文化審議会著作権分科会(第43回)

括弧
  • 日時:平成28年2月29日(月)
  • 15:30~17:30
  • 場所:文部科学省東館3階 講堂
括弧

議事

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)平成27年度使用教科書等掲載補償金について
    2. (2)平成27年度使用教科用拡大図書複製補償金について
    3. (3)環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等に関する報告書について
    4. (4)法制・基本問題小委員会の審議の経過等について
    5. (5)著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について
    6. (6)国際小委員会の審議の経過等について
    7. (7)その他
  3. 3 閉会

配布資料

資料1
「平成27年度使用教科書等掲載補償金について」関係資料(370KB)
資料2
「平成27年度使用教科用拡大図書複製補償金について」関係資料(320KB)
資料3-1
環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等に関する報告書(概要)(240KB)
資料3-2
環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等に関する報告書(503KB)
資料4-1
平成27年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について(342KB)
資料4-2
新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームの審議の経過等について(493KB)
資料5
平成27年度著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について(274KB)
資料6
平成27年度国際小委員会の審議の経過等について(259KB)
参考資料1
著作権者不明等の場合の裁定制度の要件緩和について(53KB)
参考資料2
文化審議会著作権分科会委員名簿(82KB)
 
出席者名簿(56.5KB)

【議事内容】

  • ○平成27年度使用教科書等掲載補償金について使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。
  • ○平成27年度使用教科用拡大図書複製補償金について使用料部会長及び事務局より説明があり,諮問案のとおり議決された。
  •  以上の議事については,文化審議会著作権分科会の議事の公開について(平成22年2月15日文化審議会著作権分科会分科会決定)
    1(2)に基づいて非公開とし,同決定の6及び7に基づき議事要旨を作成し,公開することとする。

【土肥分科会長】それでは,次の議題に移りたいと思います。
 昨年の7月以降,各小委員会におかれましては,それぞれの分野において精力的に御検討を頂きましたけれども,本日は今期最後の分科会でございますので,各小委員会のまとめや審議の経過について,それぞれの主査より報告を受けたいと思っております。
 まず,環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等に関する報告書につきまして,私から報告をさせていただきたいと存じます。
 資料の3-1がございますので,それを御覧ください。TPP協定への対応につきましては,昨年の10月に協定が大筋合意に至ったことを受け,昨年11月から法制・基本問題小委員会において集中的に審議を行ってまいりました。
 その後,政府として協定の早期発効を目指し,著作権法改正を含む関連法案を今通常国会に提出する方針を公表し,さらに,本年2月4日には,協定の署名が行われたところでございます。
 これを受け,本小委員会においても,本問題について速やかに結論を得るべく,具体的な制度整備の在り方等について更に議論を行い,先の24日の小委員会において報告書として取りまとめるに至ったものでございます。短期間の審議ではございましたけれども,幅広い分野に関わる26団体からの意見聴取も経て,多岐にわたる論点について充実した審議を行うことができたと考えております。
 では,提言内容の御紹介に移りたいと存じます。
 今回,本小委員会としては,TPP協定に伴い,制度整備を要する事項として五つの事項を取り上げました。
 一つは著作物等の保護の期間の延長,二つ目に著作権等侵害罪の一部非親告罪化,3にアクセスコントロールの回避等に関する措置,4,配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与,それから損害賠償に関する規定の見直しでございます。
 まず,1の保護期間の延長につきましては,協定上の義務を踏まえ,国際調和の観点から著作物,実演,レコードの保護期間を,死後70年等に延長することを提言しております。
 2の著作権等侵害罪の一部非親告罪化につきましては,海賊版対策の実効性の確保に資することが期待される一方,我が国の二次創作文化への影響を懸念する声が様々な関係者より寄せられておりました。これらを踏まえ,本小委員会としては,非親告罪とする範囲につき,正規品市場と競合する悪質な行為に限定することを提言いたしました。
 具体的には,図利・加害目的を有していること,有償で提供・提示されている著作物等について,原作のまま,複製,譲渡又は公衆送信する行為であること,権利者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなること,これら3要件の全てを満たす場合に非親告罪とするべき旨を示したところでございます。
 資料2枚目を御覧いただきたいと存じます。3のアクセスコントロールの回避等に関する措置についてでございます。昨今,当該技術が著作物等の提供に伴う対価回収の手段として機能しておる点に着目し,一つ,回避行為に対して民事上の権利行使を可能とすること,及び,二つ,回避装置等の流通を刑事罰の対象とすること,これらを提言いたしました。
 なお,国民の情報アクセスの自由との均衡を図る必要に鑑み,権利者に不当な不利益を及ぼさない形で行われる回避行為が広く例外規定の対象とすべきであることが適当といたしました。
 それから,下の4でございます。配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与につきましては,音源配信サービスの拡大傾向を踏まえ,現行の有体物のCDを前提とした商業用レコードの二次使用料請求権について,対象を配信音源にも拡大すべきであることが相当であるといたしました。
 次のページ,3ページでございます。5の損害賠償に関する規定の見直しについては,協定上の法定の「損害賠償の意義」を踏まえ,権利者の立証負担の軽減を図る観点から,現行の損害賠償に関する特例に係る制度,114条の第3項等でございますけれども,これらに加えて著作権等管理事業者により管理されている著作物等については,当該事業者の使用料規定により算出された額を請求できることとすることが適当である,といたしました。
 もう一枚,めくっていただいて,4ページでございます。施行期日についてでございますが,これはTPP協定の発効と併せて実施することが相当であるといたしました。また,7のTPP協定を契機として検討すべき措置といたしまして,著作物等の利用の円滑化を図る観点から,権利制限規定やライセンシング体制に関する本小委員会における検討を一層加速していくべき旨を,併せて提言しておるところでございます。
 私からの報告は以上でございます。事務局から補足がありましたら,お願いをいたします。

【秋山著作権課長補佐】はい。関係する論点につきまして,若干の補足をさせていただきたいと存じます。
 お手元の資料の3-2の7ページをお願いいたします。まず,保護期間の延長に関する議論の中で,少し議論になった部分を御紹介したいと思います。7ページの上の方に,丸2,「延長の対象となる著作物等について」とございます。ここではTPP協定上の義務を踏まえて,それを上回るものについてどのように取り扱うのかということが議論になりました。
 1ページ飛ばしまして,8ページ(ii)でございます。まず,映画の著作物につきましては,映画関係団体様から現行の公表後70年から公表後95年に延長する要望が出されたところでございます。この点につきましては,著作物の保護期間の延長に伴いまして,公表後起算である映画の著作物に対する相対的な差が短くなるということでございまして,公表後70年より更に延長することも考えられるとされました。しかし協定上の義務との関係ではこれを満たしているということで,国際状況にも触れた上で,次のページの上の方でございますけれども,結論としましては,映画の著作物の保護期間につきましては,延長の要否等について,国際的動向や他の著作物とのバランスなどを踏まえて,改めて検討することが適当とされたところでございます。
 また,放送業者の権利につきましても,同様に延長の要望が出されておったわけでございますけれども,こちらについても,今後引き続き検討するとされたところでございます。
 少し飛ばして,11ページをお願いいたします。今回,保護期間の延長に伴いまして,権利者不明著作物等の増加が予想されるということでありまして,これを踏まえて権利者不明の場合の裁定制度の改善,権利情報の集約等を通じたライセンシング環境の整備等について方策を検討し,順次適切な措置を講ずる,とされております。
 それから,少し飛んで,22ページをお願いいたします。
 アクセスコントロールの回避に関する措置に関わる論点でございます。今回,審議会においては,保護の対象とする技術的手段の技術方式について議論がございました。今回御提言いただいた内容としましては,真ん中から下の方ですけれども,「信号付加型」及び「暗号型」という二つの類型,これが不正競争防止法で既に規定されている類型でございまして,これを踏まえることが適当という方向性の提言を頂きました。
 しかし,この点につきましては,コンピュータソフトウェアの関係団体様からは,認証技術といったことをはじめとした新たな技術手段の保護の在り方について,今後引き続き検討を行うことが要望されていたところも踏まえまして,引き続き検討を行うこととされております。
 最後に,法定の損害賠償について,若干補足をさせていただきます。ページは33ページをお願いいたします。「法定の損害賠償」につきましては,協定上は「法定の損害賠償」,又は「追加的損害賠償」のいずれかの制度を,採用又は維持することが求められておったわけでございます。33ページの真ん中あたりですけれども,この点に関する関係団体からの意見聴取におきましては,経済団体や権利者団体からは,追加的賠償や懲罰的損害賠償を我が国が採用することに対する消極的な意見,それから,填補賠償原則に則した形での制度整備を求める意見がございました。
 また,委員会における議論でも,この損害賠償額が現実の損害と乖離している場合には,懲罰的な性格を帯びてくるということで,我が国の法体制上認められないという御意見があったわけでございます。
 そこから,概要資料の方に戻らせていただきまして,この3-1のポンチ絵の3ページ目をお願いいたします。法定の損害賠償の制度については,現行の114条3項が,協定の求める法定の損害賠償の要件を満たしているものと評価できるとして,三つ目の丸で,この規定が法定の損害賠償を担保しているという考え方も必ずしも排除されない,という御議論があったわけでございます。
 今回の御提言いただいた改正内容につきましては,赤字のところのTPP協定の求める制度の趣旨をより適切に反映する観点から,現行規定に加えて制度整備を図ると。その際,填補賠償原則の枠内で可能なものについて,仕組みを設けるということが提言されたわけでございまして,今回の御提言内容となったということでございます。
 補足説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,ただいまの報告につきまして,御質問,御意見等がありましたら,お願いをいたします。
 永江委員,どうぞ。

【永江委員】日本文藝家協会の永江でございます。
 保護期間の延長について,私個人としては反対です。作家にとって50年から70年に延長されて,プラスになることは何一つありません。
 まず第1点。延長されることによって,創作が制限されます。死後50年から70年の間に創作されたものについて,例えばそれを基に何か作るとか,あるいは評伝を書くといったような創作行為活動が制限されてしまう可能性がある。
 第2点は読者としての作家という観点から。保護期間の延長によって権利者不明著作物が増えるのであれば,それだけ作品を読む機会が減ってしまう可能性が高まります。
 第3点。自分が書いた作品が,権利者不明著作物に該当してしまう可能性が高くなる。自分が書いたものが読まれないのは,作家として一番つらいことです。
 実際に自分自身の親族等を見まわしても,50年以上前に死んだ曾祖父母にどんな兄弟がいたかなんてほとんどわからない。同様に,今後50年以上たつと,著作権者が誰にわたっているのかということも分からなくなってくるでしょう。
 ヒアリングの過程で文藝家協会としては,延長に賛成意見を述べたと思いますけれども,委員個人としての,永江朗としては,保護期間の延長には反対です。

【土肥分科会長】御意見ありがとうございます。ほかに,御意見,御質問がございましたか。
 はい,久保田委員どうぞ。

【久保田委員】この改正点については,アクセスコントロールとその法定賠償等について,お話ししたいと思います。
 既に先に開催されました法制・基本問題小委員会におきましても,意見を提出させていただきまして,その内容も加味された報告書にしていただいたこと,大変お礼申し上げます。
 アクセスコントロールなどの技術的手段は,ビジネスの変化に伴って進展していくものでありまして,その保護の在り方については引き続き検討を進めていただくとともに,技術的側面のみでの判断をするのではなく,技術を施すことによって著作権者らが期待する効果や,技術が回避されることによって,著作権者らにもたらされる被害等を十分勘案していただいて,制度整備が行われることを今後も期待しております。
 2点目の法定賠償等についてですが,ここでも今先ほど言われたように,アメリカ著作権法などに規定されている法定損害賠償や,追加的な懲罰的損害賠償制度をそのまま日本の著作権法に導入するというのは,民法の原則などから考えても難しいということは,十分に承知しております。
 しかしながら,現在の著作権侵害によって,著作権者らがもたらされている被害は,無数の著作権侵害が積み重なっておりまして,非常に重大なものになっております。現在の損害賠償制度では,それらの著作権侵害を1件ずつ対処するには手間や費用が大変かさみまして,手続に踏み切ったとしても被害を解消できないと。それどころか,かえって赤字になってしまうというのが現実でございます。
 著作権者らとしましては,今後も損害賠償制度の在り方について,引き続き検討していただきたいと重ねてお願いしたいと思います。

【土肥分科会長】ありがとうございました。ほかに御意見,御質問ございましたら。よろしゅうございますか。ほかにございませんか。よろしゅうございますか。
 永江委員のおっしゃったところの存続期間の延長に伴う様々な,特にオーファンの問題とか,こういう著作等の問題については,当然にTPP関係の制度が整備されると同時に,あるいはそれ以前から検討を進め,対応をとっていく必要があるところだと承知しておりますので,少し時間を頂ければと思います。
 それから,久保田委員の御意見,至極ごもっともでございまして,今後規定がどういうふうな形で出来上がっていくのか,ということとの関係で,アクセスコントロールの問題に関しても御心配がないような形にしていただくように,私どもも注視していきたいと思っております。
 それから,現行損害賠償制度の限界に関してはおっしゃるとおりでありまして,そこはまた引き続き法制小委等でも検討する機会もあろうと思いますけれども,今回のところは104条の3項の形で,そこの上に一部乗っけるような形で作り上げたものでございます。そこのところについては整合性を認めていただきたいと思っております。そこが十分かどうかというのはこれからの問題でございますけれども,そういう形で今回はまとめさせていただきましたので,ひとつ御了解いただければと思います。
 それで,この報告書案については,これは特に御承認ということではなくて,御報告させていただくことにしたいと存じます。
 そこでよろしければ,次の議題に移りたいと思います。よろしいでしょうか。
 それでは,法制・基本問題小委員会の審議の経過等について,これも私から報告をさせていただきます。これは資料4-1,4-2等に基づく説明でございます。
 まず,4-1に基づいて報告をさせていただきます。
 法制・基本問題小委員会では,著作権法制度の在り方及び著作権関連施策に係る基本問題に関する様々な課題について,知的財産推進計画等に示された検討課題を踏まえつつ,検討を進めてきたところでございます。
 今期は,教育の情報化の推進,それからマラケシュ条約についての対応,それから著作物等のアーカイブ化の促進,それから新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制の在り方,それから先ほど御紹介,御報告させていただいたTPP協定への対応,これら大きく五つの事項について検討を行ってまいったわけでございます。
 そこで,TPP協定については先ほど報告させていただきましたので,その他の課題の検討状況につきまして,簡単に報告をさせていただきます。
 まず,教育の情報化の推進等についてでございます。これは1ページから10ページまでに述べてございます。デジタル・ネットワーク社会の進展に伴いまして,情報通信技術を活用した様々な教育活動,ICT活用教育とも呼んでおるようでございますけれども,これが広く行われるようになってきておりまして,教育の情報化の推進等に係る著作権制度上の課題について,幾つか指摘がなされております。
 昨年度,我が国のICT活用教育に係る著作物等の利用実態等については,これは事務局において調査研究を行っていただいたところでございます。その結果を踏まえ,今年度は教育関係者及び権利者団体の意見を聴取した上で,ITC活用教育の推進に向けた著作物等の利用円滑化について検討を行ってまいりました。
 教育関係者からは権利者の許諾を得るための手続上の負担が大きいことなどを理由に,授業の過程における著作物等の公衆送信,教員間での教材等の共有,MOOCと言われる一般人向けの公開講座における著作物等の公衆送信について要望がございまして,小委委員において権利制限の是非等を検討してまいりました。
 このうち,授業の過程における著作物等の公衆送信に関しては,権利制限規定により対応することにおおむね肯定的な意見が示されております。今後は現在関係者において行われております法の適切な運用に向けた協議状況を注視いたしまして,更に関係の論点につき,検討を深めていくことが求められているところでございます。
 また,教材の共有等に係る権利制限の是非や,権利制限の対象外となる著作物の利用円滑化方策につきましても,引き続き検討を行うことが求められております。
 事務局からこれらについて補足の説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】それでは,教育の情報化につきまして,若干補足をさせていただきます。
 資料4-1の2ページ目をお願いいたします。まず,今年度の最初には調査研究の結果の報告がございました。国内外の著作物等の利用状況及び法令の調査がなされ,(1)国内におけるICT活用教育に係る著作物等の利用状況に関しては,国内の高等教育機関及び初等・中等教育機関に対してアンケート調査,又はヒアリング調査が行われました。その結果,この丸1から丸4にありますとおり,ライセンシング体制の問題,教育機関側の権利処理体制の問題,それから著作権法の解釈に関する問題,そして権利制限規定の問題ということが報告書では挙げられたところでございます。
 それから,3ページ。(2)諸外国における関連する制度ということでございますけれども,この点調査対象国におきましては,一定の範囲で無許諾での公衆送信等を認める権利制限規定が整備されているということ。それから,その際補償金請求権などが付与されていることが多いということが述べられてございます。
 続きまして,本小委員会における検討の経過としまして,4ページ以降でございます。
 まず,本小委員会では,ICT活用教育を推進することの政策的意義の議論をお願いいたしまして,この点につきましては,教育関係者,権利者団体,そして委員の皆様からこれは意義があるということを御確認いただいた次第でございます。
 それから,個別的な点に関する議論でございますけれども,5ページのところ,授業の過程において著作物等を送信する際の利用円滑化策というところにつきましては,まず利用実態と課題の把握をするため,丸1のところ,教育関係者の方からヒアリングをした結果,許諾を得るための手続上の負担などについて御報告がありました。具体的な事例なども確認をした結果,委員の先生方からは現行法では許諾が必要な場面が存在する,という実態を認める意見が複数あったところでございます。
 こういうことを前提としまして,権利制限による対応の必要性等についてございますけれども,一番下から二つ目のパラグラフにありますように,今回紙とデジタルをシームレスで利用できるようにするというのがこの課題でございまして,そういうことについて一定の権利制限を行うことの正当性があるという御意見など,権利制限を肯定する御意見が複数示されたところでございます。
 他方,権利者団体の皆様からの御意見がありましたように,実際に教育機関においてこの法がしっかり遵守されるのか,という懸念の声もあったところでございます。
 こういうことも踏まえまして,次のページですけれども,小委員会といたしまして,制度面の議論と並行して,運用面の検討を行うことの必要性が指摘され,具体的には規定の円滑な解釈・運用を促進するためのガイドラインの策定,それから教育機関側の著作権保護意識に関すること,関係規定が適切に運用される環境や体制の整備に向けた協議を促すとされております。
 あとはこうした協議の進捗状況を踏まえ,両輪で議論を進めることとなりました。
 これを受けまして,現在教育関係団体様と権利者団体様の方で協議が開始されているところでございます。
 それから,こうした議論を進めていく際に,更に検討すべき事項としまして,丸3,市場が形成されている分野への影響について,それから7ページ丸4,権利者に補償金請求権を付与することの要否についてなどといった論点についても,今後議論を深めることとしております。
 それから,主査からもありましたように,8ページ,9ページのところで,教育目的で教員や教育機関の間で,教材等を共有する際の著作物の利用円滑化ですとか,MOOCのような一般人向けの公開講座における著作物の利用円滑化についても,今後更に検討を進めることとなってございます。
 私からの補足説明は,以上でございます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 続いて,障害者の方々のアクセス改善に関するマラケシュ条約についての対応の問題がございまして,これについて説明させていただきたいと存じます。このマラケシュ条約についての対応でございますが,これについては権利者団体及び障害者団体との間で意見の隔たりがございまして,昨年度の小委員会において,まずは権利者団体及び障害者団体との間で意見集約に向けて取組を行った上で,改めて小委員会で検討を継続することとされたところでございます。
 これを受け,現在文化庁によるコーディネートの下で,権利者団体と障害者団体による意見集約に向けた取組が継続的に行われているところでございます。したがいまして,本課題につきましては,この取組を引き続き注視するとともに,この結果を踏まえ,改めて本小委員会において検討を進めていきたいと思っております。
 それから,著作物等のアーカイブ化の促進についてでございます。この課題は,先ほどの小委員会において対応の方向性が示されておりまして,今期はその対応状況につき文化庁より報告があり,引き続き順次必要な措置を講じていくことが適当であるとされておるところでございます。
 この点について,事務局俵室長より補足説明をお願いできればと思います。よろしくお願いします。

【俵著作権課著作物流通推進室長】ありがとうございます。
 11ページ,12ページを御覧いただけますか。この点については,文化庁で検討した内容についての報告をまとめていただいたものですので,事務局から説明をさせていただきます。
 今回4点検討をしました。
 一つ目です。著作権法31条において「図書館等」は複製できることとされています。施行令においてこの対象施設が規定されています。この対象施設の範囲の拡充について検討したことが1点です。
 2点目です。著作権法第47条に,美術館や博物館で観覧者のために解説や紹介の目的で小冊子を作る場合は,そこに写真等を掲載することができるとなっています。これについて,小冊子の代わりに電子媒体を使って紹介することも同じように権利者の許諾なくできるようにしよう,というのが2点目の検討事項になります。
 3点目です。主に美術館・博物館等が所蔵している作品などをインターネットで紹介する場合に,文章だけではなくて,サムネイルと言われる小さな画像を付けて紹介するといったようなことについて,権利者の許諾なくできるようにしよう,というのが3点目の検討事項です。
 4点目が裁定制度の改善になります。
 1点目と4点目について具体的な対応をしました。これが11ページの第2節,検討の状況の1段落目,2段落目に書いてある内容になります。「図書館等」の対象施設の範囲の拡充については,博物館法2条1項に規定している登録博物館,それと同法の29条に規定する博物館相当施設であって,営利を目的としない法人によって設置されたものについては「図書館等」に含まれるということで,これについては告示改正によって対応したというのが1点になります。
 2点目,これは先ほど4点目として紹介をした,裁定制度の改善についての内容になります。これ,参考資料の1に具体的な内容を紹介したものを添付しています。
 これは一度裁定を受けた著作物を,再度利用する場合について捜索の要件を緩和したものです。裁定申請をする場合,相当な努力というものが必要になっていまして,この参考資料の1にあるような名簿・名鑑の閲覧,インターネットの検索,管理事業者の照会,著作権情報センターへの広告などをすることになっています。
 一度裁定を受けた著作物については,ここで書いてある(1)権利者情報を掲載する資料の閲覧,(2)広く権利者情報を保有していると認められる者への照会については,最終的には文化庁で公開しているデータベースの閲覧ということで足りるとしたものであります。
 したがって,これまで整備できていなかった過去に裁定を受けた著作物は,約22万件あります。これをデータベース,実際にはエクセルファイルで整理したものを文化庁のホームページに公開をしまして,この内容を閲覧いただいた場合には,(1),(2)の要件を緩和できるようにしたというものが,今回の裁定制度の改善の内容になります。
 先ほど紹介した2点目,3点目については,関係者からの意見聴取を行いまして,これから具体的な検討をしていく内容になります。小冊子と同じような内容を電子媒体でもできるようにすべきだという点については,12ページ目になります。この点については,意見聴取の中でも権利者の方,利用者の方,共に賛成の意見ということが示されましたが,一方でその電子端末を館外に持ち出して画像を見ることができるといったような場合については,権利者の利益を不当に害しないような措置をするというのが,意見として示された内容になります。
 サムネイルの画像をインターネットで送信するということについては,権利者・利用者から賛成の意見が示されましたが,これについても一定の限定をすべきだという意見が示されました。1点は主体を公共性のあるものに限定する。もう一点は利用するサムネイルの画像については,解像度や大きさを限定する。そして三つ目としては,補償金を伴う権利制限規定とすべきという意見があって,その制度面・運用面について検討が必要とされました。
 以上になります。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 続きまして,同じ12ページですけれども,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定や,ライセンシング体制の在り方について御説明いたします。
 今般デジタル・ネットワークの発達に伴い,著作物等を利用したサービスを創出し,発展させるためのニーズが新たに生じているのではないかという指摘がございます。このような状況を踏まえまして,これらの課題を集中的に検討する場として,法制・基本問題小委では,新たな時代に的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチームを設置いたしまして,権利制限規定の見直しの必要性について検討を行ってまいりました。
 今期のワーキングチームでは,国民から広く寄せられました著作物等の利用に関する幅広いニーズを基に,課題を整理いたしまして,まとめまして,これらに優先順位を付けまして,そういう作業を行ったわけでございます。さらに,特に優先度の高いニーズにつきましては,ニーズを提供していただいた方からのヒアリングも実施し,その内容を精査しつつ権利制限による対応の是非に関する議論を行い,今後の議論の方向性について一定の見通しを得るというところでございます。
 今後は権利者団体の意見も伺いつつ,検討を更に深めて,権利制限による対応を適当とするニーズの輪郭を明らかにした上で,規定の柔軟性の内容や程度を含め,具体的な制度設計の在り方を検討していくことが求められておるところでございます。
 この点の詳細は,事務局から補足・説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】御説明いたします。
 資料は4-2の方をお願いいたします。
 まず,検討の進め方につきまして,主査からも説明があったとおりです。この資料4-2の2ページの方に,その手順を整理したものがございます。このような手順に基づきまして,ワーキングでは御議論を頂いておりました。手順1として,ニーズを特定し,2,3の方で解決手段を整理し,そして手順4として優先順位を付けるということでございまして,ここまでは完了し,更に手順5の部分についても着手を頂いた段階でございます。先ほど主査からもあったとおり,今後手順6の制度設計についての議論を頂くのが,先ほど主査からもあったところでございます。
 具体的に,その優先順位付けの結果というところでございますけれども,3ポツ,審議経過を御覧いただければと存じます。ここでは優先的に検討を行うこととされたニーズとしまして,公衆がアクセス可能な情報の所在検索サービスの提供,システムのバックエンドにおける情報の複製。それから,ニーズ提出者に追加説明を依頼して検討するとされたニーズにつきましては,こちらに記載の11点がございます。また,優先的な課題の検討を行った後,順次検討をすることとされたニーズとしまして,ウに記載の3点がございました。
 今期優先的に行ったニーズとしまして,この3ページの下の方ですけれども,まず所在検索サービスでございます。これは,書籍の検索,グーグルブックスのようなものですとか,街中の風景検索,音楽の曲名検索といったものがニーズとして挙がってまいりまして,これらは一般化すると,情報へのアクセスの手掛かりとなる情報を検索することを目的としたサービスというふうに説明されてございました。
 別のページですけれども,この点につきましては,ワーキングチームにおける議論としましても,情報への道しるべを提供するという行為が,社会全体の利益につながるということで,権利制限による対応について肯定的な御意見があったところでございます。
 また,bの分析サービスでございます。こちら評判情報分析サービス,論文剽窃検出サービスなどといったものが例として挙げられております。これにつきましても,ワーキングチームの議論においては,こういう情報分析・解析の結果の有用性について指摘がございまして,これも権利制限による対応の肯定的な見解が複数示されたところでございました。
 しかし,いずれの類型につきましても,どこまでが軽微なのかといった線引きについては,今後検討を深めるべきといった御意見もあったところでございます。
 少し飛ばせていただきまして,5ページの一番下,その他CPS関係サービスについての議論を御紹介したいと思います。6ページをお願いいたします。上に幾つか書かれておりました具体的なニーズ以外にも,ニーズ提出者の方からは,CPSと言われるシステムを使ったサービスには様々なものがあり得るということで,現段階でどのようなものが提供されるかは,特定が困難であるということでございました。個々のサービスごとに,サービスの目的やその公益性・公共性それから利用の態様を基準として,利用の妥当性が判断される余地があるという制度の整備を求める御要望がございました。
 この点につきましては,いろいろ御意見がございましたが,今期はニーズの把握を行う段階でございまして,制度設計は次の段階での議論だという御意見もあったところでございます。
 あと,マル2,その他のニーズとしまして,先ほどの優先順位の中で挙がってきたものも,挙がってこなかったものもあるのですけれども,ワーキングチームの先生方の御意見としましては,ここに書かれている課題については重要性が高いのではないか,という指摘がございました。具体には教科書・入試問題の二次利用,パロディ・二次創作,メディア変換,図書館等における複製等,放送番組のインターネットでの同時配信といったものでございます。
 最後に今後の検討の進め方につきまして,こちらも主査からございましたように,今期優先的に検討を行ったものにつきましても,今後権利者団体の御意見も伺った上で,検討を更に行うとされてございます。また,それらも含めたニーズについて,今後権利制限による対応を妥当と認められるニーズの束をまとめまして,これらの輪郭や性質を明らかにした上で今後の広がりや発展性にも留意して,権利制限による対応の是非や規定の在り方について検討を行うとされてございます。
 また,その際に新たな取組への挑戦が可能となるような社会の要請に十分応えていくという視点,それから新たに設ける制度が実際にどのように機能し得るかなど,我が国にもたらされる便益や影響を考慮して,規定の柔軟性の内容や程度などを検討していくことが提示されてございます。
 報告は以上でございます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 以上,法制・基本問題小委の報告をさせていただきました。
 なお,法制・基本問題小委員会は都合9回ほど開催したわけでございますけれども,その9回の委員会における検討を通じて,今御報告したような成果というものを得ることができました。これは正に委員の方々の精力的な御議論・御協力ということでございまして,この場をお借りして委員の方々にお礼を申し上げたいと存じます。
 法制・基本問題小委員会の審議経過につきましては,以上でございます。
 何か法制・基本問題小委について……御意見ですね。

【椎名委員】はい。

【土肥分科会長】もちろん,御意見を伺いたいと存じます。
 では,椎名委員,どうぞ。

【椎名委員】この新たな時代のニーズに対応した制度等の整備ということについてですが,柔軟な権利制限規定ということが言われて久しいわけで,随分前からやってきているんですが,その文脈でよく引用されるアメリカのフェアユースというのは,商業利用を排除しているんですね。あくまでも,私的な利便性というところに着目している制度です。
 一方で,今議論されている柔軟な権利制限規定というものは,ここの報告書にも書かれていますけれど,産業振興,あるいはイノベーションの促進等というようなことが言及されておりまして,本来は許諾を得て利用すべきところを,フリーで利用できる環境を整えるために柔軟性を高めるべきだ,という論調が目立つと思います。
 もし,このような規定を置いた場合,利用の円滑化と権利の保護という,優れて政策判断を必要とするような事柄を,一律司法に投げてしまうようなことになるわけで,その点非常に問題ではないかと懸念しております。権利者側の訴訟コストの負担増ということもありましょう。
 今後この議論をどのようなところからやっていくべきかというプライオリティー付けをしたり,様々な分析をしていただいてはいるんですが,どういうものを対象とするのか,それが個別の制限規定では本当に駄目なのか,という検証をしっかり踏まえた上で,慎重に御議論いただきたいと思います。
 以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 ほかに御質問,御意見ございましょうか。
 はい,永江委員,どうぞ。

【永江委員】今の椎名委員の意見とも重なるところがあります。資料の4-1の9ページに一般人向け公開講座における著作物の利用円滑化とありますけれども,この一般人向けの公開講座という概念が果てしなく広がることを危惧します。例えば大学で行われる市民向けの講座であれば,主催者がはっきりしているから問題は少ないでしょうし,あるいは市中にあるカルチャーセンター的なものであれば,まだ理解できますが,これが際限なく広がっていくと,何でもかんでもフェアユースで使われかねない。
 そうなると,出版産業,とりわけ児童書や教育書の出版社などが壊滅的な影響を受けかねません。あるいは,絵本作家・児童文学者なども非常に大きな影響を受けかねないと思います。この一般向けの公開講座は何を指すのかを慎重に検討していただければと思います。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 ほかに,御質問,御意見ございますか。
 いかがでしょうか。御質問,御意見ございませんか。よろしゅうございますか。
 椎名委員の御意見,十分御趣旨,お考えのところは理解をさせていただいておるところでございます。
 何分ワーキングチームに関しましては,検討の何合目というのでしょうか,まだまだ緒に就いたところでございます。
 権利制限規定といいましても,いろいろ幅がございますし,同時にニーズの中にはライセンス体制の見直しみたいなことも当然入っているわけでありまして,何でもかんでもあのニーズを権利制限規定でやろうという趣旨では,毛頭ないわけであります。そのあたりは,今後の検討の中で適切に対応し,かつまた先ほどの報告の中にもございましたように,権利者の方の御意見も伺うとしております。またさらには一般最終利用者の方々の御意見も必要に応じて聞かせていただくと思っておりますので,少しお待ちいただければと思います。
 それから,永江委員のおっしゃるところですけれども,そのあたりは法制小委の中でも当然意見が出ておるところでございます。教育といっても非常に広うございますので,義務教育のようなところ,高等教育のようなところから,おっしゃるようなMOOCのようなところまで様々でございます。しかしながら,教育問題との関係の検討は非常に重要なところでございます。
 したがいまして,次期においては更に適切に検討を進めていきたいと。御懸念のないような形に進めていきたいと思っております。
 ありがとうございました。それでは,法制・基本問題小委の報告は以上ということにさせていただきます。
 次の著作物等の適切な保護と利用流通に関する小委員会の審議の経過等について,これも私から報告させていただきたいと存じます。
 今期の著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過については,資料5に基づき御報告を申し上げます。
 今期の保護・利用流通小委では,急速なデジタル・ネットワークの発達に対応した法制度等の基盤整備のため,知的財産推進計画2015等に示された検討課題を踏まえつつ,前期に引き続きクリエーターへの適切な対価還元に係る課題とクラウドサービス等に係る円滑なライセンシング体制の構築に係る課題について,検討を行ってまいりました。これらの課題についての検討状況を簡単に御報告いたします。
 クリエーターへの適切な対価還元については,資料5-1でございます。この1ページでございますけれども,前期の議論に継続して,クリエーターへの適切な対価還元についての意見を利用者団体及び事業者団体からヒアリングを行い,その後これまでの議論を踏まえた意見交換を行ったところでございます。そこで示された主な意見を,資料5の1ページの終わりから5ページ冒頭にまとめております。
 これらの意見を基に,今後議論すべき主な論点を整理しております。1点目は,私的録音録画に係るクリエーターへの適切な対価還元についての現状であり,コンテンツ流通に係る契約実態や技術動向等を含めた対価還元の現状について把握することが必要である,とされております。
 2点目は,補償すべき範囲でございます。対価還元の現状を踏まえ,何らかの制度的担保又は取組が求められる範囲の有無について検討することが必要とされております。
 3点目は,対価還元の手段であり,補償すべき範囲がある場合に,どのような手段で適切な対価還元を行うことが適切かを,検討することが相当であるとされております。その後,論点の一つである対価還元の現状について,関係者からのヒアリングを行いました。今後,本年度整理された論点に沿い,対価還元についての現状を踏まえ,補償すべき範囲や対価還元の手段について,さらなる具体の検討が求められているところでございます。
 それから,クラウドサービス等に係る円滑なライセンシング体制の構築でございますけれども,資料5の5ページを御覧ください。これについて,審議の状況を説明申し上げます。
 昨年のクラウドサービス等と著作権に関する報告書の提言を踏まえ,現在音楽関係権利者3団体において,仮称でございますけれども音楽集中管理センターの設立に向けた準備,検討が進められております。3団体においては,今後利用者のニーズを把握するため,一元的な相談窓口を設置することとしておりまして,引き続き積極的な取組を進めていただくことが期待されております。
 以上,簡単でございますけれども,報告とさせていただきます。
 なお,保護・利用小委の委員の皆様方には,今期5回委員会を開催いたしまして,精力的に御議論を頂きました。この場をお借りして,お礼を申し上げたいと思います。
 保護・利用小委の審議経過報告については,以上でございますけれども,何かこの点について御質問,御意見がございましたら,どうぞお願いをいたします。
 松田委員,どうぞ。

【松田委員】今御説明のありました最後のクラウドサービス等に関する円滑なライセンシング体制,5ページでございます。これについて新たな音楽集中管理センター(仮称)が構想されているということであります。この3団体は実質的に要望があれば,個別的なクラウドサービス等についての対応をとるべくライセンシングの準備をしているにもかかわらず,報告によりますと,今まで1件も具体的なライセンスビジネスに成り立ったものはないと聞いております。これは委員会での発言でありました。
 どうしてそのような状況であるのかという点につきまして,質問をしてみました。理由は二つあるようです。一つは,利用者団体の一定のまとまりがないと,これを話し合う相手方として確定ないしは特定できないということの意見がありました。そのとおりだと私も思います。サービスごとに大小ビジネスがあるわけですから,個々にそのビジネスを包括的にまとめる団体を形成して,それが3団体と対応して行くということははなかなか難しいだろうという発言でありました。もっともな話だと思いました。これを利用者団体適格ということにしましょう。もう一つの障害となっている問題は,権利者団体の使用料規定が硬直的だという意見でありました。すなわち,使用料規定による使用料が高くて新規ビジネスに対応していないという問題のようであります。使用料規定の硬直性ということにしましょう。
 まず使用料規定の硬直性の点です。管理事業法による使用料規定というのは上限の規定とされています。このようなことを問題だと言うのは,実際にビジネススキームを持って行って相談・交渉の席に着いていないからだろうと考えます。具体的に使用料を交渉するということはそれ以前のビジネスモデルの理解と場合によってはこれに対する権利者団体側の許諾が可能であるという状況まで持っていかなければならないのです。その上での使用料額の交渉になるのです。モデルが現行法上適法だというのも交渉の議案としてありうることなのではありませんか。私の経験でも3団体の使用料交渉は柔軟に対応が取れると感触を持っています。要するに,使用料規定の硬直性が障害であるという問題提起をするということは,使用料規定の問題に入る前に交渉を断念しているということなのでしょう。ライセンスがきちんと合意できるようなサービスの内容が特定できてくれば,上限規定でありますから,適当な使用料規定を合意していくことができるだろうと考えます。結局ここに障害はなくて,利用者団体適格の問題に収斂して行くように思います。団体間協議・協定の取り組みは,今まで何度も何度もやってきて,失敗しているわけです。権利者団体の方が交渉窓口・団体を作るよと言ったとしても,利用者団体の受皿がないということの障害が失敗につながっていると言わなければなりません。
 著作物の種類に関わらずおよそ権利者団体側は,あらかじめ窓口組織を作ることができるのですが(音楽の場合は3団体がまとまればできるということです。書籍であれば文芸家協会,ペンクラブ,大学協会,書協・雑協が想定されます。),利用の許諾を求める,ないしはその許諾を不要なスキームであるとして交渉を求める利用者側はあらかじめ窓口組織があるわけではないのです。ここに協議・協定を形成しにくい問題があることは確かです。
 自分たちに直接ビジネスに関係なくても,機器メーカー,通信メーカー,その他プラットフォーマ新しいビジネスを立ち上げる諸企業利益を代弁する人たちを吸収して,一つの団体に組み上げる尽力をしていただかないといけないと思います。利用者団体の方の努力もしないと,駄目なんだろうと思っています。利用者企業がまずこの利用者団体窓口組織に要求を持ち込んで,これをうけてこの組織が著作権法上の検討をして問題を整理し,権利者団体との協議・協定に入って行くということが求められます。利用者団体の形成こそが必要なのであって,それをせず放置しておいて,権利者団体が交渉に応じないのではないかという及び腰でクラウドビジネスの構築をしますというのは無理です。
 もっと大きく捉えるならば,ここでライセンスビジネスをやっていくわけですけれども,ライセンスにおける契約というものが著作権法上の対応が十分に取れていません。著作権法上,ライセンスビジネスに関する条文といったら,63条しかないわけです。しかし,海外のビジネスを見ていれば,著作権法だけで対応がとれる状況ではないことは明らかです。大量のライセンスを求められているコンテンツについて,それを代表的な団体が協議をして契約に結ぶ,協定に結ぶことが求められているのです。その後この協定にアウトサイダーが参加できるようにする。脱退することができるようにする。協定の効力をどの範囲で承認するか。ないしは,オプトアウトを許容した協定を形成することができる著作権契約法の導入が考えられます。
 現在の法状況において著作権法上の契約の対応がとれていないということが,あると思います。3団体ができて,なおかつ利用者団体の方も先ほど言いました組織を形成し,ビジネスを構築しようということになっても,協定・契約・効力の範囲・加入・脱退の契約法を考えなければならないのです。制限規定としての柔軟な規定というだけではなくて,柔軟なビジネスの形成の過程というものも制度として作っていかなければいけないのではないか,と私は思います。
 そのためには,著作権契約法と,それから著作権法の改正の中で,これをもう少し私的な団体に任せるだけではなくて,制度として取り組むべきだと私は再三意見を言っているわけです。これは間違いなく著作権法で言うならば,現行あっせん制度を将来のビジネスの調整にも使えるような制度に改革することを考えましょうと言っているのです。せっかくの分科会でありますので,発言させていただきました。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 ほかにございますか。あるいは,今の松田委員の御意見に対して,例えば利用者団体の関係の方の御意見でも構いません。あるいは全く別の御意見でも構いませんけれども,いかがでしょうか。
 特によろしいですか。よろしゅうございますか。
 では,著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の報告につきましては,ここまでとさせていただきます。
 次に,国際小委員会の審議の経過等につきまして,道垣内主査より御報告をお願いいたします。

【道垣内委員】資料6を御覧ください。この資料に基づきまして,国際小委員会における平成27年度の審議状況について御報告申し上げます。
 国際小委員会では,その「はじめに」というところにございますように,三つのテーマ,インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方,著作権分野における国際的な課題や論点の整理について検討いたしました。
 第1の,インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方でございます。これにつきましては,1ページから4ページにわたってまとめております。主に四つの点について,報告・検討を行いました。
 第1点は,我が国のコンテンツの侵害実態調査についてでございます。中国・タイにおける調査に引き続き,今期はインドネシアにおける著作権侵害の実態調査の結果報告がありました。1ページ目の終わりのところに記載されておりますように,この報告によりますと,インドネシアにおいては,法令遵守の意識は相対的に高いものの,他方著作権に関する理解度は低いという状況にある,ということでございました。
 これを踏まえまして,今後インドネシアにおける海賊版対策として,著作権の教育啓蒙活動を実施していくことが効果的であるとされております。
 続きまして,第2点でございます。政府レベルの取組についてでございます。2ページを御覧ください。今期の国際小委員会においては,昨年度に引き続き,文化庁において行われている日韓,日中をはじめとする政府間協議,アセアン諸国等を対象としたトレーニングセミナー,集中管理団体育成支援事業,普及啓発活動,著作権侵害に対するハンドブックの作成事業等について報告がありました。
 特に,日中及び日韓の著作権フォーラムでは,インターネット上の侵害について両国の取組が報告され,意見交換が行われております。
 第3点,関係業界における取組について。今期は二つの団体から著作権侵害の現状及び侵害対策等について報告を頂きました。
 まず,一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の御担当者からは,家庭用ゲームソフトの技術的手段回避ツール,マジコンと言われるものを用いた著作権侵害の現状について御説明がございました。技術的手段回避ツールにつきましては,権利者等の対策により,日本国内の実店舗での販売はほぼ消滅したものの,依然としてインターネットでの販売が継続されており,インターネットを通じて購入される技術的手段回避ツールは,中国,香港等から発送されているという報告でございました。
 二つ目の団体として集英社の御担当者からは,漫画海賊版による権利の侵害状況について,雑誌の発売日より前に翻訳された海賊版がインターネットにアップロードされているという御報告がありました。また,海賊グループが国境を越えて侵害を行っていることから,海賊版対策には各国の間で協力が不可欠であると。海賊版対策と同時に,正規版の流通促進も必要であるとの御指摘でございました。
 最後,第4点。これらを踏まえまして,今後の取組といたしましては,TPP協定発効に伴い,関係国への日本コンテンツの輸出増が期待され,関係国における侵害対策の強化が見込まれることを踏まえ,国境を越えた海賊行為に対応していくことが必要であるということでございます。
 具体的には,今後も引き続き,中国,韓国,アセアン諸国を中心に,継続的な支援を通じて侵害対策のための環境整備を進めていくこと,特に集中管理団体や政府当局の能力育成,普及啓発活動を支援することが重要であるとされております。また,WIPOや国内関係省庁,関係団体との連携により,効果的な対策を講じることも必要であるということであります。
 大きな2番目の検討課題ですが,これは4ページから7ページにかけて,著作権保護の国際的な対応の在り方についての審議をまとめております。WIPOのSCCR(著作権等常設委員会)における議論に関するもので,主な点は二つございます。
 一つ目は,放送機関の保護についてでございます。これは放送条約に関する議論でございまして,WIPOではデジタル化・ネットワーク化に対応した国際的な保護を放送機関に与えるため,放送条約の議論が長年続けられておりますが,ここ数年,条約制定に向けた議論が再び活性化しつつあり,我が国も積極的にこれに参画しているところでございます。
 国際小委員会では,条約の適用の範囲,保護の範囲をはじめとする各論点について,その議論の現状の御報告を頂きました。6ページの中ほどにありますように,今後の対応については,先進国,途上国双方とも議論に前向きであることから,我が国としても条約の内容を考慮しつつ,早期の条約成立を目指し,引き続き積極的に対応していくべきであるという結論でございます。
 二つ目,権利の制限と例外についてであります。
 WIPOでは,図書館,アーカイブ,教育研究機関等のための権利制限についても,議論がされているところでございます。しかしながら,議論の進め方等について先進国と途上国との間の意見の一致が見られていないということであります。
 7ページの中ほどにありますように,今後の対応については,我が国としては,スリー・ステップ・テストを基礎として,各国がそれぞれの国内事情を踏まえて,柔軟な対応が可能となるような方向で,適切に議論をされていくことが必要であるということでございます。
 大きな3番目,著作権分野における国際的な課題や,論点の整理であります。国際小委員会では,著作権制度をめぐる国際的な動向を把握するため,著作権分野における国際的な課題や論点の整理を行ってまいりました。
 今年度は,伝統的知識等の保護に対して,著作権等の知的財産法が果たすべき役割について,米国における価格差別論について,及び著作権の消尽に関する諸外国の注目すべき裁判例について,委員の方々からの報告がされました。報告の概要は7ページから9ページにまとめておりますので,御覧いただければと思います。
 以上,簡単ではございますが,今期の国際小委員会の報告とさせていただきます。
 なお,この小委員会の委員の皆様には,この場をお借りいたしまして,お礼を申し上げたいと思います。
 以上でございます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,ただいまの国際小委員会の御報告につきまして,御質問,御意見がございましたら,お願いをいたします。
 いかがでございますか。よろしゅうございますか。
 特に御質問等がなければ,国際小委員会の報告につきましては,このくらいにしたいと存じます。
 最後,7点目でございます。その他ということでございますけれども,せっかくの著作権分科会でございますので,分科会全般の事項について,御意見等々ございましたら,この際是非頂ければと思います。いかがでしょうか。
 よろしゅうございますか。
 特段ないということでございましたら,本日はこのくらいにしたいと存じますけれども,よろしゅうございますか。
 それでは,先ほど申しましたように,本日は今期最後の著作権分科会ということでございますので,中岡文化庁次長から――実は最初に御紹介をするところだったのですけれども――御紹介を兼ねて,本年1月1日付けで文化庁次長に着任されております中岡司様に,御挨拶等お願いしたいと存じます。よろしくお願いします。

【中岡文化庁次長】御丁寧に御紹介賜りました。ありがとうございました。
 1月から次長に配属されています中岡でございます。
 今期の著作権分科会を終えるに当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。
 今期の著作権分科会におきましては,教育の情報化の推進や新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定等の在り方といった著作権法制度の在り方及び著作権関連施策に係ります基本的問題に関すること,あるいは私的録音録画補償金制度の見直しなど,クリエーターへの適切な対価還元に関しますこと。また,WIPO等における国際的ルールづくりへの参画の在り方や,インターネットによる国境を越えた海賊行為への対応の在り方に関することといった多岐にわたります課題につきまして,御審議を頂戴いたしました。今後の施策の方向について,御示唆を頂戴したところでございます。
 また,御案内のとおりTPP協定への対応に係ります課題につきまして,精力的な御審議を頂戴いたしまして,報告書を過日取りまとめいただきました。御提言内容を踏まえまして,現在与党審査等,法案提出に向けました準備を進めているところでございます。皆様の御協力に心より御礼を申し上げたいと思います。
 デジタル・ネットワーク化の進展に伴いまして,著作物等の創作,流通及び利用をめぐる状況は,大変急速に変化してございます。時代のニーズに対応いたしました制度や環境整備が求められたところでございます。
 このような状況を踏まえまして,文化庁といたしましても,新たな時代の要請に応えられますように,権利の保護と利用の円滑化のバランスに十分配慮しながら,著作権の制度や契約・流通の在り方の見直しに不断に取り組んでいくことが必要であると承知しております。
 著作権分科会では,今後も引き続きまして,教育の情報化の推進等,あるいは新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定等の在り方,また,クリエーターへの適切な対価還元,国境を越えた海賊行為への対応等に関します課題について,検討を行うことが求められておるところではございます。
 著作権制度は,文化政策,産業政策,IT政策といった複数の政策領域に広くまたがっておりまして,極めて大きな役割を担っております。文化芸術立国,あるいは知的財産立国の実現,またクールジャパン戦略の推進に向けまして,分科会におかれましては,今後とも精力的な御検討をよろしくこの場でお願いを申し上げたいと思います。
 終わりになりますけれども,各委員の皆様方におかれましては,大変お忙しい中にもかかわらず,並々ならぬ御努力,御尽力を頂戴いたしましたことにつきまして,この場をお借りいたしまして,改めて感謝を申し上げまして,私の方からの御挨拶とさせていただきます。
 本日は,どうもありがとうございました。今期,どうもありがとうございました。

【土肥分科会長】御挨拶,どうもありがとうございました。
 本日,きょうでこの分科会は最後でございますので,私からも一言挨拶をさせていただきます。
 昨年6月でしたか,この分科会で三つの小委を設置すると。国際小委,法制・基本問題小委,保護と利用・流通小委,この三つの小委の設置をお決めいただいたわけでございます。
 それからきょうまで,先ほども少し申し上げましたけれども,ワーキングの開催を含め,21回の小委及び会議を開催いたしました。中には,4時間にわたるような,今までないようなものもあり,あるいは非公開のものもあり,本当にこの1年は大変でございました。
 TPPというような非常に大きな問題について,先ほど御報告をさせていただきましたけれども,この中には著作権法のパラダイムを揺るがすような大変な問題もあったわけでございます。
 こういう大きな問題に関して,非常に集中的な議論の中で結論に達することができたということは,私自身も喜んでおるわけでございますけれども,そのことは同時に,現在課題として持っております例えば法制・基本問題小委の中にあるような教育問題,障害者の方のアクセス改善,アーカイブ化,あるいはワーキングにおける柔軟な権利制限規定の問題。あるいは保護と利用・流通小委が抱えておりますような,ああいうクリエーターに対する適切な対価還元の問題。こういった非常に重要な難しい問題であっても,関係者,事務局を含め,委員の全員で検討し,そして議論をし,そして意見を突き合わせていけば結論に達し得ないことはないだろうということを,TPPの経験は示しているんだろうと思っております。
 法制・基本問題小委やこの三つの委員会における審議経過という,そのタイトルが,次期におきましては報告という形でまとめることができるように,次期の分科会及び委員会においては,是非そういう方向で議論を詰めていただくことをお祈り申し上げて,加えてこの1年間,事務局におかれましては,本当に御苦労をおかけして御支援いただきましたことへお礼を申し上げて,私の挨拶とさせていただきます。
 どうもありがとうございました。
 それでは,通常であれば連絡事項ということなのですけれども,これで最後でございますので,特に事務局からもないと思います。
 それで,今期の分科会はこれで終了とさせていただきます。
 どうもありがとうございました。

―― 了 ――

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動