文化審議会著作権分科会(第29回)議事録・配布資料

1 日時

平成22年1月27日(水) 10:00~12:00

2 場所

三田共用会議所 1階 講堂

3 出席者

(委員)
青山,石坂,いで,大林,大渕,金原,後藤,迫本,里中,瀬尾,玉川,
辻本,道垣内,土肥,中山,野原,野村,福王寺,松田,三田,宮川,村上,
山浦の各委員
(文化庁)
玉井長官,合田次長,戸渡長官官房審議官 ほか関係者

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)平成21年度使用教科書等掲載補償金について
    2. (2)平成21年度使用教科用拡大図書複製補償金について
    3. (3)国際小委員会の審議の経過について
    4. (4)基本問題小委員会の審議の経過について
    5. (5)法制問題小委員会の審議の経過について
    6. (6)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料

資料1
「平成21年度使用教科書等掲載補償金について」関係資料(572KB)
資料2
「平成21年度使用教科用拡大図書複製補償金について」関係資料(696KB)
資料3
国際小委員会の審議の経過について(176KB)
資料4
基本問題小委員会の審議の経過について(80KB)
資料5
法制問題小委員会の審議の経過について(232KB)
参考資料1-1
国際裁判管轄・準拠法ワーキングチーム報告書(概要)(3.04MB)
参考資料1-2
国際裁判管轄・準拠法ワーキングチーム報告書(8.67MB)
参考資料2-1
権利制限の一般規定ワーキングチーム報告書(概要)(4.09MB)
参考資料2-2
権利制限の一般規定ワーキングチーム報告書(3.66MB)

6 議事内容

  • ○ 平成21年度使用教科書等掲載補償金について
    使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。
  • ○ 平成21年度使用教科用拡大図書複製補償金について
    使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。

以上の議事については,文化審議会著作権分科会の議事の公開について(平成18年3月1日文化審議会著作権分科会分科会決定)その1(2)に基づいて非公開とし,同決定の6及び7に基づき議事要旨を作成し,公開することとする。

(3)国際小委員会の審議の経過について

【野村分科会長】
 それでは次の議題に移りたいと思います。
 昨年4月以降,各小委員会におかれては,それぞれの分野において,精力的にご検討いただいてまいりましたが,本日は今期の分科会の最後の会議となりますので,各小委員会の審議の経過について,それぞれの主査よりご報告をいただきたいと思います。
 まず,国際小委員会の審議の経過につきまして,道垣内主査よりご報告をお願いします。
【道垣内委員】
 それでは,資料3に基づきまして,国際小委員会の審議の経過についてご報告申し上げます。
 関連の資料は,参考1-1と1-2でございます。
 今期の国際小委員会におきましては,この資料3の,「はじめに」というところにあります4つの問題について検討を行いました。
 その中で,(1)につきまして,特に知的財産権制度のみならず,国際私法の側面からの専門的かつ詳細な検討が必要となるために,ワーキングチームを作りまして,そのワーキングチームにおいて検討し,その報告書が先ほど申しましたものの中の参考資料1-2でございます。
 本日は,あまり多くの時間は与えられておりませんので,特に分かりにくいと思われます(1)を中心にご説明申し上げたいと思います。
 国際裁判管轄及び準拠法に関する国際ルール形成の在り方についてワーキングチームで検討し,中間の経過報告も含め2度小委員会に報告・議論をしていただいて,最終的に小委員会としてはワーキングチームの報告書という形でそのままここに提出するということにした次第でございます。
 この報告書の主な内容につきまして,1ページから2ページにかけて記載がございますけれども,そもそも国際裁判管轄の問題であり,準拠法の問題なのかということでございますが,例えば伝統的なタイプの著作権侵害を想定しますと,日本のある業者が著作権の保護期間が満了していない映画のDVD版を大量に作成し,それを日本のみならず韓国とか中国でも販売したという場合に,その映画の著作権者が,当該事業者の違法な販売をしている事業者を日本で訴えることができるのか,というのが国際裁判管轄の問題であります。
 問題となるのは,日本で生じた損害のみならず,韓国や中国において生じた損害についての賠償も合わせて,日本における訴訟において請求できるのかどうかという点や,この業者が韓国の事業者である場合に,日本の裁判所に,この韓国の事業者を被告とする訴訟を提起することができるのかという点などです。これが国際裁判管轄の問題でございます。
 全ての請求の内容について,日本で裁判ができるとなりますと,100パーセント,日本の裁判所の国際裁判管轄があることになります。日本の著作権に基づく請求だけを日本の裁判所で裁判し,外国の著作権に基づく請求については訴えを却下するというのであれば,それはその請求について国際裁判管轄を否定したということになります。
 他方,準拠法の問題と言いますのは,日本の裁判所は日本法を適用するだけではなく,場合によっては外国法を適用するということを前提として,今のような事例においては,日・韓・中とそれぞれの侵害地が異なるわけですが,それらについてどこの法律を適用するのかという問題です。日本での侵害については日本法,韓国での侵害には韓国法,中国での侵害には中国法をそれぞれ適用しましょうというのが一つの考え方です。著作者の決定もそれでよいのかとか,著作権譲渡の場合はどの法が適用されるのかといった問題もあります。
 先ほどの例は海賊版DVDの販売という単純なケースでございましたけれども,今やインターネットを通じて,もっと大量に容易にかつ多数の国で同時に侵害行為が行われておりますので,そのような場合にも同じように考えることができるのかというのが,ユビキタス侵害と言われているような問題の扱いでございます。
 最近,欧米の判例や国内外における様々な立法提案が行われておりますので,このワーキングチームにおきましては,そういうものを収集整理した上で,現在の解釈論のみならず,あるべき立法論,場合によっては,WIPO等の場で条約を作る場合にどういう内容にすべきなのか,それについての日本としてはどう考えるべきかという議論を行ったわけでございます。
 さて,まず,国際裁判管轄につきましては,特に,インターネットにおいて侵害行為が行われた場合に,国際裁判管轄としては不法行為地の裁判管轄を認めるという考え方があるのですが,その不法行為地というのはどこなのかを議論しました。サーバーの所在地だとか,アップロード行為地だとか,あるいはそれらの行為を行った者の事業所の所在地であるとか,様々な考え方があるわけでございまして,このワーキングチームとしては一定の結論には達しておりません。
 ただ,結果発生地については,受信行為が行われた地を不法行為地と見る見解が有力でした。たとえば,外国でアップロードされ,世界各国で,そして日本でもダウンロードされたような場合には,日本は不法行為地に当たり,日本の裁判所に不法行為地に基づく国際裁判管轄を認めてもよいのではないかという考え方が多数でございました。他方,公衆送信権は,公衆に受信させる権利としていればそうだけれども,そうではないタイプの権利,送信権という構成をとっている場合には,むしろ送信地が不法行為地ではないかというご意見もあり,意見の一致は見ておりません。
 [2]でございますが,これも意見が分かれているところではございます。著作権侵害について,日本の著作権について日本で裁判するのはよいけれども,韓国の著作権法に違反する行為について,日本で裁判することはできないのではないかという議論です。専属管轄というのは,それぞれの著作権法の所属国でそれぞれの著作権法上の権利について裁判を行うべきであって,他の国の著作権法上の権利に関する裁判はすべきではないという考え方でございまして,そうすべきであるとの意見とそれに反対する意見に分かれました。専属管轄とすべきであると見解は,著作権が文化政策に関係しており,日本の著作権の問題について外国で裁判させるのはいかがなものか,あるいは外国の著作権として日本で裁判するのはいかがなものかというお考えでございます。
 次に準拠法につきまして申し上げます。これは問題を3つに分けております。
 まず,著作権の原始的帰属,そもそも誰が著作権者なのかという問題につきましては,保護国法を準拠とすべきであるという意見が多数でございました。
 保護国法というのは,保護を与えている国,すなわち,各国が自国領域内では自国の著作権法を適用しているという属地主義のもとでは,国ごとに著作権者はそれぞれの国の著作権法によればよいという考え方であります。同じ映画であっても,韓国では韓国の著作権法で著作権者を誰かを決めればよいし。日本では日本の著作権法で決めればよいということでありまして,異なる者が著作権者とされることも生じ得ます。
 2番目の著作権の譲渡について,でございます。ベルヌ条約国である日本の著作権者は,同盟国の権利を一括して持っているわけでございますけれども,それらの世界中の著作権を一括して譲渡するといった場合に,どこの法律が適用されるのかということでございます。物権的側面という難しい表現になっていますが,これは,一括譲渡の契約に例えばこの譲渡契約にはニューヨーク州法を適用する旨の定めを置いていても,ニューヨーク州法だけでは済まず,各国の著作権法がそれぞれ適用される事項があって,多数の国の法の適用を確認しなければならないということであります。すなわち,譲渡しようとしている世界中の権利の中には日本の著作権法上の権利も入っているわけでございますけれども,日本の著作権法の61条2項には,翻訳権・翻案権,あるいは二次的著作物の利用についての原著作者の権利については,特掲をしなければ譲渡できないという規定がございます。この規定はニューヨーク州法を準拠法とする契約で譲渡する場合にも必ず適用されるのか,それとも譲渡契約はニューヨーク州法によるということであれば,ニューヨーク州法に同種の規定がなく,特掲しなくてもこれらの権利も譲渡できるということになっていれば,日本の著作権も譲渡できることになるのか,という問題です。
 この物権的側面については,保護国法が準拠となるべきだということで,意見が一致しました。というのは,著作権法61条2項のような規定は,日本の著作権についての属性のようなものだと考えられ,そういった属性に分類できる事項についてはそれぞれの権利に適用される法律によるべきだということであります。日本法上の例についてだけ申しましたが,外国法上,どういった事項が物権的側面に係る問題として必ず適用されるべき規定なのかを確認し,そういった事項については全てそれぞれの法律上の要件を満たさなければ譲渡できないということです。
 他方,債権的側面,すなわち譲渡しますという約束に係る問題ですが,それについてはニューヨーク州法を準拠法としようが,イギリス法を準拠法としようが構わないということでございます。
 最後の権利侵害についてです。そもそも,ベルヌ条約に準拠法の決定について定めた規定があるのかないのかということから意見が分かれております。また,差止請求と損害賠償請求権の双方について保護国法によるとする意見や,どちらか一方は不法行為の問題として通常の国際私法のルールに従い,結果発生地法によるべきだといった意見に分かれております。また,ユビキタス侵害について特則を設けないと対応できないのではないかという議論もございます。保護国法によるとの立場であれ,結果発生地法によるとの立場であれ,世界中の権利が一遍に侵害されているという場合には,世界中の著作権法がそれぞれの領域における侵害について適用されるということになり,そのようなことを1つの裁判で行うのはおよそ現実的ではないのではないかということから,特別のルールが必要なのではないかという意見もございました。
 以上,早口で申しましたが,様々な意見がございまして,このワーキングチームはそれほどの人数ではございませんが,それであっても意見の一致はなく,そう簡単に日本の立場はこうあるべきだということにはなっておりません。
 ただ,今後,このような問題が国際的な場で問題になる場合,あるいは日本から提案しようするような場合には,この報告書は貴重なの基礎資料にはなるのではないかと思われます。
 以上のほか,3つの問題がございますが,これらにつきましては,多国間の枠組みやあるいは二カ国間の協議の現状を把握し,これに対応する日本の方策の在り方を引き続き検討しましょうということになっております。以下,何が問題になっているかということを簡単に申し上げます。
 まず,インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方でございますが,従来,著作権の保護について,意識の低い国における海賊行為について,どう対処すべきかという議論が多かったわけでございます。しかし,昨今のインターネットの普及等に伴い,スピードが速くなっており,また拡散しており,さらに違法行為を行うコミュニティをネット上で形成するといったことも行われておりまして,これらの状況に対して,どうあるべきなのかという問題意識が根底にございます。そもそも現状はどうなのかということについて,文化庁で行われているインターネット上の著作権侵害対策に関する調査について小委員会としてご報告を受け,検討いたしました。この報告書は,年度内にはできるようでございます。
 3ページの(3)ですが,WIPOで議論されている3つの問題,権利の制限と例外,インターネット上における視聴覚実演の問題,放送機関の保護の3つの問題のうち,後二者については議論が止まっておりましたけれども,動き出す気配があり,また最初の権利の制限と例外につきましては,より積極的に議論がされる模様でございまして,引き続き日本としての対応の検討が必要だろうということでございます。
 最後,4番目でございますが,知的財産権と開発の問題。あるいはフォークロアの問題というのは,先進国と途上国との間で意見の隔たりが大きい分野でございます。これらについてもWIPOにおける議論の進捗を見つつ,日本としての対応の在り方を検討していくべきだというのが,小委員会の見解でございます。
 以上のとおり,こうあるべきだという具体的な結論をこの分科会に提案するものではなく,審議の経過をご説明した次第でございます。そのうち特に,最初のワーキングチームの議論は非常に熱心に行われまして,参加された方々には相当な負荷がかかった作業だったのではないかと思っております。この場でこのワーキングチームのメンバーの方々に感謝申し上げたいと思います。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 ただ今のご報告につきまして,ご意見,あるいはご質問ございましたらお願いします。
 大渕委員,どうぞ。
【大渕委員】
 大渕でございます。
 ただ今国際小委員会の審議の経過につきまして,道垣内主査より資料3に基づきまして,非常に詳細にかつ分かりやすくご説明いただきまして本当にありがとうございました。
 先ほどのご説明でも力点を置かれました,この裁判管轄の関係,準拠法の関係というのは,これは本来的には国際私法上の論点ですけれども,知的財産法にも非常に密接に関連しておりまして,特に最近はこの問題の重要性が非常に高まっているわけでございますが,知的財産法サイドからの関与というのは,必ずしも十分でなかった面があるのではないかと反省も込めて思っておりますが,このように非常によく整理していただきまして,どうもありがとうございました。
 その上で,まだ今回については,特に何か物事が決まったというよりは意見が分かれましたという論点整理的なもののようでございますが,せっかくの機会でございますので,現状につきましてお伺いできればと思います。
 2点ございまして,1つは,これは著作権関係に焦点を当てて,国際裁判管轄と準拠法の議論がされていますが,我々知的財産法の専攻者から見ると,もちろん著作権の問題を考えるに当たって,公法的側面等々で違っているとはいえ,特許法等の議論に対する波及ないしは特許法等を含む知的財産法の全体的整合性という関係から大変関心というか興味関心があるところでございますが,この当たりは,もう議論として特許法なども視野に入れつつご検討されたのか,それともマンデート等の関係もあって,著作権に集中したのかという辺りをお伺いしたいというのが1点です。
 それから,2ページに先ほどご説明いただいた中で,(2)準拠法についての[2]のところで,物権的側面と債権的側面に分けるという非常にクリアな形で整理されているのですが,この切り分けの関係で,個別の問題で言いますと,どちらに切り分けるかというのがまた別途問題になろうかと思うんですが,その辺りもどのようなご議論があったのかというのをお教えいただければと思います。
 以上でございます。
【道垣内委員】
 まず第1点の特許,商標等,他の知的財産権との関係でございますが,このワーキングチームでは必ずしもその点について時間を割いて議論したわけではございません。しかし,著作権と対比すべきものとして議論の対象にはなっています。
 ただ,特許法のような成立に登録を要する知的財産権と著作権・著作隣接権との差異とその程度については,人により考え方は同じではなく,公法的側面と言いますか,前者はそれの強さが相当強いと考える人たちと,著作権も同じくらい強いと考える方がいます。先ほどの国際裁判管轄についての[2]の専属管轄とすべきだというご意見の方は,著作権についても特許権と同じくらい公法的側面,すなわち日本としての政策が強くあらわれているとのお考えに基づく一つの発露として,専属管轄にするとの結論になっているわけであります。特許等については,登録を要する権利ですから,特許権者等は誰かいう問題とか,登録に係る問題については,当然専属管轄だという考え方がございます。日本では特許侵害事件については特許登録国の専属ではないというのが最高裁判決の立場なのですが,しかし国によっては,特許侵害事件も登録国の専属管轄にすべきであるという考え方があり,欧州でもアメリカでもそういった判決が最近出ております。これに対して,比較法的には,著作権については専属管轄とするとの意見は強くなく,そのようなことを背景として特許権等と著作権等とを比較する議論が行われたと認識しております。
 2番目の譲渡について,物権的な問題と債権的な問題があるということを申し上げました。ご指摘のとおり,どの問題が物権的な問題なのかという線引きは非常に難しい問題でございまして,先ほど申し上げました日本の著作権法上の例は物権的な問題だとされると思われますが,では,日本の著作権法の中に定められている事項のうち,どれが物権的問題としてどんな場合にも適用されるのかということはワーキングリームではいちいち議論しておりません。
 それが日本の法律についてクリアにならなければ,外国の権利についても当然分からないということになりますので,著作権法を専門とする先生方にこそ,その線引きをご議論いただくのがふさわしいのではないかと思います。

(4)基本問題小委員会の審議の経過について

【野村分科会長】
 ほかにご発言はございますか。特によろしいでしょうか。
 それでは,国際小委員会のご報告については,このくらいにいたしまして,次に,基本問題小委員会の審議の経過について,これは私,主査をしておりまして,私のほうから概要を報告させていただきます。
 基本問題小委員会につきましては,他の協議会と異なりまして,参考資料に他の小委員会については報告として取りまとめられたものが配布されておりますけれども,基本問題小委員会につきましては,そこまで進んでおりませんで,この資料4に沿った形で審議の経過をご説明するにとどめたいというふうに思います。
 基本問題小委員会は,そこにありますように検討事項ということで,3つ挙げられておりますけれども,文化振興に関する施策の体系の中で著作権制度が担っている意義,役割。それから,デジタル化,ネットワーク化の進展に伴って,著作権制度の果たしている役割について変容が生じているか。今後の著作権関連施策についてどのような方向性をとるべきか。
 比較的基本的な考え方,あるいは全体の観点から考えるということで,個々の具体的な施策については,法制問題小委員会等,ほかの小委員会で,議論がなされているところでありまして,その基礎となるような考え方を整理するということで,設置されておりまして,開催状況にありますように,4回にわたって開催してまいりました。
 特に,そのうち3回,4回につきましては,ヒアリングを行っておりまして,そこにあるような有識者のヒアリングということで,それぞれお二方をお招きして,お話を伺うということをやってきております。
 ということで,特に,最初に申し上げましたように,何らかの形で,報告書という形にまとめておりませんけれども,本日は審議の経過ということをご説明するにとどめたいというふうに思っております。
 私からご説明するのは以上ですけれども,何かご質問,ご意見ございましたらお願いしたいと思います。
【玉川委員】
 今ご報告がありました基本問題小委員会の審議経過は報告のとおりでございますけれども,この小委員会の立ち上げの第1回会合では,今後の検討課題が示され,その中に“私的録画補償金制度の見直し”が掲げられております。
 第1回小委員会での文化庁からの説明では,この問題については懇談会を立ち上げ,まずそこで検討を進めるということでございました。しかしながら,この21年度の審議の中で,私的録画補償金制度問題は全く進展しませんでした。一方,現実の動きの中では,録画補償金が不払いになっているということが実際の問題として起こっております。動きが大変早い中で,こうした問題の検討はスピード感を持ってやっていく必要があるのではないかと考えます。そこで,次年度への要望でございますけれども,やはりこういう問題は,録画機器の技術の向上により,新製品の開発が大変なスピードで進んでおりますので,制度のあり方についてもスピード感を持って審議をしていく必要があるのではないかということが1つ。
 それから,私的録画補償金制度のあり方の問題につきましては,平成19年10月に“中間整理”が出されております。今後この問題の審議を進める場合には,この“中間整理”を起点に論議を積み上げ,後戻りしない議論が必要ではなかろうかと考えます。今年度の基本問題小委員会が次年度も継続されるのであれば,今後の進め方としてこの2点の要望を申し上げておきます。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 この基本問題小委員会,個別の案件,特に何らかの具体的な解決案をまとめるというようなことではありませんで,いろいろご意見は確かに出ましたけれども,最終的に第3回のところで,今後の議論の進め方についてということが載っておりますけれども,著作権制度全体についての基本的な考え方を整理するということにしておりまして,私的録音録画補償金のような問題の解決は具体的なことは別の場で考えるということで,ただ基本問題小委員会で議論したことがその解決に役立つということであれば,あるいはそこで出た議論をそういったところに反映させるということは十分考えられるということで,議論を進めてきたということではないかと思います。
 事務局のほうから何かございますか。
【永山著作権課長】
 補償金の関係につきましては,昨年の1月の当分科会の報告の中で,関係者間からなる協議会のようなものを設けて,関係者間の共通認識,共通の理解というものの醸成を図るべきであるというご報告の中でご提言をいただいております。
 現在に至りまして,いまだまだそういう協議会の立ち上げに至っていないというのもまさに事実でございます。
 私どもとしましては,この問題,様々な動きがございますので,先ほど委員からご指摘のとおりでございまして,昨年1月の報告を受けて,できるだけ早い段階でそういう協議会が開催できるように私どもとしては,今日のご意見を踏まえまして,また努力させていただきたいと思っております。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 ほかにございますか。
 石坂委員。
【石坂委員】
 今の私的録音録画補償金制度についての日本レコード協会の意見をここで申し上げさせていただきます。
 玉川委員のおっしゃるとおりでありまして,ただしそれは録画でしたが。私的録音録画補償金制度全体に関する議論は,この1年全く進展がありません。2006年4月から2008年12月まで委員20名で,いろいろなお話はできたんですが,意見の隔たりが大きくて,全く結論が出ないまま終了しています。
 こうした中で,私的録音補償金の問題の推移を見ますと,2001年度のピーク時には40億円あった私的録音補償金は,2009年にはわずか5億円にまで激減しておりまして,この流れは全く止まらず,2010年の私的録音補償金はさらに減って3億円になってしまう見込みと聞いており,我々の権利者を中心とした見方から言うと,ひどい状況に至っております。
 私的録画補償金については,政令の解釈を巡って,これは幸か不幸か,訴訟にまで発展してしまいましたが,私どもとしはて,やはり日本人の民族性,国民性,あるいは文化,伝統,あるいは慣行などを十分に考慮した上で,この制度をスピードで再開させるために,関係者が一堂に会する場をぜひ設けていただきたく,1日も早く一定の発展があることを強く望みます。

(5)法制問題小委員会の審議の経過について

【野村分科会長】
 ほかにご発言いかがでしょうか。
 それでは,基本問題小委員会の審議経過については,以上でよろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。
 それでは,次に法制問題小委員会の審議経過について,土肥委員よりご報告をお願いいたします。
【土肥委員】
 それでは,今期の法制問題小委員会における審議の経過について,ご報告をいたします。
 資料が相当ございますけれども,後ほど詳細については,関係の資料を使って説明していただくつもりでございます。
 今期の法制問題小委員会では,知的財産推進計画2009において,急ぎの検討が求められておりました権利制限の一般規定を中心に審議を進めてきたところでありまして,小委員会における審議に加えて,ワーキングチームを設置し,集中的な審議を行いました。  このほか,契約・利用ワーキングチーム及び司法救済ワーキングチームにおいて,それぞれ「ネット上の複数者による創作に係る課題」,「間接侵害」に係る課題について,検討を行いました。
 これらの課題について,審議の進捗状況等を後ほどご説明いたしますけれども,現時点では,いずれについても結論の取りまとめには至っておりません。
 したがいまして,今回のご報告は期末の最終的な報告書とはせず,審議経過報告として審議の進捗状況や残された課題等についての整理に留め,来期も引き続いて必要な検討を行ってまいりたいと考えております。
 それでは,各課題の審議の進捗状況等を簡単に説明いたします。
 まず,権利制限の一般規定についてです。
 権利制限の一般規定と言いますのは,一定の包括的な考慮要件を定めた上で,権利制限に該当するかどうかは裁判所の判断に委ねる。こういう方式の権利制限規定ですが,今期の本小委員会の主要課題として,検討を進めてきたわけでございます。
 小委員会では,平成21年3月に文化庁委託事業として取りまとめられておりました著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会の報告書の内容を基礎として,その後,有識者団体及び関係団体へのヒアリングを通して検討すべき事項をまず整理いたしました。
 その後,これらの検討事項ごとに専門的な見地から論点を整理するため,ワーキングチームを設置し,集中的な議論を行い,先日開催された今期最後の小委員会においてワーキングチームにおける検討結果が報告され,それに基づき議論が行われたところでございます。
 今後は,この報告書の内容をたたき台として,著作権法における権利制限の一般規定の在り方について,引き続き検討を行う予定でございます。
 このワーキングチーム報告書の概要につきましては,先ほど申し上げましたように,後ほど事務局から説明していただく予定でございます。
 次に,ネット上の複数者による創作に係る課題については,ネット上の複数者による創作の類型について法的な整理を行うとともに,ネット上の複数者による創作に関する特性,これについても検討を行いました。
 そのほか,関係事業者からの本課題に係る現状等の報告や米国での議論に係る報告に基づく検討も行いました。
 本課題につきましては,これまでほとんど議論が行われてこなかった問題ですので,今後も海外での議論の把握を通じ,契約による対応の可能性等を中心に引き続き検討を行う予定でございます。
 次に,いわゆる間接侵害に係る課題につきましては,近年の情報通信技術の発展に伴う状況の変化を踏まえ,最近の重要裁判例の分析や考えられる制度設計の選択肢について,論点の整理を行いました。
 今後は,関連する主要な事案の動向にも注視しつつ,関係者の意見聴取等を通じた実態把握を行い,それを踏まえて考えられる制度設計やその制度設計と関係の裁判例との対応関係,現行の著作権法体系への影響等,これらについて引き続き検討を進めていく予定でございます。
 その他の課題としましては,昨年度の報告書において,課題の状況の推移を踏まえ検討を行うこととされておりました1つとして,薬事関係,図書館関係,学校教育関係の権利制限。さらに私的使用目的の複製に係るプログラムの著作物の取扱。最後に,通信・放送の在り方の変化への対応について,各課題の状況の進展に伴い,引き続き検討を行っていく予定でございます。
 それでは,先ほど申し上げました権利制限の一般規定,ワーキングチーム報告書の概要につきまして,事務局から説明をお願いします。
【池村著作権調査官】
 それでは,お手元の参考資料2-1の報告書概要,こちらに基づきまして簡単に報告させていただきます。
 まず,表紙の裏側1ページ目をご覧ください。
 このワーキングチームでございますが,昨年9月の第6回法制問題小委員会において設置が決定され,昨年10月から12月までの間,全部で8回の開催を重ねました。
 ワーキングチームでは,「議論のためのたたき台」を作成するという観点の下,結論を求めるのではなく出された意見を幅広く記述し,意見の集約度に応じて,「意見が一致した」,「意見が大勢であった」等の表現でまとめております。
 ワーキングチームの検討は,法制問題小委員会で決定されました検討事項に沿って実施しましたが,報告書では論点ごとの検討結果を独立して記述するスタイルを採用しまして,関連する論点間の意見の調整等は行っておりません。
 続きまして,2ページをご覧ください。
 「(1)導入の必要性」でございますが,ヒアリング結果等によりますと,利用者側と権利者側とで意見の隔たりが大きいことが認められ,このような中,ワーキングチームとして結論を出すには至らなかったものの,導入の検討に当たっては,法改正を必要とする立法事実をどこに求めるのかという点につき,十分検討すべきという意見で一致しております。
 続きまして,「(2)関連する議題の検討」でございます。
 まず,「個別規定の解釈等による対応について」,でございますが,裁判例の分析等を通じて,裁判実務においては,個別規定の解釈上の工夫などにより妥当な解決が図られており,個別規定が常に厳格解釈されているものと評価できないとの意見で一致しております。
 次に,「個別規定の改正等に時間がかかるとの指摘について」でございますが,個別規定の改正に要する審議期間と訴訟における審議期間との比較を通じた検討を行い,その結果,両者に特段の差は認められず,少なくとも個別規定の改正による解決に限界があるとの問題をもって一般規定の必要性を導くことはできないとの意見で一致しております。
 もちろん報告書にも記載しておりますとおり,両者を単純比較しても厳密な意味での比較にはならないところでありますが,あくまで1つの目安として,このような検討を行ったものとご理解いただければと思います。
 続きまして,「一般規定の導入により居直り侵害者がまん延するなどの指摘について」でございますが,我が国の訴訟の現状等に鑑みれば,一般規定の適用が主張される事件は,事件全体の割合から見れば少ないだろうとの意見等が挙がっておりました。
 次に,3ページをご覧ください。
 「一般規定の導入により大きな経済的効果が生まれるという指摘について」でございます。
 ワーキングチームでは,このような主張の根拠とされておりました米国のいわゆるCCIA報告書,こちらの分析を行った結果,この報告書のみをもって一般規定による経済的効果を確認できないとの意見で一致しております。
 続きまして,「法社会学見地からの検討」に関しましては,外部の専門家より,仮に導入の必要性が認められるのであればある程度の社会的混乱は導入当初のコストとして受任すべきなどのご意見を聴取しております。
 「憲法学的見地からの検討」に関しましても,外部の専門家より一般規定の導入はメリットがある一方,予測可能性が低下し,表現の自由に萎縮効果を及ぼすデメリットもあること,などのご意見を聴取しております。
 続きまして,4ページ目をご覧ください。
 「仮に一般規定を導入するとした場合の検討課題について」でございます。
 まず,「(1)一般規定の内容等」でございますが,ワーキングチームでは,立法事実の検証という観点から,ヒアリングにおいて出された一般規定によって権利制限を求める100程度の利用行為,こちらを分析整理いたしまして,5つの類型に分類し,これに基づき検討を実施いたしました。
 ページをめくっていただきまして,5ページをご覧ください。
 まず,[1]の「いわゆる「形式的権利侵害行為」について」でございますが,ワーキングチームでは,ここでAとした利用,「その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生じる当該著作物の利用であり,その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」につきましては,一定要件の下,一般規定による権利制限の対象とすることが考えられるとの意見が大勢でございました。
 続きまして,6ページ目をご覧ください。
 「[2]のいわゆる「形式的権利侵害行為」と評価するかはともかく,その態様等に照らし,著作権者に特段の不利益を及ぼさないと考えられる利用について」でございます。
 ワーキングチームでは,ここでB,Cとしました利用につきましては,一般規定による対象とすることが考えられるとの意見が多くございました。
 このうちC,「著作物の表現を知覚するための利用とは評価できない利用であり,当該著作物としての本来の利用とは評価されないもの」についてでございますが,著作物の利用の中には物理的には複製等の現象が伴うものの,著作物を見る,聞くなどといった著作物の表現的側面を知覚する目的には何ら向けられていないというものが一定程度存在する可能性があり,研究開発やネットワーク産業の分野等に特徴的なものと考えられます。
 このような利用は,権利者に特段不利益を及ぼすものではないと考えられることから,一定要件の下,一般的の対象として考えられるとの意見がワーキングチームでは多く,これにより,各種新技術やサービスの開発,提供等の萎縮にも一定程度資すると考えられるという形でまとめられております。
 続きまして,7ページをご覧いただきます。
 「[3]既存の個別規定の解釈による解決可能性がある利用について」,でございます。
 ワーキングチームでは,個別規定の直接適用は受けないものの,立法趣旨や立法後の環境変化等の諸事情に照らし,社会通念上,当該個別規定の拡大解釈などにより権利が制限されると解される利用行為が一定程度存在する可能性があるとの意見で一致いたしております。
 その上で,これらの利用については,裁判実務では事案によった柔軟な解決が図られていることから,一般規定の対象とはせずに個別規定の解釈に委ねるべきとの意見が大勢でございました。
 続きまして,[4]ですが,「特定の利用目的を持つ利用について」,でございます。
 こちらにつきましては,障害者福祉や教育などといった目的の公益性に着目した利用。そして,「パロディ」としての利用の2つに整理し,議論を行っております。
 前者につましては,既存の個別規定の関係を慎重に考慮する必要があり,後者につきましては,そもそも何をもって「パロディ」と考えるかなど,重要な論点が多いため,それぞれ権利制限の必要性につき,慎重に検討した上で,必要に応じて,個別規定の改正などによる対応を検討すべきとの意見が大勢でございました。
 最後に,[5]の「その他」でございますが,ただ今申し上げました[1]から[4]のいずれにも該当しない利用につきましては,権利制限の必要性を慎重に検討した上で,必要に応じ個別規定の改正により対応することが適当であり,一般規定の対象とは位置づけるべきではないとの意見がワーキングチームでは大勢でございました。
 最後のページをご覧ください。
 このほか,関連条約との整合性等につき,概略をこちらに記載しましたような議論を行っております。
 特に,仮に一般規定を導入する場合,ベルヌ条約等のスリーステップテストや明確性の原則などに十分留意すべきとの意見で一致しております。
 報告書の概要につきましての説明は以上でございます。詳細につきましては,参考資料2-2,報告書本体のほうをご確認いただければと存じます。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,ただ今のご報告につきまして,ご意見,ご質問等ございましたらお願いします。
【辻本委員】
 コンピューターソフトフェア著作権協会の辻本でございます。
 権利制限の一般規定の議論につきましては,今後も慎重に検討をお願いしたいと思います。そもそも権利制限規定は,本来著作権の権利として認められているものを制限するものでありまして,たとえ公正な利用とのバランスに留意しつつ整理するものとしてあっても,できるだけ抑制するものであると考えております。
 包括的な権利制限の一般規定を置くことは,権利者としては反対せざるを得ない。現に,我々の協会といたしましては,本制度の議論過程においても反対の意見を申し述べているところでございます。
 仮に現在の著作権法の権利制限規定だけでは利用者に不便があるということでございましたら,順次個別の権利制限規定を整備すれば十分であるというふうに考えております。
 したがいまして,本議論を継続するに当たっては,そもそもそのような規定が必要か,というところから慎重な議論を改めてお願いしたいと思います。
 また,著作権法30条の改正につきましては,今回は,対象が録音,録画に限られたわけでございますが,これまでもこの場で申し上げてきましたとおり,ビジネスソフトなどのコンピュータープログラムも違法アップロードによる著作権侵害を多く受けております。ダウンロードの違法性が急務になっているわけでございますので,ぜひとも30条の権利制限から除外する行為を複製全般,プログラムの著作物のダウンロードも法規制の内容に含まれるような法改正をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【野村分科会長】
 ほかにございますか。
 石坂委員,それからそのあと,金原委員,お願いします。
【石坂委員】
 日本レコード協会の意見をこの件に関して申し述べさせていただきます。
 権利制限の一般規定に関しては,法制問題小委員会において,2つとてもよかったと考えております。
 1つは,私どもを含め,様々な関係者のヒアリングを実施していただいたこと。もう1つは,小委員会内にワーキングチームを設置し,積極的に検証,検討していただいたこと。このようなことは非常によかったと考えております。
 次期法制問題小委員会においても,拙速に結論を出すことなく,引き続き十分かつ慎重な検討が行われることを期待しております。
 例えば,西洋ではよく使うトレードオフのような観点からの議論も必要ではないかと思います。
【野村分科会長】
 それでは,金原委員,どうぞ。
【金原委員】
 日本書籍出版協会の金原でございます。
 書籍協会も事前にヒアリングで意見を述べる機会を与えていただいたということについては感謝しております。そういう経緯もありますので,ぜひそのときに私どもが申し上げた意見を斟酌して,慎重にご検討いただきたいということがまず第1点です。
 それから,この概要を拝見する限り,分析というかご意見,そういう意見が大勢であったとか,あるいはそういう意見があったということを慎重に読んでみますと,必ずしも権利制限の一般規定を導入するということについて,賛成であるという意見が多いとは私は思えないのであります。
 例えば,2ページ目の導入する必要性についての(2)の個別規定の解釈等による対応について,これは妥当な解決が図られていると。したがって,必要であるということにはならないというご意見ではないかと思います。
 それから,その次の時間がかかるという指摘も,裁判を行った場合のデメリットを考えると,時間的には大差がないではないか。そういう意見とかございます。
 3ページ目の辺り,必要性についての[2]のところも,経済的効果を示すようなものではないのではないか。それから,外国において現在導入している国はないとか。様々な意見がある中で,これらは一部かもしれませんけれども,必ずしも肯定的な意見というふうにはどうも読めないので,ぜひその点からも慎重に検討していただきたいと思います。
 それから,やはりこれは権利者,あるいは利用者の間の意見の隔たりが大きいということも記載がありますので,先ほどのヒアリングのことも含めて,ぜひ権利者側からの意見もさらに聞いて,その上でご判断いただきたい。あるいは検討していただきたいということをお願いしたいと思います。
 それから,その他のところにありますけれども,教育とかあるいは研究目的ということについての審議も必要であると記載がありますが,ご承知のとおり教育については35条でかなりの部分がカバーされております。それから,研究目的も,研究という分野においてもそういうことを目的として出版しているものが多数あるわけですので,そういうことを権利制限の対象とするということは,そもそもおかしいだろうというふうに思いますので,そのようなことを含んでご検討いただきたいということであります。
 以上です。
【野村分科会長】
 ほかにご意見ございますか。
 三田委員,どうぞ。
【三田委員】
 この問題については,ちまたでは,日本版フェアユースという新しい制度を設けるのだというようなことが言われておりました。このフェアユースという考え方について,アメリカのグーグルが図書館の書籍を勝手にデジタル複製したという問題について,ペンクラブの世界大会において,これはとんでもないことである。グーグルに抗議するという決議が出たわけであります。このことによって,アメリカにおける裁判も大きく方向が変わるというようなことが起こっております。
 アメリカのフェアユース規定というものが,世界的に見て,今や一斉に糾弾されているというような状況になっております。
 そういう状況の中で,日本で同様のフェアユースに類するような議論が,今も続いているということについて私は疑念を持っております。
 ワーキングチームの内容については,非公開でありますので,よく分からないわけでありますけれども,伝え聞くところによりますと,当初のフェアユースではなくて,小さなフェアユースというような言葉を使って,とにかく一部でもいいからフェアユース的な概念を実現したいというようなご意見もあったかに聞いておりますけれども,私はこの小さなフェアユースということもそもそもフェアユース的な概念が導入されること自体が問題であるというふうに考えております。
 もしも利用者の側から現行の規定では不都合であるというご要望があれば,個別に審査をして権利制限を拡大するということをやれば十分でありますし,またその審議をなるべく迅速にするというような体制を実現することのほうが急務ではないかなというふうに思われます。こういう議論をする暇があったら,個別の議論を実際にできるだけ早くやるということをやったほうがよいのではないかというふうに考えます。
 以上です。
【野村分科会長】
 ほかにご意見ございますか。
 瀬尾委員,どうぞ。
【瀬尾委員】
 ちょっとこれは質問でございます。事務局のほうに質問になるのかも分かりませんが,これまで法制問題小委員会で行われてきたいろいろなものの根底には政府の知的財産戦略本部からの知的財産推進戦略ですか,それに基づいた議論が行われてきたというふうなことがあるかと思います。
 去年の夏に政権も変わって,1つお伺いしたいのは,現在でも去年出た知的財産推進戦略ですか,そちらはそのまま方針が踏襲されているのか。つまり現政府の方針として,それがはっきりと確認されているのか。つまり今の政府がコンテンツ政策に関して,前政権と同じ方向を維持しているのかどうかということがちょっと分からないし,前は非常に政策的な意味での推進があったというふうに私は聞いております。そこで,政府の方針が変わっているとすると,それはこの議論に影響するのかどうか。
 つまりこれまであった議論の提案,それを受けての審議というルーチンが今後も続くのかどうか。そこについての理解をどのように考えていらっしゃるかということを委員会,もくしは事務局にお伺いしたいと思います。
【永山著作権課長】
 それでは,私のほうからご説明をさせていただきたいと思います。
 今,ご指摘のように,今回こういう形で文化審議会著作権分科会の中で,一般規定の議論をし始めるきっかけになったのは,知財計画2009のほうで,本年度中に導入に向けてこの問題について一定の結論を出すということが盛り込まれております。
 これは,知財戦略本部,これは文科大臣も入っている会議,本部での決定ということで,これについて現時点においても本部決定としての位置づけになっているというふうに私どもは聞いておりますので,私どもとしては,これを念頭に置きながら,これからも検討をお願いしたいというふうに思っております。
【野村分科会長】
 よろしいでしょうか。
 ほかにご発言ございますか。
 松田委員,どうぞ。
【松田委員】
 今のお話に関連で質問させていただきます。
 確かに知財本部からのご要請がありまして,その中の知財本部の議論の中には,著作権物たるコンテンツを利用するに当たり,特にインターネット新規ビジネスにおいて利用するに当たり,日本において萎縮効果が生じているという意見があり,そのことから著作権法の一般的規定導入という議論が出てきた経緯がありました。
 この審議会の小委員会における議論の中にもありましたように,インターネット新規ビジネスを萎縮させないような一般的規定を著作権法に導入できない場合については,デジタルコンテンツに関する流通促進の法制を,もちろんこれは他の官庁になると思いますが,立法して,一般的規定を導入するという意見があったのです。これはこの審議会の小委員会の中でもあったんです。それから,公的な場以外にも,そういうことが発言されているわけです。
 しかし,当審議会分科会と小委員会において一生懸命議論して,そして一定の結論が出た後に,それでは不足だから知財本部がもう一度召し上げて,別の法制を作るとか,他の省庁がその法制を作って,著作権法を実質的に改正するというようなことが本当に起こるのだろうかと危惧しています。
 小委員会においてワーキンググループに対しその質問をいたしましたところ,それについては,審議事項ではないから格別の議論はしていないという回答がありましたが,著作権法の直接の審議をこの分科会でしておいて,その後またそれが別の場で議論される,それがデジタルコンテンツ流通ネットワークに限るというものでありましても,これがされるということであれば,この分科会は何のための議論か分からなくなってしまいます。
 私はこの点については,そういうことのないようにすべきだという意見を持っております。できれば文化庁のほうにおいても,他の動きというか,そういうことが起こり得るかどうかということを見ていただいて,もしそういう動きがあるのであれば,この分科会にすぐにご報告願いたいというふうに思うのですが,どうでしょうか。私の意見です。
【永山著作権課長】
 現時点において,政府部内で,今,松田委員がご発言のような検討がなされているということについては承知しておりませんが,今回,法制問題小委員会,これからご議論いただいて,いつかの時点で中間的なまとめないし議論の整理をしていただきたいと思っておりますので,そういう形が徐々にあらわれている過程でどういう動きがあるかについては私どもとしても注視していきたいと思っております。
【野村分科会長】
 ほかにご発言,いかがでしょうか。
 どうぞ,大林委員。
【大林委員】
 最後に発言しようかと思っていましたが,今,松田先生からもお話がございましたので,基本問題のところで非常によかったのは,委員会の中で著作権というのはどういうものなのか。文化の問題として取り上げられるべきであろうという意見がヒアリングの中でも根木先生からお話があったことです。
 どういうところをきちんとやるべきかという,本当に基本問題が議論されて,その方向が示されたということがありがたいなと思いますし,卑近な例で恐縮ですけれども,サッカーの試合で,観客から,点が入らないからつまらないと言われて,慌ててルールの議論を始め,じゃあ,ボールも軽くなったことだし,オフサイドのルールをなくしたらどうかというような議論に飛んでしまうことが,私などは非常に危ないなと思っていたんですけれども,その辺はしっかり,これはサッカーのルールづくりをやるんだよということで,著作権をきちんと文化という分野で,扱うということを確認できて,非常にありがたいと思っております。
 ですので,今,松田先生のほうからありましたようなことがございましたら,この場での議論が全く無駄になってしまう可能性がございますので,そこはぜひよろしくお願いしたいと思います。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 ほかにご発言,いかがでしょうか。
 はい,どうぞ,金原委員。
【金原委員】
 この権利制限の一般規定を導入しようという背景にやはり経済が萎縮するから,権利制限の一般規定を検討するんだという記載がありますけれども,この報告書にもあるとおり,権利制限の一般規定は裁判所における訴訟を,その範囲について,裁判所における判断,ということはつまり訴訟なんですが,それをベースにこれを導入しようと。そういうことが基本にあると思います。
 その裁判における原告,被告の間における議論というものが果たして経済効果,どういうものなんだろうかということを考えた場合に,これはやはり経済にとってマイナスであろう。つまり原告にとっても被告にとってもやはりこれに対するエネルギーというのはものすごいものが出てくるだろうと思います。
 そうなりますと権利制限の一般規定を導入したことによる経済を活性化させるという効果よりも,裁判における判断におけるマイナスのほうがはるかに大きいのではないかというふうに思います。
 それよりも経済が萎縮しないようにするためには,利用者がそれなりの許諾をとって著作物の利用を進めればいいわけでありまして,その許諾にかかるコスト,管理のコストも含めて,それよりもそれを利用したことによって得られる経済的効果のほうがはるかに大きいだろう。
 もともと著作物というのはそういうものであろうと思っておりますから,現在,著作権の権利制限でカバーされていない利用が仮にあったとしても,それは許諾をとれば,利用できることですから,それによる経済効果の促進を求めたほうがはるかに国民にとってはコストが安く,活性化するのではないかと思いますから,それも含めてご検討いただきたいということであります。
【野村分科会長】
 ほかにご意見いかがでしょうか。
 よろしいでしょうか。
 どうぞ,土肥委員。
【土肥委員】
 皆様のご意見をちょうだいして,若干感想を申し上げておきますと,まず基本的に慎重な判断をということをご注文いただいたわけでございますけれども,ワーキングチームにおいては,基本的には慎重にというか,要するに法制小委に対していかなる判断の素材を提供することができるかということで,できるだけ多くのものを報告書の中に取り込んだということでございます。
 それから,いろいろ言われますけれども,やはり諸外国におきましては,デ・ミニマスという法理もあるのに,日本にはございません。そういうことを1つとらえてみても,現行の著作権法に基づく様々な面における萎縮効果というのは,これはビジネスサイドのみならず個々の利用者の点においても確かに存在するのではないか。そういう認識をしております。
 それから,先ほどご意見の中にございましたけれども,混乱を招くのではないかと,フェアユース規定を設ける,あるいは一般的な権利制限規定を設けることによる混乱をもたらすのではないかというご意見がございましたけれども,そこはどういう規定の構成をするか。そこのほうが大事ではないか。それを通じて,混乱を抑えることのほうが重要なのではないかというふうに考えているところでございます。
 それから,小さなフェアユースというご意見もございましたけれども,そういうワードは一度もワーキングチームでは使ったことはございませんので,その点は,誤解のないようにお願いしたいと思います。
 それから,著作権法というのは,もうこれは歴史的に見ても,すべからく政策的なものでありまして,米国の著作権法の歴史を見ても,あるいは大陸法の例を見ても,1791年のフランスのデクレを見ても,これは極めて歴史的には政策的なものでございまして,こういう著作権法が政策とは全く関係ないものだというふうには我々は考えておらないということでございます。
 いずれにいたしましても,このワーキングチームの報告書に基づいて,今後は,法制小委での議論をしていかれることと私は考えているところでございます。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 大渕委員,どうぞ。
【大渕委員】
 今,言われた点に,若干補強的に申し上げたいと思います。要するに,これは先ほどご説明いただいた報告書にあるとおりでございまして,ここには権利制限の一般規定という用語が使われておりますが,フェアユースという用語というのは私が知る限りは使われてないのではないかと思います。要するに,このワーキングチームの作業で感じられたものは,哲学論争のような空中戦的なものよりは,先ほど出ましたように,ヒアリングで出ました具体的ニーズを踏まえて,それをいろいろ抽出して具体化したものが,今回のパワーポイントでは5ページ,6ページにありますA,B,Cということなので,こういうものをベースにして議論していったほうがより実りがあるものになるのではないかと思います。私の個人的見解としては,やや青臭い言い方ではありますが,この議論を通して,真の意味で,国民のために最も良い著作権法にするには,どのような具体的内容のものとすべきかという形で,哲学論争ないし抽象論よりはもっと地に足のついた具体的な議論を行うほうが有益ではないかと考えておった次第でございます。
【野村分科会長】
 どうぞ,瀬尾委員。
【瀬尾委員】
 今,ご意見を伺って,ちょっと私も思っていることがあるんですけれども,今回のこのご報告をいただいた中で,それぞれ個別規定で規定できるような内容に絞られてきつつあるような気がします。例えば個別規定を細分化したり追加していくことで,対応できず,一般規定をここであえて導入する意味,この社会的な意味と法律的な意味から言っても,一般規定がよいのか,個別規定がよいのか,その境に来ていると思います。内容的にはもしかしたらどちらでも個別規定でも一般規定でもできるのかもしれないところをあえて一般規定として導入しなければいけない意味というものをもう少しご説明いただくような形にしていかないと,事象だけでいくと,やはりどうしてもなぜ一般規定なのであるのか。個別ではいけないのかというところに,ちょっと思い至らない,またはそこの理解が難しいということがございますので,今後の議論の中では,そういうことの説明,意味づけということもぜひご説明いただきたいと思います。
【野村分科会長】
 土肥委員。
【土肥委員】
 特定の目的を限定して,権利制限規定を設けているというのが現在の著作権法の権利制限なり,例外の在り方だというふうに思っておりますけれども,やはり同時に目的を具体的に絞らないでも権利制限規定というものを設ける領域は当然あるんだろうというのがそもそもの発想の前提であります。
 その共通の目的としてどういうスコープを捉えるかというのは,今後,法制小委で最終的に判断されていくというふうに思っております。
【野村分科会長】
 大渕委員,どうぞ。
【大渕委員】
 今の点に,若干付加的になりますけれども,私が先ほど申し上げました趣旨は,ここにAやBやCとして挙がっているもの,これは一般規定と呼ぶかそう呼ばないかというのは名称の問題にすぎなくて,これは先ほどご説明があったとおり,特定の目的というよりはそれを超えた一般性のあるものということで,むしろ,その内容自体に注目したほうがより実りある議論となるのではないかというのが先ほど申し上げた趣旨でございますので,補足させていただきます。
【野村分科会長】
 松田委員,どうぞ。
【松田委員】
 この一般的規定を導入することのプラス面は間違いなくスタートから経済的効果を目指していたのではないかと思います。経済効果が全くなくて,この導入が必要だという議論は,私はないように思うのですが,経済的効果についてもこのワーキンググループの報告書には検討がなされていると思います。
 先般の小委員会で,このワーキンググループの報告書を私が読んだ後,私の感想としては,感想という言葉を使いましたが,経済的効果が一般的規定を設けると認められるのかという点については,この報告書はむしろ消極に書いてあるのではないか,というふうに私は読みました。
 というのは,10ページに,権利制限規定の一般規定を導入することにより,大きな経済的効果が生まれるか否かについては確認できないとの意見で一致したというふうにワーキンググループが言っておりますので,積極的に,経済的効果を認めたという意見にはなっていないんだなというふうに思いました。そのように私は読みました。
 それで,私はその感想を申し上げましたところ,座長の意見からは,個人的には経済的効果が生まれるというふうに考えておりますという意見がありました。
 それについては,個人的意見ならそのようだろうと思いますが,この報告からは格別ないのではないかと私は読んだんですが,もしそうであるならば,補充していただければ私はもう少し理解できるのではないかなと思うのですが,土肥先生,いかがでございましょうか。
【土肥委員】
 ご質問ですけれども,おっしゃっておられるところの4行の文章ですけれども,私及びワーキングチームの認識としては,CCIA報告書の結果のみをもってというところが,比重のある部分でございまして,そのことをもってだけ,それのみをもって経済的効果の根拠とはできない。そこは一致しているということでございます。
 ですから,それ以外にも当然資料,データというのは当然あるのではないかと,私はそれは認識しておりますけれども。
【松田委員】
 それであれば十分理解できます。9ページから10ページにわたってもほとんどCCIAのことしか書かれていないように思うわけです。ただ,このタイトルが,経済的効果と一般的になっておりますから,ご質問したまでであります。経済的効果があるかどうかは小委員会,これからも検討していくということになると思います。
 どうもありがとうございました。
【野村分科会長】
 大渕委員,どうぞ。
【大渕委員】
 今の点についても補足させていただきますと,先ほどのCCIA報告書についてはもうおっしゃるとおりで,特に付け加える点はございませんが,今回のパワーポイントでも6ページの辺りに,先ほど申し上げましたA,B,CのCについては,利用者側の萎縮防止にも一定程度資すると考えられるという,この辺りについては,先ほどのご質問の点では,経済的効果というものを裏から言っているといえるのではないかと思っております。先ほど土肥委員が言われたとおりのことがこの報告書にも,本文では36ページの辺りに出ておりますが,各所にそれが窺える記載が出ているのではないかと思います。先ほどの松田委員からのご質問に補足させていただきました。
【野村分科会長】
 辻本委員。
【辻本委員】
 専門的なご意見を,いろいろ頂いて有難いと思いますが,私,産業界に身を置くものとして,一言だけお願いしておきたいと思います。我々はソフトフェアでビジネスをやっておりますけれども,30年前にはこういうソフトウェアのビジネスについて,世界から何百億というお金をもってかえるということはあり得なかったことです。もともとご存じのように,原材料を海外から買ってきて,日本が加工して輸出する。これが日本の産業構造でございますけれども,これが中国や,いろいろなところに取られ,どんどん安くなっていきますから,日本はこれから100年間は,やはり材料を輸入しないCO2も出せない中,国民が産業を盛り上げなければいけないということになりますと,やはりソフトフェア,著作権,著作物,こういうものをどんどん押し広め,物づくりの知恵だけが産業になるわけです。日本人にとって,非常に向いております大事なことであります。
 ここをやることによって,物づくりの保護ということで,著作権という権利保護にある程度目を向けて頂いて,基本を守っていただかないと,物づくりをするところがやっていけない状態になりますと,これはもう駄目なんですね。
 今,音楽のほうもネット関係で随分と痛みを被っておりますから,やはり産業が衰退しますと国際競争力に勝とうというだけの投資もできませんし,いろいろ問題が多くなります。
 我々もそのうちオンラインとかいろいろなことで,ネット上の問題でデジタル化されて,どうなるか分からない問題もたくさんございます。ここを何とか切り抜けてやろうということで頑張っておりますけれども,これはやはりこれからの30年,50年,日本の若い人たちが,食べていく中で,自分たちの知恵だけで海外で戦えるというものを少しずつでも増やしていくためには,基本的にそういう産業をやはり保護するという問題は,ちょっと語弊があるかも分かりませんけれども,その物づくりの成果については,著作権という1つの法律で守るんだということを基本的なことを考えていただきまして,また専門的な議論をお願いしたいと思います。ひとつよろしくお願いしたいと思います。
【野村分科会長】
 中山委員,どうぞ。
【中山委員】
 経済的効果の話ですけれども,CCIAの報告書が検討されたようですが,こんなもの題材にして議論したこと自体が間違いだと私は思っておりまして,日本と状況が違うので,こんなものを題材にして議論すべきではなかった。
 著作権法の条文をを改正して,何兆円のGDPの成長効果があるなんて考えている人は誰もいないだろうと思います。
 著作権法というのは元来,産業振興法ではなくて,著作権法の法律を改正すれば,ある産業が起こるとか,そんなことはあり得ないと私は思っております。
 ただ,言えることは,著作権法が権利者の利益を害さないような方法でのビジネスがあった場合に,その足を引っ張ることがあってはいけないと考えています。
 しかし,そのように足を引っ張らないような法律改正しても,果たしてその産業が起こるかどうかは,それはビジネスモデルだとか,あるいはそのための資金があるか,あるいは経営者のマインド,あるいはそれに関わるインフラがあるか等々の問題に依拠しているわけです。著作権法が,直接的に産業を興すということはあり得ないだろう私は思っています。
 しかし,過去の例でいきますと,検索エンジン,これはアメリカの例を見てみますと,仮にフェアユースがなかったら,恐らく検索エンジンビジネスは起きなかった。過去の例としては,検索エンジンについては,間違いなく経済効果が十分あったということが言えるだろうと思います。
 日本ではこの前の改正があったわけですけれども,10年遅れて改正した。今後,どういう技術が出てくるか全く分からない。おそらくクラウドコンピューティングなどの出現で,我々想像できないことがいろいろなビジネスが出てくるだろうと思います。その場合に,もちろん権利者の利益を害してはいけないので,本の売上が落ちるとか,レコードの売上が落ちる,そういうものはフェアユースにならない典型例なのですけれども,そうではない,検索エンジンのような,権利者の利益を害さないものがあった場合,果たしてそれを禁止していいかという,そういう問題になろうと思います。
 何が起きるか分からない。そういう状況において,果たして個々の権利制限規定の条文を作っていくので十分か,間に合うか,あるいは間に合うとしても,今度の検索エンジンのあの条文を見て,あんな見にくい条文を今後も作り続けてゆくのか。
 あの検索エンジンの規定は,法律の専門家が読んだって,何を言っているかちっとも分からない。そういう条文を毎年,毎年作っていかなければいけない,といことでよいのか0。あるいは一昨年は,機械を修理する場合に,中のものを出して,もう一回入れることはセーフですよと,という条文を作りました。世間の人が見たら,こんなばかなことを著作権法は書かねばならないのか,と思うでしょう。このような世間離れした法律を今後毎年大量に作って行かねばならないのでしょうか。
 著作権も意識が発達していますから,多くの人は,果たして今やっていることが大丈夫かと不安になってくるわけです。そうすると次々に毎年,これもやってくれ,あれもやってくれという改正案が毎年多数出てくる。そんなことを著作権法でいちいち処理できるか,と私は思っています。
【野村分科会長】
 ほかにございますか。
 山浦委員。
【山浦委員】
 時間もないようですので,短く申し上げますけれども,今回のワーキングチームの報告,それから法制小委員会の議論,非常に詳細に議論されたと尊敬しております。
 この内容を踏まえて,今後の議論については,木を見て森を見ない議論ではなくて,もう一度森を見る,全体を見て,先ほど瀬尾委員も言われていましたけれども,本当に一般規定が必要なのかどうかというところをもう一度考え直していただきたいと考えております。
 以上です。
【野村分科会長】
 ほかにいかがでしょうか。
 福王寺委員。
【福王寺委員】
 昨年の著作権法,一部改正について,美術の著作物に関する関係者協議会というのを著作権課の音頭で開催していただきました。作家側の権利者とオークション会社等の利用者とが同じテーブルについて政令案,省令案について話し合うことが出来ました。
 具体的に数字も決まり,今後はその内容についてのガイドラインのようなものについて話し合うということで大変に有意義な協議会になっていると思います。今までこの様な会合がなかっただけに,とても良かったと思います。この協議会を立ち上げていただいたことについて,この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。
【野村分科会長】
 それでは,法制問題小委員会のご報告については以上でよろしいでしょうか。本日,いろいろ委員からご意見をいただきまして,それぞれの小委員会,一応これで任期が来ますけれども,来期も引き続き課題としては残りますので,おそらく法制問題小委員会で引き続き権利制限の一般規定についてはご議論いただくということになろうかと思いますけれども,本日の意見を踏まえて,検討を進めていただければと思います。
 本日の議題は以上ですけれども,まだ若干時間がございますので,著作権分科会全般について何かご意見等ございましたら,ご発言いただければと思います。
 瀬尾委員,どうぞ。
【瀬尾委員】
 これはどの小委員会にあてはまるのかも分かませんし,非常に難しい問題があると思うんですが,例えばグーグルの問題とか,例えば国会図書館がデジタル化している問題とか,いろいろなことでかなり大きな変化があるように私は感じています。
 その中で,これまでの著作権の管理ルールとか流通ルールに関して,本当によいのかどうかということを基本問題小委員会で話し合うということが,私は望ましいのではないかというふうに思っておりますけれども,それに関連しまして,例えば国際問題の中で,例えばサーバーが置いてあるところ,それから使ったところ,どっちで法律が適用されて,どういうふうになるのか。非常に全般を通じた,横断的に非常に新しい構想とかも考えなければいけないことがあるのではないかなと私は感じています。
 それはどの小委員会でやるのか分かりませんけれども,新しい流通ルール,例えばデジタルの流通ルールなどについて,基本的な問題から考えるというふうなテーマを1つどこかに入れていただいたらよいのかなというふうに思いました。
 先ほど美術の話が出ましたけれども,例えば美術とか写真などの著作物に関して申し上げますと,例えば新しく追及権という問題,1つの権利を創設してでも新しい流通のシステムを作っていく可能性もあるかもしれません。いろいろなことをもっと広視野においてどこかで検討していただく,またはまな板に乗せていただく,そういうふうな基本的かつ広範なテーマというのも今後お取り上げいただいたらいかがだろうかということをちょっとお願いして最後申し上げておきたいと思います。
 以上です。

3.閉会

【野村分科会長】
 ほかにご発言いかがでしょうか。
 それでは,特にご発言がなければ,本日は以上にしたいと思います。
 今期最後の著作権分科会ということでございますので,玉井文化庁長官から,一言ご挨拶をいただければと思います。
【文化庁長官】
 文化庁長官の玉井でございます。
 この期が終わりますので,お礼を兼ねて一言申し上げたいと存じます。
 今日は,それぞれの委員会等におきます議論,こういうものがどういうものがあったかということでのご報告をいただきました。それぞれ大変難しい問題でございます。その多岐にわたり,かつかなり基本問題がここにあるんだろうと思っております。
 それについて,それぞれの立場がおありでしょうけれども,いろいろな貴重な意見をいただいていると,こういうふうに私は受け止めております。
 本日も大変に基本問題にかかわるご議論をたくさんいただきました。
 今期は,審議の経過報告ということでございますが,やはりこの基本的な問題について,精力的なご議論をぜひ続けていただきたいとお願い申し上げたいと思いますし,私どもとしても,今まで以上に精力的にこの問題に取り組んでまいらねばならないと,かように思っているわけでございます。
 それぞれ大変忙しい中,お時間を割いていただきながら,それぞれのお知恵を拝借しているわけでございますけれども,改めて感謝申し上げますとともに,来期に向けてさらにお願いを申し上げたいということを申し上げて,お礼の言葉とさせていただきます。
 どうぞまたよろしくお願いを申しあげます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 最後ということで,私からも皆さんに1年間,熱心にご議論いただきまして,大変ありがたいと思いまして,お礼を申し上げたいと思います。
 また,本日ここにおられない小委員会,あるいはワーキングチームの委員の方々にも併せてお礼を申し上げたいと思います。
 権利制限の一般規定につきましても,最終的な結論ということではありませんが,議論は着実に進んでいるというふうに思いますし,それぞれの小委員会での議論を来期につなげていただければというふうに思いますので,これからもどうぞよろしくお願いしたいと思います。
 本日は,どうもありがとうございました。
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