なわない形ができるのかという議論を深めていく必要があると思うのですけれども,現在のところ,利用者と権利者及び著作権は短い方がいいと思っている人たちとの間で膠着状態になっているということがあります。
ただ,この問題はこの小委員会のみに留まらず,ネット法とかほかの問題にも広がっていくわけですね。今,ネットに関しては法律を改正するか,フェアユースの概念を,慎重な過程が必要だとは思いますけれども,利用促進のための新しいシステムをつくらなければならないというのは急務である。これも私も同感しております。こういう状況の中では,権利者と利用者がより深く話合いをすることが重要でありまして,権利者と利用者が互いに自分の意見にこだわって,話が先に進まないというような状況になってしまいますと,全てのものがうまくいかないし,利用者にとっても権利者にとっても大変大きな損失をもたらすことになるだろうと思われます。このままの状況ですと,何年経っても先へ進まないという危惧を私は覚えています。
何度も言いますけれども,著作権というのは個人の権利であります。議論が2年3年と延びていきますと,毎年何人かの著作権が消えてしまうんですね。いったん著作権保護期間が切れたものは,2年後3年後に「70年になりました」と言っても,復活しないというのがこれまでの状況であります。そうすると,この議論が長引いているために,毎年,「うちのおじいさんの著作権がもう消えてしまった」と涙をのむ人たちが何人か出てくるわけですね。その中にはヘミング・ウェイやアルベール・カミユに匹敵するような作品を残された方もいますし,非常に貴重な作品を残されて,それが現在も文庫本等で発売されている人もいらっしゃいます。あるいは,映画やテレビの原作として使われる,そういう作品もたくさんあるわけですね。
一方で,既に何十年か経ってしまって経済的利益がなくなってしまっている人も大量にいるわけであります。今,検討されている意思表示の制度,集中管理のシステムによって,経済的利益のある人はちゃんと「お金をください」と,一括処理できるようなところに登録しておくということをやれば,それ以外の登録されていない人,それから,ネットを通じて尋ね人のようなことをやっても,いなくなってしまった人については,一種のパブリックドメインだと考えて,自由に利用できるような新しいシステムは,利用者と権利者が知恵を合わせれば必ずできるだろうと思います。「これは時間がかかりますね」ということで,だらだらと先延ばしにするのではなくて,利用者と権利者がしっかりと話合って,短期間で結論を出すような方向に,ぜひとも文化庁さんも本気でやってほしいということを申し述べたいと思います。
以上です。 - 【野村分科会長】
- ほかに。福王寺委員,どうぞ。
- 【福王寺委員】
- 私,美術家連盟の福王寺と申し上げます。10ページの関連する課題についてですけれども,追及権というものがありまして,リセールライトということですが,美術の作家が譲渡した後に,公開のオークションにおいて美術作品が取引される場合,その取引の金額の数パーセントを作家に還元するという追及権という法律があります。ヨーロッパのほとんどの国が追及権を取り入れています。現在,ヨーロッパの保護期間は70年になっていますけれども,それと同じく追及権も70年あるということで,これについて前から美術家連盟ではこの分科会において,前の入江観先生からも検討の要請をしておりますので,これも関連する課題の中に入れていただきたいと思います。
追及権については,追及権がない国として,日本はもちろんですけれども,スイスやアメリカがあります。アメリカにおいては,カリフォルニア州には追及権があります。そういった中でこの追及権についてこの小委員会,文化審議会の中でも審議していただきたいと思います。また,文芸作品の手書き原稿や音楽の楽譜についても,ベルヌ条約のブラッセル規程の中に「追及権の対象になる」というふうに書いてあります。
また,保護期間延長の問題の中で,私は美術の作家の一人ですので,先輩の先生方がこの論議をしているうちに切れてしまうということがあります。洋画の安井曽太郎先生が切れて,高村光太郎先生が切れました。また,日本画の小林古径先生,川合玉堂先生が切れました。ことしは,昭和33年になくなられた横山大観先生が切れてしまうということで,大先輩に対して本当に申しわけないという気持ちでいっぱいです。これについても,討議をするのは結構ですけれども,そういう中で切れてしまう作家の方がいるということをよく考えていただきたいと思います。
以上です。 - 【野村分科会長】
- ほかにご発言いかがでしょうか。
金原委員,どうぞ。 - 【金原委員】
- これは質問ですが,6ページにあります国会図書館のアーカイブの問題です。これは現行の第31条の2項の解釈の問題で対応することができるかどうか,あるいは,著作権法における改正が必要なのか,よく分かりませんが,その辺をどのようにお考えなのかということ。
それから,仮に著作権法における改正あるいは解釈ということになると,当然ですけれども,第31条はほかの政令指定図書館にも影響するわけで,その辺までお考えなのかどうか。これは納本制度との関連ということになりますと,国会図書館だけに限定された話ですが,その辺についてどのようにお考えなのかお聞きしたいです。 - 【野村分科会長】
- これは事務局から。
- 【大和著作権課長補佐】
- まず,1点目の解釈の点でございますが,媒体変換のための複製について,現行の著作権法の第31条2号では,保存のための複製ということで,マイクロ化等々が今まで解説書等で例示されておりましたけれども,ベータとかVHSといったもの,要するに機器が生産されていないというようなものについて法改正をしないと駄目なのかどうかについて議論されたわけですが,過去の著作物の小委員会に設けられたワーキングチームでは,そういったものは法改正をするまでもなく解釈でできるのではないかというふうな考えが示されたものでございます。
それからもう一点,国会図書館と国会図書館以外の政令で定めるものも含めた図書館等への影響でございますが,今回のワーキングチーム及び小委員会の報告においては,国会図書館におけるアーカイブのための複製について議論がされたものでございまして,他の図書館等における複製や,国会図書館で複製されたものの他の図書館での利用については,現在関係者による協議が行われているところでございます。
以上です。 - 【金原委員】
- ということになりますと,第31条の解釈の問題だけでは対応できないのではないかと思うのですが。あるいは,国会図書館法との関係があるのか,あるいは,著作権法第31条の中に国会図書館に限定した記述をお考えなのか。アーカイブの問題です。媒体変換の問題では,先ほど常世田委員もおっしゃいましたけれども,古いものについて保存のために必要があるものについて国会図書館ではそういう役割があるだろうと。そうすると,第31条の条文だけの問題ですと,ほかの図書館にも影響してくるということですけれども,国会図書館に限定した話なのかどうかということ,どのように処理するのかということです。
- 【大和著作権課長補佐】
- 資料の6ページの「制度面の対応」の上の「法律上明確化」と書いてある部分の具体的な扱いということのご質問かと思います。具体的にどの条文をどのように改正するかというのは現時点ではまだ検討中でございますけれども,第31条で規定している現在の図書館の複製とは別の扱いになりますから,例えば第31条の後にもう一条設けるという方法はあり得ると思います。まだ具体的な条文の形についてはご提示できる段階にはありませんけれども,今の規定のままで解釈で運用するというものではなくて,国会図書館におけるアーカイブ化の扱いを明確に条文化していくという方向で考えているところでございます。
- 【野村分科会長】
- よろしいでしょうか。
- 【金原委員】
- 分かりました。結構です。
- 【野村分科会長】
- それでは,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理については以上にしたいと思います。 本日各委員からいただいたご意見を踏まえ,また,意見募集で寄せられたご意見等を参考にしつつ,引き続き小委員会において検討を進めていきたいと思います。
(5)私的録音録画小委員会の審議の経過について
(6)国際小委員会の審議の経過について
- 【野村分科会長】
- 次に,私的録音録画小委員会と国際小委員会の審議経過についてですが,私的録音録画小委員会については中山主査より,国際小委員会については事務局よりご報告をお願いいたします。
- 【中山主査】
- それでは,平成20年度私的録音録画小委員会の審議経過の報告をいたします。
この小委員会では,本年度は4月3日から議論を開始いたしまして,ファイル交換ソフト利用実態調査及び違法携帯電話向け音楽配信実態調査の結果,識別マーク「エルマーク」及び私的録音録画に関する海外の動向について検討いたしました。
5月8日の小委員会におきましては,本年1月17日の小委員会で検討された事務局案を補足した資料,つまり,- ・ 機器等のメーカーに一定の負担を強いることは関係者の理解を得られなくなってきており,現行の補償金制度による解決は今後縮小し,他の方法による解決に移行すること
- ・ 音楽CDからの録音と無料デジタル放送からの録画については当面補償金制度での対応を検討する必要があること
- ・ 他の利用形態で権利者への補償の必要性が否定されない分野については契約モデルによる解決に委ねることとし,利用者の利便性の確保を前提として可能な分野(例えば適法配信)から第30条の適用範囲を段階的に縮小していくこと
- ・ 記録媒体を内蔵した一体型の機器のうち,録音録画が主たる用途であるものについては補償金の対象とすべきだが,録音録画機能を含めてどれが主要な機能といえない複数の機能があるものは対象とすべきでないこと
- ・ 対象機器・記録媒体の決定方法として,法的安定性や予見性に優れた政令指定方式を維持しつつ,個々の機器等の評価について疑義が生ずる場合に,権利者,製造業者,消費者,学識経験者等で構成される公平な評価機関により判断する仕組みを導入すること
- ・ 補償金の支払義務者は現行制度のとおり消費者とし,メーカー等は協力義務者とすること
- ・ 補償金額の決定手続きに際しては,具体的な認可手続きの前に,前述の評価機関において関係者から意見を聴取し,機器・記録媒体の機能・用途,録音録画源の実態,著作権保護技術の影響,タイムシフト・プレイスシフトとの関係等を踏まえた上で一定の方針を策定するものとすること
これらの資料について,権利者側委員は受け入れる姿勢を表明し,その他委員からも一定の評価をする旨の発言がありましたが,メーカー側委員は不安,懸念を表明するに留まり,最終的な意見表明は保留されました。
なお,いわゆるダビング10の早期実施に向けた環境整備の一助とするために,文部科学省と経済産業省は,政令改正によってブルーレイディスク関係の録画機器・記録媒体を私的録画補償金の対象に追加することで合意し,6月17日に両省大臣会見で公表されました。
7月10日の小委員会では,前回の小委員会で表明された不安,懸念の点に関する事務局の回答資料について検討が行われましたが,メーカー側委員が明確に事務局案及び具体的制度設計案の受け入れを拒否し,意見の隔たりが明確になりました。
小委員会では,今年度の取りまとめに向けて,以後検討を続けていく予定であります。
以上でございます。 - 【野村分科会長】
- それでは,国際小委員会,お願いいたします。
- 【国際著作権専門官】
- 続きまして,資料6に基づきまして,平成20年度国際小委員会の審議の経過についてご報告申し上げます。
本委員会は,5月12日に第1回会合を開催いたしまして,今後の国際対応の在り方及び今期の本委員会の進め方についてご審議をいただきました。最近の国際的なルール形成をめぐる環境を踏まえますと,先進国,途上国間での意見やスタンスの違いが顕在化するようになってきているということで,多国間でのルール形成が難しくきていくというふうなご認識を示されております。
このような状況を踏まえまして,国際的なフレームワークの構築及びその効果的な活用等について,現状分析を行うことを目的といたしまして,国際ルール形成検討ワーキングチームの設置を決定していただいております。
本ワーキングチームにおいて,最近の著作権をめぐる国際情勢の分析,さらには国際ルール形成において日本が今後とるべき方向について現在ご検討いただいておりまして,本年度末に国際小委員会に報告がなされる予定でございます。
国際小委員会におきましては,当該報告を踏まえまして,ご審議をいただくということでございます。
以上でございます。 - 【野村分科会長】
- それでは,ただ今の2つの小委員会の報告について,何かご発言ございますでしょうか。
石坂委員,どうぞ。 - 【石坂委員】
- 私的録音録画小委員会の検討につきまして,2点申し上げたいと思います。
1点目は,違法サイト等からの私的録音録画の取扱いです。前回の著作権分科会でもご報告させていただきましたが,日本レコード協会では,本年2月に音楽配信事業者様の協力を得て,エルマークの運用を開始しました。9月末時点において157社中153社の音楽配信事業者様にご対応いただいており,サイト数は888に上ります。違法サイト等からの私的録音録画を著作権法第30条の範囲から除外する法改正に向けて,利用者保護の施策が着実に進んでいるものと自負しております。
2点目は,私的録音録画補償金制度の見直しです。問題解決に向けたこれまでの検討プロセスが水泡に帰すことのないよう,引き続き関係者の皆様のご努力をお願いしたいと思います。
以上です。
(7)その他
- 【野村分科会長】
- それでは,この2つの小委員会についての報告は以上でよろしいでしょうか。
それでは,私的録音録画小委員会と国際小委員会につきましても,ただ今いただいたご意見を踏まえて,引き続きそれぞれの小委員会において検討を進めていただければと思います。
予定した議題は以上でございますが,ご発言があればということで,松田委員,どうぞ。 - 【松田委員】
- 最後に,本来であれば先ほどのリバース・エンジニアリングのところで発言をしなければならなかったのですが,そこに戻った形で意見を述べさせていただいてよろしいでしょうか。
- 【野村分科会長】
- はい,どうぞ。
- 【松田委員】
- お手元にあります法制小委員会の中間まとめの26,27ページ辺りが,リバース・エンジニアリングの記述でございます。26ページを見ていただきますと,いろいろな目的でリバース・エンジニアリングが行われる,ないしは,行われる要請があるということにつきまして,記述がされておりますが,小委員会ではほとんどのリバース・エンジニアリングについては当然制限規定を設けていいのだと,委員の意見は大体そういうふうになっていたと思います。
どこで線を引くかということになりますと,26ページにあります幾つかの目的の中の相互運用性と競合プログラムの開発,最終的にこのどこで線を引くかということだろうというふうになっておりまして,このことがプログラムを産業政策的視点でどのように利用し得るかということの議論になるわけであります。
その記述が27ページにありまして,競合プログラムの記載も相互運用性の確保の目的の中に入れられて記述されております。そこでちょっと不明確な記述もあると思いますので,説明をさせていただきたいと思っております。27ページの真中より少し上に,「開発目標とするプログラムと相互運用する別のプログラム(OSなど)の調査・解析を行うことはあり得るのであり,既存のプログラムと競合するプログラムを開発するかどうかだけで,判断すべきではない」と記述されております。
これは,私が発言したことなのですが,自分で読んでみてよく分からないのです。もう少し明確にするならば,「判断すべきではなく,この手法による調査・解析による競合プログラムを開発することは許容すべきである」と。むしろ許容すべきであるという意味の発言をいたしまして,これについては他の委員の方々も反対がなかったのではないかと思っています。ですから,ここまで許容すべきだということを今の段階でも意見として出しておきたいと思っております。
それから,次に,「公正な競争を確保する観点から,競合プログラムであっても権利制限は許容されるべき場合があるのではないか」,これは記述として間違いがなくて,「ではないのか」という点では,委員会で同じ議論をしたと思います。
ただし,これにつきましては,大きく分けて2つの意見があったと思っております。1つは,調査・解析の対象となるプログラムと同一の機能を有し,市場において競合するプログラムを開発することを許容すべきではないという意見。これは対象プログラムの開発のインセンティブを確保しなければならない,先行する開発プログラムのインセンティブを確保しなければ,優れたプログラムの投資が行われないという点から,産業政策的視点からの意見になります。
もう一つ,これとは全く反対で,新たなプログラムを開発することをより促進するためには,対象プログラムを調査・解析してもいいではないかという意見であります。これも産業政策的な視点からは,プログラムの開発を産業的に促進していこうという意見であります。これを,産業政策的視点でありましても,全く違う意見になってあらわれるということもありますので,このことを取りまとめれば,リバース・エンジニアリングの最終的な意見はすぐ出るのではないかと思っているわけです。でありますので,これが論点であって,私としては,これは平成6年からの議論でありますから,できるだけ早くこれを法制化してもらいたい,制限規定を入れてもらいたいと思っております。
なお,制限規定を入れましても,プログラムの複製物を使用する正当権限を有する者がリバース・エンジニアリングを許すという規定になりそうでありまして,正当権限を有する者というのは,使用ライセンス契約の当事者であるわけです。使用ライセンス契約にはほとんど例外なくと言っていいぐらい,リバース・エンジニアリングの禁止条項が入っております。そうすると,リバース・エンジニアリングの制限規定をもし入れたとしましても,まだその制限条項の疑義があるうちは,産業政策的視点でプログラムの開発を促進させることがうまくいかない場合も考えられます。その点も踏まえまして,リバース・エンジニアリング制限規定の在り方を検討すべきだろうと思っている次第でございます。
それを付け加えさせていただきたいと思っております。 - 【野村分科会長】
- では,法制問題小委員会の方で調整していただきたいと思います。
ほかに。それでは先に常世田委員で,次に瀬尾委員,お願いいたします。 - 【常世田委員】
- 法改正とフェアユース両方に関わる問題なので,最後に発言させていただきますけれども,障害を持った方の問題であります。コンテンツを媒体変換しなければ読むことができない,聞くことができないという方たちがたくさんいらっしゃるわけであります。これに関しては,憲法の知る権利,学習権というものが法の前では平等という意味では保証されていないと言える問題だと思っております。これについては,以前,法制問題小委員会でも法改正という方向が提示されております。それから,諸外国ではフェアユースで対応するということになっております。
これは,ボランティアや地域の公共図書館が媒体変換をやらないことには,大量に世の中に存在しているコンテンツを読むことも聞くこともできないということでありますので,その辺について許諾をとらなければいけない。これを法改正であろうとフェアユースであろうと,ともかく早く実現するという問題があろうかと思っております。昨年度,障害者の権利条約を日本は批准いたしました。そういう関係でも進める必要がある。また,高齢化によって,加齢による障害の発生が増えておりまして,特別な方たちの問題だけではないということであります。
法改正でもフェアユースでも,どちらでも司法は構わないのでありますけれども,他の著作権法上の問題によって,法改正なりフェアユースが止まってしまっている。であれば,障害者の問題だけでも切り離して進めていく必要があるだろうと思っております。
以上です。 - 【野村分科会長】
- それでは,瀬尾委員,どうぞ。
- 【瀬尾委員】
- 今日はフェアユース自体を話す場ではないと思っておりましたので,発言いたしませんでしたが,先ほど松田委員のご発言にもありましたとおり,フェアユースを,単なる問題解決の手法だけではなくて,いわゆる制度として,日本の裁判に対する,またはそこで得られる賠償金の問題,そういう問題全てを含んで非常に大きな方向転換,新しい方向性の提示ということだと思います。
確かにフェアユースで解決しなければいけない,もしくは,フェアユースで解決し得る問題が沢山あることも認識しておりますが,フェアユースという日本で裁判を常に起こす制度,そして,起こさなければいけない制度,そういうものをどう導入していくのかについて,長いビジョンで見ていただきたいと思います。これは賛否ありますけれども,もっと長い目で見ていかないと,泣く人間が出てくるような制度になってはいけないと感じます。
先ほどの過去の小委員会のA案,B案にしても,著作権の中で事後に支払うという新しい考え方が示されています。そういうふうなことを入れることが,単純に今そういう選択肢をとっていいのかどうかというもっと大きな流れの問題もあると思います。今回の審議会での議題は,そのように目先の問題だけではなくて,非常に大きな方向転換の話題を含んでいるということを感じておりますし,それに対する検討の重要性も痛感しております。
ですので,各小委員会での熱心なご議論はもちろんあって,私も微力ながらやらせていただいていますけれども,特にこの審議会の席では,ただ小委員会の議論の蒸し返しではなくて,長いビジョンで見ることでよりいい結果が出るのかなと。ここでそういう議論がなされないと,厳しいのではないかなと思いましたので,最後に一言だけ申し上げさせていただきました。
以上です。 - 【野村分科会長】
- どうもありがとうございました。
それでは,予定した時刻がまいりましたので,本日はこのくらいにしたいと思います。
事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。 - 【山下著作権課長】
- 本日は誠にありがとうございました。また,各小委員会の委員の先生方におかれましては,活発なご議論をいただきまして,このような形にまとめていただきましたこと,改めて深く感謝を申し上げる次第でございます。
本日ご議論いただきました法制問題委員会の中間まとめと,過去の著作物等の小委員会の中間整理につきましては,今後,広く国民の皆様に対しまして意見募集を行ってまいりたいと思っております。その後,それぞれの小委員会でご審議をいただいた後,結論が得られましたものにつきましては,年明けに著作権分科会へご報告をいただきまして,昨年度から継続検討を行っている課題と併せまして,最終的に著作権分科会としての報告書を取りまとめていただくということを考えておりますので,引き続きよろしくお願いいたします。
以上でございます。 - 【野村分科会長】
- それでは,本日はこれで文化審議会著作権分科会第26回を終わらせていただきます。本日はどうもありがとうございました。
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