文化審議会著作権分科会(第44回)(第16期第1回)

括弧
  • 日時:平成28年5月12日(木)
  • 9:30~11:30
  • 場所:文部科学省東館
  • 3F1特別会議室
括弧

議事

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)文化審議会著作権分科会長の選出について
    2. (2)小委員会の設置等について
    3. (3)その他
  3. 3 閉会

配布資料

資料1
第16期文化審議会著作権分科会委員名簿(76.8KB)
資料2
小委員会の設置について(案)(55.7KB)
資料3
第16期文化審議会著作権分科会 各小委員会における検討課題について(案)(79.3KB)
参考資料1
文化審議会関係法令等(129KB)
参考資料2
「知的財産推進計画2016」等で示されている今後の検討課題(590KB)
参考資料3
次世代知財システム検討委員会報告書~デジタル・ネットワーク化に対応する次世代知財システム構築に向けて~
(平成28年4月知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会次世代知財システム検討委員会)
関連部分抜粋
(387KB)
机上配布資料
第15期文化審議会著作権分科会における審議状況について(852KB)
 
出席者名簿(51.6KB)

議事内容

  • ○今期の文化審議会著作権分科会委員を事務局より紹介した。
  • ○本分科会の分科会長の選任が行われ,土肥委員が分科会長に決定した。
  • ○副分科会長について,土肥分科会長より大渕委員が副分科会長に指名された。
  • ○会議の公開について運営規則等の確認が行われた。
  • ※以上については,「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」(平成二十二年二月十五日文化審議会著作権分科会決定)1.(1)の規定に基づき,議事の内容を非公開とする。

【土肥分科会長】本日は,今期最初の著作権分科会となりますので,中岡文化庁次長から一言御挨拶を頂戴したいと思います。
 なお,もしカメラ撮りをなさる方は,この文化庁次長の御挨拶までとさせていただきますので,どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは,中岡次長,よろしくお願いします。

【中岡文化庁次長】文化庁次長の中岡でございます。今期の著作権分科会の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。
 皆様方におかれましては,御多用の中でございますが,著作権分科会の委員をお引き受け賜りまして,誠にありがとうございます。
 御案内のとおり,著作権制度は,我が国が掲げます文化芸術立国,知的財産立国やクールジャパン戦略を実現するために大変重要な役割を担っております。政府におきましては,去る5月9日になりますけれども,知的財産推進計画2016が策定されまして,デジタル・ネットワーク社会に対応した著作権制度の見直しなど,様々な課題が提起されております。
 このような政府計画等の動向につきましては,日進月歩で発達いたします技術と著作物の創作,流通,利用環境の急速な変化を踏まえた対応への社会からの強い要請を反映しているものと考えております。文化審議会には,これに的確かつ迅速に,権利保護と利用円滑化のバランスに十分配慮しながら応えていくことが期待されているものと考えております。
 先ほど会長の挨拶の中にもございましたが,昨年度の著作権分科会におきましては,TPP環太平洋パートナーシップ協定への対応に係る課題について,精力的に御審議賜りました。大変な御尽力を賜りまして,おかげさまで関連の著作権法の改正案につきまして政府の成案を得まして,今,国会に提出しているところでございます。
 また,デジタル・ネットワーク化の進展に伴う多岐にわたる著作権上の課題につきましても精力的に御審議賜りまして,今後の施策の方向性について御示唆を賜っております。
 今年度につきましては,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定等の在り方,教育の情報化の推進,クリエーターへの適切な対価還元,国境を越えた海賊行為への対応などにつきまして,昨年度の成果を踏まえていただきまして,更に具体的な検討を行うことが求められております。
 先ほど会長の方からも触れられました,特に権利制限規定の在り方の問題でございますが,昨年度,政府の知財本部等におきましても,イノベーション促進の観点から検討がされまして,柔軟性のある権利制限規定の創設が提言されておりますなど,著作権制度の見直しを求める声は一層高まっていると感じております。
 今年度の著作権分科会におきましては,昨年度からの議論を更に深めていただきまして,これらの課題の適切な解決に結び付きますよう,総合的な観点から精力的な御議論を賜りたいと存じます。
 結びになりますけれども,委員の皆様方におかれましては,忙しい中,大変恐縮でございますけれども,なお一層の御協力をお願いいたしまして,私の御挨拶とさせていただきます。本日はどうもありがとうございます。

【土肥分科会長】どうもありがとうございました。
 これから小委員会の設置等についてお諮りをしていくわけですけれども,事務局から遅れて到着された委員の御紹介をお願いします。

【秋山著作権課長補佐】遅れて御出席された委員を御紹介いたします。木田幸紀委員でございます。

【木田委員】木田です。よろしくお願いします。

【秋山著作権課長補佐】河島伸子委員でございます。

【河島委員】河島です。よろしくお願いします。

【秋山著作権課長補佐】鈴木將文委員でございます。

【鈴木委員】鈴木です。よろしくお願いします。

【土肥分科会長】それでは,どうぞよろしくお願いいたします。
 小委員会の設置等についての議事に入りたいと存じます。これも参考資料の1にあるわけでございますが,文化審議会著作権分科会運営規則の3条1項の規定に基づいて,小委員会の設置につき決定をしたいと思います。今期の小委員会の設置案について,事務局から案があるようでございますので,説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】資料2をお願いいたします。小委員会の設置について(案)と題する資料を御用意させていただきました。まず1番,設置の趣旨でございます。文化審議会著作権分科会運営規則第3条第1項の規定に基づきまして,著作権分科会に特定の事項を審議する以下の三委員会を設置するとしております。第1に,法制・基本問題小委員会,第2,著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会,第3に,国際小委員会としてございます。
 2番,各小委員会の審議事項でございますけれども,(1)法制・基本問題小委員会におきましては,著作権法制度の在り方及び著作権関連施策に係る基本的問題に関することとしてございます。(2)著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会におきましては,クリエーターへの適切な対価還元等に関することとしてございます。第3としまして国際小委員会におきましては,国際的ルール作り及び国境を越えた海賊行為への対応の在り方に関することとしてございます。
 3番,各小委員会の構成でございますが,著作権分科会長が指名する委員,臨時委員及び専門委員により構成するとしてございます。
 また,4番,その他としまして,議事の手続その他各小委員会の運営に関して必要な事項は,当該小委員会が定めるとしてございます。
 御審議のほど,よろしくお願いいたします。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,ただいまの小委員会設置案についての説明につきまして,御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。
 昨年と同じ形になっておりますので,恐らく御了解いただけるのではないかと思うのですけれども,よろしいですか。
 御了解が得られたということで,この資料2には日付が入るわけですけれども,本日の日付をもって,文化審議会著作権分科会決定とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 なお,小委員会それから使用料部会があるわけですけれども,これらの委員会,部会に分属をお願いする委員につきましては,これも参考資料1にあるのですが,文化審議会令第6条第2項及び文化審議会著作権分科会運営規則3条2項の規定に基づき,分科会長が指名することとされております。したがいまして,私から指名をさせていただくことになりますけれども,各小委員会等への委員の分属につきましては,後日皆様にお知らせさせていただきますので,その際は,どうぞよろしく御承引いただければ幸いでございます。
 次に,今期の著作権分科会において検討すべき課題につき,意見交換を行いたいと思っております。各小委員会における検討課題等について,事務局より説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】説明いたします。資料としましては資料3,参考資料2及び3に基づきまして御説明を申し上げます。
 まず,資料3をお願いいたします。資料3におきましては,今期の著作権分科会の各小委員会における検討課題の案を示しております。まず,今期の小委員会における検討課題としましては,知的財産推進計画2016等を踏まえ,以下の課題を考えてございます。後ほど御紹介いたしますように,政府全体の計画,提言としまして,知的財産推進計画その他様々なものが決められております。また,そのほかにも昨年度からの継続課題,また文化庁において昨年度行いましたニーズ募集によって把握された課題など,様々なものについて今期の文化審議会において議論を行うことが求められていると考えております。
 そうした継続課題も含めまして,全体像を整理させていただきましたものが,この3つの小委員会の検討課題でございます。
 まず,法制・基本問題小委員会におきましては,検討課題の例といたしまして,まず一つ目の丸,デジタル・ネットワーク社会に対応した著作権制度等の整備と題しまして,具体的には,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制等の在り方について。それから,教育の情報化の推進,権利者不明著作物等の利用円滑化,著作物のアーカイブの利活用促進,リーチサイトへの対応等としております。
 第2の丸としまして,視覚障害者等に関するマラケシュ条約についての対応,その他障害者の情報アクセスの充実に関する課題を挙げてございます。
 2番,著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会につきましては,検討課題の例としまして,クリエーターへの適切な対価還元等のための私的録音録画補償金制度の見直しや,当該制度に代わる新たな仕組みの導入としております。
 それからクラウドサービス等と著作権に関する報告書を踏まえた円滑なライセンシング体制の構築としてございます。
 第3,国際小委員会につきましては,検討課題の例としまして,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方。それからインターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方としてございます。
 本日,御審議いただきたい事項につきましては,以上でございます。また,このようなことをまとめさせていただきました背景としまして,若干,政府計画等について御説明申し上げたいと思います。なお,昨年度から審議会における審議経過につきましては,委員の皆様には机上に配布してございますので,必要に応じて御参照いただければと思います。
 まず,参考資料2を御覧ください。今年度,著作権に関わる政府計画として,ここに書かれておりますように,知的財産推進計画,文化芸術の振興に関する基本的な方針,規制改革実施計画,世界最先端IT国家創造宣言,サイバーセキュリティ戦略を挙げてございます。
 まず,知的財産推進計画でございますけれども,今回柱としては四つございまして,第1として,第4次産業革命時代の知財イノベーションの推進,第2としまして,知財意識・知財活動の普及・浸透,第3としまして,コンテンツの新規展開の推進,第4としまして,知財システムの基盤整備という柱になってございます。関係部分の主要なものだけ,かいつまんで御紹介いたします。
 まず,1ページ目の第1のところでございますけれども,1番のデジタル・ネットワーク化に対応した次世代知財システムの構築と銘打って,課題及びその対応方策が整理されてございます。まず,現状と課題のところの,今の社会状況の認識というところのポイントとしましては,3行目以降にありますとおり,IoT,ビッグデータなどの技術革新ということを踏まえまして,流通する情報量の爆発的な増大と情報の内容の多様化というようなことが述べられておりまして,それが人工知能と結び付くことによって,情報の集積,組合せ,解析といったことで付加価値を生み出す新しいイノベーションの創出が期待されているといった認識が示されております。
 次のページをお願いいたします。こうしたことを踏まえまして,デジタル・ネットワーク時代の著作権システムということでございまして,例えば,新しいイノベーションに関わるサービスとしまして,3行目,広く公衆がアクセス可能な情報の所在を検索することを目的としたサービスや,大量の情報を収集・分析して分析結果を提供するサービスなどが想定されているとした上で,更に現在想定されているものも含めて,今後様々なものが現れることは予想されるという旨が書かれてございます。
 三つ目のパラグラフの半ばですけれども,こうした中で,イノベーションの促進に向けて知財保護と利用のバランスに留意しつつ,柔軟な解決を図ることができる新たな著作権システムを目指すことが必要である。その際には,一つの政策手段で解決するということではなく,無償の権利制限規定,報酬請求権付きの権利制限規定,著作権等の集中管理,権利者不明の場合の裁定制度など,多様な政策手段の中から適切なものを選択し,柔軟な解決を図るグラデーションのある取組を進めることが必要であるというような考え方が示されてございます。
 各論の具体的な解決方策につきましてですけれども,6ページの方に施策が書かれております。中ほど,デジタル・ネットワーク時代の著作権システムの構築としまして,まず一つ目のポツ,イノベーション促進に向けた権利制限規定等の検討というところでございますけれども,ここではデジタル・ネットワーク時代の著作物の利用への対応の必要性に鑑み,新たなイノベーションへの柔軟な対応と,日本発の魅力的なコンテンツの継続的創出に資する観点から,柔軟性のある権利制限規定について,次期通常国会への法案提出を視野に,その効果と影響を含め具体的に検討し,必要な措置を講ずるとされております。
 これらのほかにも,次のポツ,リバースエンジニアリングに関する適法性の明確化。それからその次,著作権者不明等の場合の裁定制度のさらなる改善。また,その次のポツ,円滑なライセンシング体制の整備・構築の観点から,拡大集中許諾制度の導入に関する検討。そして次のページでございますけれども,権利情報を集約化したデータベースに関する検討。それから,民間におけるライセンシングのための環境整備に係る支援といったことが挙げられております。
 また,クリエーターへの適切な対価還元のための私的録音録画補償金制度の見直しなどについても挙げられております。
 それから次,教育の情報化の推進でございますけれども,昨年度に引き続きましてオンデマンド講座等のインターネットを活用した教育に関する対応が求められておりますとともに,二つ目のポツでは,デジタル教科書,教材に関しては,これは文科省の方だと思いますけれども,今年度中に導入に向けた検討を行って結論を得て必要な措置を講ずるとなってございます。これを受けまして,文化審議会におきましても関連する著作権制度等の在り方について,併せて検討を行うことが求められております。
 それから,今年度の新規事項としまして,次のポツでございますけれども,デジタル・ネットワーク時代の知財侵害対策といたしまして,リーチサイトを通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応に関して,権利保護と表現の自由のバランスに留意しつつ,対応すべき行為の範囲等,法制面での対応を含め,具体的な検討を進めるとされております。
 なお,このリーチサイトと申しますのは,詳細の御説明は割愛しますけれども,違法なコンテンツへのリンクを取りまとめたようなウエブサイトのことを指すと,知財本部ではされております。
 次,第2でございますけれども,今年度の知的財産推進計画の特徴としまして,知財意識,知財活動の普及・浸透というものが一つの大きな柱に位置付けられたということが挙げられると思います。中身は割愛いたしますけれども,著作権に関しても,教育,普及・啓発ということが述べられております。
 それから11ページの方ではコンテンツの新規展開の推進といたしまして,まず第1,コンテンツ海外展開・産業基盤の強化に関して課題と施策が掲げられているところでございまして,少し昨年度との変更部分を中心に御紹介いたしますけれども,15ページを御覧ください。真ん中の方,コンテンツ産業基盤強化のための取組の一つとしまして,インターネットを活用した放送コンテンツの提供に関する検討ということが新たに加えられております。
 それから2ポツとしまして,アーカイブの利活用の促進に関して整理がされておりまして,18ページの方では著作権に関する制度の整備ということも引き続き求められているというところでございます。
 さらに,20ページでございます。こちらでは知財計画以外の他の政府計画等について若干御紹介いたします。まず20ページは文化芸術の振興に関する基本的な方針でございまして,これは昨年度御決定いただいたものでございます。既に過去の文化審議会でも御紹介しておりますので,概略のみを御紹介しますと,一番上のパラグラフにありますように,デジタルアーカイブ化の促進や,デジタル・ネットワーク社会に対応した著作権制度等の整備を図るということが閣議決定されております。
 それから,次の22ページでございますけれども,規制改革実施計画におきましては,障害者等の情報アクセスの充実を図る観点から,権利制限規定の在り方等についての見直しが求められております。また,世界最先端IT国家創造宣言では,教育の情報化への対応。それから,その下,サイバーセキュリティ戦略においては,リバースエンジニアリングに関する適法性の明確化について,重ねて述べられております。
 政府計画の概略としては,以上でございます。それから,参考資料3の方で次世代知財システム検討会報告書の内容について,若干御紹介しようと思いますけれども,特に関連する部分としましては,知財計画に述べられておりました,柔軟性のある権利制限規定についてというところを御紹介したいと思います。知財計画におきましては,柔軟性のある権利制限規定ということだけが述べられておるわけでございまして,昨年度の知財計画においても,類似の提言はあったわけでございますけれども,今年度の違いとしましては,その背景的な検討の内容としまして,この次世代知財システム検討会で集中的に審議が行われたというところに違いが求められるかと思いますので,知財計画の内容を理解する上でも,一つの参考としまして御紹介したいと思います。
 次世代知財システム検討会では,先ほど知財計画の冒頭で申し上げたような社会認識が述べられておりまして,そして権利制限規定のみならず,様々な政策の組合せということがいわれているわけでございます。特に柔軟性のある権利制限規定につきまして,どのような具体的な議論がされていたのかというところでございますけれども,例えば9ページを御覧いただければと思います。
 (2)の論点としまして,柔軟性を確保した権利制限規定の選択肢としては様々なものがあると述べられておりまして,二つ目のパラグラフの方では,米国型の一般的な権利制限規定が一つとして考えられるということや,その下の英国型のフェア・ディーリング規定などの目的限定型のものもあるとされておりますし,また,その下には受皿規定と呼ばれるものなど,その次のページでは,C類型に当たるようなものなどが例として挙げられているところでございます。
 また,10ページの方では,著作権を制限する場合に関する一般論としまして理論的な検討がされておるわけでございまして,ここも詳細は割愛いたしますけれども,三つ目のパラグラフの方には権利制限の柔軟性を高めることのメリットやデメリットというようなことが述べられております。
 それから,柔軟性の選択肢ということでございまして,具体的な検討は二つに大きく分けて議論されたように残っております。11ページでは総合考慮型に関する議論。米国型のフェア・ユースがこの考え方に近いということが述べられておりまして,ここのページでは米国型フェア・ユースのような総合考慮型の権利制限規定の,いわばメリット,デメリットが述べられておるとともに,最後のパラグラフでは,今後検討に当たって留意すべき事項について記載がございます。
 さらに,12ページの方では,一定の柔軟性を確保した権利制限規定に関する議論として整理がされております。ここも一定の柔軟性を確保した権利制限というところを具体的に特定することまでは言及されておりませんけれども,何らかの要件なりの限定をすることを念頭に置いた上で,例えば具体例としましては,四つ目のパラグラフの後半ですけれども,個別・明文の権利制限規定が存在しない部分としまして,著作物の所在検索や分析結果提供のための著作物の一部表示といった行為が例として挙げられているところでございます。
 こうしたことを踏まえまして,次世代知財システム検討会の結論というところでは,19ページでございますけれども,(3)方向性といたしまして,一つ目の丸,新たなイノベーションに柔軟に対応するとともに,日本発の魅力的なコンテンツの継続的創出を図る観点から,デジタル・ネットワーク時代の著作物の利用の特徴を踏まえた対応の必要性に鑑み,一定の柔軟性のある権利制限規定について検討を進める。あわせて,著作権を制限することが正当化される視点を総合的に考慮することを含む,より一層柔軟な権利制限規定について,その効果と影響を含め検討を進めるということになってございます。
 これは飽くまで知財本部の下の検討委員会での検討内容をまとめた報告書でありまして,最終的に決定されたものは知財計画本体でございますので,文化庁を含む政府全体としては直接的には知財計画に基づいて,今後議論を頂くわけでございますけれども,このような報告書があるということも一つの参考として御議論いただくことが適切ではないかと考えられるところでございますので,御紹介いたしました。
 それから,これも御参考まででございますけれども,本年4月に党の方でも柔軟な権利制限規定を含めた提言がまとめられておりまして,資料は特に御用意しておりませんけれども,そのような議論が党の方でも進んでいるということも述べさせていただきたいと思います。
 御説明は以上でございます。御審議のほど,よろしくお願いいたします。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,ただいまの事務局の説明も踏まえまして,今期の分科会において検討すべき課題の在り方に関する御意見や,それぞれの課題に関してお考えのところがございましたら,御自由に御発表いただければと思います。どうぞ。
 それでは,松田委員お願いします。

【松田委員】松田です。今の資料の中にも多く出てきておりますけれども,著作権法の中に柔軟な規定を導入して,そして著作物の利用の促進,イノベーションの促進ということを目標にしようという考えが見てとれます。これは教育の場面でも同じようなことが起こっております。このような要請があること自体否定しうるような段階ではないように思います。何らかの対応をとらなければいけないと段階であると思っております。
 近時,アメリカのグーグル・ブックスの判決が最高裁まで行きまして,日本でいうと不受理決定になったのですけれども,1審,控訴審の考え方がそのままになったということです。もうグーグル・ブックスを背景にしたところのアメリカ的フェア・ユースの限界というものは見えてきたということができます。それは何かといいますと,サーバーに蓄積することはいいよ,どんどん蓄積しましょう,しかし,それをそのまま商用で何らかの対価を払うようなシステムを作ったとしても,それはフェア・ユースを超えていますから,それはできません。それから検索することもいいけれども,検索したものは一部出所が分かるようなものとして,特徴が分かるようなものとして表示する程度(サムネイル)のところまではいいということになったということです。これは,最終的に日本法や世界的考え方になるかもしれないと思っています。
 そうすると,日本も柔軟な規定を入れて,そこまで持っていかないと,大きなデータを使うということができないということになるかも知れません。アーカイブ化を促進するということができなくなるかも知れません。柔軟な規定というのはその限界を含めて考えていかなければならない段階に来ているのです。具体的に審議会で考えていかなければならないわけです。この審議は随分長くやっています。そろそろ本当に腹をくくらなければならない時代が来るのではないかと思っています。政府が作っている,これらの資料についても,そのような方向性が見えていると思っているのです。
 そこまでは,今までの観測ですが,そこで議論されているところは利用の促進なのですけれど,利用の促進を考えていくのに,日本の著作権法上,意外と議論として出てこないのは,そのまま使うというよりは一部を使ったり,ないしは説明を加えたり,要約をしたりということが,テキストデータであっても起こるわけで,それ以外のコンテンツについては,もっと起こるでしょう。日本法上の問題で,一番それに対する障害は,フェア・ユース規定がないということだけではなくて,著作権法上の20条の厳格な適用がなかなか厳しい状況にあって,利用が促進できないのは,その面もあるというところがあるように思います。その声は審議会で1回も上がってこなかったのです。
 20条を,これからどのようにするのかということは,柔軟な規定と並行して審議をしていくべきではないかと思っています。そうなりますと著作権法全体の思想基盤というか,45年法の哲学というようなものが修正されることになるのでしょう。著作権法をどう考えるかということを基盤から考え直さなければならないということになるのではないかと思います。
 フェア・ユースと20条の問題は,抱き合わせではないかということで意見を加えさせてさせていただきます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,ほかに御意見を頂ければと思います。瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】瀬尾でございます。いろいろなことがあって,この議論というのは非常に根深くて,私もいろいろなことを知財の中では言わせていただきました。
 まず,この文化審議会の中で最初に私はお願いしたいことがあります。何かというと,文化審議会の著作権分科会は,私は法律を変える場所ではないと思っています。法律は大きなシステムの一部分であって,ここでは著作権制度全体を考える審議会なのではないかと私は理解していて,そのためには単純に法律だけではなくて,いろいろな制度とか,仕組みとか,それが複合されて,初めて問題が解決されるのではないかと思っています。
 ただ,どうしても法律の改正案に具体的な話とすると出てしまうので,最初に全体の制度というものを,是非ここで検討の場として,まずお考えいただきたい。その後で,それに対応するための法律とは何であるかということについて,専門家の検討等を含めて整合性をとっていくということではないかと思います。
 全体的なお話なのですけれども,TPPの環境は少し遅れていますけれども,進んできました。アジアもそれにつれて非常に大きく著作権環境が動いていると思います。その中で,条約はございますけれども,それをきちんと整合性をとった上で,契約社会とか個人主義であったりするキリスト教文化が基本になっているヨーロッパと違った,アジアの歴史と文化に基づいたアジア型の著作権の解決方法というのは,私はあると思っていますし,そのような制度を目指すべきではないかと思います。単純にヨーロッパの発展途上国で海賊版がやたらに多いわけではなくて,アジアでやたらに多いというのは,これは共同体で財を共有するとか,私は何か文化的なものも根ざすものがあるのではないかと考えています。
 ですから,そのような文化に基づいた中で,きちんと著作権を運用するための制度と,日本がリーダーシップを取ってきちんとやっていく,そこを考えて,決めて,進めていくのが,この分科会ではないかと私は大いに期待をしております。
 また,今の柔軟な規定の松田委員の御発言がございましたけれども,私も知財の方では著作権法の抜本的な見直しが必要なのではないかということで発言をさせていただきました。もともと手で作らなければ,音楽も美術も文芸も,そのようなクラシックなものでも作れなかった時代の考え方ですが,それが,例えばAIで勝手にできてしまったり,そして今後のプラットフォームが,これからサービス,クラウドから,ビッグデータをベースにした大きなビジネスが来る時代になって,どのようにしていくのか。全て著作権法で賄っていくことが本当に正しいのかどうか。そのような議論も,ここできちんと精査していくべきかと思います。
 権利者と利用者のバランスを取るというのは,正にこの分科会でずっとやってきた伝統と歴史と,そして蓄積があるはずです。ここできちんとそのバランスを取った,本当の意味での調和の取れた制度にしていくのは,ここが一番できる場所なのだろうと期待もしています。
 ですから,今後の社会的,世界的なバランス,それからタイミング,この中で新しいシステムを,そしてもう一つ最後に申し上げたいのは,時間をきちんと決めて,3年掛かって,5年掛かって決めても,今は意味がなくなることがたくさんあります。今年決めなければいけないとしたら,拙速であろうが何であろうが,今年決めなければいけないとすることもあるのではないかとも感じております。ですから,スピード感と時代性をきちんとはらみつつ,是非この中で新しい進歩と進捗を,この1年の成果として1年後に見られますように期待もしておりますし,私も微力ながらお手伝いをさせていただきたいと思っております。是非お考えいただければと思います。
 以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 ほかに御意見。大渕委員,どうぞ。

【大渕副分科会長】今,出ておりました柔軟な権利制限規定というのは,非常に重要な論点だと思っておりますが,先ほどお聞きした範囲内でも,「柔軟な」という具体的な内容というのが人それぞれなので,ただ漠然と「柔軟な規定」というだけでは不十分と思います。特に権利制限規定というのは,多くの方が御指摘されているとおり,同一性保持権の関係もございますし,著作権法全体に係る大問題であることは間違いございません。もちろん,著作権法というのは,民事,刑事を問わず,国民の権利義務に直結するような,非常に重要な文化に関わる知的財産についての法律関係ですので,きちんと法体系全体を見据えた中で,先ほどのニーズも捉えていく必要があるのではないかというのが,まず1点でございます。
 それから,法律というのは全て事実,ファクトが先にあって,それに法律を適用していくものであり,単なる抽象論ではなく,具体的な本当の意味でのニーズをきちんと洗い出すという作業が不可欠でありますが,現にこのような作業を前期から着実に進めてきております。ただ抽象的・ムード的に論ずるのではなくて,何が困っているのか,何をどうすればよいのか,この点をこのように変えたら,どのような波及効果を与えるのか等について議論を深める必要がございます。先ほどメリット,デメリットという点も出ておりましたが,まずファクトとニーズを固めた上で,これに関して現行の制度を変えるとどのような影響があるのかについて,きちんと法体系全体をにらんだ冷静な積み重ねを行っていくことが非常に重要であると思っております。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,斉藤委員から次にお願いすることにします。斉藤委員,どうぞ。

【斉藤委員】今の御意見にいささか重なるかと思いますけれども,法制・基本問題小委員会,柔軟な権利制限規定,これに期待することを一言述べさせていただこうと思います。個人的には私は柔軟な権利制限規定の導入がイノベーションを促進するということにはいささか懐疑的であるところもありますけれども,正に知財計画にもありますとおり,導入の効果と影響を含めて,具体的に検討することが分科会に求められているものと考えております。
 検討の視点としましては,利用者と権利者の双方が,必ずしも完璧な形ではないにしても,ウイン・ウインの関係をどうやったら構築できるかということ,そしてそれを具体的な法制度にどう構築できるかということが必要だろうと思います。コンテンツ産業の犠牲というものが踏み台になったりしてIT産業の振興を図るということだけではいけないと考えます。そのために,イノベーションのために権利者の利益を不当に害さないものは無断で使えるようにするといった,非常に曖昧で抽象的な表現では,なかなか議論が煮詰まってこないと思いますので,目的と課題を掘り下げて,どのような制度を構築するか,実質的な議論をされることを大変期待しております。
 それからもう1点,法の制定機能を立法から司法に移すということの妥当性についても御議論いただければと思います。著作権側の権利行使コストが明らかに増加するような形になって,これを保障するといっても,どのような制度があるのかということを,まだ検討する必要があるかと思います。
 我が国の制度や環境,そのような社会状況を含めて,我が国が,この制度をどのように機能させるかということに多角的な視点から御議論いただければと期待をしております。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは上治委員,お願いいたします。

【上治委員】ありがとうございます。
 先ほど大渕委員が,具体的なファクトに基づいて議論するのが大事だとおっしゃったので,そのとおりだと思います。それに関連して一言申し上げたいと思いますけれども,柔軟な権利制限規定について,その必要性についてよくいわれているのが検索エンジンの悲劇というような話がありまして,要するに,日本で検索エンジンが育たなくてグーグルに負けたのは,日本の著作権法に問題があったためだというようなことがいわれておりますけれども,私は,これは本当だろうかと疑っております。
 日本で検索エンジンが始まったのは90年代の半ばだと思いますけれども,その頃から著作権法のせいで日本の検索エンジンは困っているという話があったのだろうか,大変疑問に思っております。むしろ2000年代の初めにグーグルに日本の検索エンジンも変わったように聞いておりますけれども,グーグルの技術が優れていたからではないのでしょうか。
 そのようなことも含めて,今回の検討に当たって,その辺の事実関係の検証を是非しっかりとやっていただきたいと思います。
 以上でございます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 では,椎名委員どうぞ。

【椎名委員】柔軟な権利制限規定を置くべき理由として,個別の立法を待たなくても時代の変化に対応できる必要性,ということが盛んにいわれていると思うのですが,これは何も権利の縮小方向での話ばかりではなくて,権利の拡大,保護の強化という観点から見ても全く同じ問題が実はあるわけです。なかなか時代に制度が合っていかないという鬱屈感については,権利者も同じように問題意識を持っていると思います。
 時代の変化に対応できる必要性という問題意識を背景として,ここで制定法主義から判例法主義にかじを切るのだとすれば,そこで生じる柔軟性というか,幅のようなものは,何も権利の縮小方向にだけ働くものではなくて,あるときは保護の強化方向にも働くべきものであるはずで,そうなってくると,今盛んに行われている,従来の個別権利制限規定の上に柔軟な権利制限を置けばいいのだという議論はおかしい,個別の権利制限規定との併存はできないのではないかと思うのです。
 例えばフェア・ユース制度を持つアメリカにおいては,我が国の30条に相当するような私的複製に係る権利制限規定というものは存在していないわけで,私的複製に関するいろいろな利用態様について,後で裁判で決着するということであるのだとすれば,既に30条があった上に柔軟な規定というものが乗っかるというのは,いささかおかしな状況ではないかと思います。
 そのような観点から,一旦個別の権利制限規定をばらした上で,そのレイヤーまで深く掘り下げた議論をしていくということであるならば,それなりに意味のあることではないかと思います。
 ただ,先ほど来出ていますように,柔軟な権利制限規定をめぐるこれまでの議論の中では,新しいサービスに対応できるイノベーションの促進という,非常に情緒的かつ観念的な文言が躍るのですけれど,ニーズがどこにあるのか,立法事実がどこにあるのかという段になると,結局これまで全くその答えが得られずに,制度の必要性もまた,どのような制度が必要とされているのかについて,提案者すら特定できないというような状況になっていると思います。
 もともと観念的な議論であるが故に,明確な答えが出てくるわけはないと思うのですが,そのような制度を設ける以上は,どのような行為を対象にした制度とするのかについて,ある程度明確にしておく必要があると思いますし,さらに,そこに柔軟な規定を置いたことで,どのようなメリット,デメリットがあるか。例えば,先ほど斉藤委員がおっしゃっていたように,居直り侵害による権利者側の侵害対策コストの増大とか,そのようなメリット,デメリットをきちんと検証した上で議論をしていかなければいけないのではないかと思います。
 またこれは前回も申し上げたことなのですけれど,制定法主義から判例法主義へとかじを切るのだとすると,具体的なルールを決める主体が立法府から司法府に移ることを意味するわけです。ステークホルダーが今後ますます増えて複雑化していく中で,また,それらが輻輳してコンフリクトしていくような状況の中で,私益と私益,あるいは私益と公益というような対立局面をジャッジしていくのが,裁判官個人の正義感とか,良心とか,そのようなものに負っていくというのは非常に心もとない気がしてならないのです。
 とりわけ文化というようなものについて,社会が持つべきプライオリティーについては,一定の民主的なプロセスの中での政策判断として選択されていくべきものであって,それを全部司法に委ねてしまうというのは,何かとてもしっくりこない気がします。とりわけ裁判というもののハードルが高い我が国においては,余りなじまないのではないかと懸念しております。
 いずれにせよ,柔軟な権利制限規定の問題というのは,我が国の法制度の大転換という側面を内包すると思いますので,かつ,世界に誇れる我が国の文化の発展に重大な影響を及ぼし得るものであると考えられるので,これは単に著作権というフィールドだけの専門性にとどまらず,例えば憲法であるとか,三権分立であるとか,そのような部分についても十分に専門的な検討をしていく中で議論を進めていただきたいと思います。
 一方で,著作物の利活用の促進というのは,本来権利制限によって実現されるものではなくて,円滑なライセンス体制によってこそ,権利者と利用者がそれぞれウイン・ウインの関係性を築く中で実現できるものと考えておりまして,そうした観点から,先般権利者から提案させていただいた音楽集中管理センターの話がございます。これは目下のところクラウド周りの円滑化という極めて限定的なフォーカスで語られておりますので,また,その解釈をめぐってニーズがなかなか見つからないというところで,少し停滞をしているのですが,このアイデアを拡大して,例えば円滑なライセンス体制が実現していない,あるいは実現し得ない領域を,このセンターが積極的にカバーしていくというような方向の考え方もあるのではないかと,個人的には考えています。
 こうしたことを通じて,今後も権利者サイドから提案できる円滑化への取組ということについては,しっかり提案をしていきたいと考えております。
 以上でございます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,井上委員。

【井上委員】すみません,ひょっとしたら過去にも議論などされたかもしれませんが,お許しください。私,今日は映連の方の代表で来ておりますけれども,出版などにも携わっています。日本の映像や出版物は本当に今,海賊版で苦しんでおります。こちらのレポートにもあるとおり,リーチサイトなど新しく出てきた海賊版の対応ということを,一方では日々やっているわけで,こちらにも多大なコストを掛けて,今,各事業者は取り組んでいるところでございます。
 どうしても日本の場合,英語圏と違いまして,日本語圏ということで,経済の大きさがアメリカやその他の英語圏の国と違うという前提があります。その中で,アメリカと同じようなフェア・ユースの考え方というのは,果たしてそのまま適用できるかどうかというのは,以前から大変疑問に思っていたところでございます。
 そもそもソフト産業が衰退してしまえば,IT産業やその他の2次利用の元が絶たれてしまいます。そのようなところの発展にも影響が出ていくということが推察されます。
 その中で,実際フェア・ユースを導入した場合の経済効果はどうなのか。ソフト産業全体にどのような効果が出てくる予想が立っているのかを,いろいろな角度から検証してシミュレーションを行って,実際の数字をもって議論しなければならない。情緒的な言葉ではなくて,いろいろな議論を今後していただければと思っております。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 ほかに。吉村委員。

【吉村委員】ありがとうございます。私自身も経団連という組織において,科学技術・イノベーション政策を担当しているので,今日お話があったようなIoTや,ビッグデータ,AIといったものが,これからどんどん社会,経済を変えていくのだろうということを強く実感しております。
 そのような意味で,あまねく既存の法律や規制について,抜本的に考え直していく必要が生じ得るという問題意識は持っております。
 他方,柔軟な権利制限規定の話です。これは我々も米国型フェア・ユース導入に関する議論が活発に行われていた2010年に検討を行いました。我々経団連の会員企業の方にはいろいろなお立場の方がおられますが,そのような方々に加わっていただいて議論をさせていただきました。当時の議論は今でも通用するのではないかと思っています。
 そのときの議論の結論としては,アメリカ型のフェア・ユース,フェア・ユース類似の一般権利制限規定というものはなかなか適用の有無の判断が難しくて,権利侵害のリスクも起こるため,アメリカ型の抽象的あるいは包括的な権利制限規定を導入するよりは,想定されるニーズに応じた一定の個別具体的な規定の方が妥当ではないかということになりまして,当時提言にもとりまとめたところでございます。
 その意味では,今日も御紹介がありましたけれども,最近も知財本部や文化庁のワーキングチームでも議論が行われてきたように,具体的な利用場面といったものを想定しつつ,類型化や一定程度の抽象化を図るという議論が有益だと思っておりまして,当事者の予見可能性といったものに配慮した制度設計の検討を,是非お願いしたいと思っています。
 実際,我々はいろいろな企業の方とお話ししますけれど,IoTビジネスを念頭に置いている方の中で,確かに今とは違う柔軟な―「柔軟な」というのが何かというのはありますが―今とは違う仕組みを望む声や,現行法制が阻害要因となっているという意見もあります。
 また一方で,ここ何年か「柔軟な規定」という言葉が一人歩きしているような議論が続いているため,そのような具体的なニーズに基づく具体的なビジネスを,円滑に展開していくためにはどうすればよいのかという議論ができないでおります。私のような立場からいえば,そのようなニーズが見えていることさえ検討できなくなっている状況は非常に不幸なことだと思っています。
 柔軟な規定は必要か否かという二元論の高いレイヤーでは,必要性に首肯できる部分も確かにあるわけですけれども,それがどのようなものなのかということをしっかりと明らかにした上で具体的に議論することが必要です。ここで何か上のレイヤーで議論がスタックしているような状況は,どの立場の人にとっても不幸なのでないかと思っているところでございます。
 そのような意味では,知財本部のまとめにもあり,先ほどもどなたかからお話がありましたけれども,我が国の実際の効果と影響といったものを十分に吟味して,我が国にとって最善の制度とはいかなるものかを,是非模索していただきたいと思います。
 時代の変化に対応するために柔軟なものが要るとか,イノベーションのために柔軟なものが要るという議論だけでは,レイヤーが高過ぎるというか,立法事実としては茫漠とし過ぎており,若干乱暴な議論ではないかと感じているところがございます。
 そのような意味では,課題が何なのか,そしてそれが我が国の法体系とか社会状況,あるいは先ほどはほかの制度に合わせて,そのようなものを多面的に考えた上で,しっかりとした議論を是非この場で行っていただきたいというのが強い希望でございます。
 以上でございます。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 ほかに御意見を頂けますか。久保田委員,どうぞ。

【久保田委員】イノベーション促進に向けた権利制限規定の話ということで,まとめに入るような言い方になってしまうかもしれませんけれども,椎名さんが言われたように,どこのレイヤーで考えるかという意味では,私個人の意見としましては,著作権というものはもともと財産権でありまして,憲法の財産権の保障から考えても,他人の財産を自由に使わせることを目的とした法制度を気軽に求められているというか,今の吉村さんの御意見にあったように,柔軟なとか,そのような言葉の中で気軽に求められているような気がしてならないのです。
 そのような観点から,このことを検討することについては非常に意義があると思うのですけれども,個別的な制限規定とは異なり,適用される利用範囲が,態様が特定できない規定となることは,当然予想されてきます。そのような議論の中においては,抽象的ではなく,実質的な効果と影響を勘案し,これも皆さん同じようなことを言われているのですけれども,権利者に当該利用における権利制限以外の不利益をもたらすことのないように十分に留意して検討していただきたいと思っています。
 また,権利制限される範囲が特定できないことから,利用に関する予見可能性が低く,権利者にとって適用範囲に関する検討などに係るコストの問題も増加することは,誰が考えても確実です。このような観点から,適用外であるにもかかわらず利用した場合に,これらのコスト負担として,米国の著作権法等に規定されるような懲罰的賠償制度とか,追加的賠償制度についても,十分併せて検討していただけないかと考えております。
 以上です。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 ほかに御意見は。瀬尾委員,もう一度ですね。

【瀬尾委員】二度目で,すみません。この議論を伺っていて,非常にほっとしたというか,大分苦労してさらなる柔軟な規定については反対してきましたけれど,一つだけ,ここで最後にあえてもう1回発言を頂くということの中で申し上げたいことがあります。例えば今,流通が妨げられている,若しくはコンテンツが妨げられているといって,それをこの法律で解決しようというのは,はっきり言って無理があると私は思って発言をしてきましたけれども,何かそのような不満があるというところはくまなければいけないかと思っています。
 ただ,私はそれはC類型を作ったことで,十分いけると個人的には思っているのですけれども,ここの場で非常に興味深いことを,皆さん一つ御確認いただきたいのです。吉村さんも,予見性が少なくなると企業側はどうかなと,非常に曖昧なおっしゃり方をしましたけれども,私ははっきり企業側の方たちとも話して聞いています。これを作られたら,逆に萎縮するかもしれない。要するに,グレーゾーンが増えるからです。
 つまり,使う側も本当に望んでいるのですかという話があります。そして,これを変えるには著作権法を抜本的に何とかしなければならないことは,皆さん多分共通認識としてお持ちだと思います。それだけのことをして,誰がこれを望んでいるのですか,誰が喜ぶのですかという,そこがこの問題の奇々怪々で一番難しい問題の点にあるのではないかということが,私はあえてそこまでしか申し上げませんけれども,そこに問題があると思っています。
 ですから,アメリカ型を入れたら何かバラ色のものが開けてしまうかもしれないという幻想を誰が言っているのか,そして,誰の利益になるのか。我々がこれを検討するに当たっては,必ず利益者が大きくあれば,社会的なことを考慮して,当然検討の課題にも乗りますけれども,具体的にこの問題については,そのようなバランスがあります。
 ただし,最初に申し上げたように,一定の不満があることも確かですので,それについては,先ほど椎名さんのおっしゃったような集中許諾管理とか,何らかのことを使って我々はパーフェクトに何も手出ししなくてもいいのではなくて,我々もしなければいけないことがあるかもしれないけれども,それはこの柔軟な規定を進める方向ではないのではないか。そして,これをやることによって,もう一つの事実があるのですが,これは特許の世界であるのですけれど,弁護士さんの数と訴訟費用等,訴訟の体制をアメリカと日本,若しくは大企業と小企業を比べたときに,明らかにその是非ではなくて,特許がどれだけパーフェクトかどうかではなくて,そのパワー,金と知財戦力によって勝敗率が出るというデータを私はあるレクチャーで見ました。
 ということは,今,日本の体制でこれをやって,アメリカの企業,それになれている外資系の企業が有利になる可能性も,私はあると思っています。つまり,国策としてこれが本当に利益をもたらすのかどうかについても私は疑問があります。
 このような全体的な議論,それからもともという,これの受益者は誰かということ,それと著作権法の根本問題にどれだけ踏み込むのかという問題。ただし,我々自体もこれ以外に流通推進を考えなければいけないという事実もあるという,この辺のバランスを踏まえて,この審議会から,できれば知財若しくは政府に,このようなことが一番望ましいという意見を1年後に出せることを私は大変期待をしていますし,私もそのような方向でこれについては考えたいと思っています。
 2回目の発言で申し訳ございませんが,付け加えさせていただきました。

【土肥分科会長】ありがとうございます。
 まだ本日御発言になっていない委員の方で,ほかにいかがですか。二度目でも構いませんけれども,御発言ございませんか。
 では,松田委員。

【松田委員】ここで出てきた議論の中で,誰の利益のためのフェア・ユース規定か具体的な事案を想定して議論しようという発言があります。これはずっと審議会で言い続けてきたところであったわけです。具体的な立法事実を出して検討しようということであって,従前の基本的な考え方ということができましょう。最近,私思っているのですけれど,著作権法は,果たしてこの分野に入り込むと立法事実が出てくるのだろうかと。政府,特に知財戦略本部等が項目をまとめているところによると,そのような具体的な立法事実ということではなくて,社会全体をどちらの方向に持っていくのかという方向付けのために必要なのだと言っているように思うのです。著作権法がそこに来てしまっているのかも知れません。二当事者間の権利義務関係で割り切ったところで,片方の利益がこのようになっている,片方の侵害がこうなっている,損失が生じているというような具体的な立法事実を示して,それを解決しようというような思考方法では,もう駄目なのではないかということをいわれているのかもしれないのです。
 言ってみると,著作権法は経済,イノベーション,文化の発展という抽象的なところの方向性を相手方にしているように思うのです。それを立法事実ということはさて置き,日本の在り方をどうするかという大きな方向付けに著作権法が逢着しているという認識です。この状況を踏まえて立法を考えていかなければいけないのか。今日出た,特に椎名さんと久保田さんから出た意見からいうと,もう半歩ぐらい出て議論をしないと,この議論に立ち向かえないのではないかというのが私の意見です。
 それから,もう一つ,皆さん方から出た意見の中で,司法国家になっていくことを踏まえて,社会全体の在り方を著作権法から変えていくようなことになりかねないという意見がありました。私も,そう思っています。著作権法がこのような問題にいよいよ出つくしてしまったのではないかと思っています。
 それを支えるとすれば,司法制度をどうするかということも見据えて議論していかなければいけないのです。例えばアメリカはフェア・ユース制度があって,それに対峙する損害賠償制度,証拠提出制度,アミカス制度,判決・和解の効力拡大の制度など日本よりはるかに制度として整っているのです。特に高裁や最高裁は,これを解読するためのスタッフまでそろっているという制度の中で司法国家が支えられているわけです。
 日本はそのような制度はないのです。そうすると,司法制度まで含めて考えると,著作権法だけ変えたときに,社会全体として動かなくなるということもあるのです。制度がかみ合わず弊害が拡大することがあるかもしれないというのが,椎名さんの意見でもあるわけです。
 大体皆さん方と同じ認識を持っていて,私もそう思っているのです。それこそ司法の大問題になってしまう。国の形を変えてしまうのだということになるのです。だけど,この審議会の議論で国の形を変えられません。国の形を変えるのは我々の仕事ではないのです。それは何かといったら,国の政策を考えるところだと思います。国の政策を考えるところが,このような方向でやったらどうかというのは,ある意味では立法事実なのかもしれないと思っているのです。
 ここでの議論は,具体的な著作権法の条文を捉えて改正するというところに持っていかないと,いつまでたっても終わりません。そのように思いますので,一部は椎名さんの意見に大賛成なのだけれど,認識は同じなのだけれど,一部は方法論として,全部ひっくるめてバランスのいいことを解決しましょうというのは,言葉としてはやさしいのですけれど,実現は不可能だと思っています。私は今の議論を聞いていまして,そのように思います。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは大渕委員。

【大渕副分科会長】今,学者,実務家という話も出ておりましたので,この関係で私も24年改正のときからずっと思っていたことを述べさせていただきます。私も昔,アメリカに留学したことがありまして,日本の法学だと民法の条文から勉強が始まるのですが,アメリカではそもそも民法などという法典はありません。全部判例法ですので,日本でいえば物権法に当たるようなプロパティーや契約法に当たるようなコントラクトや不法行為法に当たるようなトーツなど民法に当たるようなものは全て判例法です。要するに,アメリカは,我々が持っているような民法典の条文が法律であるのではなく,昔からの判例の積み重ねたる判例法が中核となって法ができている典型的な判例法国であります。これに対して,日本は,条文で明示された法典を出発点とする法典法国であります。日本でも判例は重要ですが,判例法自体として,制定法(statute)と独立にあるのではなく,判例は,法律(制定法)の公権的解釈の結果としての先例にすぎません。法律の条文の解釈を超えた意味での「判例法」が法源としてあるわけではありません。
 だから,判例法を中核とするアメリカの法と,法律ないし法典によって成る法なのであって,判例法には法源性のない日本の法とは同じものと思わない方がいいのではないか。
 そのような観点から見ると,フェア・ユースというのも判例法理にすぎません。最初に判例法として約100年以上にもわたり積み重なってきたのがあって,それだと余りに分かりにくいから,アメリカでは著作権法中において考慮すべき四つのファクターを明示するという形で,ある程度リステートするような形で,一定の明確化を計ろうとしたものにすぎません。しかも,それは一般的には判例法自体を何ら変更するものではないとされております。アメリカでは,日本でいう民法すら判例法なぐらいであって,これと同様に,フェア・ユース法理自体も全く判例法理であります。
 なお,英米法といっても,イギリスではフェア・ユースではなくてフェア・ディーリングですから,かなり日本に近いような条文もあるという形になっております。この意味では,フェア・ユースは,英米法的というよりも,特殊米国法的というべきものと思われます。そして,フェア・ユースを導入するということは,フェア・ユースの部分だけ大陸法から英米法(というよりも米国法)に変えるぐらいの大掛かりな話であるといえます。
 私が,先ほど,ファクト,ファクトと申し上げたのは,下手するとウイン・ウインどころかルーズ・ルーズで終わってしまい,結局,権利者にとっても,利用者にとっても不明確になっただけで,先ほどニーズが明らかになったものすらできないということが出ておりましたが,そのようなことにもなりかねないことを懸念したためであります。先ほど吉村委員が言われたのは,まさしくそのとおりだと思います。
 何が困っているのか,どう変えたらいいのか,1個1個ニーズをきちんと積み重ねて検討していけば,例えば,32条の「引用」の合理的解釈論のように現在の条文の解釈論でもいけるのかもしれないとか,現在の個別規定をもう少し拡大するあるいは増やす必要があるとかいうことが分かってくると思います。
 何度も言っておりますが,24年改正の議論の際にあったC類型のようなものを,そのまま出すのか,C類型のうちの既に具体化現実化されたものに加えて具体化されたものをもう少し増やすのかは別として,1個1個積み重ねていくような形の議論なのか,それとも,そのような形では駄目で,権利制限に関してだけは日本を大陸法国ないし法典法国から判例法国に変えてしまうことをやらなければいけないくらいの話なのかという点等について,論点を一つ一つきちんと検証していかないと大変なことになるのではないかと思っています。

【土肥分科会長】ありがとうございます。本日の分科会における皆さんの御意見というのは,柔軟な権利制限規定に議論が集中しておるわけでございますけれども,教育の情報化の問題とか,障害者の情報アクセスの緩和の問題,あるいは,もっと申しますと,今日,椎名さんは一言も言われませんでしたけれども,クリエーターに対する適切な対価還元の問題とか,重要な問題が本当に山積しております。
 確かに柔軟な権利制限規定に関しては,ほぼ皆さん共通しておっしゃっておられるのは,ファクツ,ニーズ,そしてそのモデル作り,影響,効果,これらをしっかり把握した上でやってくれというお考えであることは重々承知をいたしております。したがいまして,この後,分属のお願いをすることになるわけでございますが,この問題を扱う小委に分属していただいた委員の方は,本日の分科会における各委員の御発言,御意見といったものを十分踏まえて,小委において,是非建設的な議論をしていただければと思います。
 本日は,1回目でもございますし,もし,よろしければ,このあたりで本日の分科会を閉じたいと思いますけれども,何か委員の方々におかれて,問題ございますか。
 久保田委員,どうぞ。

【久保田委員】柔軟性のある権利制限規定の方に話が行ってしまったので,二つだけ付け加えさせてください。知財教育,知財啓発を進めるための基盤整備のところで,知財教育については知的財産戦略本部の方でも検討が行われまして,私も参加いたしましたが,産業財産権教育に関する内容が中心のように思われました。著作権教育の方は傍らに置かれているということで,著作権の団体代表で一人ぽつんと出ていたのですけれども,非常にまずいなという気がしました。
 著作権教育に関しましては,初等,中等教育において,教育指導要領にも記載されているものの,実際には指導する内容の範囲に幅があったり,さらには指導する教諭らの著作権知識がまだばらつきがあり,十分に行われているとはいえない状況なのです。著作権教育に資する教材等に関しては,委員の皆さんの団体や,著作権情報センター(CRIC)などで個別に作成しているものもたくさんありまして,文化庁の方にも多くのコンテンツがあるのです。しかしながら,これらの教材に対する認知度というのは非常に低いのです。
 そのような意味では,こういった認知度を高めていくこととか,著作権教育,とりわけ学校などにおける教育をどのように進めていくかについては,教材等の開発よりも,この審議会を中心に,また文化庁のバックアップも求めつつ,まずは全体的,総合的な教育啓発方針を検討することが必要だと考えています。これが1点。
 もう一つは,誤解があるかと思います,リーチサイトの問題なのですけれども,私たちはリンクを中心に考えておりまして,言うまでもなく侵害コンテンツをアップロードする行為が最大の問題ではあるのですけれども,侵害コンテンツの被害はリンクによる当該侵害コンテンツへの誘導行為によって拡大している,そのような認識は皆さんあると思います。
 加えて,昨今では侵害コンテンツは海外のサーバー等に蔵置されており,アップロード者の特定及びそれに対する法的処置には時間とコストが非常に掛かり,侵害抑制という点では小さな成果しか得られておりません。
 もちろん,このようなアップロード者への対策は,これからも進めていきますけれども,権利者としましては様々な手法で被害の拡散を抑制したいと考えておりますので,この件につきましても早急に処置をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【土肥分科会長】初等・中等教育における著作権教育というのは,産業財産権法における人材育成に関するものよりも,もっと重要なのだろうと思います。是非そのような場で存在感を久保田委員には発揮していただいて,いろいろな問題に対応していただくと,本分科会としても非常に有り難いと思いますので,今後ともよろしくお願いします。

【久保田委員】前向きに頑張りたいと思います。

【土肥分科会長】よろしくお願いします。
 今回,9時半から始めさせていただいて,11時ぐらいと思っておいでの方も多々おいでになるのだろうと思います。よろしければ,このあたりで終わりたいと思いますけれども,よろしいですか。
 それでは,事務局から連絡事項がございましたらお願いをいたします。

【秋山著作権課長補佐】次回の著作権分科会につきましては,各小委員会における検討の状況等を踏まえまして,改めて日程の調整をさせていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

【土肥分科会長】ありがとうございました。
 それでは,以上をもちまして文化審議会著作権分科会第44回を終了させていただきます。本日は,ありがとうございました。

―― 了 ――

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動